三流は話を遮り、二流はその場だけしのぐ…感情的になり話が噛み合わない部下に一流が繰り出す"切り返し"
2025年4月15日(火)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wipada Wipawin
※本稿は、米澤創一『なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■ビジネスシーンで多発する「噛み合わない会話」
噛み合わない会話の代表例のひとつが、「質問にきちんと答えてくれない」状況です。
質問者「このプロジェクトの今フェーズの終了日は来週金曜日で合っていますか?」
αさん「プロジェクトの進捗状況ですが、先週のミーティングで議論したように、いくつかの課題が浮上しています。特に、データ分析の部分で予想以上に時間がかかっていて、チームメンバーの何人かは残業をしています。それから、クライアントからの追加要望もあって、スコープ(実現する範囲)が少し広がっていますね。ただ、全体的には順調に進んでいると思います」
質問者が投げかけたのは「はい」か「いいえ」、もしくは「わかりません」で答えられる質問です。
「来週金曜日」で合っていれば「はい」ですし、「いいえ」であれば、正しい今フェーズの終了日を併せて答えてあげるほうが親切でしょう。「わかりません」なら、今フェーズの終了日を知っていそうな人を伝えるのもいいかもしれません。
しかし、αさんは、今フェーズの終了日については答えず、そのプロジェクトの進捗状況や課題を話し始めています。会話の内容から、今フェーズの終了日は知っていそうではありますが……。
■質問に答えない人は、なぜ質問に答えないのか
このように、質問にきちんと答えられない人は意外なくらい多く見られます。「はい」「いいえ」で答えられるはずの質問をしても、「はい」「いいえ」で答えず、その質問の周辺の情報について延々と話すのです。
写真=iStock.com/Wipada Wipawin
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延々と話しているうちに、元の質問が何だったかも忘れてしまっていることもたびたびです。その長い話の中に答えはあるのかもしれませんが、質問した人にそれを探させるというのは酷な話です。
本質的な問題は、質問者の意図、本当に知りたいことを認識しないまま、自分の持っている知識をひたすら披露してしまうことです。
αさんのような人は、話題そのものへの興味や知識は豊富で「細部には強い」一方、相手の質問の“意図”や“背景”といった全体像をいったん俯瞰することが苦手なのだと言えます。
つまり、「具体的な情報はたくさん語るが、抽象的に“この質問は何を求めているのか”を捉える意識が薄い」ために、要所を外してしまうわけです。
■適切な回答を引き出す「6つの聞き方」
こういった人を“ダメな奴”と一蹴してしまいたくなるかもしれませんが、それではビジネスは前に進みません。
尋ねる側が「聞き方」を工夫することで、コミュニケーションを“噛み合う”ものにできる可能性が高まります。
具体的な手法としては、
① 質問の目的、意図を明確にする
② 答え方を指定する
③ 質問を分割する(複数の情報について一度に聞かない)
④ 質問の前に前提を確認する(相手が持っている情報や認識を先に確認する)
⑤ 回答を途中で整理し、質問の意図から外れそうになったら軌道修正する
⑥ 時間や条件の制約を設ける
が挙げられます。例えば、
「αさん、現在、○○プロジェクトにかかわっておられますよね(④)。今フェーズの終了タイミングでの部長による確認会議のスケジュール調整のために教えて下さい(①)。今フェーズの終了日は来週金曜日で正しいですか?」
と質問します。もし、それでもαさんが直接的に答えないようなら、
「プロジェクトの進捗状況については別途、時間を取らせてください(⑤)。部長のスケジュールを押さえるために今フェーズの終了日の確認を急いでおり(⑥)、今必要な情報は、今フェーズの終了日が来週金曜日で合っているかどうかです(①)。『合っている』『間違っている』『わからない』の3つからお答えいただけますか?(②)」
と、重ねて聞くのがいいでしょう。
最後の一文のように答え方を3択で指定するのはかなり“荒業”ではありますが、業務上必要な回答を得るためにはやむを得ない場合もあります。
写真=iStock.com/atakan
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■質問を分割して話の脱線を防ぐ
③の「質問を分割する」は、今フェーズの終了日を確認すると同時に、上役が気にしそうな情報(例えば次フェーズ移行に関するリスク)に対する準備ができているかどうかを確認する必要がある場合などに使用できます。
先のような質問を通じて締め切りの回答を得たうえで、
「締め切りは来週金曜日ですね、ありがとうございます。ところで部長が気にされそうな次フェーズ移行に関するリスクをまとめた資料は準備されていますか?」
と、段階を踏んで質問を重ねていきます。
これを一度に尋ねてしまうと、「次フェーズ」「リスク」といった単語に反応して、話が脱線してしまう可能性が高くなります。
■細部に反応して感情を高ぶらせてしまう人
ほかにも、「主題を把握せずに感情的に言いたいことを口にする」というのも、噛み合わない会話の代表例のひとつです。
質問者「新システムの導入で、具体的に業務フローがどう変わるかご意見をお聞かせください」
βさん「新システム導入には絶対に反対です。今のやり方で何の問題もありません。新しいシステムなんて必要ありません。むしろ、現場が混乱するだけです。前の会社でも、新システムの導入で大変な目に遭いました。結局、元のやり方に戻したんですよ。それに、チーム全員がシステムを変えることに不安を感じています。こんな状況で新システムを入れるなんて考えられません。もっと現場の声を聞くべきです」
