今年はiPhoneビジネスモデル崩壊の年になる

4月1日(月)6時9分 JBpress

アップル製品を販売する中国・北京の商業施設(2014年9月16日撮影、資料写真)。(c)Greg Baker / AFP〔AFPBB News〕

 2019年は、iPhoneのビジネスモデルが崩壊する年となるだろう。

 2007年のiPhone発売から、スマホ市場は一貫して成長してきた。しかし、世界のスマホ出荷台数は、2018年に前年比4%減の14億台、2019年は前年比1%近い減少となり、2年連続のマイナスになるとの見通しを、米国調査会社IDCが発表した。世界的に、スマホ市場が曲がり角を迎えている。

 特に米国アップル社のiPhoneは、新機種が売れていない。有機EL(OLED)ディスプレイを採用した機種(XS、XS Max)が惨憺たる状況なのだ。そのため日本でiPhoneを扱う販売店は、iPhone8などの型落ち品や安価版のXRなどの大幅割引販売と、法規制前の「実質0円」端末の駆け込み需要での対応を余儀なくされている。

 当のアップルは、iPhoneの新型3種機種の生産台数を、2018年1月〜3月に当初計画から10%程度減らすとした。スマホの2割を販売する中国市場において、2018年10月〜12月期の売上高が6四半期ぶりに減少に転じ、アップル全体でも9四半期ぶりの減収となる。

 こうした事態を受け、今年1月初旬のアップルの株価は10月につけた最高値から35%値を下げたばかりか、iPhoneの組み立てを請け負っている鴻海の株価も同期間に26%ほど下げた。iPhoneの売上高は年間約18兆円にものぼることから、世界中のアップル関連銘柄を「アップルショック」が襲い、株価は大きく下落したのだ。

 それほどまでの影響力を持つiPhoneだが、なぜこれまでスマホ市場で独走し、そして今なぜ崩壊に向かっているのか? 私の見解を述べてみたい。


iPhoneはなぜ大成功したのか

 アップルのCEOだったスティーブ・ジョブズは、2000年、顧客の使いやすさにこだわったデジタルオーディオプレーヤーiPodを市場に投入し、絶大な支持を得た。

米アップル(Apple)のタブレット型情報端末「ipad 2」に映し出された同社の共同創業者、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏の死去を伝える同社ウェブサイト(2011年10月5日撮影)。(c)AFP/Frederic J. BROWN〔AFPBB News〕

 このiPodを基に、2007年6月29日に米国で発売されたのが初代iPhoneだった。iPhoneは、iPodに携帯電話、インターネットや電子メールの機能を追加した携帯情報機器として登場し、多くのユーザーを惹きつけた。これがいわゆるスマートフォンの先駆けとなった。日本では、米国での発売から遅れること1年、2008年7月にiPhone 3Gが発売され、やはり爆発的なヒットとなった。こうしてiPhoneは、世界のスマホ市場を創設し、そして自ら牽引してきたのはご承知の通りだ。

 アップルは、「差別化戦略」を取ってきた。「差別化戦略」とは、米国の経営学者マイケル・ポーターによって提唱された競争戦略のうちの一つで、競合他社の商品と比較して機能やサービス面において差異を設けることで、競争上の優位性を得ようとするものである。

 アップル取った「差別化」は、iPhoneを「あこがれの高級ブランド」とすることで図られてきた。

 iPhoneが「あこがれの高級ブランド」となりえた要因を、マーケティング戦略を考える「4P」の視点で考えてみよう。この「4P」は、1960年代にハーバードビジネス・スクールの教授、E・ジェローム・マッカーシーが提唱した、売る側(プロダクトアウト)からのマーケティングの分析フレームワークである。4PのPは、Product(製品)、Price(価格)、Place(販売ルート)、Promotion(販売促進)の頭文字から取っている。

