橋下徹「僕が石破茂首相のあの『ネチネチした喋り方』を評価している理由」

2025年3月31日(月)12時15分 プレジデント社

1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最近の著作に『政権変容論』(講談社)、『情報強者のイロハ』(徳間書店)などがある。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「大事な会談での態度・振る舞い」です──。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2025年4月18日号)の掲載記事を再編集したものです。


撮影=的野弘路
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最近の著作に『政権変容論』(講談社)、『情報強者のイロハ』(徳間書店)などがある。 - 撮影=的野弘路

■Question


日米会談で首相は態度・振る舞いを変えるべきだったのか?

今年2月、石破茂首相が米国を訪れトランプ米大統領と初の首脳会談を行いました。会談そのものは成功だったと評価されていますが、「石破さんの態度、振る舞いはなっていない。変えるべきだ」という批判もありますね。橋下さんはどう分析しますか。


■Answer


虚勢を張らず普段通りにしたからトランプ氏は胸襟を開いた

今回の石破さんの訪米は、しょっぱなの首脳会談としては成功だったと思います。交渉で成果を上げることはもちろん重要ですが、今回の会談の最大目的は、トランプ大統領に、「この人物は話ができる相手だ」と思わせ、トランプさんからの無理難題をまず回避すること。トランプさんはいろいろな国に無理難題を言っていますが、そのターゲットから日本を外させる。この点に関して、石破さんはとりあえずは見事にやり遂げました。おそらくは周囲が期待する以上に。


石破さんは首相に就任して以来ずっと、外交場面その他での態度・振る舞いがよろしくないと散々批判されてきました。もっとシャキッと立つべきだとか、座ったままの握手はありえないとか、食事のマナーが悪いとか……。


今回の会談の様子を見ても、前のめりに座るトランプさんの傍らで、どっかと背もたれに寄りかかる石破さんを見て、「あぁ、石破さん相変わらずやっているな」と僕も思わず苦笑しちゃいました。相変わらずのネチネチした喋り方(失礼!)も。


でも、それでいいじゃないですか、いつもの石破さんらしくて。むしろ渡米先で石破さんが豹変したら、それはそれでみんな戸惑うはずですよ。別人のようにシャキッと立って、ハキハキとエリート然として語り出したら、「誰だ、これ?」となるはず(笑)。


SNS全盛の今、どれほど自分を取り繕っても、日頃の態度や振る舞い・言動は相手や世間に筒抜けです。演技や虚勢は瞬時に見破られるはずで、ならばむしろ「普段通りの石破茂」を見せられてよかったと僕は思っています。


それに「普段通り」って実は一番難しいんですよ。大物と会うとき、大舞台で喋るとき、いくら「普段通り」を心掛けても、そううまくはいきません。どうしても緊張で上ずってしまったり、必要以上にへりくだってしまったり。政治家によくありがちなのは、虚勢を張って、かえって滑稽に見えることですが、今回そうはならなかった。


ちなみに首相周辺に聞くと、「猛特訓してアレだったんです」とのこと。「特訓していなかったらもっと悲惨だった」というのも愛すべきエピソードではないですか。


下準備を踏まえ「普段通り」を貫いた石破茂首相。会見ではトランプ大統領の写真集を掲げる場面も。

もちろん、華やかな国際舞台で、一分の隙もない所作でさっそうと登場できればカッコいいですよ。でも実質的な会談や交渉を行うとしたら、所作だけが決まっていても無意味です。胸襟を開いて語り合うには、がちがちに人工的に作り上げた所作よりも、普段通りの自然な人間性を見せることのほうが大事なんです。


そもそもビジネスマナーや行儀作法は「相手を不快にさせない」ことが第一の目的です。TPOにそぐわない服装や汚い食べ方、喋り方は、相手に不快感を抱かせるという理由で嫌われる。逆に言えば、そこまでの不快感を与えないなら、それほど口やかましく言わなくてもいいんです。


中には逆にそうした「儀礼的振る舞い」を嫌う人もいます。トランプさんもたぶんそのタイプで、彼はフランスのマクロン大統領やカナダのトルドー首相のように「ザ・エリート」的な所作の政治家を嫌っていると感じますね。


