日本一儲かっている信用金庫の「ウルトラC事業支援」

4月10日(火)8時30分 Forbes JAPAN

預貸率82.73%、不良債権比率1.32%、利益は業界トップ105億円。「カネを貸さない金融機関」の風潮とは正反対。地域経済の底上げに成功した信金があった!

東京の表参道にある西武信用金庫・原宿支店。業務用の自転車に乗った菊村光が、ペダルを漕いで、最新のファッションや流行に彩られた街を進む。

信金マンが自転車で移動するというと、たいていは顧客を次々と訪ねて預金を集める姿を思い浮かべるのではないであろうか。

だが、菊村の仕事はそうではない。

主要な顧客である中小企業の経営者の訪問は3社から4社ほどに絞り、預金を集めることもしない。資金繰りや融資にとどまらず、製造、販売、労務といった経営にまつわるあらゆる悩みや課題について、専門家を紹介して、相談に乗る。

現在、西武信金では「お客さま支援センター」というキャッチフレーズを標榜し、顧客の抱える課題を解決する力を「商品」と定義づけている。事業支援、街づくり支援、資産形成・管理支援が3つの柱で、29歳の菊村は客の支援を行う「事業コーディネート」担当である。

このお客様支援センターこそ、西武信金が預貸率82.73%、貸出残高は(信金)業界トップの年間1970億円という業績を挙げるうえでの立役者となっている。

スピード重視の「応需期日」

東京・南青山のマンションの一室で、iPhoneケースの製造販売を一人で始めた青年がいた。西岡宏星─。彼は、売り上げが急速に伸びているのに経営というものに知識がなく、外注や海外に生産拠点をつくりたくとも資金の工面の仕方もわからないでいた。創業2年目の2014年、オフィスに近い西武信金・原宿支店に相談の電話をかけた。応対したのが入庫4年目の菊村であった。

若い女性の好む「カワイイ」というキーワードに照準を当て、手ずから商品づくりを始めた西岡は、勤務先の化粧品問屋を辞め、ワンダーラインという会社を2013年に設立していた。

西岡は、西武信金の営業エリアである東京・昭島に生まれ育ち、その店舗や看板に親しみがあった。会社を始めるにあたっては、洗練されたイメージのあるところを拠点としなければと考え、南青山にある月額4万円のレンタルオフィスを借り、1日3時間睡眠で、毎日100個のオリジナルiPhoneケースを生産していた。

孤軍奮闘する事業から脱し、海外で委託生産する体制に乗り出したいと決意したとき、西岡が頼ったのは、敷居の高そうなメガバンクではなく、幼いころから名前をよく知る西武信金であった。

後日、3年分の事業計画書を携えて、西岡は菊村を訪ねた。3週間程度で1500万円の融資が決まる。以後、支店長をはじめ、上司や同僚を紹介された。しかし、ワンダーラインを訪問する際、菊村が上司を伴ってきたことは一度もない。それだけの権限や決裁権を持っているということである。

西武信金には「応需期日」という独特の用語がある。顧客の需要すなわち要望に、素早く応えることを重視するものである。1か月での返答を求められたら3週間で、融資の可否を1週間で求められれば4日、5日で応える。融資枠を設定している顧客に対しては翌日に融資する。とにかくスピードを重要視している。その結果、他の金融機関より少しばかり金利が高い場合でも、顧客は西武信金を頼る。

事業が拡大発展すれば、取引は深まり、融資額が増える。同時に預金量も増えるため、西武信金は、別の顧客へ融資できる体力を養うことになる。

1本の電話から広がるスピード感あるビジネスについて、菊村は「お客さまの熱意が私の熱意になり、その熱意が支店長にも伝わります」と静かに笑う。他方、「ただし、われわれにはソリューション(問題解決)能力が充分にはない。専門家をコーディネートする、いわば前さばきの役割です」とも話す。

ワンダーラインは、現在、西岡が構想していたとおり、スマホケース事業だけにとどまらず、ペットケア商品の企画や製造に乗り出している。インターネット販売のみならず、国外からの製品輸入も展開している。海外の事情に詳しく語学にも堪能な専門家を紹介したのも、新宿の伊勢丹にオリジナル商品を置くことができるように仲介の労をとったのも、西武信金なのである。


