今のロボットに必要なのは頭より「手」だ

4月11日(木)9時15分 プレジデント社

実業家の堀江貴文氏(撮影=小学館写真室)

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いまのAI(人工知能)に足りないものはなにか。実業家の堀江貴文氏は「人間そっくりの『手』を開発できれば、AIは大きく進化する。面倒な仕事や家事を丸投げできるようになり、社会構造のあり方を根幹から変えてしまうだろう」と予測する——。

※本稿は、堀江貴文『僕たちはもう働かなくていい』(小学館新書)の一部を再編集したものです。


■AI研究は「身体性」にフェーズが移っている


AIが人間に近い「手」を持ったとき、ディープラーニングの進化は、とてつもない大ジャンプを遂げる──。




実業家の堀江貴文氏(撮影=小学館写真室)

私たちの幼児期を思い出してみれば、明らかだ。世界の情報を得るための一番のツールは、何だっただろう?


言うまでもなく、「手」だ。母親に抱きつく、食欲を満たすために物をつかんで食べる、ケガをしたところを撫でる、文字を学ぶのに鉛筆を持つ、気になったものを拾って見る……生きていくのに大事な知識や、経験を積み重ねていくのに、「手」は欠かせなかった。


「手」を介した無限のインタラクションが、知性を養った。さらに言うなら、「手」のインタラクションで、人は、知性体として成長できたと言えよう。


誤解されてはいけないが、生まれつき「手」がない人は、知性体に劣るという意味ではない。「手」がない人は親や介護者の協力を得て、「額」や「胸」や「足」など、「手」の代用となる器官で、生きていくための情報を蓄積している。「手」そのものが大事というより、知覚・感触によって得られる、身体性を通過したビッグデータが、進化には重要だという話だ。


AI研究は、「身体性」の開発にフェーズが移行しようとしている。ただし開発は容易ではない。例えば、「手」は紙のページをめくる繊細さ、一定の重さのものを傷つけずに運ぶ力加減、熱いものを触ったら引っ込める察知力、かゆいところを丁度いい具合にポリポリと掻くなど、複雑な機能の連動を5本指で処理できる。


■日本は「手」の開発で世界をリードできる


そんな超高性能ツールを人工的につくりだすのは、莫大な予算と人材と施設が必要だ。


そこまで高性能でなくても、世界とのインタラクションをある程度までクリアできる「手」の創造は、いち早く実現させねばならない。


日本のAI研究のトップランナーのひとり、東京大学大学院特任准教授の松尾豊さんによれば、世界中のロボット研究者たちも、「手」の開発に着目しているけれど、進展は鈍いそうだ。特に欧米では宗教的な問題で、人間に寄せた形状のロボットをつくることに、いまでも抵抗があるという。


その点、日本なら問題はない。多くのロボット研究の書物で語られているように、『鉄腕アトム』『サイボーグ009』『ドラえもん』など戦後のSFコミックの浸透で、ロボットへの親和性が世界一高いと言える。


世界のなかでも際だって、ビジネスや生活に、ロボットを立ち入らせることに抵抗が薄い国民性だ。精巧で人間そっくりの「手」を、たやすくロボットにくっつけられると思う。


ビジネス的な観点から見ても、「手」の開発においては、日本が世界のどこよりもリードを取れるチャンスは大きい。


「GAFA(G=グーグル、A=アップル、F=フェイスブック、A=アマゾン)」によって牛耳られたテクノロジーの世界地図を、塗り替えることすらできるかもしれないキーテクノロジーであるはずだ。



■「手づかみ」のデータがAIの進化を後押し


文字どおり手づかみの膨大なデータは、AIの進化を大きく後押しするだろう。


私たちはみんな、生まれたときから、「手」で触り、知識を蓄え、成長してきた。AIを、ヒトへ近づけるというなら、同じ順序の成長を課していかねばいけない。ヒトへの進化に、近道はないのだ。リアルの世界に出て、痛みを得たり「手」を汚したりしなければ、大事なことはつかめない。その真理はビジネスと似ている。


今後、AIをより人間に役立つものにするためには、AIとリアル社会とのインタラクションが何より重要になる。インタラクションをバーチャルな世界で行わせる研究も進んでいるが、リアル社会と行った方が、進化は速いと考えられる。性能が高まるという意味ではなく、人間のやっていること、やりたいことにより近づけるという点においてだ。


その結果、より人間に役立つ「AIロボット」の開発にもつながる。AIの身体性の課題が解決され、研究が進めば、AI自身が進化するだけでなく、身体性を備えたAIロボットの開発も本格的に進むだろう。


■面倒な家事は全部AIロボットに任せたらいい


「手」を自由に使えるロボットが現れたら、本当に便利になる。


家の片づけをしてくれると、すごくありがたい。散らかした後の片づけというのは、人間の作業のなかで、かなりストレス上位にある。料理ロボットや大工ロボットより、片づけロボットの方が、格段に需要は高いだろう。


本を拾って元の本棚に戻したり、脱ぎ散らかした服を畳んでクローゼットにしまったり、食べ残しをゴミ箱に分別して捨てたりするなどの「手作業」は、いまのAIロボットには、まだまだできない。


しかし、こうした面倒な仕事や家事は、人間が一番ロボットに代替させたい仕事だ。需要が高ければ、予算をかけた研究開発が進み、多くの企業も参入していく。開発は急ピッチで進むだろう。


