「もとはすべて税金です」…年収2000万円超の国会議員がもらっている「第2、第3のお小遣い」の知られざる実態
2025年3月31日(月)8時15分 プレジデント社
選挙ポスターに品位保持などを求める改正公職選挙法が可決、成立した参院本会議=2025年3月26日、国会内 - 写真=時事通信フォト
写真=時事通信フォト
選挙ポスターに品位保持などを求める改正公職選挙法が可決、成立した参院本会議=2025年3月26日、国会内 - 写真=時事通信フォト
■政治家には、三つのお金の通り道がある
政治家が得ているお金の流れは、非常に複雑です。そのため、政治家当人も、収入・支出といったすべてのお金の流れを逐一チェックできているわけではありません。
「政治とカネ」の問題が繰り返されるのは、政治家がお金に対して貪欲だったり、無頓着だったりという理由もあるでしょうが、そもそもお金の流れが複雑で把握(はあく)できていない面もあるでしょう。だからといって、使途不明金、杜撰な会計処理・報告が許されるわけではありません。
なぜなら、国会議員に入るお金には、私たちが納めている税金が原資になっているものが多いからです。
国会議員には、大別してお金を得る道が三つあります。一つ目は、議員が個人として受け取るもの。二つ目は、所属する政党の政党支部を管理しているもの(支部長)として受け取るもの。三つ目は、政治家個人の資金管理団体などの政治団体として受け取るもの。
詳しくは後述しますが、二つ目と三つ目は、一つ目と区別されるお金ということを覚えておいてください。ここから先は、政治家個人が受け取るお金なのか、政党支部や資金管理団体として受け取るお金なのかで、大きく変わってきます。
■国会議員の給与明細——2000万円を超える歳費の内訳
国会議員も、一般的なサラリーマンの月給に相当する歳費と呼ばれる給与が支払われています。これは政治家個人が受け取るお金です。歳費は「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」(歳費法)に定められています。
2024年9月現在、同法では、衆議院・参議院どちらも月額129万4000円が支給されることになっています。日給(ひと月30日換算)にすると4万3133円。年収にすると、1552万8000円です。ちなみに、税金などはかかりますから、それを引いたぶんが手取りとなります。
国会議員、とくに衆議院は解散によって月の途中で失職することもあります。2010年以前は歳費を月単位で支給していました。たとえば、1月1日に議員として在職していれば、その日に辞職してもひと月分の歳費が満額支給されていたのです。
そのため、過去には、不祥事を起こして辞任必至に追い込まれた議員は、月が変わるタイミングで辞職を願い出るケースもありました。こうした議員の態度は、歳費欲しさに時間稼ぎをしたと受け取られることも多く、国民から批判の声が向けられることも珍しくありません。時代遅れの法体系との指摘を受け、2010年12月に議員歳費を日割り支給に変更する改正が行われました。
ちなみに、この改正によって、“珍事”が起きたこともあります。2019年に実施された参議院議員選挙で立憲民主党の比例区に立候補した市井紗耶香氏は、一歩及ばず、次点で落選しました。その後も彼女は参議院議員への挑戦を表明していましたが、2022年にいったん政治活動から距離を置くことを宣言しています。
■夏・冬のボーナスは合計約638万円
ところが、同じく2019年の参院選で立憲民主党公認候補として比例区で当選した須藤元気議員が、2024年4月に投開票の衆議院議員選挙の東京15区補欠選挙に立候補したために参議院議員を退職(自動失職)。そのため、選挙から5年後に市井氏が繰り上げ当選するという事態が起きたのです。
須藤議員は事前から立候補する意思を表明していたので、市井氏が繰り上げ当選する可能性が報じられていました。一方、彼女は政治活動から距離を置いていたため、繰り上げ当選しても辞退する旨を表明していたのです。
しかし、制度として当選辞退はできないようになっていました。そのため、市井氏は繰り上げ当選して議員になってから、即日に辞職するという手続きを取っています。この経緯で、彼女は在職1日という扱いになり、1日分の歳費4万3133円と、この後に説明する調査研究広報滞在費3万3333円が日割り計算されて、計7万6466円が支給されることになったのです(※1)。
歳費法は毎月支給される歳費に加えて、年2回の期末手当も定めています。期末手当は会社員でいうところのボーナスに該当するものです。期末手当は基準日が6月1日と12月1日になっているので、まさに夏・冬のボーナスといえます。こちらは金額の変動がありますが、2024年夏の期末手当は318万9710円でしたので、それを基準にすれば、夏・冬を合わせて約638万円になります。
写真=iStock.com/f18studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/f18studio
■1回当選すると、参院議員は1億3100万円以上手に入る計算
