「めんどくさい職場の飲み会」はチャンスである…ブッダが説いた「人間関係を良好に保つ言葉遣い」の鍛え方
2024年4月8日(月)10時15分 プレジデント社
写真=iStock.com/taka4332
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■飲み会は嫌いではないが、苦手なものが多い
私は昔からお酒を飲まない。いや飲めない。別に僧侶だからとカッコつけているわけでもなくお酒が好きじゃないし、飲むと身体が苦しくなってしまう。
どれぐらい飲めないかというと、ビールを3口啜ったら終わり。頭はガンガン、心臓バクバク、それが過ぎると眠くて立っても座ってもいられなくなる。
そしてタバコのニオイも苦手だ。お酒の席では、タバコの匂いがもれなくセットで付いてくる。だれかがタバコを吸い始めると、口元を拭くふりをしておしぼりで鼻と口を覆ったり、トイレに頻繁に行ってその場の空気からできるだけ逃れなければ、苦しくなってしまう。
だから、飲めないお酒を無理やり飲まされたり、集まるメンバーの多くがタバコを吸う飲み会への参加は乗り気がしない。
けれども飲み会自体は嫌いではない。むしろ皆がおバカをやって楽しそうに交流している宴会も好きだし、仕事中には知り得ないお互いの意外な面が見れたり、立場を越えて深く交流できる飲み会は有意義だとも思う。
■飲みニケーションについては賛否拮抗
そんな職場の飲み会だが、近年は頻度が減ってきて、コロナ以降も減少傾向にあるという。
2023年12月、株式会社ワークポートが発表した「飲みニケーション」についてのアンケート(全国のビジネスパーソン20代〜40代の男女621人が対象)がある。
その結果によれば、
・コロナが明けても忘年会を行なわない職場が5割
・「職場飲み会」の1カ月の平均頻度は「0回」が最多
また、「飲みにケーション」が必要かどうかと言うアンケートに対しては、必要派が50.9% 不必要派は49.1%とほぼ半々。
ワークポート「飲みニケーションについて」調査結果より
飲みニケーションは「必要」と回答した人にその理由やメリットを尋ねたところ、「普段は話す機会がない人とも話すことができるから」とか「他部署・他職種の事情などが知れるから」など、業務ではあまり接点がない相手と交流できる点をメリットとする意見が中心だった。
一方、「不要」と回答した人からは、「出費が増えるし、貴重な自分の時間がなくなるから」とか「仕事の話や仕事上の人間関係構築は就業時間中にすればいいと思うから」など、仕事上のコミュニケーションにプライベートな時間やお金を使いたくない、仕事中にすべきとする意見がとくに多く挙がったという。
■「年上の後輩」「年下の先輩」が悩みの種に
飲みニケーションを不要と考える人の意見からは、職場の人間関係を「仕事上に限定したい」という気持ちが垣間見える。つまり、「仕事だから仕方なくコミュニケーションを取ってはいるものの、仕事の時間外ではできるだけ職場の人と関わりたくない」ということ。
特に「年上の後輩」や「年下の先輩」に対しては、職場ではまだ割り切って関わることができるものの、距離がグッと近くなる飲み会においては、変に気を遣ってしまうため、疲れてしまうのだろう。
私の場合、学生時代から続けてきた空手や、会社関係、お寺の檀家総代、僧侶同士の付き合いなど、さまざまな分野でさまざまな関わりがあったため、飲み会に誘われることも多かった。
それらの関係の中には当然、年上の後輩、年下の先輩も当たり前のようにいて、若い頃は、彼らとどう付き合ったらいいのか、が分からなかった。
さらに今でこそ、無理にお酒を勧める人は減ったと思うが、一昔前は、年上の先輩が注いでくれようとしたお酒を断ろうものなら、あからさまに残念そうな顔をする人が少なくなかった。
さらには「形だけでいいから」とお願いされたり、「先輩に勧められたら、飲めなくても飲むんだよ!」と憤る人までいた。
■「歴戦の兵たち」から学んだスキル
それでも前述の通り、私はお酒とタバコは苦手であっても、飲みニケーションやコミュニケーション自体は苦手ではない。
その理由は、若いときに多岐にわたる飲み会の場に放り込まれたことで、私が最も苦手としていた相手に対しても、巧みにコミュニケーションをとってみせる先輩たちの話術や振る舞いを間近に見せてもらったからだ。
