だから「のび太」はテストで0点を取り続けた…「ドラえもん」が50年前から伝えていた"ひみつ道具"の深い教え

2025年4月18日(金)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vertigo3d

AIのある世界で生き残る人と、AIに淘汰される人の違いは何か。脳科学者の茂木健一郎さんは「AIはドラえもんに登場するひみつ道具だ。AIによって浮いた時間を無駄使いしていると、のび太のようにしっぺ返しを食らう」という——。

※本稿は、茂木健一郎『脳はAIにできないことをする 5つの力で人工知能を使いこなす』(徳間書店)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/Vertigo3d
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Vertigo3d

■AIと人間は「ドラえもん」と「のび太」


AIと人間については、ウサギとカメのたとえを出して説明しました。AIがカメで、人間はウサギです。


それよりももっと分かりやすい説明を思いついたので、ここでお話しすることにします。AIとは、ズバリ、「ドラえもん」です。


日本だけでなく、全世界で愛されるキャラクターとなったドラえもんをAIだと思えば、俄然、親しみも湧いてくるのではないでしょうか。「AIに対する見方が180度変わった」と言う人もいそうです。


AIがドラえもんとすれば、人間は野比のび太。こう言われて「うれしい!」と喜ぶ人は少なそうですが、実はこの両者の関係は人間とAIのかかわりを理解するうえで大いに役立つことなので、話を進めていきます。


■人間はラクをしようとする生き物


改めて言うまでもなく、ドラえもんは22世紀から送られてきたネコ型ロボット。ドラえもんが住む世界では、AIは日常生活の至るところで使われているはずです。


そのドラえもんは、未来からやって来て、彼の持つポケットから取り出すさまざまな秘密道具でのび太を助けようとします。のび太はと言えば、勉強もスポーツもできないダメ小学生。一生懸命やれば、勉強もスポーツもできるようになるのかもしれませんが、「どうせうまくいかない」という負け犬根性がしみついたせいか、何ごとにも本気で取り組もうとしません。


そんなのび太にはずる賢いところがあって、宿題をやるにしても、ドラえもんにポケットから秘密道具を取り出すように懇願して、それを使おうとします。早い話が、ラクをして宿題をかたづけようとします。いかにも人間がやりそうなことです。


■うまく使えば生産性や効率を上げられる


秘密道具には、子どもだけではなく、大人が欲しがりそうなものもたくさんあって、たとえば、アンキパン。食べると、暗記できてしまうので、もし実用化されれば、欲しがる人はたくさんいるに違いありません。テストの前に、このアンキパンを食べれば、100点満点を取れそうです。


もっとも、マンガ(アニメ)では、オチがあります。のび太がその秘密道具を悪用して壊したり使いものにならなくしたりして、結局は宿題を自分でやる羽目になります。ラクして宿題を終わらせることはできないという教訓です。


AIとは、秘密道具を持ったドラえもん──。こう言うと、AIが人間にとってどういう存在になり得るかが、理解できることでしょう。現実の世界では、まだアンキパンはもちろん、タケコプターやどこでもドアも開発されていません。


そうした道具が実用化されなくても、現在までのAIは、人間にとってドラえもんの秘密道具に相当するほど画期的なものです。うまく使いこなせば、効率化や生産性向上に直結します、逆に、使いこなせなければ、その恩恵に与ることもできません。


AIとは、ドラえもん。そう理解すれば、AIを使ってみようと思う人は多くなることでしょう。


写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■秘密道具を使った後どうするか


話はここで終わりません。ドラえもんの秘密道具を使って宿題を終わらせたのび太は、それで終わり。宿題以外のところをもっと勉強しようとか、余った時間を有効活用してスポーツをしようとか本を読もうと思ったりもしません。宿題を終わらせたら、マンガやテレビを見たりするだけ。成長意欲はゼロ。


もしのび太が秘密道具を使って宿題を終わらせたとしても、それ以外に興味を持ったことを勉強しようとしたり、あるいはスポーツをやったりすれば、たとえ自分の力で宿題をやらなかったとしても、成長はします。おそらく学力も伸びるし、スポーツも前よりはできるようになるでしょうし、少なからず成長します。


