TikTokのAIインフルエンサー、イーデザイン損保のバーチャルコンシェルジュ…AIアバターはどこまで進化しているのか
2025年4月8日(火)4時0分 JBpress
この1、2年で世間の認知が急速に高まり、ビジネスでの活用も進みつつある生成AI。数年前から議論になっていた「AIは人間の仕事を奪うのか」という懸念がついに現実になり始めたともいえる。本稿では、『生成AI・30の論点 2025-2026』(城田真琴著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。前述の懸念への回答と合わせて、生成AI活用によって変貌しつつあるビジネスの在り方から、環境問題への影響まで、多角的な視点で解説していく。
数年前の「メタバース」でも注目を集めたバーチャル空間での新たなコミュニケーションツール「アバター」。生成AIの活用で、さらにどこまで進化しているのか?
AIアバターのビジネス活用は進むか
AIアバターは、AIを活用して人間の姿や声を模倣し、さまざまなタスクを代行するデジタルキャラクターである。これらは、コンピュータグラフィックスで作られた視覚的な表現と自然言語処理技術を組み合わせることで、人間らしい対話や表現を可能にしている。
近年、AI技術の進化によってアバターの外見や動作がよりリアルになり、対話の精度も劇的に向上している。これにより、顧客対応、営業支援、さらにはエンターテインメント分野まで、AIアバターの利用領域が拡大している。
■ AIアバターの技術要素
AIアバターの核となる技術は、以下の通りである。
- 画像生成AI:CGやディープラーニングを用いた画像生成技術により、リアルな人物の外見を作り出す
- 音声合成技術:自然な発話を生成する
- 自然言語処理:ユーザーの入力を理解し、適切な応答を生成する
- モーション生成:自然な動きや表情を作り出す
これらの技術を組み合わせることで、AIアバターは人間らしい振る舞いを実現し、さまざまな場面で活用されている。
近年の生成AI技術の著しい進化によって、従来のシナリオベースの対話モデルから、より柔軟で自然な会話が可能になっている。中でも自然言語処理技術の向上がAIアバターの実用性を一層高めており、リアルタイムでユーザーとのインタラクションを行うことができるようになっている。
■ 海外での活用事例
① ウクライナ外務省のスポークスパーソン
ウクライナ外務省は、AIアバター「Victoria Shi」を利用して、国外在住のウクライナ国民に対して迅速な情報提供を行っている。このAIアバターは2023年に導入され、外務省の公式声明をデジタルな形で伝える役割を持ち、特に緊急時の外務省の対応についてリアルタイムに正確な情報を提供することで、国外在住の国民から信頼を得ている。この取り組みは、AIアバターが政府機関のコミュニケーション手段として活用される可能性を示している。
② インドのAIニュースキャスター
インドでは、AIアバターがニュースキャスターとして導入され始めている。2023年3月にデリーを拠点とするニュースチャネル「India Today」でAIアバター「Sana」が登場し、英語、ヒンディー語、ベンガル語でのニュースと天気予報の配信を実施した。その後、東インドのOdisha TVで「Lisa」、南インドのPower TVで「Soundarya」といったAIニュースキャスターが続々とデビューしている。
これらのAIニュースキャスターは、多言語対応の特性を活かして各地域の言語に対応し、視聴者層の拡大に貢献している。また、テレビ局は人的リソースに依存せず、24時間体制でニュースを配信できるようになった。
AIニュースキャスターの導入は他のアジア諸国にも広がっており、台湾のFTV News、マレーシアのAstro AWANI、インドネシアのtvOneなどでも同様のAIニュースキャスターが導入されている。これらの取り組みは、多言語社会であるアジアにおいて、より広範な視聴者にリーチする手段としてAIアバターが活用されていることを表している。
③ 中国では死者との対話ツールとして導入
中国では、AIアバターが故人との対話ツールとして利用されている。2023年には、Super BrainやSilicon Intelligenceといった企業が、顧客の提供する写真や音声データを基に故人のデジタルアバターを作成するサービスを展開し始めた。これらのアバターは、故人の記憶を残し、遺族が亡き人との絆を感じるための新しい手段として注目を集めている。
価格は急速に低下しており、Super Brainの場合、2023年12月には基本的なアバターの作成に1400〜2800ドル程度かかっていたが、現在では700〜1400ドルまで下がっている。中国ではこの価格低下により、AIアバターの個人利用がより身近なものになりつつある。
④ TikTokのAIインフルエンサー
TikTokは新たなマーケティング手段として、AIアバターによる「バーチャル・インフルエンサー」機能の開発を進めている。これは、広告主やTikTok Shopなどの販売者が生成したスクリプトをAIアバターが読み上げる機能で、広告主は24時間365日、製品のプロモーションを行えるようになる。
TikTokのこの取り組みは、中国版TikTokである「Douyin(ドウイン)」の成功を踏まえたものである。ドウインでは、AIアバターが24時間体制でライブストリームを通じて商品の販売活動を行っており、ブランドが設定したスクリプトを基に商品を紹介し、ユーザーからの質問にもリアルタイムで回答する。毎日数千ドル相当の商品を売り上げるブランドも出ており、中国国内ではすでに大きな成功を収めている。
このケースはAIアバターが単なる商品紹介にとどまらず、消費者とのインタラクションを強化し、よりパーソナライズされた体験の提供が可能であることを示唆している。今後のデジタルマーケティング手段としての新たな可能性を開いたといえるだろう。
■ 日本での活用事例
① 横須賀市の市長アバター
日本でもAIアバターの活用が続々と始まっている。横須賀市は2024年4月に国内の自治体で初めて生成AIを活用した市長アバターを導入し、市の公式YouTubeチャンネルにおいて、市の情報を英語で発信する試みを行っている。この取り組みは、AIアバターが行政サービスの向上と国際化に貢献する可能性を示しており、他の自治体にとっても参考になるだろう。
② イーデザイン損害保険 バーチャルコンシェルジュ
イーデザイン損害保険は2024年1月から3月にかけて、顧客接点の高度化に向けた取り組みの一環として、実在する社員をベースにしたAIアバター「バーチャルコンシェルジュ」を構築し、顧客対応の精度を検証した。
具体的には、カスタマーセンターへの問い合わせが多い自動車保険の車両入替業務をユースケースに、通常の手続きに加えて、「主な運転者が変更になる」といったイレギュラーなケースを含む5種類のシナリオで対話精度や応答速度などを評価した。
検証の結果、人間としての自然な動作、応答速度などに課題は残るものの、将来的には顧客接点として活用できる可能性があると判断し、実用化を目指してさらなる検討を進めるということだ。
<連載ラインアップ>
■第1回Tik TokのAIインフルエンサー、イーデザイン損保のバーチャルコンシェルジュ…AIアバターはどこまで進化しているのか(本稿)
■第2回 OpenAIサム・アルトマンCEOが「キラーファンクション」と評したAIエージェント 果たして人間の代わりになるのか?
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筆者:城田 真琴