酔っ払って延々と絡んでくる先輩、普段は無口なのに、お酒が入ると饒舌になる人、普段は控え目で大人しいのに、お酒が入ると急に店員さんに横柄になる人……。
それらの面倒くさい人々に対しても、冷静に、飄々と応対する。
飲みニケーションの場において、そんな巧みな先輩たちに学ぶことは多かった。
■理性を失った人に対する立ち居振い
ブッダは、人々に不飲酒戒(ふおんじゅかい)という戒めを説いた。
ブッダは、人々にできるだけ「怒りを離れるように」説いた。
その理由は、お酒も怒りも、度を過ぎれば理性を失うから。
理性を失った人間は、普段どれだけ穏やかそうな人であっても、言ってはいけないことを言ってはいけない場で言ったり、やってはいけないことを、やってはいけないタイミングでやってしまったりする。
だから、飲み会で身体にお酒が入って理性を失う人への対応と、普段の仕事で心に怒りが起こって理性を失う人への対応は似ている。
完璧でない人間が、完璧でない人間の間で仕事をしていれば、失敗したり、齟齬があったりして、苛立った人から怒りやクレームをぶつけられたりすることがある。
好き嫌いのある人間が、好き嫌いのある人間の間で仕事をしていれば、苦手な人、生理的に受け入れられない人とも関わらなければならないこともある。
そんな時、「どう自分を保ち、立ち居振る舞うか」。
それを飲みニケーションの場で、学ぶことができるのだ。
写真=iStock.com/XiXinXing
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■ブッダは「言葉巧み」であるよう努めていた
人間の苦悩の大半は、人間関係の悩みだ。それはいつの時代も変わらない。
だからこそ、人間関係を気持ちよく保つためには、コミュニケーション力が大切である。
ブッダは弟子達に、「言葉巧み」であることを奨励した。
ブッダ自身が、できるだけ分かりやすい言葉を使い、相手の能力や立場によって巧みに人々を教え導いた。
そんなブッダが説かれた、世俗の人々が守るべき十の戒め(十善戒)というものがある。そのうち、実に4つが言葉に関わるものだ。
一、嘘いつわりを言うなかれ(不妄語 ふもうご)
二、ふざけたことばを言うなかれ(不綺語 ふきご)
三、悪口を言うなかれ(不悪口 ふあっく)
四、人と人を仲たがいさせるようなことを言うなかれ(不両舌 ふりょうぜつ)
これらに気をつけて、人間関係を良好に保つ言葉遣いのことを、仏教では「正語(しょうご)」と呼ぶ。
■簡単なようで難しい「正しく聞いて、正しく話す」
正しい言葉で、正しく話す。それが正語だ。
正しく話すには、正しく聞く必要がある。
正しく聞いて、正しく話す。
これがコミュニケーションで気を付けるべきポイントだ。
一見簡単なようで、これほど難しいことはない。
なぜなら、多くの人が自分の話は聞いてほしいけれど、人の話は聞きたくないし、相手には分かりやすく話してほしいけれど、自分はそれほど言葉巧みには話せないからだ。
けれども、難しいからこそ練習が必要だし、また練習する価値が大いにある。
なぜなら、仕事でも家庭でも、人間関係の質が人生の質を決めるからだ。
職場の飲み会という、好き嫌いを超えて職場の仲間達とコミュニケーションをとる機会が減り、自分の好きな人、楽に付き合える人との関わりだけを選んで過ごせる昨今。
本気で仕事のパフォーマンスをあげていきたいのなら、人が苦手、コミュニケーションの苦手な人こそ、コミュニケーションで気を付けるポイントを意識して、自分から聞く力、話す力を磨いていく必要があるだろう。
正しく聞いて、正しく話す。
正しく聞くことができてはじめて、正しく話すことができるのだ。
写真=iStock.com/khianey
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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え 一問一答公式』(飛鳥新社)。最新刊は『自分という壁』(アスコム)。
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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)