ドラえもんの秘密道具を使って宿題を終わらせて、ほかに何もしないのび太。ドラえもんの秘密道具を使って宿題を早めに終わらせて、それ以外の勉強やスポーツをするのび太。もしあなたがのび太だとして、どちらになるのを望むかと言えば、間違いなく後者でしょう。


■「成長しないのび太」にならないために


ちなみに、前者はAIの指示に従うだけの人。ドラえもんの秘密道具を使って宿題を終わらせただけで、あとは何もせずにサボってばかりいる。それでは勉強もスポーツもできるようにならず、成長もしません。成長しないのび太です。


こちらはAIに何かを指示して、そのとおりにやれば、仕事は早く終わるし、それなりの成果も見込めます。ただし、早く終わった分、ほかに何もしなければ、ヒマを持て余すだけ。それでは成長もしないし、いずれAIを使いこなすこともできなくなって、淘汰されかねません。


後者は、AIを使いこなす人。ドラえもんの秘密道具を使って宿題を終わらせて、その余った時間を有効活用して、勉強にもスポーツにも貪欲に取り組んでいきます。学力も伸びるし、スポーツももっとできるようになります。成長するのび太です。


画像提供=徳間書店
茂木健一郎さん - 画像提供=徳間書店

こちらはAIに指示したことをやって、効率化、生産性向上を果たして、ひととおりの成果を出したうえで、余った時間でほかの仕事をしたり、副業や趣味、スポーツなどにも取り組んだりして、人生を充実させていきます。AIにも精通するようになって、さらに多くの成果を出すことも夢ではありません。


AIの指示に従うだけの人は、成長しないのび太。AIを使いこなす人は、成長するのび太。これからのAI時代は、誰もがどちらかののび太になり得ます。


どちらののび太になるのかは、あなた次第。ドラえもんのような存在であるAIとどのように向き合って対処していくのかによって、どちらののび太にもなり得ます。


■「先送りグセのある人」はAIとの親和性が高い


最もAIの恩恵を受ける人がいるとすれば、おそらくそれは先送りする人です。もともと人間にはやりたくないことを先送りするクセがあって、多かれ少なかれ、誰にでもそのような傾向があります。宿題があるのに、ゲームをやったりマンガを読んだりというのび太のようなところが……。



茂木健一郎『脳はAIにできないことをする 5つの力で人工知能を使いこなす』(徳間書店)

さんざん遊んだあとに寝る直前になって、「いけない!」と思い出して、慌てて宿題をやる……。そんな経験を誰もがしているはずです。


先送りしてしまうのは、やらなければならない、やりたくないことをあと回しにして、やりたいこと(ゲームやマンガ)を優先していることにほかなりません。本当はやらなければならない、やりたくないことを先に済ませて、あとからゆっくりやりたいことをやるほうが楽しめるはずですが、欲望に負けて順番を変えてしまっています。


ある意味では、欲望に忠実と言えますが、あとになって困るのですから、ダンドリが間違っています。むしろやらなければならない、やりたくないことを忘れるために、現実逃避としてやりたいことをやろうとしているフシがあります。


■AIを使って「ゲームに没頭する子ども」から卒業しよう


大人も似たようなものです。経費の精算や報告書の作成といった面倒なことはどうしてもあと回しにしがちです。サッサとやってしまえば、あとあとラクになるのに、ほかのカンタンな仕事に精を出したり、同僚と飲みに行ったりしています。


そうして締め切りギリギリになってようやく取り組むことになるのですから、宿題をやらずにゲームやマンガに没頭する子どもと同じ。子どものころからまったく成長していないということになります。このような先送りグセのある人こそ、AIを有効活用すべきです。経費の精算や報告書の作成などはAIに任せたほうが速く、かつ確実に処理してくれます。


特筆すべきなのは、AIには先送りグセがないこと。「面倒だな」と思っても、AIにやらせてしまえば面倒な作業をしなくて済むのですから、活用しない手はありません。先送りしがちな人ほど、AIとの親和性が高いです。


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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎)

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