中居正広氏をかばい、女性アナを置き去りに…フジテレビが「視聴率をとれる番組」のために支払った大きな代償

2025年4月1日(火)11時55分 プレジデント社

第三者委員会の調査結果公表を受け、記者会見するフジテレビの清水賢治社長=2025年3月31日午後、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルをめぐる一連の問題で、3月31日、フジテレビとフジ・メディア・ホールディングスが設置した第三者委員会が調査報告書を公表した。中居氏の性加害を認定。複数のハラスメント事案を明らかにした。フジテレビはこれからどうなるのか。元テレビ東京社員で、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「報告書では中居氏の性暴力を認定した。踏み込んだ内容であると同時に、テレビの構造的な欠陥があぶり出された」という——。
写真=時事通信フォト
第三者委員会の調査結果公表を受け、記者会見するフジテレビの清水賢治社長=2025年3月31日午後、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■報告書“公表前”の茶番


元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルに端を発したフジテレビの問題で、事実上の最高権力者である日枝久取締役相談役の退任が3月27日に発表された。同時に、フジでは辞意を表明していた遠藤龍之介副会長をはじめ16人が、フジ・メディア・ホールディングス(以下、FMH)では10人の取締役が退任した。


一連の問題を受け、人事を刷新する狙いがあるとみられるが、一部では日枝氏がフジサンケイグループ代表も辞任したことを評価する報道もあった。しかし、私は女性取締役を増やしたことや、取締役の全体数を減らし若返り化を図ったことに対しては一定の評価をするものの、この日枝氏の「退任劇」に関してはまったく評価していない。「お粗末」としかいいようがない「茶番」と感じている。それはなぜか。


それは、第三者委員会の調査結果を待たずにおこなわれたこの人事に、意図的なものを感じるからである。


まず、なぜ「このタイミングなのか」。フジのどんな対応が問題で、その対応を引き起こした責任はどこにあったのか、それらが明らかになっていないのに、あたかも「幕引き」をして問題を鎮火させようとするかのような行為は、不誠実であり、あまりにも世間や国民をバカにしていると言わざるを得ない。このタイミングでの退任は、経営責任を不問にしかねない。


■「ジャニーズ性加害問題」と地続き


フジはまた、ここ数年起こっているテレビ局の不適切な対応という同じ轍を踏もうとしている。今回のフジの問題は、かつての「ジャニーズ性加害問題」やドラマ「セクシー田中さん」問題などと「地続き」である。それらのどれもが、最後までちゃんと検証されることなく、中途半端に論じられ、何となくうやむやにされて終わってしまった。世論が興味を失い、忘れ去られることで、問題の本質は置き去りにされている。それを今回も繰り返しているように私には思えてならない。


フジのスポンサー離れ、CM離れを考えれば、企業としては早急な刷新を打ち出したいところだろう。しかし、これほどまでにフジ内で実力を誇り、独裁政権を敷いていた人物が去るのに、「その功罪は何だったのか」という総括もされないまま、うやむやにされていいものか。「去る者は語らず」というのであれば、それはあまりにも奇麗事であり、傍観主義としか言えない。


繰り返して断言する。「ジャニーズ性加害問題と今回のフジの問題は地続き」で、あのときにちゃんとテレビ業界全体が総括できなかった、向き合わなかったから、今回のフジの問題が起きたのだ。


報告書を出してスポンサーが戻ればいい、そんなことを経営側が考えているようなら、糾弾せざるを得ない。見逃すことは、また同じような問題を引き起こし、ひいてはテレビ業界全体の滅亡を招くことになるからだ。私はテレビが好きだ。テレビに育ててもらったと思っている。だからこそ、テレビがこのまま滅亡への道を歩み続けるのを“黙って”見てはいられない。そう思い、声を上げる。


