米テスラ 「速い」「安い」「物珍しい」新型車で日本攻略へ

4月6日(土)7時0分 NEWSポストセブン

テスラの新型SUV「モデルY」とイーロン・マスクCEO(AFP=時事通信フォト)

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 アメリカの電気自動車(EV)メーカー「テスラ」といえば、米のプレミアム車市場でメルセデス・ベンツやBMWも凌ぎトップに君臨しているが、日本では車体の大きさや価格の高さから一部の富裕層にしか売れていない。果たして今後、日本で存在感を高めることができるのか。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏がレポートする。


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 EV専業メーカーとして名を馳せたアメリカのテスラモーターズの日本法人、テスラジャパンは今夏、EVの新商品「モデル3」を日本に導入する。


 全幅1.85mと、モデル3が属するプレミアムミッドサイズとしては標準的な寸法で、大型サルーンの「モデルS」、大型SUVの「モデルX」など、全幅2m近くに達していた既存のモデルと比較すると、日本への適合性ははるかに高い。テスラジャパンのセールスダイレクターは「モデル3の発売を機に、日本市場に本格的に切り込みたい」と、意欲を示した。


 そのテスラのラインナップに、さらに新しいモデルが加わることになった。3月14日に本国アメリカでプレビューされたSUVタイプのEV「モデルY」である。


 モデル3に近い寸法の、テスラとしてはコンパクトなボディながら、ハイルーフにしたことでその中に3列7座のシートを配置することを可能にした。価格は3万9000ドル(448.5万円/1ドル115円換算)からと、ガソリン車のプレミアムミッドサイズSUVと同等に設定している。


 これまで日本で販売されてきたテスラ車は大型サルーンの「モデルS」と大型SUVの「モデルX」の2車種のみ。全幅2m近いアメリカンサイズのボディで価格も高い。ディーラーが東京、愛知、大阪、そして昨年加わった神奈川の4拠点しかないことと相まって、販売台数は少数にとどまっているものとみられる。モデル3とモデルYがテスラジャパンにとって、販売を一気に拡大させるための期待の星と言うべき商品であることは間違いないだろう。


 果たしてモデル3、将来登場するモデルYは、テスラの思惑どおりに売れるのか──。


 まずは一番肝心の商品力だが、この点については大いに期待が持てる。テスラ車は世界の各市場において高級車、いわゆるプレミアムセグメントに区分されているが、そのジャンルで顧客からとりわけ強く要求されるのは性能と革新性だ。


 EVは一般に、石油依存からの脱却を可能にするエコカーと考えられている。もちろんテスラが金看板にしているのも脱石油だ。が、創業当時からテスラの経営を仕切ってきたイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)は一貫して、EVの特性をめいっぱい付加価値に生かすクルマづくりを志向してきた。加速力の良さを追求する場合、EVのほうがエンジン車よりコスト安ですむというものだ。


 市販車第1号としてオープンスポーツ「ロードスター」を売価10万ドルで発売した頃は、宣伝のために半分冗談で作ったに過ぎず、大きなムーブメントになることはないと多くの自動車業界関係者がみていた。


 ところが、大型セダンのモデルSで静止状態から60mph(96km/h)まで加速させるのに4秒もかからないというパフォーマンスを実現させた頃から風向きが変わり始めた。


 現在、EV熱がことさら高まっているジャンルは高級車、スポーツカーだ。各国の環境規制をクリアするにはEVを作ることがマストということはもちろんあるが、それ以上に、EVをやらなければ性能でテスラに負けるだけだということが市販車で示されてしまったことが大きい。現在、モデルSで最も速いモデルは0-60mph加速を2.3秒でこなす。これに対抗可能なエンジン車は、何十万ドルもするハイパースポーツだけだ。


 モデル3、モデルYはモデルSに比べると価格が安く、ボディも小さいのだが、並みいるエンジン車を置き去りにする加速性能という特質はモデルSと同様、しっかり持っている。


 ラージクラスを作り続けてきたテスラにとって、モデル3は初代「ロードスター」を除くと初めてのミッドサイズモデルだが、特質を見ると他のEVと異なるテスラ独特のものがある。


 まずは動力性能。テスラはクルマの電動化による脱石油を金看板としているが、単なるエコカーを作るつもりはないメーカーだ。EVはバッテリーコストが高いため、価格はどうしても高くなる。環境性能云々ではなく、EVならではの特質でその価格をユーザーに受け入れてもらおうというのが、第1号市販車のロードスター以来、一貫して取ってきた市場戦略である。


 モデル3のトップグレード「パフォーマンス」の0-60mph加速タイムは3.2秒。モデルSに比べると遅いように見えるかもしれないが、実はこれで500馬力超級のハイパワーモデルと同等の数値である。それでいて価格は5万8000ドル(667万円/1ドル115円換算)。テスラ車は性能比では安いという文法は生きているのだ。