アレルギーの犬が増加していることもあり、添加物なし、グルテンフリーで産地にこだわった天然素材のフードをしゃれた携帯ケースに入れて販売。ケア商品も品質重視で、日本にはなかった高品質ペット市場を開拓する。

3万人の外部専門家

お客さま支援という事業をスタートさせるのに先んじて、西武信金では、中小企業や個人などを顧客とする地域密着型の金融機関の主要な日課である、集金業務を20年前に廃止している。

1990年代後半の金融危機により、国内でも生保や証券会社が次々と経営破綻した。「大倒産時代」と呼ばれたこのとき、最も打撃を受けたのが、信金の融資対象である下請けの中小企業である。

自転車に乗って預金集めに腐心しているうちに地殻変動が起き、新興国の台頭などによって、下請けの中小企業は見る間に中国企業などにとって代わられていった。昔ながらの人海戦術に見切りをつけることは、業界の非常識とされたが、むしろ西武信金の独自性を発揮する端緒となっていった。

一連の取り組みについて、理事長の落合寛司は「非価格競争力」を高めることが目的であると強調する一方、信金としての「生き残り策」でもあったと率直に認める。

少子高齢化と人口減により、国内の産業力の低下は避けられない。とりわけ、中小企業の衰退は火を見るよりも明らかなことであった。融資先である中小企業の不良債権が増えれば、それを主たる顧客とする西武信金の経営をただちに脅かす。そうした兆しを見越して、顧客である中小企業を活性化させるべく、コンサルティング業務を担うお客さま支援を打ち出した。

しかし、当初から軌道に乗ったわけではない。顧客の課題解決を自分たちだけで実現しようと前のめりになり過ぎていた。

そこで、外部に専門の知識や経験、ノウハウを求めた。上場企業の元経営者や著名大学の教授、プロとして第一線で活躍するコンサルタントや弁護士、公認会計士、税理士などである。めざしたのは、至れり尽くせり、の対応である。いまや、3万人の外部専門家と連携しており、金融庁がリレーションシップ・バンキングの事業モデルとして推奨する存在となっている。

無料で専門家のコンサルティングを

お客さま支援センターの仕組みは至ってシンプルである。西武信金と取引のある顧客が融資以外での高度な助言や相談を求めてきた際、それに応えられる専門家を紹介する。

3万人の専門家と連携しているが、それでも応えられそうもない難題であれば、「支店内、本部内、さらに伝手をたどってとにかく誰か適任者はいないか、と周りに大声を上げて探します」と、自ら中小企業診断士の資格を持つ法人推進部・推進役の鈴木優輝は笑う。

顧客は、無料でその外部の専門家に相談できる。原則として時間の制約はない。

1つの案件に対して3回までは西武信金側が専門家への謝金を負担する。つまり、最大3回まで無料で専門家の高度なコンサルティングを受けることができる。さらに相談を重ねたいのなら、個別に契約を取り交わすことになる。

相談には、西武信金の職員が原則として立ち会う。菊村のいう「ソリューション能力」は、こうした現場でのカウンセリングやコンサルティングに立ち合うことで確実に鍛えられ、養われている。一般的な金融マンとは比較にならぬ経験と知識、人的広がりを持つことになる。

横浜や渋谷で事業展開する経営コンサルティング会社、コンサラートの社長、覚張和寿は、西武信金のお客さま支援センターに、初期からかかわっている。

ほぼ全員が中小企業診断士の資格を持ち、ITや知的財産権、貿易実務、食品衛生など、より専門的な能力を持つ実務に通じたコンサルタントを、西武信金の顧客の相談内容に応じて派遣している。自ら数々の案件に携わってきている覚張は、「中小企業は創業者精神がなければやっていけない。だからこそ、現場経験があり資格や専門分野を持つ私たちが協力したい」と語る。

「基本的に、売り上げの根拠=単価×客数。この原則をご存じない経営者も少なくありません。さらにコストは原価、外注費、労務費と分化している。まずは、相手の話をじっくりと伺う。大事なのは中小企業を支援したいというハートを持っているということです」

技術経営士の会という組織もかわっている。この会は、東証一部上場企業で代表取締役を務めた経営者や大学教授、中央官公庁で事務次官級の職位を歴任した人物をはじめ、著名なメンバー120人以上が顔をそろえる技術同友会の下で、技術と経営の支援をすることを目的に結成されたものである。