 Product(製品)の点では、スティーブ・ジョブズがデジタルオーディオプレーヤーiPodを基に、持ち前の「構想力」によって、ユーザーの使いやすさに徹底的にこだわったものとしている。

 Price(価格)では、「あこがれの高級ブランド」に見合った高価格設定を行った。iPhoneは非常に高価格ではあったが、日本では携帯端末の機器代金を通信料に上乗せして、いわゆる実質「0円販売」を行うことで、「高価格ではあるが手が届く」状態にし、消費者の心理的抵抗を抑えることに成功した。

 Place(流通)では、最初は米国市場から始まったが、そして急速に世界市場へと広げていった。

 Promotion(販売促進)は、「世界で同時、同一機種販売」で、一気に大量販売する方式を取った。上手くいけば、短期間で世界のスマホ市場の支配権を握れる。ただ、このやり方は生産面でのリスクが伴う。一気呵成に生産が進まないと、世界同時販売は看板倒れになる。

 このリスクを下げるため、アップルは同一部品を数社から購入する「マルチベンダー方式」を取ってきた。それには、次の3つの理由がある。1つは、デジタル家電の価格下落が発売から急速であり、発売時に多数社から十分な量の製品を揃えて利益を確保するため。2つ目は、一社で生産に問題が起こっても他社から部材の供給が受けられるため。3つ目が、多数の会社で価格を競わせることにより安価で購入できるためである。

 そして「マルチベンダー方式」をとるには、複数のベンダーから提供される部材の性能を同一にする必要がある。アップルは、大量に購入するため強い「交渉力」と「パワー」を持っており、同一仕様にさせることができた。お陰でシャープは、ともにアップルに液晶を納入していたLGやサムスンの技術レベルに合わせるため、わざわざ液晶の解像度を落として生産させられたことまである。それほどまでに強い「交渉力」と「パワー」をもっていたがゆえに、アップルは「マルチベンダー方式」を貫けたのだ。

 マルチベンダーから供給された部材は、EMS(電子機器受託製造サービス)によって製品に組み上げられる。そこでチャンスをものにしたのが、シャープを傘下に収めた鴻海だ。他のEMSが尻込みする中、鴻海はアップルの意向に無理をしてでも合わせて、同社の信頼を得た。そしてアップルから多くの発注を受けることで、飛躍的に業績を拡大させてきたのだ。

 このようにiPhoneのビジネスモデルの神髄は、「あこがれの製品」を「世界で同時、同一機種販売」し、ブランドイメージを上げて、高価格で大量に販売することにあった。そしてその戦略の成功が、そこに関わるベンダーやEMSの業績向上にダイレクトにつながっていった。

 しかし、2017年からアップルがiPhoneに有機ELパネルを採用することを発表して、この状況は一変した。


ビジネスモデル崩壊の理由

 そこで今度は、iPhoneが崩壊した要因を、マーケティング戦略の視点から「4C」を使って分析してみたい。「4C」とは、ノースカロライナ大学マスコミ学科教授ロバート・ラウターボーンが提唱した、顧客視点(マーケットイン)のマーケティングのフレームワークだ。4CのCは、顧客価値(Customer Value)、顧客にとっての経費(Cost)、顧客利便性(Convenience)、顧客とのコミュニケーション(Communication)の頭文字から取っている。

 アップルは、2017年からiPhoneに有機ELパネルを採用することを発表した。だが、スマホ用の有機ELパネルの調達先はごくごく限られている。アップルは、スマホ市場でライバルであるサムスンから部品を調達する奇策に出た。アップルはそれまで、強い「交渉力」と「パワー」を駆使して、「マルチベンダー方式」にこだわってきたことはすでに述べたが、その「マルチベンダー」方式を止めてまでも、サムスン一社から有機ELを調達する「シングルベンダー」方式を選んだ。

