現金派には「節約=お金を使わない」が当たり前なのに…キャッシュレス派が"節約貧乏"になる根本原因

2025年4月17日(木)8時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mihailomilovanovic

お金が貯まる人、貯まらない人の違いはどこになるのか。消費経済ジャーナリストの松崎のり子さんは「キャッシュレスの比率が4割を超えた。便利な決済手段だが、この便利な一面が落とし穴になっている」という——。
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■キャッシュレス化が一気に進んだ


日本のキャッシュレス決済比率がいよいよ4割を超えた。


経済産業省が3月31日に発表した2024年の数字は、42.8%。当初2025年6月までとしていた政府目標を前倒しで達成したことになる。2017年時点では21.3%だったので、それから約2倍になったわけだ。


キャッシュレス決済手段の内訳を見ると、こちらも興味深い。クレジットカードが82.9%でトップ、続いてコード決済が9.6%と1割近くまで上がった。デビットカードは割合こそ3.1%だが、7年前からほぼ倍増している。


しかし、電子マネーは2017年に比べ約半減となり4.4%に落ち込んだ。これを見ると、キャッシュレスの勝ち組負け組がはっきりしたと言っていい。今や、クレジットカード、コード決済、デビットカードが、消費者の生活費を押さえつつある。


日本のキャッシュレス化が一気に進んだ理由は、大きく二つある。一つ目は、キャッシュレスにするとご褒美がもらえますと政府が派手にアピールしたことだ。2019年の「キャッシュレス・ポイント還元事業」、続いて2020年の「マイナポイント事業」でポイントを大盤振る舞いした。


今もあちこちの自治体で、キャッシュレス決済でのポイント還元事業を定期的に実施している。物価高対抗策にポイントをためたいという消費者マインドも、それに有利に働いただろう。


■「キャッシュレス=無駄遣いの温床」説は本当か


もう一つは新型コロナ禍による現金離れである。コロナの蔓延期間には、人とやり取りしないセルフスキャンレジの導入、飲食店でのモバイルオーダー決済、実店舗ではなくネットショッピングへのシフトなどが進み、財布を開かないことが増えた。


行動制限が解除された2023年には、キャッシュレス比率はすでに39.3%まで上がっていた。コロナこそ国の目標を強力に後押しした、影の立役者と言えるだろう。


めでたく4割を超えたキャッシュレスだが、昔から議論になっている件がある。「キャッシュレスは便利だが、使ったお金が把握しにくいのでムダ遣いしがちだ」という説だ。


キャッシュレス化が進むと人は節約しなくなるのだろうか。その点について、興味深いレポートが出ている。ビザ・ワールドワイド・ジャパンが発表した「キャッシュレス利用実態に関する調査」で、その中にキャッシュレス派と現金派の節約意識についても比較があるのだ。


なお、ここでのキャッシュレス派とは、普段の支払いで現金を使わないか、現金とキャッシュレスの両方が使える場面ではキャッシュレス決済を選ぶ人を指し、現金派とは支払いで現金のみを使うか、現金とキャッシュレスの両方が使える場面では現金を選ぶ人、となっている(全体的な比率はキャッシュレス派71.4%、現金派28.6%)。


経済産業省公式サイトより
経済産業省公式サイトより
画像=プレスリリースより

■節約方法は“現金派”と全く違う


世の中のイメージでは節約好きは現金派の方に多そうだが、意外にもキャッシュレス派の方が節約意識が高いという結果が出たという。


物価高に対し、節約意識が「とても高まった」「どちらかといえば高まっている」と回答した割合の合計が、キャッシュレス派は74.1%、現金派は68.8%と、前者のほうが5ポイント高かったというのだ。もしかすると、現金派は物価高以前から節約志向だったのかもしれないが……。


さらに、節約法でも違いがある。キャッシュレス派は「ポイント還元や割引のある決済手段を使う」が54.5%、「特売品/セール品を積極的に選ぶ」が41.3%、「チラシやクーポンなど、買い物前にチェックする」が40%。一方で現金派においては、「外食を控える」36.2%、「自炊をする」33.5%、「価格の安いプライベートブランドを購入する」33%となっている。


この結果を踏まえて、現金派の節約は“お金を使わないようにする”傾向があり、キャッシュレス派は「買い物はしつつも、“お得な買い物/お得なお金の使い方”を重視」する、と分析している。


つまりキャッシュレス派は「経済合理性の高い方法を探しつつ、お金を使う」、現金派は「目に見えるお金を意識しながら、それを減らさないようにする=支出を減らす」節約を選ぶ傾向があるというわけか。


上手に使って得するか、なるべく使わないで現金を守るか——そんな違いが見えてきそうだ。


■「お金が減る感覚」を鈍らせる仕組み


同じ金額でも、キャッシュレスと現金では受ける印象が異なる。


現金は、消費すれば財布に入っているお金がみるみる減っていくのが実感できる。出かける前は一万円札が入っていたのに、帰ってきたら千円札ばかりになっていたら、「うわ、使ってしまった……」と悲しくなるものだ。