身近な例で言えば、全自動衣類折り畳み機「laundroid(ランドロイド)」が注目を集めている。家事のなかで、洗濯物を畳むことほど面倒なことはない。畳み方なんてすべてパターンだから、ディープラーニングで簡単に解けるし、ロボットの方が人間よりもきれいに早く、衣類を畳める。そういう面倒な家事は、全部AIロボットに任せてしまったらいいのだ。



■経費精算やプレゼン資料の準備も丸投げ


仕事上の「雑務」の丸投げもできる。


経費の精算や、備品の整理に資料の仕分け、大量の書類のはんこ押し、プレゼン資料や会議の下準備……など、面倒だけど、いまは人がやらざるを得ない仕事がオフィスにはゴロゴロある。こうした雑務を、AIロボットがすべて引き受けてくれたら、どれほど楽になるだろう。


極論すれば、開けた扉を閉めるとか、出したものを片づけるぐらいのことは、はっきり言って、誰だってやりたくはないはずだ。そんなものに使われる数秒だって、何十年間も毎日のように積み重ねれば、膨大な自分の時間を失っていることに気づくはずだ。捻出された時間で、もっと自分のやりたいことに没頭したらいい。


「手」の技術開発が追いつかない場合、「片づけハウス」や「片づけオフィス」の登場が先になる場合も考えられるだろう。


最近はさまざまな「AI家電」に加え、「AI住宅」も研究されている。家やオフィス自体がAIロボットとなり、家電や家具、建具などと連動し、あらゆることを自動制御する可能性は十分にある。


■家具や家電が「黙々と仕事をこなす」ように


少し前の話だが、2016年に日産自動車が「手を叩けば自動で定位置に戻る椅子」を開発した。日産が研究している自動運転車の技術を応用して、つくられたものだという。動画ニュースなどで、ご覧になった人もいるだろう。雑然と椅子が並べられた会議室で、その場にいる人が手を叩くと、それぞれの椅子が、スムーズな動きで、元にあった机の下の定位置に戻っていくのだ。


この椅子にどれくらいの需要があるかどうかはさておき、技術的にAIオフィスの研究がどんどん進んでいるということだ。家具や家電は、いずれ人がまったく手を触れることなく、黙々と仕事をこなし、静かに自分で元の位置に戻っていく、非常に利口な道具となりえるだろう。


とにかく、いまAIに大事なのは、「手」なのだ。現在のAIロボットに高性能の「手」が搭載されたら、IT革命やいまのAI革命どころではない、次世代の一大産業革命が起きるのではないか。それは社会構造のあり方や人間の価値観を、根幹から変えてしまう可能性すらあるのではないかと、私は想像している。



■人間のディープラーニングを支えたのは「手」


人の文明は、「手」がつくりあげた。4本の長さの違う指と、少し逆の動きをする親指の連動で、「つかむ」「さわる」「なでる」「しめる」など、膨大な量の知覚情報の収集を可能にした。人のディープラーニングを支えたのは、「手」なのだ。


「手」のおかげで、人は文明を継承できたとも言える。筆記具を持ち、文字を書き残せた。人に近い知能を持つと言われるクジラが、なぜあの姿で進化を止めてしまったのか。「手」がないから、文明を書き残せず、次の世代への継承と、クジラの知性体としての進化の機会を放棄してしまったからだ。


人は「手」の獲得により、ほかの哺乳類に比べ、群を抜いた進化を遂げられた。偶然なのか、何かの遺伝信号なのかはわからないが、二足歩行すると決めた瞬間、人は「手」がフリーになった。そのとき、いまの表現で言うなら、人は知性体としての最初のシンギュラリティを迎えたのだろう。


■AIを搭載した人工臓器が登場するかもしれない


人ほど上手に、自由に「手」を使いこなしている動物は、ほかにいない。「手」によって、進化のジャンプを遂げた。




堀江貴文『僕たちはもう働かなくていい』(小学館新書)

AIが人間社会で、本当の意味で役に立つための成長をするには、人間と同じように「手」を持ち、自由に動き回らなくてはいけない。それは進化論的にも、当然の帰結だ。あらゆるものを手づかみして、あらゆることを学び、私たちのストレスを極限まで減らす、良きパートナーへ育ってほしい。


AIやロボット研究がどこまでも進んでいくと、人間の身体の不具合ができたとき、ロボットのパーツや臓器と取り替え、すぐ健常に戻れる時代が到来するかもしれない。


AIを搭載した人工臓器だ。


レイ・カーツワイルの言う「脳に電極を刺す」だけでなく、脳を入れ替えたり、複雑な交換手術を行ったりすることも可能になるだろう。不具合が起きたから、という理由ではなく、機能の“拡張”のために交換することが当たり前になる時代が来るかもしれない。


私たちはもしかしたら、人間として生まれて、人間のまま死んでいく、最後の世代かもしれない。AIの進化は、そんな生き方や価値観の大転換を、人間に迫ることになるだろう。


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堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)

実業家

1972年、福岡県生まれ。SNS media&consulting株式会社ファウンダー。ライブドア元代表取締役CEO。東京大学在学中の96年に起業。現在は、ロケットエンジン開発やさまざまな事業のプロデュースなど多岐にわたって活動。会員制コミュニケーションサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」や、有料メールマガジン「堀江貴文のブログでは言えない話」も多数の会員を集めている。

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(実業家 堀江 貴文 撮影=小学館写真室)

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