東京電力PGがデジタル技術で取り組む2つの変革

4月9日(火)6時0分 JBpress

 東京電力グループの中で、託送事業(送電線網を使って電気を送る)を担うのが東京電力パワーグリッド(東電PG)だ。人口減少、自由化、発電の分散化などの環境変化に対して、デジタル技術を使ってどのように取り組もうとしているのか。同社副社長CIO兼IoT担当の三野治紀氏に、デジタル分野における経営陣コミュニティ「CDO Club Japan」理事の鍋島勢理氏が聞いた。(JBpress)

——御社はデジタル変革の潮流をどのように見ておられますか。

 この流れは止められません。デジタルトランスフォーメーションが進むと業界の垣根がなくなっていきます。デジタル変革を止めてしまうと、ディスラプターによって自らの事業の機会をなくすことになってしまいます。


チャンスと捉え、自ら進める

 弊社としては、座して変革の渦に巻き込まれるのではなく、これをチャンスと捉えて自らデジタルトランスフォーメーションを進めていこうと考えています。

 2016年に東京電力グループが分社化した際に、CIO(Chief Information Officer)とIoT担当を置きました。IoT担当というのはCDO(Chief Digital Officer)に相当すると思います。同年8月には業務変革、デジタル化の推進、ITシステム開発の3つを一体的に推進するため、部門横断的な組織として「技術・業務革新推進室」を作りました。

——具体的にはどのようなことに取り組まれていますか。

 デジタル技術を使って大きく2つのことを成し遂げようとしています。一つは業務効率化、生産性倍増の取り組みです。もう一つは、データの利活用を含めて、新たな事業を創出して企業価値を高めていくことです。

 デジタル技術による業務効率化の具体例をいくつかご紹介しましょう。まずは設備の工事や点検などを行う部門に導入したウェアラブルカメラ映像配信システムです。

 現場ではウェアラブルカメラをヘルメットに装着した作業者が作業を行い、同時に映像を支社などへ送ります。音声の双方向通話も可能です。モニタリング側のパソコンからズームや画質の制御もできます。従来複数人が現場へ赴く必要がありましたが、これで少人数での作業が可能になりました。現在600台以上のウェアラブルカメラを約200拠点で活用しています。

 送電線の点検作業も大きな手間がかかります。とくに山間部など保守作業員が容易に確認できない場所では、ヘリコプターで撮影したVTRを作業員がスローモーション再生で点検しています。この点検作業をAI(人工知能)が行う架空送電線診断システムを、AI技術を持つテクノスデータサイエンス・エンジニアリングと共同開発しました。異常検知の高度化と、点検作業時間の50%以上の短縮を目指しています。また、今後点検作業にはドローンの導入も検討しています。

 3つめは約1300カ所ある変電所の設備保全です。NTTデータと共同で変電設備異常診断ソリューションを開発し、2019年度から導入していきます。これは、変電設備データを学習させた画像・映像解析AIによって、変圧器の漏油検知、建物異常検知、アナログメーターの自動読み取りを行うものです。また、異音検知AIを活用し、ベアリングなどの損傷や劣化を判別・検知します。これによって、変電設備の巡視にかかる時間の50%以上削減を目指しています。

——もう一方のデータの利活用の取り組みはどのようなものですか。


データを掛け合わせて分析する

 一つの例が、2018年11月に、NTTデータと設立した「グリッドデータバンク・ラボ有限責任事業組合」です。弊社が持つ電力データと異業種のデータを掛け合わせて分析することで、社会課題の解決や新たなビジネス価値の創出を目指しています。

 活用分野は2つ大きくあります。一つは自治体さま向けの防災や見守りのような公共性のあるサービスです。例えば、統計処理したスマートメーターデータと地図データを組み合わせることで、河川が氾濫したときの時間帯別最短避難経路を表示することなどが考えられます。

 一方、現在30社ほどある会員企業がお持ちのデータと弊社のデータを掛け合わせて新たな付加価値を作り出すことも行います。リアルタイムの統計データを使うことで店舗出店計画の最適化につなげるなどのサービスが想定されています。

 ラボはまだ組合組織で、収益を目指す時期ではありません。ただ、2、3年先をメドにいくつかのものを事業化する予定です。2026年には弊社のメインである託送事業(送電線網を使って電気を送る)以外の新たな事業で1000億円の売上を上げることを目標にしています。

 弊社の事業は電気事業法で定められているので、データを活用する際にも法整備などの動向を踏まえる必要があります。また、個人データに関しては個人情報の保護に十分に留意する必要があります。このようなことも考慮しながら、将来を見据えてさまざまな活動をしています。

——このような新しいことをやろうとすると、社内の意識改革も必要だったのではありませんか?

