老練・二階幹事長、「五輪中止」発言の狙い

4月17日(土)7時0分 JBpress

(舛添 要一:国際政治学者)

 新型コロナウイルスの感染が全国で急拡大し、とくに大阪では医療崩壊状態となっている。政府の分科会の尾身茂会長は、やっと第4波の到来を認めたが、菅義偉首相は、4月14日の参議院本会議で「現時点で、全国的な大きなうねりとまではなっていないと考えている」と答弁している。

 この日の全国のコロナ感染者4312人であり、列島各地で感染が急拡大していることは確かであり、この答弁は適切ではない。因みに、翌15日には、4571人に増えている。答弁は、厚労官僚が書いたものであろうが、官邸の側近でチェックする機能が無ければ、このような無責任な言葉となってしまう。

 私が厚労大臣のときも、不適切な答弁案が用意されることがあったが、国会開会前に点検し、修正させたものである。たとえば、予算委員会は朝9時に始まるが、7時から役人を集めて、答弁案を逐一チェックしたものである。当時の民主党所属だった長妻昭議員などは直前に質問を持ってくるので、午後1時から委員会が再開する前の昼食時間に答弁案点検を行うことが日常茶飯事であった。

 最近の国会答弁を見ていると、政治家も官僚も質が劣化してしまったという感を強くする。


菅内閣の支持率、薄氷の上の「横ばい」

 しかし、そのような菅内閣の支持率は、微増か、横ばいである。

 共同通信世論調査(10〜12日)では、内閣支持率44.0(+1.9)%、不支持率36.1(−5.4)%、NHK世論調査(9〜11日)では、内閣支持率44(+4)%、不支持率38(+1)%、朝日新聞世論調査(10、11日)では、内閣支持率40(±0)%、不支持率39(±0)%である。

 しかし、政府のコロナ対策やワクチン接種計画については批判が多い。

 共同通信では、政府のコロナ対応について、「評価する」が35.9(−0.6)%、「評価しない」56.5(±0)%、ワクチン接種の進捗について、「不満を感じている」が60.3%、「不満は感じていない」は36.5%である。

 NHKでは、政府のコロナ対策を「評価する」が44%、「評価しない」が53%である。

 朝日新聞では、政府のコロナ対策について、「評価する」が29(−6)%、評価しないが61(+10)%。

 ワクチンに関して、英米やイスラエルの取り組みを見ると、日本は大幅に遅れている。これでは国民が不満を持つのは当然である。

 ただ、菅政権のコロナ対策には不満であっても、野党が不甲斐ない。だから、消極的に内閣を支持しているようである。

 先の世論調査でも、菅内閣を支持する理由として、共同通信では「ほかに適当な人がいない」が51.0%、NHKでは「他の内閣より良さそうだから」が43%、朝日新聞では「他よりよさそう」が54%と圧倒的に多く、支持しない理由としては一番多いのは、共同通信で「首相に指導力がない」が33.3%、NHKで「政策に期待が持てないから」と「実行力がないから」が35%、朝日新聞で「政策の面」が58%である。

 政党支持率では、自民党が、共同通信で42.6(+4.3)%、NHKで37.4(+1.8)%、朝日新聞で35(+2)%、立憲民主党が、共同通信で9.9(+2.2)%、NHKで6.3(+1.8)%、朝日新聞で6(+1)%、無党派が、共同通信で28.7(−6.9)%、NHKで39.7(−0.4)%、朝日新聞で43(−3)%となっている。

 つまり、無党派が自民党支持層にはなるが、野党支持になることはあまりない。野党が無党派を取り込むことができないかぎり、政権獲得は「夢のまた夢」ということなのである。

 これまでの世論調査を見ても、内閣支持率はコロナ感染者の増減に比例する形で推移しており、今後、事態がさらに深刻になれば、支持率の急低下ということも十分にありうるのである。


ワクチンで「日常」が戻ってきた英米イスラエル

 さらに、ワクチン接種がG7の中で最も遅れており、4月12日から高齢者への接種が始まったが、医療関係者すらまだ接種が終わっておらず、高齢者用のワクチンを医療関係者に渡さねばならないような状況である。ワクチンの生産が需要に追いついておらず、世界でワクチンの争奪戦が始まっている。

 そのような中で、副反応に血栓症が出現するということで、接種に年齢制限を課す国が増えているが、デンマークはアストラゼネカのワクチンを採用しないことを決めている。日本は、ファイザー、モデルナと共に、アストラゼネカに供給を頼っており、このような副反応問題もまた供給を遅らせることに繋がりかねない。

 前回のコラム(「英国はワクチン接種で感染者激減、なのに日本は」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/64871)で、イギリスに比べてなぜ日本でワクチンの開発や接種が遅れているかを説明したが、イギリスでパブを含め、多くの店が営業再開をした4月12日に、わが日本では、大阪府、兵庫県、宮城県に加えて、東京都、京都府、沖縄県にまん延防止等重点措置が適用されるという事態となってしまったのである。また、20日からは、重点措置適用が千葉、神奈川、埼玉、愛知の4県にも拡大される。

