なぜか「本の同じページ」を何度も読みたがる…落合陽一の母がやっていた「記憶力がアップする」読み聞かせ
2025年4月7日(月)10時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco
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■算数が苦手な親でも大丈夫
私も含めて文系の人間にとっては、算数や数学は苦手という方が多いようです。私立文系を目指すクラスでは、受験科目でない数学の授業が途中からなくなることもあり、なかには数Iで終わる学校もあるようです。
でも、基本的な計算は仕事の上でも生活する上でも身につけないと支障をきたします。また、当然ながら、コンピュータやAIなどデジタル技術が支配する領域が広がっていますので、より数学の素養が求められます。
では、どうしたら算数が好きな子に育つでしょうか?
横浜国立大学名誉教授の根上生也先生は、算数・数学が好きになる条件として、次の3つを挙げていました※1。
①保護者の数学観を押しつけない
②自分で判断することに自信を持たせる
③解答の速さを求めない
そのために、親は子どもの判断を尊重してあげること、子どもが親にお願いしたいときは理由を言わせることが大事だということです。
お菓子の数を数えたり、画用紙に○を書いたり、子どもにとっては、そのすべてが算数の基礎です。それをいかに伸ばすかは、親の接し方一つです。嫌がるものを押しつけたり、答えを急かしては、算数嫌いになってしまいます。
※1:ベネッセ教育情報サイト「算数・数学好きの子どもを育てるには【前編】【後編】」(2014年3月)
■子どもにとっては、「電卓」もおもちゃ
もしお子さんがまだ小さいのであれば、早いうちから数に親しむのがよいのではないかと思います。
陽一は1歳半を過ぎた頃には、1から10までの数字で計算する方法を覚えていました。これは経理の仕事をしていた私の母のおかげです。
私が仕事を続けていたこともあり、陽一の日中の面倒を母が見ていました。陽一をそばにおいて仕事をしていた母は、陽一に電卓をおもちゃ代わりに与えていたようです。
電卓の使い方を教え、足し算や引き算などの四則演算の問題を出すと、陽一は電卓を使って答えを出します。遊びながら数字や計算に親しむことで、自然と算数の基本を身につけたようです。小さい頃は楽しそうにずっと電卓で遊んでいました。
2歳からは私の高校時代の友人の紹介で、渋谷の公文の教室に土曜日に通わせていました。
息子には公文のやり方があっていたようです。
公文はその子の理解度に合わせた教材に取り組ませて、問題を解く楽しさを実感させ、ほめることでまた次も挑戦させるというモチベーションを保つ勉強法を実践しています。子どもは楽しみながら、次々と問題を解いていくことで国語と算数などの力がついていきます。
時間内に「何ページできた!」という達成感がありますし、また、それを成し遂げたことでほめられると有頂天になり、子どもは一層励むようになるのです。
■焦らず自然に楽しめるペースを見つける
陽一は幼児の頃から電卓で数字遊びをしていて算数は得意だったので、公文の先生から毎回ほめられます。ほめられることで一層数字や算数が好きになりました。結局小学校3年生まで公文に通いました。これも、陽一の学びの基礎を身につけるためにはよかったと思います。
ただし急ぐ必要はないでしょう。
お子さんによっては、親がそばにいないことで不安になり泣いてしまう子もいます。それでは、楽しむどころか逆効果になってしまうかもしれませんので、お子さんが楽しんで通えるようになってからで十分だと思います。
ちなみに、公文には、勉強をさせたいと思う親が集まっていました。皆さん、遊びにいくような感じで、勉強をする楽しさを身につけることが重要だという認識をお持ちでした。また、そんな家庭のお子さんばかりが周囲にいるので、私が強制せずとも、自然と勉強できる環境をつくれたことも、陽一にとってはよかったと思います。
小さいうちに楽しく数字にふれることができたことは、その後の学習はもちろん、今、息子が専門としているデジタルアートにもつながっているように思います。当時はまったくそうした意識はなかったのですが、陽一の将来の役に立ったのであれば、よかったのだと実感します。
■読み聞かせは「繰り返し読む」
小さな子どもに本の読み聞かせをする親御さんは多いと思います。絵本や少年少女向けの物語などを読んでもらうことは、子どもにとってワクワクする時間です。
陽一が小さい頃も、寝る前に必ず読み聞かせをしました。
我が家では、読み聞かせの方法が少し変わっていました。普通なら1冊の本を最初から少しずつ読んで、最後まで読んだら次の本という読み方をすると思います。
でも、我が家では、本の同じところを何回も読む、という読み方をしていました。
「もう1回読んで。もっと聞きたい」という陽一のリクエストで、本当に同じ本の同じぺージを何回も読み聞かせました。「今日は10ページ読むね」と言って読み始め、翌日も同じところを10ページ読みました。5回くらい読んだところで、陽一が「もう覚えたからいい」と言って、次に進むのです。
たまに「今読んだところを、陽君がお話ししてくれる?」と言うと、得意になって何も見ないでしゃべり始めます。文章をそのまま繰り返すのには驚きました。何度も聞くことで耳から入った文章が、しっかり頭に定着したのでしょう。今思えば、読み聞かせが記憶の訓練にもなっていたように思います。さらに同じ文章を繰り返すことで、そこに何が書かれているか、その意味を深く考えるようになったと思います。
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg
