毎日が"佐川氏立件見送りへ"を書いた理由

4月18日(水)15時15分 プレジデント社

4月13日付の毎日新聞(東京本社14版)の1面。肩(左上端)は「佐川氏 立件見送りへ」だった。

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4月13日、毎日新聞が他紙に先がけて「佐川氏 立件見送りへ」という特ダネを書いた。大阪地検は、財務省の決裁文書改竄をめぐり、前国税庁長官の佐川宣寿氏の立件を見送る方針だという。なぜ安倍政権に批判的な毎日が、こうした記事を1面に載せたのか。その裏には、世論に火を点けようという検察の思惑があるようだ——。


4月13日付の毎日新聞(東京本社14版)の1面。肩(左上端)は「佐川氏 立件見送りへ」だった。

■「模様だ」は検察担当記者の書く記事


最近、読んだ記事が気になっている。4月13日付の毎日新聞朝刊(東京本社発行)だ。1面の肩(※)扱いで、「佐川氏 立件見送りへ」と大きなたて見出しが付いていた。


※左上端の記事を指す新聞社の専門用語。右上端の頭に次いで重要な扱いとされる。


記事は「学校法人『森友学園』(大阪市)への国有地売却を巡り、財務省の決裁文書が改ざんされた問題で、大阪地検特捜部は、前国税庁長官の佐川宣寿氏(60)ら同省職員らの立件を見送る方針を固めた模様だ」と書き出し、「捜査関係者が明らかにした」と続ける。特ダネだ。


記事に「模様だ」とあるところをみると、検察担当記者が書いた記事だ。検察関連の取材では、30年以上も前から末尾に「模様」と書くことが検察と担当記者の間で暗黙の了解になっている。そうしてボカさないと、検察がうるさいからだ。


■毎日のスタンスに反する記事なのに……


毎日の記事は「捜査関係者が明らかにした」とまで書き、あえてニュースソースを明らかにしている。この捜査関係者とは、大阪地検の幹部だろう。


記事は指摘する。


「決裁文書から売却経緯などが削除されたが文書の趣旨は変わっておらず、特捜部は、告発状が出されている虚偽公文書作成などの容疑で刑事責任を問うことは困難との見方を強めている。今後、佐川氏から事情を聴いたうえで上級庁と最終協議する」


安倍政権を擁護する読売新聞が書くなら分かるが、「立件見送り」という社のスタンスに反するニュースをなぜ、毎日新聞が1面で大きく扱ったのだろう。


■8億円値引きの疑惑は未解明


そう思って下にある関連記事に目を移すと、「疑惑根幹 未解明のまま」との見出しを付けた記事が添えられ、こう指摘している。


「森友学園問題は、『なぜ8億円も値引きされたのか』という疑惑の根幹は未解明のままで、一連の問題が決着したわけではない」

「決裁文書の改ざんについても、関わった職員や指示系統は分かっていない」


この指摘はもっともであり、毎日新聞の愛読者も納得するだろう。ただし、厳しい見方をすると、添え記事は単なる言い訳に過ぎず、そんな言い訳をするなら最初から「佐川氏 立件見送りへ」という記事など書かなければいいのだ。



■検察は世論の盛り上がりを狙う


それにしても毎日新聞は、なぜ言い訳記事を添えてまで「佐川氏 立件見送りへ」という記事を書いたのだろうか。


大阪地検を担当する記者が「他社の書く前に書いてやろう」という小ざかしい競争意識を働かせたのか。いや違う。


問題の毎日の特ダネ記事は「国有地が不当に約8億円値引きされたとし、佐川氏以外の同省職員らが告発された背任容疑についても、特捜部は違法性があったとまではいえないと判断しているとみられ、立件は難しい状況だという」とも書いている。


この記事のようになれば、検察の惨敗である。検察にとっては「佐川氏立件に向け」もっと世論が盛り上がる必要がある。世論の勢いが増せば、検察は動きやすくなる。検察側は世論に火がつくことを狙って毎日新聞に書かせたのだろう。まして大阪地検は9年前に無実の厚生労働省の女性局長を逮捕するという証拠改竄事件を起こし、国民の信頼を失っているから、なおさらその思いは強いはずだ。そうした検察の思惑に毎日新聞が乗った。