 有機ELは、平板からカーブド(湾曲した)、フォーダブル(折り畳み式)、ローラブル(巻取り式)へと段階的に進化していくものと予想されている。サムスンは、すでに有機ELを「湾曲」させて、スマホの側面にまで映像を表示する技術を持っていた。であれば、そのサムスンからアップルがわざわざ有機ELを調達するのであるから、新しい機種は最低でも「湾曲」、できれば「折り畳み式」になるのではないかと、私は密かに期待を寄せていた。つまり「顧客価値」としての期待値であった。しかしこの期待は見事に裏切られた。アップル初の有機ELスマホは、ただの「平板」だったのだ。「顧客価値」を満たしたとは言い難かった。

 なぜこうした結果になったのか。考えられる理由は、スティーブ・ジョブズが亡くなり、アップル社の「構想力」が低下したのではないかということだ。さらに、「マルチベンダー」方式を止めてまで「シングルベンダー」方式を取ったのに、新機種が「平板」だったのは、サムスンへの「交渉力」と「パワー」に問題があった可能性がある。

 さらに「経費(Cost)」では、製品価格が顧客にとって妥当なレベルではなかった。はっきり言えば、高すぎた。有機ELは黒が沈み込んで発色がきれいなのだが、パネル価格は、液晶パネルの倍以上になる。筆者がこの3月、国内キャリアの店頭で調べてみると、アップルが2017年9月に発売した有機EL採用のスマホXSは64GBで13万6800円、有機EL採用の最高機種スマホXS Maxは64GBで14万7000円であった。やはり値段は高止まりしたままだ。

 これら高価格機種の売り上げが伸びていないこともあって、ディスプレイサプライチェーンの調査・コンサルティングを手掛けるDSCCによれば、サムスンの有機ELラインの稼働率は、2019年第1四半期で34%と低迷している。

 これに対して、2017年10月発売の液晶を用いた低価格帯のXRは、64GBで10万6560円だった。型落ちのiPhoneならさらに安く買える。

 ちなみにシャープの自社製有機ELを採用したスマホAQUOS zeroは、128GBで9万9840円と安く、また世界最軽量である。ソニーのサムスン製有機ELを搭載したXperia XZ3にしても、64GBで11万9040円だ。有機ELスマホでも、iPhoneの価格は飛び抜けている。

 現在では、顧客の選択肢は増え、「顧客価値」に合わせて購入できる。

 顧客は「あこがれの高級ブランド」に対して、いくらまで、そしていつまで追加の費用を払うのか? 「iPhone崩壊」の原因を分析するため、「顧客価値」から見たiPhoneのビジネスモデルを図1に示す。

 この図1では、使いやすさ、ブランド、表示等の「製品の性能」を縦軸、「製品の価格」を横軸に示す。右に行くほど価格が「安くなる」ように座標を取っている。だから、原点から離れるほど、価格も安く性能も良く、4Cで言う「顧客価値」が高い。逆に言えば、原点から同じ距離にあれば、「顧客価値」は同じである。iPhoneは、高いブランド力と高性能で「差別化戦略」を取り左上に位置する。「安価スマホ」は、性能はよくないが価格を抑えた「コスト・リーダシップ戦略」を取り右下に位置する。

 iPhone Xは、性能向上より価格が高すぎ、「顧客価値」はあまり上がっていない。これに対して日本のスマホは、性能を追求して、より「顧客価値」を上げて「顧客満足」につながっている。

 アップルの「ビジネスモデル」は崩壊の危機に立っている。「顧客価値」よりも、顧客にとって商品の価格「経費」が高すぎる。「ブランド力」以上に顧客にとっての「価格」を高くしすぎた。これが「iPhone崩壊」の理由である。


「実質0円」販売の終焉

「顧客利便性」の視点からは、さらにiPhoneを危機に陥れる要因がある。国内での「実質0円」販売の終焉である。

 政府は、携帯電話料金の引き下げを促す電気通信事業法の改正案を、この3月に閣議決定した。現在行われている、2年程度の通信契約を条件にスマホ本体の価格を安くする「セット値引き」、つまり「実質0円」販売を禁止する。端末代金と通信・通話料を分離するのだ。