 日本で感染者数が4000人を超えた14日、イギリスでは感染者は2491人にとどまっている。まさにワクチン接種効果であり、ワクチン接種のおかげで、3月末までに1万400人が死なずに済んだという。

 イギリスやアメリカ、そしてイスラエルなど海外の成功例は、毎日のように現地からの映像とともに日本の茶の間に届けられている。レストランやパブで飲食をしながら談笑し、日常が戻っている状況を見せつけられると、国民の不満はさらに高まってしまう。

 田村憲久厚労大臣、西村康稔大臣に加え、河野太郎大臣をワクチン担当に起用したことで大きな成果が上がっているとは思えない。コロナ担当大臣が3人もいる国は、海外ではありえず、まさに「船頭多くして船山に上る」である。大臣を2人にした安倍政権の失敗を反省せずに、3人目まで作った菅政権の責任は重い。厚労省の官僚も、地方自治体も、戦力や資金を増やしてくれるわけでもないので、士気が上がるはずはない。


五輪開催に諸外国も懐疑の目

 ワクチン接種で苦労する自治体はまた、聖火リレーでも負担を強いられている。観衆が集まり、コロナ感染の危険性が高まることから、各自治体は様々な工夫をし、大阪府は公道での実施を止め、愛媛県は全て取りやめることにした。さらには、自治体の財政負担も、東京都が44億円、福島県は2億円、青森県が4億円、宮城県が4億8000万円、千葉県が5億7000万円、神奈川県が5億6000万円、静岡県が5億9000万円と多額に上っている。

 東京五輪まで100日を切っている。日本でイギリス並みにワクチン接種が進んでいれば、胸を張って「絶対開催」と言えるのだろうが、現実はそうではない。イギリスでは人口の半分以上が接種を完了しているのに対して、日本はまだ人口の1%である。しかも、首都東京にまん延防止等重点措置が適用される状態とあって、英紙ガーディアンも米紙ニューヨーク・タイムズも五輪開催に大きな疑問符をつける記事を掲載した。

 今後も感染者数が増えることが予想されるが、その際には、関西も首都圏も再度の緊急事態宣言を余儀なくされるであろう。東京五輪開催に反対する海外の声はさらに高まっていくであろう。


二階氏「五輪中止」発言の裏の計算

 そのような中で、自民党の二階俊博幹事長が、15日に、民放の番組収録で、東京五輪について、「これ以上とても無理だということだったら、これはもうスパッとやめなきゃいけない」と述べて波紋を呼んでいる。自民党の政治家、都庁関係者、スポンサー企業(マスコミもそうだ)、テレビの司会者などにとって、「中止」の「ち」でも言うことはできないようになっている。

 今の日本で最大のタブーが、この東京五輪中止論である。森喜朗元総理が組織委会長の座から引きずり下ろされたので、二階幹事長はもう遠慮する必要がなくなった。幹事長の職責は選挙に勝つことである。菅内閣のように五輪強行論だけで突き進み、開催して万が一感染が拡大することがあれば、政権は大きな打撃を受け、選挙にも逆風となる。そこで、中止の選択肢を残すことを明言することで、五輪と選挙とのリンクを切り外したのである。老練な政治家である。

 コロナ感染が危機的状況に陥りつつある中で、菅首相は訪米し、バイデン米大統領との首脳会談に臨む。最大のテーマは、中国問題であり、台湾への軍事的圧力を強めているが、日米で共同して台湾を防衛する姿勢を示せば、中国は猛反発するであろう。

 また、菅首相は東京五輪開催へのアメリカの支持を取り付けたい意向であるが、日本でのコロナ感染の拡大、ワクチン接種の遅れ、二階発言などを考慮すると、バイデン大統領がどのような発言するかは微妙である。

 そもそも、このように感染が爆発的に拡大するときに訪米すること自体が、政権にとって追い風とはならないであろう。とくに感染力の強い変異株が列島を席巻しつつある。変異ウイルスの感染拡大は、4月13日までの1週間で、全国で1525人が感染、東京319人、神奈川63人、大阪273人、京都76人、兵庫28人といった状況である。

 東大チームの試算によると、東京で感染力1.5倍の変異株が感染急拡大の場合、5月に1日の感染者が1400人超に、損害は3兆7600億円になる。緩やかな拡大の場合は、5月に1000人を超え、年末にピークで、2兆円超の損失という。つまり、感染防止策こそが最高の経済対策だということなのである。

 問題は、東京をはじめ検査数が少ないことだ。実際には、もっと市中感染が進んでいると思われる。甘く見てはならない。

筆者:舛添 要一

JBpress

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