 おっしゃるとおりです。弊社はこれまでどちらかというと自社内で事業をやっていくというカルチャーでしたが、それだとどうしても時間がかかる傾向があります。


スタートアップ企業とアライアンスを組む

 たとえば、宅内に設置したセンサーから得られる電力量などのデータをIoTプラットフォームで提供するエナジーゲートウェイという会社を2018年2月に設立しましたが、そのときはエネルギーIT分野のスタートアップ企業とアライアンスを組みました。

 また、社内で業務効率化を進めるときには、PoC(概念実証)を回すことを習慣づけました。実証実験を行い2、3カ月で継続するかどうかの結論を出すという形で、意思決定を速くする形に変えました。

——技術・業務革新推進室を作ったのもその一環でしょうか。

 それ以前から、デザインシンキングやPoCは手掛けていましたが、この組織を作ることによって、デジタル化の横串を通すことができるようになったのが大きいです。それまで各部署の縦割りだったものを、横の連携ができるようにしたのです。

 技術・業務革新推進室はいろいろな部門が入り交じって、組織のゆらぎができるところが興味深いです。今までの仕事のやり方と違うものが必要ですから。

 設立当初は、カルチャーを大きく変えたいと思ったので、役員の私が直接指示できるように室長になりました。昨年に2代目の室長に交代しましたが。

——三野さんご自身はそういう新しいカルチャーになじみがあったのでしょうか。

 私は東京電力のメインである「電気」とは異なる、通信分野を主に経験してきました。日本自然エネルギーという子会社の社長もやっていたりします。配電、営業、新規事業とかさまざまなことを経験したので、1人の中でダイバーシティができているようなものです。

 このような業務経歴は、私の年代では珍しいほうですが、最近は増えています。とくに2016年の分社化ごろからそのような経験の多様化が加速した感じがあります。

——事業のデジタル変革を行うに際して、外部の人材を採用されたりしていますか。

 私は事業開発の担当もしていますが、その部署では結構中途採用したメンバーがいます。他の企業とアライアンスを組むことが増えているので法務分野の人材とか、未知の業界のビジネス経験がある人材とかです。


業務を知らないと課題を見つけられない

 ただし、デジタル化はコアとなる部分であり、人材は内製化しておかないといけないと思っています。なぜかというと、データを分析するにしても、会社の業務を知らないと、何が課題なのか、何を変革すればいいのかがわからないからです。業務を知っていて変革課題を見つけるためにデータを分析できる、そのような人材を育てたいと考えています。

 現在、そういう人材は数十人ぐらいですが、2023年までに数百人のレベルまで増やす計画です。もちろん当面は、事業開発ではスタートアップ企業とのアライアンスを行い、社内案件では外部の方にアドバイザーとして参加してもらう、という形をとることが多いでしょう。IT子会社のテプコシステムズがデータサイエンティストの研修を行っているので、これも利用します。

 技術・業務革新推進室のような全社横断的な組織には、データ分析などの手法を身に付けた人材を置いて、必要に応じてそれぞれの部門に応援にいくという体制を作りたいと思っています。また、それぞれの部門でもデータサイエンティストを養成し、データ分析をやってもらうつもりです。

——御社の将来像というのはどのように見ていらっしゃいますか。

 弊社の電気事業の将来を考えるうえでのキーワードは「5つのD」です。それは、人口減少(Depopulation)、脱炭素化(De-carbonization)、分散化(Decentralization)、自由化(Deregulation)、デジタル化(Digitalization)です。

 たとえば太陽光発電は脱炭素化の要素の一つですが、さまざまな場所で発電されるので分散化の要素でもあります。もし、太陽光発電と蓄電池を組み合わせ、EV(電気自動車)の充電設備を作るとなると、弊社のグリッド(送電線網)を経由しなくなります。

 弊社の電気事業は、基本的にライセンス事業なので、直接的な意味での競合はありません。しかし、今まで競合と思っていない人たち、つまりディスラプターが現れる可能性があります。したがって、ディスラプターが現れそうな領域は、われわれが先回りしてやろうということで、いろいろチャレンジしています。

 先ほどお話ししたグリッドデータバンク・ラボもその一環です。今後は人口減少に伴って、グリッド(送電線網)自体の事業は縮小していくでしょう。したがって、その上に構築されるサービスを提供していく必要があります。さまざまな企業などとアライアンスを組みながら、データを活用して新たな付加価値を作り出していこうとしているところです。

筆者:鍋島 勢理(CDO Club Japan)

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