トランプ政権が大きな転機、破壊的イノベーションの復調は本物か? キャシー・ウッド氏に聞く先端技術の未来
2025年4月15日(火)10時34分 サーチナ
「破壊的イノベーション(既存の価値を低下させ新しい価値基準を市場にもたらす革新的なアイデアや技術)」という言葉を知らしめた第一人者といえるキャシー・ウッド氏(写真)。
日本においては同社の戦略的パートナーである日興アセットマネジメントが、2016年12月に同社の助言に基づいた運用を行う「グローバル・フィンテック株式ファンド」を設定し、大きな話題を集めた。現在では、「モビリティ・サービス」、「スペース(宇宙)」、「全生物ゲノム」、「メタバース」、「デジタル・トランスフォーメーション」などさまざまな切り口で破壊的イノベーションに投資するファンドが展開されており、同社はこれらのファンドの運用助言を行っている。
2022年以降に「マグニフィセント・セブン(M7)」が市場をけん引し、新興企業であるイノベーション株式への注目度が低下するとともに同社の助言ファンドのパフォーマンスも落ちた。ただ、2024年の後半、トランプ大統領の再任が濃厚になるとともに、イノベーション株式が復調してきた。トランプ政権はイノベーション企業の追い風となるのか? キャシー・ウッド氏(写真)に注目している技術革新や今後の市場見通しについて聞いた。
——ビットコインについて強気の見通しを示しておられますが、ビットコインの何を評価されているのですか?
ビットコインはこれから機関投資家が投資する資産になっていくことで大きく価格が上昇すると考えています。現在は8万3000ドル前後(インタビュー時点)ですが、2030年頃にはベースケースで70万ドル、もっとも強気の見方だと150万ドルになる可能性があります。非常に大きな上昇率と感じるかもしれませんが、2015年当時のビットコインの価格は250ドルでした。それが10年間で8万3000ドルに上昇したのです。
米国で2024年1月にビットコインの現物を裏付け資産とするETF(上場投資信託)が解禁され、米国の取引所で11銘柄の「ビットコイン現物ETF」の取引が始まりました。「ビットコイン現物ETF」への資金流入額は取引初日に40億ドル以上を記録し、これは2004年11月に「ゴールドETF」が上場され最初の1カ月で資金流入した12億ドルをはるかに上回る資金流入額になりました。
ビットコインの価値は「デジタル・ゴールド」と言っても良いと思います。ビットコインの価格上昇を支えるものが希少性です。ゴールド(金)は1年間で1%程度が採掘等によって増えていますが、ビットコインのプログラムでは現在は年0.9%程度が新規に追加され、4年間で半減します。ビットコインの供給は、プログラムで自動的に制御されています。最大の発行枚数は2100万枚で、すでに発行残高は2000万枚に迫っています。デジタルネーティブな若者は希少価値のある資産として金よりもビットコインを好むのではないでしょうか。
——ゴールド(金)の価格は過去最高値を更新し、投資資産としても価値が高まってきています。ビットコインもゴールドと同等の価値を得ておかしくないということですか?
ビットコインはフィンテックの分野で3つの革命を代表しています。まずは、インターネット・ネーティブの決済システムとしての存在です。透明性があり、ピア・ツー・ピアであるためカウンター・パーティー・リスクがないという特性があります。2023年の米国地方銀行危機の際には、ビットコインが真っ先に評価されました。
次に、グローバルな通貨システムとしての価値です。デジタルで、分散化され、ルールに基づいた大きなアイデアになっています。ビットコインには通貨が持っている3つの役割(交換手段、価値の保存手段、計算単位)があるため「通貨」になり得ます。通貨が金の裏付けを必要としていた金本位制を廃止して以来、法定通貨のもとで各国の経済はインフレに悩まされてきましたが、ビットコインがかつての金本位制のように通貨に確かな価値を与える存在になるかもしれません。
そして、新しい資産クラスとしての価値があります。真に新しい資産クラスというのは、不動産と新興市場を除けば1970年以降なかったことです。金融機関など機関投資家は、70年代に不動産投資が始まった頃と同じような状況にあります。まずは、1%程度から投資をはじめ、アセットアロケーションにおけるビットコインの価値を理解するにつれて、投資額を増やしていくステージに進むでしょう。
——その他、新しいテクノロジーの波として注目している技術は?
