なぜドイツ人はIKEAの家具をあまり買わないのか…節約精神が浸透したドイツの家にある家具のタイプ

2025年4月18日(金)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/U.Ozel.Images

安いものを買って出費を抑える、または高いものを買って長く使う。「節約術」は大きく2パターンに分かれる。ドイツ人の生き方を紹介するサンドラ・ヘフェリンさんは「ドイツ人は現実主義者が多く、節約も徹底している。親が亡くなって実家じまいをするときも、全てを捨ててしまうことはない」という——。

※本稿はサンドラ・ヘフェリン『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)の一部を再編集したものです。


■金を溶かし曾祖父から曾孫へ、ドイツの「受け継ぐ」という節約術


ダグマールさんの祖父は90代。「セーターがほつれたりしても、おじいちゃんは何でも器用に自分でなおしちゃうの。服はほとんど買わない」とのことです。


片付けと節約を徹底している祖父は、孫のダグマールさんに娘が生まれた時も、新たに「お祝いの品」を買ったりはしませんでした。なんと、自分の金の指輪を溶かし、「曽孫(ひまご)のために」と、ハート形のネックレスを自ら作って贈ってくれたそうです。


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金を溶かすには技術も必要で、なかなか真似はできませんが、ここまで徹底していると「お見事!」と言いたくなります。節約家のドイツ人は「無闇に物を捨てずに、いい物を親から子に大切に受け継いでいく」というポジティブな例も多いのです。


■両親が他界し、食器と母のレシピを思い出と共に持ち帰った


アコーディオン奏者でカメラマンのホルガーさんは、両親が健在の時に「実家の片付け」について何か言うことはありませんでした。でも、数年前に父親が死亡し、親の物を処分しなくてはならない時が来ました。


日本在住のホルガーさんは、妻とともにドイツへ。ゆっくり片付けているわけにもいかないのでいとこ夫婦の手も借り、「きっかり1カ月」と期限を決めて家の片付けに取り掛かりました。幸い、父親は書類をきれいにファイルにまとめ、大事な書類は別に金庫に保管していたため、量は多かったものの整理がしやすかったとのこと。片付けの間の4週間はまるで仕事のように、朝7時半にみんなで朝ごはん、8時半から片付けを始め、ランチ以外はずっと夜まで作業を続ける、という生活だったといいます。


ホルガーさんは「何でも捨ててしまえばいい」と考えるタイプではありません。


「物は大事です。特に親とのつながりのある物は日本に持って帰りました」


かつて家族で使っていた食器の一部はホルガーさんが日本に持ち帰り、一部は一緒に片付けをしてくれたいとこや家族、親戚へ。ホルガーさんが譲り受けてよかったと感じている物の一つが「母親の手書きの料理レシピ」。母親はドイツのヌスクーヘン(Nusskuchen)〔註:クルミなどナッツを入れたケーキ〕やグーラッシュ(Gulasch)〔註:牛肉とパプリカや玉ネギを煮込んだシチュー。トマトペーストやクミンパウダーを使う。牛肉ではなく豚肉や鶏肉のものもある〕などの詳細な手書きレシピを残しており、ホルガーさんは日本でもたまに思い出の味を再現するそうです。


写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Liudmila Chernetska

■「実家じまい」でも全てを捨ててしまうことはしない


故人が大事にしていた物を死亡後に家族が引き継ぐのが自然だと考えるドイツ人は多く、「まだ元気な高齢者に物を捨てさせなくてもいいし、亡くなったら受け継げるものは受け継ぐ」と話してくれた女性もいます。


「ひいおばあちゃんが亡くなった時、残した大量のお皿を家族みんなで分け合ったの。私も好きなお皿をもらって今も使っている」


彼女は子どもの頃、曽祖母が家に飾っていた天使の形の可愛らしい置物が大好きで、遊びに行くたびに眺めていたと話してくれました。曽祖母のお皿を使うたび、子ども時代の思い出も蘇るというのですから、なんとも豊かな“遺産”です。


■30歳でそろえた家具を90歳まで使う


日本の片付けは「捨てる」ことと直結しがちですが、ドイツの場合、質の良い家具だったり、思い入れのある物の場合、捨てずに子が「引き継ぐ」のはごく自然なことです。


私の友人で日本在住のユリア(Julia)さんは、父親を飛行機事故で亡くしました。父と母は離婚していますが良い関係で、父親はデュッセルドルフで一人暮らしを楽しんでいました。そこに訪れた突然の死です。悲しみに暮れる中、残された家族は、父親の家を片付けなければなりませんでした。


