"上場企業の6割"に女性役員がいないワケ

4月15日(月)9時15分 プレジデント社

女性役員を増やすには、まず女性管理職を増やす必要がある(写真=iStock.com/metamorworks)

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日本の企業では依然として性差別がまかり通っている。大和総研の調査によると、上場企業の6割には女性役員がいない。同社の菅原佑香研究員は「日本企業はそもそも女性管理職の育成が不十分だ」と指摘する——。

■必要性は認識していても、実効性がともなわない


近年、上場企業における女性活躍の重要性が高まっている。2018年に改定されたコーポレートガバナンス・コードに、取締役会の構成について「ジェンダーや国際性の面を含む多様性」が明記され、同時に金融庁が公表した「投資家と企業の対話ガイドライン」に「取締役として女性が選任されているか」との一文が盛り込まれた。女性活躍、特に女性役員の登用に取り組む企業の姿勢が、資本市場から評価を受ける対象になってきたのである。




女性役員を増やすには、まず女性管理職を増やす必要がある(写真=iStock.com/metamorworks)

こうした社会の流れがある一方、上場企業における女性活躍は道半ばだ。内閣府男女共同参画局の「女性役員情報サイト」によって、有価証券報告書に記載されている上場企業の女性役員数と女性役員比率(2017年4月〜2018年3月期決算)を確認すると、全上場企業3697社のうち、女性役員比率が0%、つまり一人も女性役員がいない企業が全体の6割(2385社)にも上り、いまだ上場企業の大多数で女性役員の登用が進んでいないことがわかる。


女性の活躍を進める必要性を感じない企業にとっては、企業経営に何らかのメリットがなければ、その取り組みは進まないであろう。企業自身はどう考えているのだろうか。


日本生産性本部のアンケート調査によると、女性社員の活躍推進に取り組むことによって企業が得られる効果には、「女性社員の仕事意識が高まる」や「ワーク・ライフ・バランスへの取り組みが進む」「組織風土の変化」「優秀な人材を採用できる」「女性社員の離職率が低下する」「コミュニケーションが活性化する」「取引先など社外からのイメージがアップする」等の回答が多いという(「第8回『コア人材としての女性社員育成に関する調査』結果概要」)。


女性活躍の取り組みは、女性の働き方に影響を与えるだけではなく、組織の活性化や企業のイメージアップ、そのことを通じ企業の命運を左右する優秀な人材の確保など、企業の全体に良好な効果を与えることが期待できると認識されている。


しかし実際には女性の登用は進んでいない。なぜなのか。女性社員の絶対数が少ない業種もまだ多く、各企業の現状を肯定した人材戦略に課題がある。管理職から役員に至るキャリア形成において、そもそも女性管理職の育成が不十分だからではないか。


■女性役員数、女性役員比率もトップは保険業


では、現状で女性役員比率の高い企業はどのような業種なのか。


業種別に見ると、1社あたりの女性役員数が最も多く、女性役員比率が最も高いのは「保険業」である。「保険業」は企業あたりの女性役員数の平均値が1人を超えている唯一の業種だ。


次いで女性役員比率が高いのは、「石油・石炭製品」であり、「小売業」「銀行業」「水産・農林業」「サービス業」と続く。「石油・石炭製品」は製造業の中では最も女性社員比率が低いのだが、その分を社外からの人材で補っている。保険や銀行と同じ金融セクターであるが、「証券、商品先物取引業」は女性役員比率が低い。






製造業の中では「食料品」や「医薬品」は女性役員比率が全業種平均を上回る一方、「パルプ・紙」や「鉄鋼」、「機械」や「金属製品」はかなり低い。一般に、STEM(科学「Science」、技術「Technology」、工学「Engineering」、数学「Math」の4分野)にかかわる業種や職種において、役員に限らず従事している女性が少ないという現実がある。そうした業界では、そもそも企業において指導的な地位に立つ女性の人材プールが小さく、当然の帰結として、女性役員比率が低くなっている可能性が考えられる。


■社外取締役ですら女性を登用していない業種もある


女性役員の構成は、社内人材と社外人材のバランスにおいても業種間で違いが見られる。内閣府の「女性役員登用の閣議決定目標『2020年10%』達成に向けて」(平成29年2月)に、業種ごとの女性社内取締役等(取締役・監査役・執行役)と、女性社外取締役等(取締役・監査役)の状況が示されている。


本稿では社内・社外ともに女性比率が高い企業を①、社内は高いが社外が低い企業を②、社内・社外ともに女性比率が低い企業を③、社外は高いが社内は低い企業を④と分類した(図表2)。





