「会議中にメモをとらせる」はダメ…「デキない部下」を量産してしまう絶対やってはいけない2つの指導法
2025年4月17日(木)8時15分 プレジデント社
出所=『仕事を上手に圧縮する方法 仕事時間を1/5にして圧倒的な成果を上げたITコンサル流 仕事の基本』(日経BP)
※本稿は、江村出『仕事を上手に圧縮する方法 仕事時間を1/5にして圧倒的な成果を上げたITコンサル流 仕事の基本』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■部下は育成できないもの
コロナ禍を経て、最近特に部下育成に関する悩みをよく聞きます。
「手取り足取り教えても、なかなか思うように育ってくれない」
「何回伝えても伝わらない、理解してくれない」
「答えまで言っているのに全然違うアウトプットが出てくる」
多くの人が口を揃(そろ)えて、同じことを言います。それだけ部下の育成は簡単にできるものではないということです。
そこで本記事では、部下の育成について少し発想を転換することをおすすめします。
「部下を育成しよう」とするのではなく、「部下を戦力化しよう」とするのです。これはどういうことでしょうか?
ITコンサルという仕事は、半年〜1年ごとにプロジェクトが変わります。その都度、新しい上司・新しい部下と人間関係を築いていくことになります。こうした状況のため、能力もスキルも性格もわからない部下を引き連れてプロジェクトに参画することになりますが、求められるのは1日1日のアウトプットです。
当然、部下の教育に専念している時間などとれるわけもありませんから、実務でひたすらノウハウを効率よくたたき込みながら、間接的に指導していくというアプローチをとることになります。
つまり、部下を現場でその都度戦力化していくことで、長い目で見たら部下が育っている、という状態をつくっているのです。
ここから、ITコンサルが現場で実践している部下の戦力化のコツをお伝します。
出所=『仕事を上手に圧縮する方法 仕事時間を1/5にして圧倒的な成果を上げたITコンサル流 仕事の基本』(日経BP)
■自分なりのアイディアを評価する
【戦力化のコツ①】1つでも新たに生み出したら評価する
部下の考える力を伸ばす一番の方法は、自分なりのアイディアを少しでも出せたときにしっかり評価することです。
アイディアといっても、誰もが驚くクリエイティブなものでなくても構いません。どんな小さなことでも、上司や周りの人がまだ気づいていない視点でプラスになることを導き出せればOKです。
それでは、評価に値する「自分なりのアイディア」とはどのようなものか、1つ例を挙げてみましょう。あなたは人事部の採用チームに配属され、採用面談の評価観点を検討することになりました。その観点は、図表1にあるように、すでにある程度、上司と別のメンバーがつくっていたとします。
この表に対して、あなたなりの視点で何か新たな案を出すことはできますか? いったん読み進めるのをやめて、考えてみてください。
一見、それなりに軸が整理されているように感じられます。しかし、突っ込む余地はまだいろいろあるでしょう。例えば、
・定性情報ばかりで定量情報がない。
・業務知識・IT知識・リード力については実際の経験の年数を確認する。
・コミュニケーション力やコラボレーション力は、顧客・上司・他チームそれぞれに対してどのようにしているかを確認する。
・ソフトスキルは、論理思考や成果物作成など具体的なトピックごとに確認する。
■部下が意見を出せるようになる
このように、すでに挙がっている情報から「枠を超えてみる」「違う角度から切り込んでみる」「分解して掘り下げてみる」ということが少しでもできれば、新たな視点を生み出せていることになります。
新たな視点を生み出したことを評価し、それを繰り返すよう指導していくと、部下は自然と自分で考えるようになっていきます。質問をしてもいないのに、
「こうしたらどうでしょうか?」
「こうあるべきだと思います!」
と自分から意見を言い出したら成長の証です。おそらくその頃には、すでにあなたの大きな助けとなっているでしょう。
出所=『仕事を上手に圧縮する方法 仕事時間を1/5にして圧倒的な成果を上げたITコンサル流 仕事の基本』(日経BP)
■部下の思考力を上げる
【戦力化のコツ②】3つの質問で部下の思考力を飛躍的に上げる
例えば部下から「問題が発生しました」と報告を受けたとしましょう。このとき、あなたはどのように対処しているでしょうか?