質問者は新システム導入の判断材料として、業務フローの変化について具体的な意見を求めています。
しかしβさんは、「新システムの導入」という言葉に反応し、質問の本質を理解しないまま、感情的な反対意見を述べ始めています。業務フローの変化という質問の主題からは完全に外れ、自身の経験や感情に基づいた反対意見のみを主張しています
その結果、質問者が必要としている客観的な情報が得られず、建設的な議論が進まなくなってしまいます。
問題は、まだ会話全体(=抽象的な意図や背景)の把握ができていない段階で、目の前に出てきた具体的なキーワードにだけ反応し、感情を高ぶらせてしまうことです。
つまり、βさんのような人は、自分の経験や思い(=具体的な体験や感情)を強く持っている一方で、相手が本当に伝えたいこと(=抽象的な目的・真意)を冷静につかむのが苦手だと言えます。
写真=iStock.com/Nuthawut Somsuk
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■「客観的に教えていただけますか?」
このような人も、ビジネスの現場でよく見かけます。相手が何を判断したいのか、なぜその情報を必要としているのかを理解せず、自分の中にある感情や経験を一方的に話してしまうのです。
この場合も、6つの手法を駆使していきましょう。再掲します。
① 質問の目的、意図を明確にする
② 答え方を指定する
③ 質問を分割する(複数の情報について一度に聞かない)
④ 質問の前に前提を確認する(相手が持っている情報や認識を先に確認する)
⑤ 回答を途中で整理し、質問の意図から外れそうになったら軌道修正する
⑥ 時間や条件の制約を設ける
例えば、
「βさん、新システムについては様々なご意見があることは承知しています(④)。現在は、導入の判断材料を集める段階なので(①)、まずは現状の業務の流れと、新システムでどのように変わる可能性があるのか、客観的に整理させてください。具体的な作業の変更点を教えていただけますか?(③)」
と、相手の感情を受け止めたうえで、客観的な情報を得たいのだということを明確にして尋ねます。もし、それでもβさんが感情的な反対意見に戻ってしまったら、
「システムの変更に対する不安はよく理解できました(⑤)。ただ、今は新システムの導入判断のために必要な情報を集めている段階です(④)。感情的な議論は一旦置いて(①)、現在の3つの主要な業務について、新システムでどのように変わる可能性があるのか、客観的に教えていただけますか?(②)」
と、さらに具体的に聞くのがよいでしょう。
状況や相手の立場、感情に配慮しながら①〜⑥の手法を適切に組み合わせられると、聞いていることにきちんと答えてもらうことができるはずです。
■「噛み合わない会話」は新しい理解への入り口
本稿で挙げた人たちは決して、悪意を持って“噛み合わない会話”をしているわけではありません。
好意で様々な情報を提供してくれようとしている側面もあるでしょうし、βさんであれば自らの職務に対する思いや責任感を強く持っているとも捉えられます。
もし乱暴に話をさえぎったり、呆れたような態度を示したりしてしまえば、根本に好意や親切心があったぶん、そのショックは大きいものになるでしょう。
米澤創一『なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか』(プレジデント社)
ですから、どこでコミュニケーションの齟齬が起きているのかを見極めて、ときには脱線した話題への興味も示しながら対応する必要があります。
また、話が噛み合わない相手に対して、その場では話を聞きはするものの、以降まともに取り合わないという選択肢を取る人もいます。しかし、これも本質的な問題解決にはつながりません。
「噛み合わない会話」は、新しい理解への入口なのです。
相手と自分の違いを発見し、それを埋める努力をする。それができる人は、対話を通じて自分自身を成長させ、他者との関係をより良いものにしていくことができるはずです。
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米澤 創一(よねざわ・そういち)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科特別招聘教授
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM研究科)特別招聘教授。京都大学経済学部卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。日本におけるプロジェクトマネジメントグループ統括、SAPプラットフォーム統括、新人教育責任者、品質保証責任者、グローバルSAP 組織における教育責任者などを歴任。2008年のSDM研究科設立時から教鞭をとり、物事を本質的な問題解決に導くための「本質思考」を用いてプロジェクトマネジメントを教える講義は学生満足度97%(満点の5をつけた割合)と圧倒的な支持を受けている。大学院教員のほか、講演・セミナー活動、プロジェクトマネジメントのコンサルティングなどに従事。一部上場企業での研修実績も多数。著書に『プロジェクトマネジメント的生活のススメ』(日経BP)、『本質思考トレーニング』(日本経済新聞出版)、『なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか』(プレジデント社)がある。
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(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科特別招聘教授 米澤 創一)