僕の個人的な感覚では、自分で道を切り開いてきた創業者タイプは、こうした傾向が強い気がします。トランプさんやイーロン・マスクさんはその典型でしょう。反対に外交官や官僚、エリートビジネスマン、それに権威を重んじる政治家は、所作やマナーを重視する傾向が強い。戦後、西欧諸国で首相や大統領を任じてきたのは後者のタイプが多かったように思いますが、現在の世界のトップの顔触れを見るとどうでしょう。杓子定規なマナーより、人間的な個性がモノ言う時代になってきている気がします。


■石破さんのアドリブで米メディアが沸いたわけ


もちろん今回の会談が成功した裏には、関係省庁や官僚の方々による膨大な下準備がありました。特に政策面ではトランプさんの機嫌がよくなるような文言を羅列した。トランプさんを刺激せず、日本がターゲットになるようなことを避けた。そのうえで日本がアメリカに言ってほしいことを言わせた。官僚の力がフルに発揮されたと思います。


そこに石破さんのなんとも言えない個性が組み合わさった。


余談ですが、僕は大阪府知事に就任直後、中国の胡錦濤国家主席を接遇することになりました。大阪府という大組織を背負いながらも政治家としては駆け出しの身で、年齢も38歳とまだ若く、どう虚勢を張ったところで胡錦濤さんと張り合えるわけもありません。晩餐会に向けて膨大な事前情報やマナーレクチャーを受けましたが、これは虚勢を張っても無駄だと思い、素直な気持ちで自然体でお会いしました。


政治の世界では中国に強気な態度でいかないと「媚中派!」と思慮の浅い保守派にレッテルを貼られますが、国内のそういう連中だけに拍手喝采を受けても意味がありません。そんな僕の姿勢に胡錦濤さんも警戒心が緩んだのか、中国国内の公式の場で語るより、随分フランクに自国の事情なども語ってくださいました。


その意味において、今回の石破さんのアドリブジョークは秀逸でした。トランプさんについて「テレビで見ると、声高で、かなり個性が強烈で、恐ろしい方だという印象がなかったわけではありません」と語り、米国メディアを沸かせました。


どこまで意図したかはわかりませんが、「恐ろしい方」と言われるのは、トランプさんとしては最大級に嬉しかったはず。というのも通常は外交的な場で一国のトップが相手国のトップを「恐ろしい」などとは絶対に言わないはずなんです。下手をしたら「怖気づいている」「おもねっている」と位負けを認めるようなメッセージになりかねない。欧米のエリート政治家も中国の政治家も、絶対に言わないこの言葉を石破さんは口にした。おそらくは「本音」だから言えてしまったのでしょうが、ジョークにまぶし、相手の胸襟を開かせることに成功しました。


ちなみにロシアのプーチン大統領も、暗殺未遂事件の時のトランプさんのパフォーマンスを指して、「勇敢な男だ」とコメント。こちらは明らかに意図的ですが、こうした「偉大な」の形容に連なるワードはトランプさんに一番刺さるんです。


もちろん、だからといって今後の対米関係がうまくいく保証はありません。トランプさんは、これまで散々中国や北朝鮮とやり合いながらも、面と向かえば、「素晴らしいリーダーだ」と絶賛することを繰り返しています。トランプさんは面と向かっては相手を持ち上げ、しかし直接会談が終われば相手国をぶん殴ってくる。


一流のビジネスマンですよ。だから直接の会談の場では石破さんを持ち上げたトランプさんでも、今後はガンガン日本に無理難題を突き付け、ぶん殴ってくるでしょう。


ただ、このゼミナールでも繰り返しお伝えしているように、まずは「交渉の相手として相応しいと思わせること。交渉なく無理難題だけを突き付けるべき相手だと思わせないこと」がトップ会談の基本。だとすれば今回の首脳会談は一定の成果がありましたが、本格的な厳しい「ディール」が始まるのはこれからなのです。


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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『政権変容論』(講談社)。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 写真=時事通信フォト)

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