■中居問題であぶり出されたフジテレビの体質


フジは企業統治のあり方を根本から変えないとCM再開は難しい。いや、もしスポンサーが形だけ戻って来て、CMを再開することができたとしても、それは一時的な事象に過ぎない。根本には「病巣」が広がりつつある。それを確信したのが、27日の突然の人事発表であった。


報告書でトラブルの原因や背景が判明し、責任の所在や論点が明らかになったあとに、一連の人事をおこなうべきだった。時期尚早の人事は、著しく透明性を欠くことになった。同日の27日にFMHの株主が日枝氏を含む現旧経営陣15人に対しておよそ計230億円の損害を求める株主代表訴訟を起こしたことは、その怒りの表れだ。


以上の27日の件を踏まえ、3月31日に発表された第三者委員会による報告書ならびに第三者委員会による記者会見、そしてフジの清水社長による記者会見を紐解くことで、「中居氏のトラブルから発する今回の問題がもたらしたものは何だったのか」をきちんと総括したい。


■社員を置き去りにし、中居氏をかばった旧経営陣


当日のラテ欄には、「信頼回復への改善策は 向けられた厳しい目に 問われる具体的な説明 しっかりお伝えします」と書かれていた。その宣言に偽りはないのか。テレビを愛する者として、しっかりと見届けたい。そんな気持ちで報告書を読み、記者会見の放送を視聴した。


まず、第三者委員会による報告書は、思った以上に踏み込んだしっかりしたものだった。初見の感想としては、「よくぞここまで調べた」と感じた。「性加害や人権侵害がおこなわれた」ことを認定したことや、フジの企業としてのコンプライアンスや人権DD(デューディリジェンス)といった「ガバナンスの低さ」、幹部の「危機の認識のなさ」や「無責任体質」をはっきりと指摘したことも評価したい。弁護士の方々の信念の表れだ。


撮影=石塚雅人
第三者委員会委員長の竹内朗氏 - 撮影=石塚雅人

同時に報告書では、中居氏と女性アナウンサーとのトラブルの報告を受けた当時の社長である港浩一氏と当時の編成担当専務であった大多亮氏が、「プライベートな男女の事案」として隠蔽し(報告書は「業務上の事案」と認定)、「中居氏サイドに立ち、中居氏の利益のために動いた」さまも明らかになった。


報告書が提言しているように、フジの再建はコンプライアンスや人権DD、ハラスメント対策の強化、実現がないと成しえることができない。報告書が出たことは「免罪符」とはならない。これによって、すぐにCMが戻り、社会や企業の厳しい目が緩むわけではない。フジは27日の「経営陣の刷新」で調査報告書に先んじて手を打ったつもりだったかもしれないが、そうはならなかった。逆に「裏目に出た」と言っていいだろう。


それは、報告書によって、日枝氏の存在だけが今回の問題の根源ではないと見抜かれてしまったからだ。報告書は、フジのセクハラ体質は「企業風土」だと述べている。つまり、日枝氏の退任や取締役の変更だけでは「不十分」だと認定されたのだ。新人事発表時には、フジは「取締役の女性の割合は30%」と鼻息も荒かったが、報告書では「30%はあくまでも最低ライン」と一刀両断だった。


■フジ再建は可能なのか


印象的だったのは、報告書の最後の締めの言葉だ。


「当社の救いは、ステークホルダーへの説明責任に向き合おうとしない経営陣に対して、敢然と反旗を翻した数多くの社員がいたことである。彼ら彼女らが、当社の次世代を担い、どこよりもクリーンで活力溢れる会社へと変革を成し遂げて、業界全体の健全化をリードしてゆく存在になることを強く願う」


ここにフジの再建のヒントがある。私はその策として3つ挙げたい。


一つ目は、「ヒント」と前述したように、フジは社員と再度向き合い、社員の「不安」や「不満」を改善するべきである。報告書のアンケート結果を見ると、社員の「不安」や「不満」が多く感じられる。これらはどんなことから来ているのか、どんなことが原因なのかをしっかりと調べて、解消しなければ大切な社員の理解は得られない。また、蔓延した「企業風土」は改善されない。