ロボタクシーのプラットホームは人工知能(AI)の応用分野として最大規模の市場を形成するのではないかと考えます。今後、5年から10年でロボタクシーは8兆ドルから10兆ドルの市場を形成すると考えます。世界経済のGDP(国内総生産)が130兆ドルですから、その規模の大きさがわかると思います。1マイルあたり1ドル〜2ドルでサービスが開始され、スケールメリットを生かして1マイルあたり25セントでも成立するビジネスになり得ます。圧倒的な競争力で大きな市場を獲得するものと期待されます。
また、AIが最も深く応用されるのはヘルスケアの分野だと考えています。ヘルスケアの分野で「マルチオミクス」という技術革新が起きています。ゲノミクス(遺伝子の配列情報)、トランスクリプトミクス(遺伝子の発現量)、プロテオミクス(生体内で合成されるたんぱく質)、メタポロミクス(代謝物)などの複数のオミクス(生体分子に関するデータ)を組み合わせる解析手法です。AIとの連携がないと解析できないのですが、このマルチオミクスによって分子診断や創薬、治癒へのアプローチに大変革が起きています。
人間は37兆個の細胞でできていますが、その1つ1つの細胞を分析するなどということはAIがなければ不可能です。人間のゲノムの配列を解析するコストは20年前には27億ドル必要だったものが、現在では200ドルまで下がりました。これによってマルチオミクスの黄金期がやってきています。
このヘルスケア分野へのAIの応用は、失敗率の引き下げによって膨大なコストカットを実現します。たとえば、創薬においては事前に可能性がない組み合わせを排除することができます。また、国家レベルでも医療費や保険に大きな変化をもたらします。これまでよりずっと早いタイミングで疾患を発見できるようになり、より効果的な治療薬が開発され使われるようになり、ヘルスケアの分野に大変革が起きようとしています。
——トランプ政権は「破壊的イノベーション」について後押しをしてくれますか?
第一次トランプ政権の時に、イノベーションについて透明性の確保を強く求めていたことが印象的でした。テクノロジーが社会をよりよい状態に変えるということには理解があると思いますので、テクノロジー企業の発展を促すような政策が期待できると思います。
——世界的に株式市場が不安定な状態にあります。不安定な株式市場の中で、破壊的イノベーションを起こすような新興企業の株式は浮かび上がれますか?
コロナ前まではイノベーションの発展は順調で、ファンドのパフォーマンスはインデックスを大幅に上回る好調だったのですが、コロナ禍によって経済が停滞し、かつ、インフレによって金利が急速に引き上げられ、加えて、コロナ禍前までの株価上昇によって株価が割高な水準になってしまっていたという3つの逆風によって、コロナ後の市場では厳しい局面も経験しました。特に2022年は大きな下落になりました。今後は、コロナ前のような状態に戻っていくものと期待しています。
2020年以降、市場は少数株式への集中度合いを強めてきました。それは、過去をさかのぼると1929年の世界大恐慌当時に見られた集中投資に匹敵する集中度合いでした。一部の大型株が集中的に物色された後には、それまで物色の圏外にあった株式が優れたパフォーマンスをあげるようになります。実際に、2024年第2四半期には「S&P500」のリターンのほとんどを上位6銘柄の値動きで説明できましたが、第3四半期には上位6銘柄を除く494銘柄の値動きで「S&P500」のリターンを説明できるようになっています。2024年11月の米大統領選挙後は、イノベーション株式に追い風が吹く市場環境になってきました。一極集中が反転し、相対的な割安感が注目される市場に変わりました。引き上げられた米国金利は低下の方向に動き出し、新政権によって規制緩和や減税の可能性があります。これらの数多くの追い風がイノベーション株式を活性化することでしょう。
トランプ大統領の就任後の第1四半期は、不透明感とトランプ大統領の言動によって混乱があり、株価も下落しました。しかし、米国GDPの20%を占める政府部門は現在深刻な不況にあるのです。30年ぶりといえる不況です。無駄を省き、大幅な効率化を実現することによって政府の財政を立て直す必要があります。一時の混乱期を抜けて政府が苦境から立ち直れば、FRB(連邦準備制度理事会)ともども景気刺激策を実行に移す自由度が高まります。現在の株式市場の不安定な状態は3カ月〜6カ月で抜け出し、その後は、イノベーション主導の非常に力強い回復が見込まれると考えています。
——資産形成を目的とした投資家にとって「破壊的イノベーション」をテーマとしたファンドは大きな期待をもって投資するものの、2022年〜23年のような低迷期には大きく失望してしまい投資をやめてしまうこともあると思います。このテーマに取り組んでいる運用者として、投資家に対して、どのような心持で取り組めば成功するのか、アドバイスをお願いします。
先端のテクノロジー企業に投資すると価格変動率の大きな動きに直面します。中長期的な視点で投資していただくことが重要です。短期間の成績に左右されない姿勢が大切なのです。私たちは前例のない技術的融合の時代に生きています。イノベーションが加速する中で、投資家のみなさんはこの変化の波に乗り、進行中の大きな変革を活用することが不可欠であると考えます。私たちは、今こそ投資のタイミングであると考えています。破壊的イノベーションに関連する潜在的な指数関数的成長の機会を逃がさないでいただきたいと思います。