 NTTドコモは、スマホ代と通信料金の「分離」プランでは、通信料金2〜4割の値下げを表明している。一方で、スマホ本体は定価販売が主流になり、台数規模は2〜3割程度減ると予測されている。高額で販売するiPhoneが最も大きな影響を受け、危機に陥れる要因となる。

「コミュニケーション」でみると、従来はキャリアと顧客の間でコミュニケーションが取れてなかった。非常に複雑で判りにくい「セット値引き」の仕組みを用いていたためだ。「分離」プランにより、「コミュニケーション」は改善されることになる。


アップルの復活戦略は成功するのか

 今年3月1日、アップルがシリコンバレーの本社で開いた株主総会で、CEOのティム・クックはこう強調した。

「2018年はハードやソフト、サービスの開発に140億ドル(1兆5600億円)超を投じた。われわれの将来に自信を持っている」

米カリフォルニア州クパチーノのアップル本社で行われたイベントで、「Apple News+」を発表する同社のティム・クック最高経営責任者(2019年3月25日撮影)。(c)NOAH BERGER / AFP〔AFPBB News〕

 3月2日付けの日経速報アーカイブによると、この株主総会でクック氏は「数多くの取り組みを進めているが、うまくいくものもあればそうでないものもある」とし、さらに「サイコロをふるようなものだ」と述べたという。

 研究開発費を積み増しし、多くの取り組みをしていれば、その中のどれかが当たるだろう、との経営感覚なのかも知れない。

 現状では、iPhoneビジネスモデルは、「構想力」の欠如や、「交渉力」「パワー」低下の問題を露呈している。またアップルは、サムソンの有機ELのような「コアテクノロジー」もない。

 このためか、クック氏は、3月25日には定額動画配信「アップルV+」というサービスに参入すると発表した。

米カリフォルニア州クパチーノのアップル本社で行われた「Apple TV+」発表イベントに登場したスティーブン・スピルバーグ監督(2019年3月25日撮影)。(c)NOAH BERGER / AFP 〔AFPBB News〕

 しかし、動画配信にはすでに競合他社がひしめいている。また、アップルの売上高の9割近くを、iPhone等のハードに依存している状況で、ソフトビジネスにどれだけ重心を移すことが出来るのか・・・。アップルの復活戦略は果たして成功するのか、注視しておく必要がある。


日本がつけ込む隙はあるか

 スマホ市場がこうした状況にある中、日本企業につけ込む隙はあるのか? スマホ市場で存在感を発揮するためには、まずはアップルよりも、韓国の電子機器メーカーとの勝負になるだろう。

 そこで、これからのスマホ市場でキーデバイスになる有機ELパネルについてみてみると、現状では韓国勢が優勢だ。

 サムスンは、有機ELを搭載した折り畳み式スマホを、2018年11月に公開し、数カ月以内に量産を始められるとしている。LGは、88インチの8K有機ELテレビを、2018年9月の欧州家電見本市IFAで展示した。また2018年12月の「ファインテックジャパン」や2019年1月のCES(Consumer Electronics Show)では、巻取り式有機ELテレビを公開した。

 日本が韓国勢との勝負を優位に進めるためには、有機ELの分野で追いつく必要がある。そためには必要なのは技術の種である。日本には、有機ELパネルを自社で研究・開発するシャープ、低コストな印刷方式に挑むJOLED、新しい有機EL材料に挑む九州大学安達千波矢教授とKyulux社など、期待される存在がある。技術の種はある。あとはそれをどう育てていくか、にかかっている。

*中田行彦氏がJBpressで書かれた記事を加筆・修正した『シャープ崩壊—鴻海流スピード経営と日本型リーダーシップ』が、啓文社書房より4月2日に発売されます。

筆者:中田 行彦

JBpress

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