旭化成の社長やオリンパスの社外取締役で取締役会議長を歴任した蛭田史郎は、化学に通じ、マネジメントにも技術にも長けたプロフェッショナル経営者である。

蛭田は、「必ずしも中小企業だけでなく大企業の経営者にもいえることですが」と前置きして、「おおむね共通の課題が2つある」と指摘する。

「過去の成功体験から脱却できないこと。これは経営する企業規模の大小を問いません。環境変化を直視することができない、意識しない。第二点として、自社の事業のマーケットについて意外と知らないこと。製造業であるなら、下請けに甘んじてしまって、自社製品の最終顧客の情報を知らないままでいることが多い。だから、マーケットが将来どう動くかがわからない」

いい製品をつくっていればいいのだという自意識と慢心につながりやすく、ものづくりに徹するあまり、エンドユーザーの真のニーズを知らずに下請けのままで終わってしまう。環境変化にも取り残される。

「技術=ものづくり、とは必ずしもいえません。いま急速に広まっているIoTも、技術だけでなく、サービスを含めて進化している」

功成り名を遂げ、第一線を退きつつあるマネジメントのプロたちは、報酬を第一の目的とはせずに経営支援をつづけている。

中小企業の経営支援で最も大切なことは何か。そう訊ねると、蛭田は迷いなく答えた。

「現場に行くということですね」

新しい金融をつくっている

業容と組織を変えつづけてきた理事長の落合寛司は、「メガバンクの1万円札も西武信金の1万円札も、同じ1万円の価値でしかない」と、絶妙なたとえで語る。

「西武信金の1万円札だけは1万5000円の価値があるなら、小でも大に勝てる。しかし、そうではないのだから、どうしてもスケールメリットに負けます。西武信金のいちばんの特徴は、大きな変革期にうまく適合できたビジネスモデルをつくりつつあるというところ。いまはまだ進行形です」


2000年に金融機関として日本では初めてビジネスフェアを開催。信金の職員が集金をしなくなった代わりにフェアでつきっきりでマッチングをしていく。出展した企業にとっては販路拡大となり、市場が広がった。

進行形であるなら、近年の上り調子一本の西武信金の業績をどう形容すべきか。

顧客の預金残高は増加の一途である。2010年6月に落合が理事長に就任して以降、6年間の推移を見ても、5499億円増えて1兆8807億円となっている。

より重要なのは顧客に融資している貸出金額の推移で、同じ6年間で6539億円増加し、1兆5703億円となっている。

預金残高のうち、どれくらいを貸出(融資)に回しているかという割合を、預貸率という。この預貸率は、2010年の68.8%から、2015年72.9%、2016年76.1 %、2017年は82.73%と上昇している。

業界平均は下がる一方で50%を切っているから、西武信金のそれは突出している。

では、積極的に融資しているから焦げ付いて回収できなくなる額も高いのではないかというと、そうではない。不良債権比率は年々低下し、2017年は1.32%にまで下げている。したがって貸倒引当率も低い。

大きく預金を集めると同時に、大きく貸し出している。他の信金では貸出を抑えて、海外の株式や債券を買って運用しているところもある。多額の預金残高を誇りながら、預貸率が低い信金も少なくない。企業経営を人体になぞらえれば、血液に相当する金がすっかり失われていることになる。

信用金庫は、資本金9億円以下または従業員300人以下と定義される中小企業にしか融資できず、活動地域も信用金庫法で制限されている。この図式を西武信金に当てはめると、地域の中小企業に融資をしながら経営のサポートもして、彼らの成長によって預金残高を増やし、さらに地域に融資を広げながら回収不能額が極端に低いということになる。地域に根づいた金の循環を実現しているといえる。

豪放磊落を地で行くように快活な落合は、聞く者を巻き込むように語る。

「これまでは業況悪化の取引先を離してしまう金融機関が多かった。しかし本当に取引先を守る金融機関がないから、西武がやる。危ないからといって貸出をやめたらリスク管理ができなくなります。要はリスクを自分たちの中に全部取り込むことによって実はリスク管理ができるようになる」

笑みを絶やさぬまま、広く宣するように、自らに言い含めるように言葉を継いだ。

「新しい金融をつくっている─」

未来の日本を支えゆく中小企業を裏方で手厚く辛抱強く育む役割を担う。

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