「じゃあ△△するようにしてください」と指示を出すのは悪手です。部下は自分で考えることをやめ、ただ言われた通りの作業をするマシーンになってしまいます。
仕事がデキる人は、小さな問題であれば瞬間的に解決策を導き出すことができるため、つい答えを伝えがちですが、戦力化のためにはそれをぐっとこらえ、部下に考えさせましょう。部下に考えさせるためには、次の3つの質問が効果的です。
1 事実(Fact)の報告:「どのような結果でしたか?」
2 自分の考え(Idea)の提示:「あなたの考えはどうですか?」
3 次の行動(Action)の提示:「それに対して、あなたは何をしますか?」
1の質問は特に意識しなくてもできると思います。それに加えて考え方を引き出す2の質問をすることで、単なる事実の報告に終始せずに済みます。さらに3の質問で、先のアクションまで考えさせます。
部下はその場で考えて回答できるかもしれませんし、何も答えられないかもしれません。ただ、毎回同じ質問をしていれば、そのうち準備をするようになるはずです。何かしら「自分で考えよう」とするクセがつくのです。
この3つの質問は、私自身が50人ほどのプロジェクトのリーダーを務めていた頃に、プリンシパル(執行役員)が私に対してとってくれた育成法です。
私はそのプリンシパルに対して、月次でプロジェクトの進捗状況を報告していました。ある日、システム開発のタスクに大きな遅延が出てしまったので、原因と対策を考え、リカバリできるめどまで立てたところで報告をしました。すると、
「それで、あなたはどうしたいの?」
と聞かれ、そこでハッとしました。私の報告は、メンバーから伝え聞いた情報がロジックも含めて妥当であると思い、ほぼそのまま伝えていました。そこに「自分の考え」はたしかにありませんでした。
プリンシパルが毎月、私に同じ質問をしてくださったことで、私自身の考える力は飛躍的に上がり、先回りの施策を講じることができるようになったと感じています。私もまた端的な質問によって「戦力化」してもらったのです。
■「考え方」は伝えない
さて、部下と関わる上では、絶対にやってはいけない指導法もあります。ここで紹介するのは、これまで200人を超える部下と仕事をしてきたなかで、やってしまって後悔したものばかりです。さっそく見ていきましょう。
【やってはいけない指導法①】思考のロジックは伝えるな
やってはいけない指導法の1つめは、思考のロジックを伝えるということです。デキる人ほど仕事の仕方を頭の中で体系化できているので「考え方」を伝えがちです。
「○○だから△△で、それなら□□から▽▽といえるよね、わかるよね」
といった具合です。このように指導をされると多くの部下は、
「はい、わかりました。すごい納得しました。次から頑張ります」
と返事をするでしょう。一見、いい指導をしているようにも思えますが、この指導法では次も部下は高いアウトプットを出すことはできません。なぜなら、部下にはまだ、あなたの思考レベルで物事を考えられていないからです。それなのに、思考のプロセスを理解し、再現しろといってもできるわけがありません。モチベーションが下がり、成果も下がる一方になってしまいます。
写真=iStock.com/Yuri_Arcurs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuri_Arcurs
■メモはとらせない
【やってはいけない指導法②】会話中に絶対にメモをとらせるな
あなたが指示を出したり指導したりしているとき、真面目で向上心の強い部下ほど「メモをとろう」とします。必死にメモをとる姿を見れば「感心」と思うかもしれませんが、これも今日からやめさせましょう。書くことに少しでも気が向いてしまうと「自分で考える」ことがおろそかになってしまうからです。
江村出『仕事を上手に圧縮する方法 仕事時間を1/5にして圧倒的な成果を上げたITコンサル流 仕事の基本』(日経BP)
「上司が話をする→部下が聞いてメモを書く」という構図では、部下は完全に受け身です。インプットしよう・整理をしようという構えになるので、「自分で新たな視点で考える」という発想を持てなくなってしまいます。
部下が成長しているときには、
「こういう場合はどう考えたらよいですか?」
「この観点も必要ですか?」
というような、広がりのある質問が出てくるものであり、こうした質問は「考えること」なしには出てきません。そのためにはメモを書かせるのは今すぐやめましょう。
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江村 出(えむら・いづる)
EYストラテジー・アンド・コンサルティング アソシエートパートナー
慶応大学卒業後、アビームコンサルティングを経て、デロイト トーマツ コンサルティングに入社。現在は、EYストラテジー・アンド・コンサルティングのアソシエートパートナーとして従事。ITコンサルタントとして業界を問わず数多くの大企業の改革をリード。2021年に国内大規模ITイベントに登壇し1200名に講演。2023年には新規ビジネスの提案力と推進力が評価され「BTPチャンピオン」を受賞。また、Udemy講師としてITとコンサルの育成講座を展開中。
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(EYストラテジー・アンド・コンサルティング アソシエートパートナー 江村 出)