清水社長は会見で、「再生・改革プロジェクト本部」による社員との対話を始めていることを強調していた。「すでに始めている」という言葉が繰り返されたが、これを一時的ではなく、何年たっても忘れずにおこなってゆくことが大切である。


撮影=石塚雅人
記者会見するフジテレビの清水賢治社長=2025年3月31日 - 撮影=石塚雅人

二つ目は、制作会社へのケアを十分におこなうべきである。私は前回、フジの問題の制作会社への影響をプレジデントオンラインの論考で述べた。フジが企業ガバナンスの構築を成し遂げることができたとしても、「ヒト・モノ・カネ」の「ヒト」である人材がなければ、番組である「モノ」を作ることができない。


テレビ業界から人材が消失してしまう前に、制作現場での問題点の洗い出しやヒアリングをおこない、これらを改善する手を早急に打つべきである。


■調査委員会は「ハラスメント体質」を指摘したが…


三つ目は、フジは社長をはじめとする幹部を外から入れるなど、いわゆる「外の血」を入れるべきである。第三者委員会の記者会見で、委員長の竹内朗弁護士が「人事に関して、日枝氏にお伺いを立てるという事実はあった」と認めているように、報告書が指摘する「ハラスメントに甘い」「ハラスメントが蔓延する」といった企業風土が、清水社長や新しく選任された取締役にも沁み込んでいる可能性が高い。


会見の最後の方には、清水社長の発言にボロが出てきた。「立派なロードマップを出されましたが、それが効いているなと感じたような事例はありますか?」という記者の質問に、「いまだに制作現場は徒弟制度で、チーフDが威張っていて、ADがこき使われるというのがあると思うんですが……」と清水氏。私は「おい、おい。いつの時代だ! 昭和かよ」と突っ込みを入れたくなった。そんな時代錯誤なハラスメント感覚を持っている社長が、会見で発表していたような立派な人権プランを実現できるとは思えない。ロードマップは「ハリボテ化」するのではないか。


こんな状態では、一つ目に挙げる社員の「不安」や「不満」を解消できないどころか、企業再生を果たすこともできないだろう。


清水社長は記者会見で「人権尊重の徹底」「企業風土の改革」「ガバナンス強化」「未来を見据えた人的資本経営戦略」を改善策として挙げたが、厳しいことを言えば、それらの説明は「奇麗事」や「絵空事」にしか聞こえなかった。「『再生・改革プロジェクト本部』を“すでに”立ち上げている」「問題となった企業風土に“躊躇なく”メスを入れていく」「基本的人権を“絶対に”守る」「逸脱があれば“厳正に”対処する」など強調表現が多く見られたが、その実現が確認されるまでには時間が必要だ。


撮影=石塚雅人
記者会見するフジテレビの清水賢治社長=2025年3月31日 - 撮影=石塚雅人

■清水社長の会見は「奇麗事」「絵空事」に聞こえた


ロードマップが綿密に作成されていた点は評価に値するが、フジはテレビ局だ。肝要なのは、それらの施策が「日々の制作現場にちゃんと生かされているかどうか」だ。清水社長の改善策は盛りだくさんすぎて、かえって「とりあえず考えられるものをすべて並べた」ように印象を与えてしまった。


さらに言えば、清水社長が挙げたこれらの改善策は、報告書を反映したものではない。報告書で指摘を受けた問題点を精査し、すでに実行している改善策とどう合致させてゆくのかが課題となる。


しかし、なぜ清水社長の強調表現や説明が“必要以上に”「奇麗事」や「絵空事」に聞こえてしまったのか。


それは、この大事な記者会見の場に日枝氏の姿がなかったからだ。そして、そのことが事前の27日に日枝氏を解任、辞任した最も大きな理由となっているからである。報告書でも「経営判断の体をなしていない」と記されているように、当時の最高権力者であった日枝氏の経営責任は大きい。ましてや今回の問題を引き起こした元凶は、「日枝体制」にあることは、火を見るより明らかだ。


