次に狙うは「ユニクロでもしまむらでもないポジション」…ワークマン女子"終了"が失敗とは言い切れないワケ

2025年4月2日(水)8時15分 プレジデント社

2022年4月27日「#ワークマン女子」の店舗 - 写真提供=共同通信社

ワークマンが「#ワークマン女子」の店名を「Workman Colors(ワークマンカラーズ)」に改名した。「女子」の取り組みは失敗だったのか。流通アナリストの中井彰人さんは「『女子』は大型の業態開発実験だったといえる。男性客に間口を広げ、より市場の大きいベーシックカジュアルを軸としたWorkman Colorsに転換することで、持続可能性を担保できる見通しがついたのであろう」という——。
写真提供=共同通信社
2022年4月27日「#ワークマン女子」の店舗 - 写真提供=共同通信社

■「踊り場に入った」と言われていたワークマン


近年、成長著しいワークマンが、鳴り物入りで展開していた「#ワークマン女子」の店名を「Workman Colors(ワークマンカラーズ)」に変更する、と発表したことで、「ワークマン女子が不振過ぎて撤退?」といった話題が急に多くなった。「Colors」は男女の製品比率1:1の想定で、ベーシックカジュアルを提供するタイプの店であり、①機能性、②ベーシックだが少し光るデザイン、③低価格、が特徴なのだという。


これまでもファッション系の識者からは、そもそも、作業服や機能性カジュアル中心のワークマンが、ファッション性の高い女性向けに乗り出していること自体、危険な賭けだとする指摘もされており、やっぱりうまくいかなかったのか、という印象を持つ方も多いかもしれない。それだけではなく、このところ好調に業容拡大してきたワークマンは、2022年度、2023年度連続で減益となり、踊り場に入ったと言われていた。


ちょうといい機会なので、成長企業ワークマンの成長を振り返りながら、そのビジネスモデルについて、ちょこっと整理してみることにしよう。


■2018年頃から急成長、背景にはアスレジャー


まずはワークマンの業績がどうなっているかをみてみよう。図表1は、ワークマンの成長の軌跡がわかる売上、営業利益の推移であるが、2018年頃から急成長が続いて、2023年以降、増収ながら減益に転じたことがみてとれる。かつて、作業服、作業用品のチェーンだった2000年代には売上、利益とも横這いで推移していたが、その後、作業用の機能性が評価されて普段着としても活用されていることに気付き、カジュアルウエアとしての用途開発を進めたことが成長のきっかけとなった。


その時代、スポーツウエアやアウトドアをカジュアルに着こなすアスレジャーと呼ばれる市場が形成されつつあり、ワークマンは機能性をアピールしてアスレジャー商品を軸に売上を伸ばしていった。そして2019年以降はそれまでのワークマン店舗(一般客2:プロ客8)をワークマンプラス店舗(一般客4:プロ客6)に転換させることで、売上を急速に増やしていくことに成功した、というのが成長の経緯である。


ワークマンIR資料より(図表=筆者作成)

■「ワークマン女子」は大型の業態開発実験といえる


加えて、コロナ禍の時代、密集を避ける必要からアウトドアブームが到来すると、アウトドア商品が加速的に売れるようになった。つまり、ワークマンの急成長を支えていたのは、スポーツ、アウトドア関連の商品であり、ワークマンプラスへの店舗転換であった、ということだ(図表2、3)。


ワークマンIR資料より(図表=筆者作成)
ワークマンIR資料より(図表=筆者作成)

「女子」は2020年度から鳴り物入りでスタートしたのではあるが、その規模感は大型の業態開発実験といったレベルであり、全体業績への影響度は大きくはなかった。足元、業績は踊り場にあるが、これはアウトドアブームの消失による調整期に入ったことが主要因であり、「女子」の影響度はそんなになかったのである。


「女子」も当初の思惑通りにはいかなかったようだ。「女子」は立ち上げからSNS、マスコミ露出などでの話題作りには成功していたため、出店時にはかなりの売上が立つのだが2年目以降、想定以降に落ち込むことがわかってきた。


当初都市部での成功の後に広域展開を企図して、2024年には地方ロードサイドに「女子」を11店舗出店。想定以上の実績を上げたが、その後のリピート売上は予定に達していないようだ。そのため、単独店として広域展開するのは難しいという答えを出して、男性客に間口を広げ、より市場の大きいベーシックカジュアルを軸としたWorkman Colorsに転換することで、持続可能性を担保できる見通しがついたのであろう。


■「プロ客」と「一般客」の両立に向けた体制を整えられた


カジュアル化による一般顧客の増加が、昔からのプロ客の不満につながっていることも課題となりつつあった。これを解決するためには、プロ中心の店と一般向けカジュアル中心の店とに分化させていくことが求められる。ただし、ワークマンプラスなどの店舗は、安定的収益源であるプロ客と一般客需要を併せて、採算が取れるという構造になっている。


そこを、プロ客なしでやっていくためには、それまでの主な顧客層である男性客に加えて、女性客に来てもらえるようになる必要があった。このため、「女子」の打ち出しで、ワークマンにもレディスカジュアルがあることを消費者に広く認知してもらう必要があったということだろう。


この実験を経て、ワークマンは、プロ100%のPro、80%のワークマン、60%のPlus、一般100%のColorsの4タイプに分けて、プロと一般客向けの店舗を分けることになったが、女性客を取り込んだColorsの開発につながり、プロと一般客の両立に向けた体制が整ったと考えれば、「女子」の実験成果は十分にあった、と言えるのだろう。


