なぜIT長者には「哲学好き」が多いのか

4月17日(火)9時15分 プレジデント社

スティーブ・ジョブズのほか、決済サービス「ペイパル」創業者のピーター・ティールも哲学科出身。(時事通信フォト=写真)

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子供を「上流ロード」に乗せるには、なにが有効なのか。「プレジデント」(2017年2月13日号)では、子育てをめぐる13のテーマについて識者にアドバイスを求めました。第3回のテーマは「進路」です——。

■哲学は、どこか後ろめたいところのある学問


哲学は本来、役に立たないものです。他の学問が自他の幸福を求める「功利主義」であるのに対し、哲学は人類の幸福よりも真実を求めます。ソクラテスが処刑されたのも、真実を求めることがポリスの幸福につながらなかったからです。




スティーブ・ジョブズのほか、決済サービス「ペイパル」創業者のピーター・ティールも哲学科出身。(時事通信フォト=写真)

会社は、既存の枠組みの中で営利を追求するものですから、「弊社は自然環境に配慮しません!」と宣言するわけにはいかない。まして、「脳は物質なのに、なぜ意識はあるのか」と哲学的な問いを常に考えていたら仕事は進みません。人生にとっては、切実で真剣な問いなんですけどね。


でもまれに、会社では優秀な社員でありながら、哲学的な問いを考えてしまう人たちがいます。彼らは、私の主宰している「哲学塾」を訪ね、カントやヘーゲルを学ぶことでバランスをとっているようです。哲学は、どこか後ろめたいところのある学問なのでしょう。


■画期的な商品を生むことはありうる


さて、「IT長者に哲学科卒が多いのはなぜか」という質問ですが、枠を外して物事をみる哲学の性質が、画期的な商品を生むことはありうるでしょう。ちょっとありきたりな答えですが。哲学科出身で成功した人というのは、米国に多いのではないでしょうか。


ヨーロッパでは、伝統的に哲学の学問的地位が高く、実学は低い。哲学とビジネスとの距離が遠いのです。一方、米国では「成功することこそが神の愛を受けている」という価値観がありますから、学問とビジネスの距離が近い。


さらに、米国で主流の分析哲学はどこまでもドライにロジカルに分析する。たとえば「約束を守るべき」と私たちは思い込んでいますが、不利な約束は守りたくないという心理も自然です。



一例として、国際政治の世界では、約束をすぐに破ります。大国は自分に有利な国際法を利用しますが、不利なものは無効にし、ルールそのものを変えてしまう。国際間での約束破りが堂々と行われる中で、なぜ個人の関係性では約束を守る必要があるのでしょうか。このように、日常生活では考えないようにしていることを、分析哲学は掘り下げて考えます。物事を違った角度からみるため、新製品開発などに共通する視点があるのかもしれません。


■息子は、成功することが大好きで、IT企業へ


翻って、日本において哲学は、厭世的なものだと決めつけられています。私の哲学塾に通う生徒のひとりが「カヌーをしていたときは妻の機嫌がよかったのに、哲学をすると機嫌が悪い」とこぼしていました。哲学をやりたいという人が相談に来るのですが、私は東大か京大へ行くようアドバイスしています。集まる仲間が優れているので、自分がダメでも将来出世した仲間が助けてくれるかもしれませんし、親も「有名大学なら仕方ない」と許してくれるでしょう。


いずれにせよ、もしあなたがビジネスマンとして成功したいのであれば、哲学には深入りしないことです。哲学は人を幸せにしないし、反社会的な場合もある。ビジネスに生かしたいのであれば、哲学の健全な部分だけを切り取って利用するのがいいと思います。私としては、面白みに欠けた方法だと思いますが。


ちなみに、私の息子は、私を反面教師にしたからか、俗っぽいことが大好きです。以前は日本の広告会社にいて、現在は米国のIT企業に勤めています。役に立たないことが大嫌いで、成功することが大好き。私と正反対の生き方をしています。


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成功したいなら、哲学には深入りしないこと

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中島義道(なかじま・よしみち)

東京大学法学部卒業、同大学院哲学専攻修士課程修了。ウイーン大学で哲学博士号取得。電気通信大学教授を経て、「哲学塾カント」主宰。『英語コンプレックスの正体』など著書多数。

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(中島 義道 構成=山本ぽてと 写真=時事通信フォト)

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