■何度も聞くと語彙力が身につく理由
記憶に関する法則で「エビングハウスの忘却曲線」というのがあります。
記憶は1回覚えただけでは、すぐに忘れてしまいます。エビングハウス教授の行なった実験によると、一度覚えても1時間後には平均して56%忘れてしまいます。さらに1日経つと74%も忘れたというのです。つまり、覚えたら忘れる前に復習するということを繰り返すことで、記憶として定着するということです。
この実験は博士1人が行なったことと、前後の脈絡のない文字の配列を覚えるという設定だったので、記憶に定着しにくかったということが指摘されています。でも、繰り返し聞いて覚えることは、記憶を定着させるにあたり大切なことだと思います。
また、京都府立大学で、幼児期の本の読み聞かせの効果として「同じ本を繰り返し読む」か「毎回違う本を読む」かで、認知能力の発達にどんな違いが出るかについての博士論文がありました※2。
研究では「同じ本を繰り返し読む」ことが語彙力を増やすことにつながる可能性があるという結果が得られたのだそうです。
もちろん、ある程度の年になったら、幅広いジャンルの本をたくさん読むことも意味のあることです。でも幼児の頃は1冊でも2冊でも、本人が気に入った本を何回も読んだほうが、記憶に残り感性を刺激するような気がします。
もちろん、「お話の先を知りたいから、次を読んで」と子どもにせがまれたら、先を読んでください。その子にとっては、ストーリーの行方を知ることが、ワクワクすることなのですから。
※2:雨越康子「幼児期における絵本の読み聞かせと認知能力との関連─ワーキングメモリと語彙力に関する検討─」京都府立大学(2021年6月)科学的子育てのヒント 可能性を見つけるための体験
■落合家はどんな本を読ませていた?
我が家では、読んであげる本は、近所の本屋さんで見つけました。
落合陽一、落合ひろみ『「好き」を一生の「強み」に変える育て方』(サンマーク出版)
陽一が小さい頃は童話が好きでした。数は多くはありませんが、日本人であればほとんどの方が知っているような童話は大体読み聞かせをしました。
ここでは幼時から小学生時代の読書に関するエピソードをいくつかご紹介します。
・子どもの想像力を豊かにした『ガリバー旅行記』
世界のいろいろな国の話や、外国人のエピソードなどを織り込みながら『ガリバー旅行記』の読み聞かせをしたせいか、陽一の頭が混乱したのかもしれません。
「ガリバーがやってきたのは、日本だったんじゃないかな」と突然言い出しました。
背が高い大きな体のオランダ人が昔に来ていたのだから、この物語は日本にやってきた体の大きな外国人の話だと得意そうに言います。子どもの想像力の豊かさが面白く、私は笑って聞いていました。
・映画をきっかけに読んだ『フォレスト・ガンプ』
小学2年生のときだったと思いますが、陽一から『フォレスト・ガンプ』という映画を観に連れていってほしいとせがまれました。私はどんな映画か知らなかったのですが、テレビで紹介されていたのを見たのかもしれません。映画を一緒に観て、その帰りに原作本を買って毎晩読み聞かせました。自分と同じくらいの年齢の少年時代から始まる作品だったので、気に入ったのでしょう。
・将来につながった⁉『五体不満足』
小学校4年生か5年生の頃、乙武洋匡(ひろただ)さんの『五体不満足』(講談社)という本がベストセラーになり、買ってほしいと言われたので買いました。読み終わると、「これ読んだら」と私に本を貸してくれました。
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落合 陽一(おちあい・よういち)
筑波大学准教授、メディアアーティスト
筑波大学でメディア芸術を学び、2015年東京大学大学院学際情報学府にて博士(学際情報学)取得。現在、メディアアーティスト・筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター長/図書館情報メディア系准教授・ピクシーダストテクノロジーズ(株)CEO。応用物理、計算機科学を専門とし、研究論文は難関国際会議Siggraphなどに複数採択される。令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰、若手科学者賞を受賞。内閣府、厚労省、経産省の委員、2025年大阪・関西万博のプロデューサーとして活躍中。計算機と自然の融合を目指すデジタルネイチャー(計算機自然)を提唱し、コンピュータと非コンピュータリソースが親和することで再構築される新しい自然環境の実現や社会実装に向けた技術開発などに貢献することを目指す。
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落合 ひろみ(おちあい・ひろみ)
東京生まれ。共立女子大学卒業後、外資系航空会社に入社。秘書業務を経て、ニューヨークを拠点とする別の外資系航空会社に転職し、CAとして勤務。その後、大手代理店と契約し、ロサンゼルスを拠点に、エルトン・ジョンのNYフリーコンサートの放送権やABBAのロンドン公演中継の契約、Queenのロックフェスティバル中継など数々の音楽番組を手掛ける。テレビ番組制作会社を設立し、映画『ラッコ物語』(東宝配給)やTBSのドラマ、音楽番組を制作。後にクラシック音楽に特化した制作を展開し、小澤征爾、パバロッティやドミンゴ等の世界中継番組を制作。現在は日米婦人会の活動に注力し、国際交流を推進している。
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(筑波大学准教授、メディアアーティスト 落合 陽一、落合 ひろみ)