繰り返すが、このままでは安倍政権がその「1強」をますます誇示し、民主主義自体がどこかへ消えてしまう。ここは新聞社の社説の出番だ。新聞社説が「佐川氏を立件すべきだ」と主張し、世論を奮い立たせるべきだ。


■一連の特ダネのニュースソースは検察


朝日新聞が今年3月2日付朝刊(東京本社発行)の1面トップで「森友文書 書き換えの疑い」と財務省の決裁文書改竄を報じて以降、NHKが財務省理財局の口裏合わせ要求をスクープするなど、報道各社の特ダネが続いた。


一連の特ダネ報道のニュースソースは、おそらく大阪地検特捜部だろう。捜査に「待った」をかけようとする安倍政権側の動きに反発し、マスコミに情報を伝えたのだ。いまや「検察対安倍政権」の戦いになっている。


今回の毎日新聞の「佐川氏 立件見送りへ」の特ダネもこうした状況の下で出てきた。そう考えると、すべてつじつまが合ってくるから不思議である。


■安倍政権が真相解明に後ろ向きなのは当然


最近の社説を読んでみると、やはり「まだまだ」である。安倍政権に批判的な朝日社説をはじめとして「佐川氏を刑事立件すべきだ」などと検察の捜査に期待、あるいは擁護するような主張はまったく見られない。だから「社説は新聞記事の中で一番つまらない」と批判されるのだ。


たとえば4月12日付の朝日社説を挙げる。


冒頭で「森友学園をめぐる財務省の決裁文書の改ざん、『首相案件』という文書が見つかった加計学園の獣医学部新設、そして防衛省・自衛隊の日報隠し——」と指摘し、「行政の信頼を根底から揺るがす事実が次々と明るみに出る中、きのう衆院予算委員会で集中審議が行われた」と書く。


さらに森友学園問題については「地中のごみ撤去をめぐり、財務省が学園側に口裏合わせを求めた問題が取り上げられたが、誰がどんな判断で指示したのか、核心に触れる説明はなかった」と指摘し、「真相解明に後ろ向きな政権の姿勢が、事態の混迷を招いていると言わざるを得ない」と批判する。



安倍政権が真相解明に後ろ向きなのは当然だ。現政権が自らを擁護しようとあの手この手を使うのは古今東西よく見られる。しかも安倍晋三首相の頭の中は「憲法改正」が大半を占めている。


森友・加計問題に関して国会や行政を叱咤激励する社説はどの新聞社も数多く書いてきた。新聞各紙はそろそろ検察の捜査を励ますような興味深い社説を書いてほしい。


■証人喚問では新たな疑惑が噴き出すばかり


「混迷深まる『政と官』 不都合な事実隠したツケ」との見出しを掲げるのは4月14日付の毎日新聞の社説だ。


朝日同様、「まるで泥沼の様相だ。森友学園や加計学園問題、自衛隊イラク派遣の日報問題等々をめぐって連日のように新事実が発覚している」と書き出したうえで、こう指摘する。


「きのうは加計問題に関し、2015年4月、当時の首相秘書官が愛媛県側などに『首相案件』と発言したと記録した文書が農林水産省にもあったことが確認された。対応は全て後手に回っており、政府のガバナンス(統治)は危機的状況にある」

「なぜこんな事態に陥ったのか。いずれも問題発覚後、きちんと調査もせずに安倍政権に不都合な事実を強引に否定しようとしてきたからだ。そのツケが一気に回ってきている」


「政府のガバナンスは危機的状況にある」ことは国民の大半が理解している。安倍政権が「不都合な事実を強引に否定しようとしてきた」ことも事実である。


しかし朝日も毎日も、検察の捜査に期待するような社説は展開していない。ここでは挙げないが、他のどの新聞社もまだそうした論陣は張っていない。


国会が国政調査権に基づいて佐川氏ら関係者を証人喚問しても事態はいっこうに変わらず、新たな疑惑が噴き出すばかりではないか。まだ間に合う。新聞が世論を盛り上げ、まずは佐川氏の立件を現実のものにすべきではないか。



(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

プレジデント社

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