■店舗の大半はフランチャイズ店


ワークマンのビジネスモデルを考えるためには、フランチャイズ制とポジショニングの特徴について理解しておく必要がある。この会社の店舗の大半がフランチャイズ店で構成されている。プロ(=建築関係業者)向けでスタートしたため、プロ需要のコアタイム(仕事前7〜8時、仕事終わり18時〜20時)に合わせて、営業時間が7時〜20時と長時間営業となっている。そのため、コンビニと同様に家業として対応する必要があるとして、フランチャイズ店で構成されているのである。


というと、ブラックな感じがイメージされると思うのだが、ワークマンは加盟店対応にはかなり気をつかっている。コンビニでは本部と加盟店の利害対立から争議が多発して、社会問題化した時期があったと思うが、こうした対立を踏まえて、加盟店と共存していくことを重視しているのである。つまり、ワークマンのプロ、一般分離対応や業態再編成などは、基本的には加盟店の事業継続性に配慮して実施されている、ということが前提となる。


■「機能性が高いのに低価格」独特のポジショニング


彼らのポジショニングに関しては、その独特の考え方がわかる説明資料を見ていただきたい(図表4)。彼らは自社の特徴である機能性とファッション性を横軸に、価格帯を縦軸として、アスレジャー市場に4象限を想定している。機能性が高いのに低価格という象限にはスペースがあり、ワークマンはそこを獲るという資料である。


画像=ワークマンIR資料より

ざっくり言ってしまえば、アスレジャー市場には、高い機能でかっこいい商品は豊富にあるが、結構値段が高いよね、ということである。ちょっと試してみたいけれど、値段的にハードル高い、という「にわか」層はワークマンで試してみたらいかがですか、ということである。そこまで本物であることを求めていない層の方が数的には多いし、ほぼ同機能で似た見た目なら、廉価版で十分というのが庶民の、特に手持ちの少ない若年層の本音だと考えているのだろう。


■加盟店対応は成功、さらなる成長を狙う段階


地方中心、男性客強化という方針を基本だとするワークマンは、それがアパレル業界への逆張りなのだ、と言っているが、あるいは、自社加盟店組織が収益を確保しつつ、拡大していくための選択だと考えると、より理解しやすいかもしれない。ワークマンの加盟店は全国47都道府県にあり、その売上構成は、大都市(首都圏+京阪神)は38%程度で、残り6割以上を地方加盟店が稼いでいる。その首都圏等でも、大半は郊外ロードサイドの単独店であり、街中のトレンドを追うような店ではない。都市部での「機能性商品」のトレンドをうまく地方加盟店の売上につなげていくことが、ワークマン組織の収益極大化につながるのである。


直近2024年3Q実績を踏まえて、加盟店平均売上の推移をみると、2022年まで増え続け、2023年に一旦減少したが、今期は復調し過去最高となっている。粗利率に関しても一定水準を維持しており、今期は回復傾向にある。これを見る限り、ワークマンの加盟店対応は成功しており、まだまだ加盟店を増やしていける状況にある(図表5)。ワークマンは、アスレジャー市場の縮小を乗り越えつつ、新たなColorsを立ち上げ、さらなる成長を狙う段階に至っている、とみるべきであろう。


ワークマンIR資料より(図表=筆者作成)

■ユニクロでもしまむらでもない「ベーシックカジュアル」


では、Colorsは今後、消費者の支持を得て拡大していくことができるのであろうか。正直Colorsはできたばかりであり、どうなるのかはわからない。ただ、彼らの説明を聞いた範囲では、考え方はアスレジャー市場における自社のポジショニングの論理と同じロジックでできていることはわかる。アスレジャーをベーシックカジュアルに置き換えて、機能性(反対をファッション志向)と価格を軸にポジショニングすれば、ユニクロに匹敵する機能性を持ちながらより低価格に設定、ファッション性志向のしまむらとも違う場所にといった設定で、そこそこかっこ悪くない機能性の高いベーシックカジュアルというスペースがあると考えたのであろう。


■「機能性の差」を消費者に伝えられるか


実際、店に行ってみたのだが、大半の商品に何らかの機能性がアピールされており、価格は少なくともユニクロより安く設定されている。全く個人の感想だが、下着類でも千円以上、なかには数千円のものもあるユニクロの機能性商品の価格設定は高いと感じており、Colorsの機能性が確かならそのコスパは買いかもしれない、と思ったのである。


つまりは、ベーシックカジュアルにおける機能性の差を、Colors商品が消費者に体感させることができるかに、その成否はかかっている。最近、「ワークマンの機能性○○が品切れ!」的なWEB記事を見かけることも多いのだが、ワークマンが露出を積極化しているのであろう。Colorsの評価は今年度を過ぎて、来期以降の既存店売上動向でリピ買いが確認できるかどうか、ということになるだろう。


そしてもう一つだけ触れておきたいのが、ワークマンが機能性で競うユニクロとワークマン加盟店の店舗立地が違うこともポイントになるだろう。元々は地方のロードサイドに単独店を出して大きくなったユニクロではあるが、グローバルチェーンとなった今では、ショッピングセンター内店舗が大半であり、ワークマン加盟店の大半が立地している地方、郊外のロードサイドにはあまりない。ワークマンは立地面でもうまくズラしてポジショニングしている。


理屈の上では、スペースを見出したワークマンが思惑通りに新業態を成功させることができるか、答えは来期までの宿題ということである。


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中井 彰人(なかい・あきひと)
流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部を経て、nakaja lab代表取締役。執筆、講演活動を中心に、ベンチャー支援、地方活性化支援なども手掛ける。著書『図解即戦力 小売業界』(技術評論社)。東洋経済オンラインアワード2023ニューウエーヴ賞受賞。
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(流通アナリスト 中井 彰人)

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