国会議員は国会で法案を審議することが仕事ですが、国会外で現場を視察したり、業界団体から話を聞いたりすることも仕事の一部です。そのため、国会の本会議に欠席していても在職していれば職務をこなしていると考えられ、議員報酬は支給されます。国会を欠席しても議員報酬が減額されることはありません。
期末手当で少しややこしいのは、この6月1日と12月1日が支給日ではなく基準日だということです。この基準日前1カ月以内に辞職や死亡をしても期末手当が支給されることになっています。毎月支給される歳費が1552万8000円、期末手当が約638万円で合計約2190万8000円。これが、2000万円を超える歳費の内訳になります。
衆議院議員の任期は4年ですから、解散がなければ、1回当選すると8700万円以上を手にすることになります。そういう意味では、衆議院議員以上にお金の面で高待遇されているのが、参議院議員でしょう。任期は6年で、衆議院のように解散はありません。1回当選すると、約1億3100万円以上を手に入れられる計算です。
昨今は人手不足の折から各業界・企業で賃上げが相次いでいます。そうした社会的状況を鑑(かんが)み、2023年に国家公務員特別職の改正給与法が可決しました。これにより、総理大臣は年間46万円、閣僚は32万円の給与アップになります。ただし、同法を成立させた岸田文雄内閣では、総理大臣と閣僚を含む政務三役(大臣・副大臣・政務官)は増額分全額を国庫に返納するとしています(※2)。
■「第二のお小遣い」旧文通費とは
ここまで説明してきた歳費は、議員にとって月給とボーナスとなる収入です。しかし、国会議員は頻繁に自分の選挙区へ戻ります。永田町には「金帰火来」「金帰月来」という言葉があり、文字通り金曜日の夕方に選挙区(地方)へ行き、火曜日もしくは月曜日の朝に永田町(東京)へ戻ってくる国会議員の行動様式を表した四字熟語です。
金曜日の夕方に永田町を発った政治家たちは、土曜日の朝から選挙区で催(もよお)されている祭りや会合、町内会の清掃活動や小中学校の運動会などに顔を出して、自分の顔と名前を売り込むとともに、人脈を広げていきます。
東京生まれ、東京育ちの国会議員は多くなっています。選挙区が地方にあっても、地元のことをまったく知らない議員も珍しくありません。毎週土曜日に選挙区へ行き、さまざまな政治活動を通じて町内会長や小中学校のPTA会長などとの関係を深め、さらに市長とも懇意になれば、それが票へとつながっていくのです。
国会議員が永田町と地元の選挙区を往復するために、多くの国会議員にはJR全線の無料パス(特殊乗車券)が支給されています。名刺大のこの無料パスは、在来線の鈍行だけではなく、特急や新幹線にも乗車できますし、新幹線のグリーン車にも乗ることができます。また、東京から離れた道府県を選挙区にしている国会議員は、代わりに航空機の無料パス(航空券引換証)を選ぶこともできます。
写真=iStock.com/JianGang Wang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JianGang Wang
■月100万円、領収書の提出は必要なし
こうした無料パスの支給だけでも十分に思えますが、国会議員は地方視察なども多いとされているため、それらの経費として使用できる調査研究広報滞在費(旧・文書通信交通滞在費[旧文通費])が、歳費とは別に支給されます。この旧文通費は、1993年から月100万円が支給されるようになっています。議員個人に、月2回に分けて、支払われます。
旧文通費は、その名の通り文書(資料代)や通信費、交通費、滞在費(宿泊費)に充てがうお金です。一般の会社員なら経費ということになりますが、企業なら領収書を添付して経理担当者に渡して精算します。
しかし、旧文通費には、そうした決まりはありません。領収書を提出する必要はないため、実質的には、何に使っても自由となっています。しかも、名目は経費ですから、歳費と違い、所得税がかからない非課税なのです。もし使わなければ、100万円を丸々非課税で得られることから、国会議員の「第二のお小遣い」と揶揄されることもあります。
■たった1日在職しただけで100万円もらえる
旧文通費は歳費のように日割り計算されることはありませんでした。たとえば、12月31日に議員になっても在職1日としてカウントされるので、12月分の文通費100万円が満額支給されたのです。
2021年に実施された衆議院議員選挙では、日本維新の会の公認候補として東京1区から小野泰輔氏が出馬しました。小野氏は小選挙区で当選できませんでしたが、重複立候補していた比例で復活当選しました。
同衆院選は投開票日が10月31日だったため、当選者は10月に1日だけ議員として在職したことになります。そのため、同選挙の当選者たちは全員が文通費の満額100万円を支給されています。これを疑問視した小野氏は、日本維新の会を通じて文通費のあり方について問題提起しました(※3)。これを機に議論が始まります。
小野氏の文通費に対する問題提起がなされると、併せて議員会館が無料で使えるオフィスであることも注目され、それに伴(ともな)って文通費の必要性についても問われることになりました。「文通費そのものは必要だけれども、月100万円という金額は妥当なのか?」「そもそも経費として支給されているのだから何に使ったのか不明なのはおかしい。領収書の提出を義務化するべき」「余った文通費は国庫に返納するべき」といった意見が噴出しました。