 モデルYもモデル3と同じく、遅いクルマは作らないというテスラの文法が守られている。最も速いモデルの0-96km/h加速の公称値はモデル3のコンマ2秒落ちの3.5秒。量販SUVで最速級のパフォーマンスと言える数値である。バッテリー出力が一番小さい標準型でも同5.9秒と、ハイパフォーマンスカーの閾値とされる6秒アンダーを達成している。価格は3万9000ドル(448.5万円/1ドル115円換算)だ。


 動力性能と並ぶもうひとつの特徴はクルマの新奇性である。モデル3、モデルYはステアリングやダッシュボード上にメーターがなく、スイッチ類も方向指示器などごく一部を除き、設けられていない。


 スピードをはじめとする情報はすべてセンターコンソール上部に設置されたタブレット型の15インチ液晶ディスプレイに表示される。エアコン、オーディオ、ナビゲーション、運転支援システムなど車両設定や装備品の操作の大半をタッチパネルで行うのだ。


 現時点ではテストドライブが可能なモデル3がまだ日本にやってきていないため、あくまで静止状態からの推察だが、情報表示やクルマの操作を液晶で行うのは、いささかやりすぎの感がある。とくにスピードをはじめ車両情報を確認するには視線の移動量が大きすぎ、わき見運転になるのではないかと思ったほどだ。


 おそらく既存の自動車メーカーの開発者も、同じように思うことだろう。が、テスラにはそういうこだわりは希薄だ。法規的に問題がなければ、何でもパネルで操作するというIT機器的な発想を、良くも悪くも遠慮なくクルマに盛り込んでくる。


 今までのクルマにないモデル3の“新味”はそれだけではない。同じ全長のエンジン車に比べて断然広い室内空間を持っていたり、熱線吸収ガラスを使用したグラストップが全車標準装備であったり。また、充電時はプラグの手元のタッチ式スイッチを触ればクルマの急速充電口が電動でシュッと開いたりするといった演出も。


 この動力性能の過剰性と、今までのクルマの常識からおよそかけ離れた独特の雰囲気作りが生むクールさは、少なくともプレミアムセグメントユーザーに対してはそれなりの吸引力を発揮するであろう。とくにターゲットとなりそうなのは、もともとクルマに乗るのは好きだが既存の高級車には飽きがきているという複数所有の高所得者層。テスラの根拠地カリフォルニアでも、ちょうどそういう売れ方をしている。


 そんなテスラの逆風になりそうなのは、EV特有の不便さだ。


 テスラ車は航続距離が非常に長いのが特徴で、日本で販売が予定されている最も低スペックのモデル3「ミッドレンジ」でも、計測条件の厳しいアメリカの基準で260マイル(418km)も走る。これは今年発売された日産自動車のEV「リーフ」の航続距離延長型「e+」の239マイル(384km)を上回る数値だ。日本、欧州で使われ始めた新燃費計測法WLTCならもっと大きな数値になるだろう。長距離型「ロングレンジ」は航続にさらに余裕があり、310マイル(498km)だ。


 そんなモデル3も、ひとたびバッテリーの電力残が少なくなれば、他のEVと同じく充電に手間がかかることになる。超急速充電が可能な独自規格の充電器「テスラチャージャー」は数が少なく、日本の急速充電規格であるチャデモ準拠の充電器を、アタッチメントを介して使うシーンが多くなるだろう。


 日本の急速充電器は全般的にスピードが遅く、高出力タイプでも出力44kW程度。充電ロスを1割と見立てた場合、泣いても笑っても30分の充電量は最大でも20kWh程度にとどまるのだ。出力の高い次世代充電器の配備は徐々に始まっているが、テスラのような大容量バッテリー車に対してはそれでも性能は十分ではない。


 日本の場合、電力会社の規制の影響で高出力チャージャーの運用コストが従来の急速充電器に比べて格段に高くなるのもネックで、設置のペースは従来の急速充電器より格段に遅くなる公算が高い。現在、EV普及のネックとなっている長距離ドライブ時の利便性の低さは、モデル3やモデルYも他のEVと変わるところはないのだ。


 また、日本は世界のなかでも都市部への人口集中度が高く、一軒家の比率が低いため、自宅で充電できないというユーザーが多いのも、販売面では逆風となる。都市部では複数所有の割合も低く、「何台かあるうちの1台はEVでいい」というカリフォルニアのような売れ方もあまり期待できない。


 それでも販売が停滞し、販売されるクルマもコンサバティブなものばかりになりつつある日本の自動車マーケットにおいて、コンパクトテスラの登場は一服のカンフル剤になることだろう。アメリカのEV販売ではまさしく“一人勝ち”だったテスラが日本で旋風を巻き起こせるかどうか、大いに注目したいところだ。


●撮影/井元康一郎(テスラ3)

NEWSポストセブン

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