■フジテレビだけの問題ではない


高齢や体調不良ということであれば、オンラインなどの方法でも記者会見に参加し、その責任に関して説明することはできたはずだ。だが、すでにその地位や立場にないとなると、追及をすることは難しくなる。そう考えると、フジは社をあげて「日枝氏を守った」と思わざるを得ない。中居氏を守り、日枝氏を守る。自分に利益をもたらしてくれた人物を守るという「性癖」は変わっていない。フジの経営陣は懲りていない。


そんなことがまかり通るのだから、そんなことをやる会社なのだから、どんなに立派な再生へのロードマップを唱えられても「奇麗事」や「絵空事」としか思えない。視聴者や国民がそう感じても当然だ。


最後に、「中居氏のトラブルから発する今回の問題がもたらしたものは何だったのか」という本論のテーマに踏み込みたい。それは、テレビの構造的な問題を広く世の中に示したことだ。視聴者や市井の人々が知らない事実や隠された事件が白日の下にさらされた。これは大きな意味がある。


第三者委員会の報告書でも述べられているように、これらの旧態依然とした風潮や習慣は、フジテレビだけにあるものではない。今回の問題は、多かれ少なかれテレビ業界全体にはびこるものであることを、すべての局が突き付けられたのだ。


撮影=石塚雅人
記者会見するフジテレビの清水賢治社長、質疑応答に入り、挙手をする記者たち=2025年3月31日 - 撮影=石塚雅人

■視聴率のために「タレントの利益」を優先する悪癖


私は本論の最初に「ジャニーズ性加害問題と今回のフジ問題は地続き」と述べたが、第三者委員会も、「ジャニーズ性加害問題の際に十分な検証がなかったため『学び』を得られなかった」と二者の関係性を指摘した。他局は、報告書の「CX」の文字を自局に置き換え、他山の石としなければならない。道のりは長いが、その生まれ変わりを人々に示せるかどうか、テレビ業界全体の正念場である。


テレビ業界全体の「生まれ変わり策」、その具体的な提言を最後におこないたい。


それは「出演者依存」からの脱却である。「ジャニーズ性加害問題」「松本人志性加害疑惑」そして今回の問題、それらはすべて、“タレントサイドに立ち”“タレントの利益のために”なされたものである。かつてテレビは「おもしろい企画」が通り、それが番組化されてきた。


それが、いつからかタレント重視で企画が決まり、企画書にタレント名があることが安心材料になってしまった。もちろん、タレントや俳優の力を借りることは必要である。だが、そのことに偏重し、歪みを生み出していないか、業界全体が考えるときに来ているのではないか。


同時に、テレビ局側は出演者側の立場や気持ちも考え直すべきだろう。出演者やタレント側からすれば、「都合がいいときにはチヤホヤして、必要なくなるとポイというのはどうなの」というような人権侵害をおこなっていないかどうか、胸に手を当てて考えてみるべきだ。


今回、事件の発生がわかったときに、フジの幹部たちは中居氏を“守るようなかたちで”隠蔽した。それは本当に「中居氏のためだった」のか。間違ったことをしてしまった相手を叱り、間違いを正すことこそ、「相手のためを考える」ということなのではないか。形式的に「守った」だけでは、本当に「守った」とは言えない。そういった意味では、今回の問題は、中居氏から渡された「試練」というボールだとも言えるのだ。


中居氏のトラブルから発する今回の問題は、「オワコン」とも揶揄されるテレビが再び「メディアの雄」となれる起死回生のチャンスでもあるのだ。


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田淵 俊彦(たぶち・としひこ)
元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員、放送批評懇談会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社35プロデュースを設立した。
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(元テレビ東京社員、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授 田淵 俊彦)

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