その結果、①には「保険」「空運」「水産」「小売業」「通信」「医薬品」などがプロットされた。女性役員の登用という点で、社外と社内の人材活用のバランスが図られているとみることもできよう。また、②は「サービス」や「不動産」が位置している。①と②については、内部昇進の女性役員が一定程度登用されている。


一方、④に位置する「電力」「石油」「銀行」「鉄道・バス」「輸送用機器」は、女性社内取締役等がいる企業比率が低い、あるいはゼロであるが、女性社外取締役等がいる企業比率が業種平均を上回っている。これらの業種では、女性役員の登用を外部人材の活用によって行っている傾向が強い。今後、一般の従業員や管理職のクラスに占める女性比率をさらに高めることで、内部からの女性役員登用を拡大する余地が大きい業種といえよう。


③に位置する「造船」や「鉄鋼」は、女性社外取締役等がいる企業比率も、女性社内取締役等がいる企業比率も、両方が業種平均を下回っている。これらの業種では、これまでの女性採用比率が低かったことや、役員候補となる女性人材のプールが小さいことなどを背景に、内部昇進による女性役員の登用が少ないと推察される。かといって、外部人材から女性社外取締役等を登用している状況にもなく、ダイバーシティ経営の推進という潮流に乗りきれていないという課題を指摘できる。



■女性比率の高い業種でも、なぜか内部昇進役員がいない


女性の人材プールが大きいため、女性役員が誕生しやすい業種もあれば、人材プールが小さく内部昇進の女性役員は誕生せず、社外からの活用に依存せざるを得ない業種もある。


例えば、女性役員比率の高い「保険」や、「小売」「空運」などの業種では一般労働者に占める女性比率が高い。「石油」は、女性比率が低く内部の人材プールが小さい実態を踏まえ、社外からの人材活用を図ることによって女性役員登用を進めている業種である。製造業のセクターの中では最も女性比率の高い「繊維」では、なぜか内部昇進の女性が誕生していない。こうした業種では、女性の人材確保が行われ人材プールが一定程度あるが、女性社員の育成や活用のプロセスがうまくいっていない可能性がある。


内閣府の調査によると、女性役員比率の低い「パルプ・紙」「鉄鋼」「機械」「ゴム製品」「建設」「精密機器」においては、1社あたりの女性部長の平均人数が2012年から2016年にかけてわずかではあるが増えている(「女性役員登用の閣議決定目標『2020年10%』達成に向けて」平成29年2月)。ただ、そのうち「鉄鋼」「パルプ・紙」「繊維」「ゴム製品」においては1社あたりの女性執行役員の平均人数は増えていない。これらの業種では、部長職等の管理職までの女性登用は進んでいるが、その先の役員登用に壁があるのだろう。


女性役員比率が非常に低い現状からそれを一定水準にまで引き上げていかなければならない過渡期においては、外部人材をうまく活用し、国内外での競争に打ち勝つために独立性のある役員の知恵を経営戦略に取り入れていくやり方も十分にあり得る。しかし、女性役員を積極的に登用し、企業の持続的な成長や企業価値の向上を図るという視点から考えると、内部昇進の女性役員を増やしていくことに企業が真剣に向き合うことが重要である。


■女性管理職の育成が女性役員増加の王道


中長期的に内部昇進の女性役員を増やしていくには、まずは女性従業員一般について、キャリア形成が可能となる配置転換や人材育成を行うことで、女性管理職(課長職や部長職)を着実に増やす必要がある。管理職の女性を企業内で育成していくことが、将来、役員の候補となる女性の人材プールの拡大となる。


女性役員や女性管理職への登用を積極的に行う企業では、企業組織の活性化やイメージアップが図られる可能性があり、中長期的な企業の成長につながることが期待される。ダイバーシティの潮流に乗り遅れずに女性役員の登用を積極的に行うために、業種や各社の現状の違いに応じた、企業の取り組みが求められる。


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菅原 佑香(すがわら・ゆか)

大和総研研究員

2010年大和総研入社。システムエンジニアを経て、2016年よりリサーチ部門に異動し研究員に転向。現在、政策調査部にて、働き方改革や女性活躍を中心とした国の政策や経済の課題に関する調査・研究業務に従事。2019年お茶の水女子大学大学院博士課程修了。博士(社会科学)。専門は、企業の人事・雇用管理や雇用・労働政策、家族政策。

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(大和総研研究員 菅原 佑香 写真=iStock.com)

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