写真=iStock.com/Hanafujikan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hanafujikan
■調査研究広報滞在費に名称は変わったが…
こうした指摘は、おおむね正鵠を射(い)ています。しかし、議員の会報を支持者に郵送する費用もかかります。郵送代を1通110円とすれば、1万人の選挙区民に配布すると仮定したら、110万円が費消される計算になります。これだけで旧文通費100万円をオーバーしてしまうのです。これらに加え、国会答弁をするために必要な資料や書籍を買い足すこともあるでしょう。
国会議員は、真面目に仕事をすればするほど、費用が莫大にかかる仕事です。しかし、文通費に対する国民の批判は厳しく、議論を受け、歳費法が2022年4月に改正されました。それに伴い、文通費は調査研究広報滞在費へと名称を変更し、支給額の算出も日割り計算へと変更されたのです。先述の在職1日の市井紗耶香氏が旧文通費を日割りで受け取ることになったのは、この法改正の結果です。
しかし、「月100万円支給」や「領収書の提出は必要なし」といった内容に変更はありませんでした。
■月65万円の「第三のお小遣い」立法事務費とは
歳費や旧文通費以外にも、国会議員には、立法事務費と呼ばれる月65万円も支給されるお金があります。法律では、「国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため必要な経費の一部」とされており、経費のため、旧文通費と同じく、非課税となっています。
ただし、立法事務費は歳費や旧文通費とは異なり、議員個人に支給されません。原則的に、その議員が所属する各会派の政治団体に支給されています。
ここで、会派という聞き慣れない言葉が出てきたので、簡単に説明します。私たち有権者は選挙において議員個人の政策に耳を傾け、そしてその人となりを見て投票するか否かの判断をする人が多いでしょう。しかし、それ以外に、政党を判断指標にしている人もいます。「○○党は自分の考えに近い政策を掲げている」とか「××党は党首の主義主張に共感できるから投票する」といった感じです。
選挙は、議員の個人間で戦うこともありますが、政党間の戦いでもあります。しかし、それはあくまでも選挙の話です。国会内では同じ政党でも、衆議院と参議院では別々に法案を審議しています。国会内では仲間として協力することができないのです。そこで、同じ政治思想・主義主張を伴う会派と呼ばれるグループを形成し、会派単位で協力・連携します。
■税金なのに「使い道」は公開されない
図表1を見てください。2023年12月13日時点の参議院でいえば、最大会派は自由民主党で117名、次いで立憲民主・社民の40名です。
出所=『政治家の収支』
これを見ると、立憲民主党と社会民主党は別々の政党ですが、参議院では連帯する同志といえます。なぜ、違う政党に所属する議員が会派を組んでいるのかといいますと、少しでも院内での発言力を高めることが目的です。
鮫島浩『政治家の収支』(SBクリエイティブ)
衆議院でいえば、2024年9月19日時点で最大会派は自由民主党・無所属の会の258名、次いで立憲民主党・無所属の99名です。会派は衆・参両議院で別々に結成される国会を戦う連携組織といえますが、会派の成立要件として2人以上と定められています。
しかし、1人でも、所属する政党が政治資金規正法上の政治団体に該当する場合、会派として申請できます。たとえば、2024年6月、衆院議院運営委員会は、同年4月に自由民主党を離党した塩谷立議員が一人会派「未来政治経済研究会」を結成したことについて、与党の賛成多数で了承。月65万円の立法事務費が支給されることとなりました(※4)。
また、立法事務費は、使途の公開が義務付けされていないこともあり、何に使われているかは不明です。実質は、政党本部に入った後には、政策スタッフの人件費や調査経費ではなく、党の運営経費や所属議員への「もち代」などに充てられていることが指摘されてきました(※5)。また、会派のリーダーが立法事務費を独り占めにしたことで、会派所属の議員から不満が爆発し、それを理由に会派が分裂したこともあります。
※1 朝日新聞デジタル2024年4月26日「参院が市井紗耶香氏の議員辞職許可 在職わずか93分で戦後最短」
※2 NHKニュースウェブ2023年11月17日「特別職の国家公務員の給与引き上げ 改正給与法が可決・成立」
※3 毎日新聞『政治プレミア』2021年12月6日「1日で100万円 常識外れの『とても受け取れない』文通費」
※4 時事通信ニュース2024年6月21日「自民離党の塩谷氏が会派=月65万円支給、野党は反対」
※5 公益財団法人・日本生産性本部「政治倫理の確立と政治腐敗防止に関する緊急提言 〜国民と政治家との新たな契約〜」
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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。
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(ジャーナリスト 鮫島 浩)