この時代にトヨタGR86、スバルBRZが新登場する意味

4月6日(火)6時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)

 なんとも自動車産業はカバーする事業領域が幅広いものだ。

 トヨタ自動車とスバルが2021年4月5日にオンラインで開催した、小型スポーツカー「GR86」(ジーアール・ハチロク)と「BRZ」の発表イベントを見ながら、改めてそう感じだ。

 イベントは両社から、事業を取りまとめる役員のほかエンジニアや実験部門関係者などが参加して、アクリル板を立ててのトークショー形式で行われた。

 登壇者の話の中で、カーボンニュートラル、SDGs(持続可能な開発目標)、ESG投資(環境・社会性・ガバナンスを考慮した投資手法)、CASE(コネクテッド/自動運転/シェアリングなどの新サービス/電動化)といった“旬”のキーワードはまったく出てこなかった。

 その代わり、ドライバーの気持ち良さ、ボディスタイリングのカッコ良さ、シート裏地などインテリアへのこだわりなどに話題を絞り、「86(ハチロク)とBRZのファンの皆さんが笑顔になってくれることを目指した」という言葉のとおり、ピンポイントのユーザー層に向けたメッセージをトヨタとスバルは送り続けた。

 また、両社の開発プロセスにおける裏話を披露して“内輪ネタ”で盛り上がる場面も目についた。ファンは、そうした開発関係者の素顔に触れることで、トヨタとスバルへの親近感と忠誠心を一層高めることになるのだろう。


トヨタとスバルが共有する意識

 筆者はこのトークショーを見ていて、昨今の自動車産業界で取り沙汰されている「100年に一度の自動車産業大変革期」という自動車メーカーの大義名分との矛盾を感じずにいられなかった。

 トークショーを通じてトヨタとスバルが一貫して強調したのは、「いいクルマをつくろう」という、量産車開発の原点回帰に対する意識の共有だ。

 ここで2社の協業について振り返ってみよう。最初の協業は2007年。スバルの米インディアナ工場、SIA(スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ)の一部を使った北米市場向けカムリの製造だった。その後、初代「86/BRZ」の開発が始まり、2012年3月16日に富士重工業(当時)の群馬製作所で両モデルのラインオフ式が実施された。

 スバルの常務執行役員でCTO(最高技術責任者)の藤貫哲郎氏によると、「その後、プラグインハイブリッドでトヨタの電動システムを使うことがあったが、そのほかで主だった共同プロジェクトはなかった」という。だが2019年、豊田章男社長と中村知美社長のトップ会談により、両社は業務資本提携で合意する。両社長は「CASE時代においても『走る愉しさ』を追い求め、これまでのトヨタやスバルを超える、もっといいクルマ作りを目指す」と強調した。

 その結果「大きく風が変わった」と、トヨタ・ガズー・レーシングのプレジデント、佐藤恒治氏は指摘する。それまではお互いの間に(意識の)壁があり、遠慮があった。それが、本音で意見をぶつけ合えるようになり、良い意味でケンカができる間柄になったという。

 そうした中、新型「GR86/BRZ」は開発の終盤になり、試作車のステアリングを握った豊田章男社長から「良いクルマだが、これが本当に『GR』なのか?」という事実上のダメ出しをくらい、結果的にGR86はサスペンションのスプリングを変更するなどして、BRZとは違う走り味となったという(先代の86とBRZは外装・内装の違いはあるが基本設計は同じだった)。

「GR」とは、トヨタが2017年から展開しているモータースポーツブランドだ。WRC(世界ラリー選手権)参戦車のベース車両として開発された「GRヤリス」は2019年の発売当初からスポーツカーファンの間で高い人気を博した。GRはスバルのモータースポーツブランド「STI」(スバル・テクニカ・インターナショナル)を参考とした豊田社長自らの発案である。それだけに豊田社長はGR86の「GRらしさ」について妥協を許さなかったのだといえる。

 そうした開発過程を経て量産される2モデル対して、今回のトークショー登壇者から「赤い走りと、青い走り」というフレーズが出た。赤がイメージカラーのGR86はドライバーに「どんどんイケイケ」という気持ちを芽生えさせ、一方のスバルブルーのBRZはドライバーが仕掛けていけば懐深く答えてくれるイメージだという。


なぜ86とBRZを存続させるのか?

 今回実施された約1時間のオンライントークショーを振り返ると、まさにトヨタとスバルが2019年発表の資本業務提携で示した「CASE時代にあっても走りの楽しさを追求する」という両社の事業戦略を具体的に表現した内容だった。

 なぜそうなったのかと言えば、小型スポーツファンという固定顧客がいることはもとより、それが自動車メーカーにとって自然体であるからだと思う。

 筆者はこれまで自動車メーカー各社の様々な職種の人と接してきたが、トヨタやスバルに限らず、自動車メーカーに従事する多くの人たちは、基本的にクルマ好きである。GR86やBRZのようなスポーツカーを自ら運転することが好きで、またその楽しさをユーザーに届けたいという思いを抱いている。だからこそ自動車メーカーに就職した、という人がとても多いという印象を持っている。

 彼らの本音としては、昨今急激に進む「CASEシフト」に対して、今なお違和感があるのではないだろうか。自動車メーカーからモビリティカンパニーへの転換を目指して会社のトップが旗振りをする中、CASEという新しい分野へ自らの気持ちを適合させようと努力している人が大勢いる。

 そうした中で、直接自分がプロジェクトに関与しないにしても、GR86やBRZのような「分かりやすいクルマづくり」が社内に存在することが、自動車メーカー関係者の「心の拠り所」になっているようにも感じられる。

 むろん、CASEへの対応に自然体で望むことができる電子・電気系開発部門の社員もいる。CASE対応を進めるために中途採用された社員も最近は増えている。だが、彼らは現時点ではまだ社内では少数派だ。CASEシフトが進む過渡期である今、トヨタとスバルの経営陣にとって、GR86とBRZには社内の意思統一を図る効果が十分に見込めるということなのではないだろうか。

 結果的にGR86とBRZは、自動車産業の変革期の象徴だといえるかもしれない。

筆者:桃田 健史

JBpress

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