現金派の人は、「一万円札を崩したくないから、買うのを我慢しようか……」というブレーキが働くので、お金をなるべく減らしたくないとの意識が強いタイプなら、現金管理のほうが向いているだろう。


キャッシュレスでは「現物」のお金を意識することがない。コード決済の残高はデジタル表示の数字であり、一万円札ではない。なので、数字が減るとしても、現金ほど消費の歯止めにならないだろう。


それよりも、アプリ上に「今ポイントがこれだけ貯まっています」とか「5%引きのクーポンが使えます」という表記の方に目を引かれる。これらは、お金を減らさないより、「消費したほうが得ですよ」というお誘いとなり、令和世代にはそっちがスマートに映るようだ。


実際に「こんなに買うのを我慢した」はあまり自慢できないが、「クーポンを使って安く買った」といえばクレバーに感じるだろう。その代わり、それが本当に必要な消費だったのか、キャンペーン期間だからと不要不急の「ついで消費」が増えてしまってはいないか、注意は必要だ。


ムダ遣いが増えるとまでは言わないか、漠然と「使って」しまうだけでは、キャッシュレスだからといって節約になるとは到底言えない。


■使ったお金が見えやすいのはキャッシュレスだが…


2024年にフィンテック企業インフキュリオンがアンケート調査した「現金とキャッシュレス決済から見る消費者行動の変化」も興味深い。物価高のなか、お金を効率的に使っていくうえで現金とキャッシュレス決済のどちらがより便利と思うかを、シーン別に聞いている。


キャッシュレスの方が便利だという答えが多かったのは、「月々の予算を考えるとき」「今までどのくらいお金を使ったかを把握するとき」「(食品や消耗品など)日常的な支払いをするとき」「(家電や旅行など)大きな買い物の支払いをするとき」などだ。


今や家計簿アプリで家計を管理している人が多いため、毎月の予算管理や使ったお金の把握は、キャッシュレスの支払いデータと連動させれば簡単に把握できるからだろう。


節約しているつもりなのになぜかお金が残らない人、無意識の無駄遣いが多い気がするという人は、キャッシュレスで支払い、家計簿アプリ等に読み込んで用途別に整理してもらうといいかもしれない。「使ったお金」を見える化することで、使い過ぎの費目を意識でき、節約につなげることができるだろう。


写真=iStock.com/SolStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SolStock

■キャッシュレスに不向きな人の共通点


ただし、深刻な赤字体質の人には、現金の方がいいと考える。先のインフキュリオンの調査でも、唯一現金の方が便利だと答えた人が多かったのが「使えるお金があとどのくらいあるのかを把握するとき」だった。


スマホ決済の残高で10000という数字を見た時より、渋沢さんの顔がついた紙幣を見た方が一万円の重みを感じるというのは、先に書いた通り。この一枚であと1週間やりくりしなくてはならないと思えば、ポイントが付こうが割引クーポンが届こうか、やはり消費に慎重になるもの。特に、新社会人となり、初めての給料を手にした世代は、まず生活費を現金でおろして、トランプのカードを配るように分けてみることを勧める。


食費や日用品、交際費、趣味代、小遣い……というように配分してみると、自分が使えるお金の量がイメージできるはずだ。この金額でやりくりするのだと、画像で頭にインプットしておく。その後はキャッシュレスでも現金管理でも、自分に合った方法を選べばいい。


■クレカや電子マネーの“複数持ち”は危険


キャッシュレス派と現金派。結局、どっちのほうがお金が貯まるのか。身もふたもないが、固定費などの金額がすでに決まっている支払いはキャッシュレス、日々の食費など「あといくら使えるか」がはっきりわかるほうがいい費目は現金、のように使い分けるハイブリッド型がベターではないか。


写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

むろん、食費も日用品も生活費は全てカードで管理したいという人も多いだろう。家計簿アプリでも、予算から使った分をマイナスして、あといくら使えるかを示してくれるものがあるので、そういう機能をフル活用して使い過ぎを防ぎたい。


しかし、カードを複数枚、コード決済も複数、他にも駅ではSuicaなどの電子マネーで支払うというような、キャッシュレス手段を増やせば増やすほど使ったお金が把握しにくくなる。さらに、カードは後払い、電子マネーは前払い、コード決済はどちらもできる、というように、お金の流れもややこしい。


キャッシュレス化すればそれで解決ではなく、「複雑だから、きっちり管理しなくては」という自覚を促す効果があるということかもしれない。


■キャッシュレスは「お金を使わせる仕組み」


冒頭で、キャッシュレス決済率が40%を超えたと書いたが、政府の次なる目標は80%だそうだ。意地悪な見方をすれば、「使った」方がトクになるキャッシュレス決済を進めるのは、やはり消費を増やしたいからにも読める。


もしコード決済アプリの残高が、デジタル数字ではなく、お札の絵×枚数で示されれば、「あとこれしかないのか」と消費の歯止めになりそうだが、そんなことはしないだろう。


カード会社もコード決済アプリの提供事業者も、どんどん使ってもらうことが利益につながるビジネスなのだから。


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松崎 のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト
『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。
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(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)

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