写真=iStock.com/clu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/clu

「父のマンションは持ち家だから、二人の姉と母と私とで、焦らずに『ゆっくり』片付けることができて、まだよかった。でも、これがもし賃貸マンションだったことを想像すると……また頭が痛くなってくる。賃貸だと短期間で片付けないといけないし、そうしなかったら何カ月も家賃を払い続けることになる。想像するだけでゾッとするわ。変な言い方だけれど、悲しみの中でも時間的な余裕をもって、父親の遺品を整理したり処分したりできたのは本当にラッキーだった」


ドイツに住むお姉さんの一人は、父親のウォール・キャビネットが気に入りました。それでも現実的なドイツ人らしく、いったん自分の家に帰って部屋の壁の長さをメジャーで測り、問題ないと確認してから移送して、今も大切に使っているのだとか。


日本在住のユリアさんは、大きな家具などをもらうことは現実的ではありませんでした。それでも写真や父親が趣味で描いていた絵など、「父親」を感じることができる物を持ち帰り、今も自宅に飾っています。たとえばかつて父親が絵を描いた自作のカレンダー。現在の曜日と日付とは違うので、カレンダーとしての実用性はないものの、父親を身近に感じたくて、「アート作品」として飾っています。


■ボロくても頑丈、30歳でそろえた家具を90歳まで使う


ドイツに住む友人・知人の家を訪ねるたびにユリアさんが感じているのは、「日本よりドイツのほうが、戦後で時間が止まったままの感じの家がちょくちょくある」ということ。


「家具のテイストもそうだし、引き出しの角っことかいろんな部分の木が剥(は)がれていたり壊れていたりしてもそのまま使ってるのよね」


確かに昔のドイツ人にとっては、結婚をしたら質の良い家具を買い、その家具を死ぬ時まで使うのはごく普通のことでした。ユリアさんはこう言って笑います。


「30歳でそろえた家具を90歳まで使っている高齢者が、普通にいるの。昔の家具は丈夫に作られているから何十年も使えるけど、同じことをIKEAの家具でやろうと思ったら、無理よね」


写真=iStock.com/jokuephotography
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■リサイクルすれば、ゴミが出ず、お金もかからない


親から受け継いだ洋服などをリメイクして再利用することは節約にもつながります。それを実行しているのが50代のあるドイツ人女性です。


「私は自分の服をアレンジするのが好き。服を作り変えることもたまにあるわ」


楽しそうに話す彼女のおしゃれは、「持っている古い物をケア(pflegen)して、別の物と組み合わせてアレンジする」こと。クリエイティブな趣味と節約を組み合わせたファッションは、80代の母親の影響もあるようです。


母親はかつて幼い娘のために、内側に暖かい生地をつけた冬のコートを手作りすることもあったのだとか。当時は多くの女性がそうしていたように、子どもたちのためにカーディガンなども編んでくれたそうです。


「父親も手先が器用で、大工仕事は本当に上手だったの。私が成人して一人暮らしを始めた時も、父を家に呼んで家具を全部組み立ててもらったぐらい。電化製品は全くダメなんだけどね」


一家は昔からフリーマーケットが好きで、そこで買った物を自分たちで手を加えたりして長く使っていたのだそう。「古い物をアレンジしながら長く大事に使う」、ドイツ人らしいやり方です。


写真=iStock.com/hsvrs
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hsvrs

■一人暮らしの家でもアンティークな家具を置いて現役で使う



サンドラ・ヘフェリン『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)

ドイツの街を歩いていると、明らかに新品ではない、セカンドハンドの服を着ている人をよく見かけます。建物も歴史を感じさせる古い物が多いせいか、それはそれで風景に溶け込んでいるのです。家に関しても同じで、一人暮らしの家でもアンティークな家具をよく見かけます。親元を離れる際に、親の家具を一部もらったり、親が亡くなった後に引き継いだ物を使っていたり。新しく家具を買う時も「安い物を」というよりは「長く世代を超えて使える物」を買う人が多くいます。


日本では風水の影響もあるのか「定期的に物を捨てて新しく買う」がデフォルトな気がしますが、ドイツは「長く使うこと」がデフォルトです。


「親や好きな人との思い出を、家具を通してずっと大事にする」という感覚が強いわけですが、家具を長く使えば粗大ゴミに出す必要もありませんし、何十万円もするテーブルだって、長く使えば結果的に安上がりで、合理的なプラスアルファというわけです。


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サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)
著述家・コラムニスト
ドイツ・ミュンヘン出身。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフ」にまつわる問題に興味を持ち、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)など。新刊に『ドイツの女性はヒールを履かない〜無理しない、ストレスから自由になる生き方』(自由国民社)がある。
ホームページ「ハーフを考えよう!
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(著述家・コラムニスト サンドラ・ヘフェリン)

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