東京のマンションバブルついに崩壊か…トランプ関税で乱高下の日本「ビル価格7億円→7000万円引き」の衝撃
2025年4月19日(土)10時15分 プレジデント社
タイム誌の表紙風にアレンジされた、王冠をかぶったドナルド・トランプのAI生成画像(写真=White House/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons)
タイム誌の表紙風にアレンジされた、王冠をかぶったドナルド・トランプのAI生成画像(写真=White House/Executive Office of the President files/Wikimedia Commons)
■トランプ関税で大揺れの株式、為替、債券市場
トランプ米大統領が、鉄鋼、アルミや外国からの輸入車に25%の追加関税を課すとともに、日本には24%が課される相互関税を発表し、株式市場が大きな動揺を見せました。
その後、相互関税については中国以外には90日間の猶予期間を設けるなどしましたが、市場の動揺はなかなか収まりません。日本を代表して赤沢亮正経済財政・再生担当大臣が、トランプ氏をはじめベッセント財務長官らと日本時間17日に協議しましたが、具体的な合意はこの段階では得られませんでした。
このプロセスにおいて日経平均株価だけでなく、米国自身のNYダウも景気後退懸念から大幅な下落を経験しました。
株式市場だけでなく、株価と関係する投資信託、REIT(不動産投資信託)などからもリスク回避のために資金が大量流出し、その資金は国債などの安全資産に回避する動きが顕著となり、一時長期金利は大幅下落(国債価格は上昇)しましたが、またそれもその後乱高下することとなりました。
この原稿を書いている時点では、日本の長期金利(10年国債利回り)は1.3%を少し切る水準、米国債は4.3%でまだまだ予断を許さない状況です。米国債市場が大きく揺れたことが、相互関税発表から時間を経ずに、トランプ氏が90日間の猶予期間を設定した理由だと報じられています。
特に日本は自動車産業の日本経済に与える影響は非常に大きいです。米国への輸出が大きい上にすそ野の広い産業だからです。経営コンサルタントである私の長年の顧客にも自動車部品メーカーがあり、米国やメキシコだけでなく、中国や東南アジアにも生産拠点を持っており、対応に追われています。それでなくてもそれほど強くない日本経済の先行きが大変懸念されます。
■そもそもトランプ大統領は何を目指しているのか
トランプ大統領が異常ともいえる関税を各国に課そうとしている背景にはいくつかのことがあります。
ひとつは、図表1にあるような膨大な米国の貿易赤字を解消することです。表は、貿易収支(モノの輸出入)にサービス収支(特許料などのようにモノ以外の収支)を加味したものですが、2021年以降、1兆ドル(約140兆円)を超える巨額の赤字となっています。
前回のトランプ政権時(2017年〜2021年初)までよりも悪化しています。日本でも貿易・サービス収支が2022年度のように20兆円を超える赤字となるときもありますが、通常は赤字になっても1ケタ兆円の赤字ですから、米国の赤字額がとても巨額であることが分かります。関税により、海外から米国への輸出を減らすことなどで貿易赤字の削減を狙っているのです。
もうひとつの大きな理由は、関税をかけることにより、製造業を米国に呼び戻すことです。米国外で製造されているものを米国内での製造に切り替えることで、米国内の製造業の雇用を増加させることを意図しているのです。
これは、トランプ氏の強力な支持層である「プアホワイト」と言われる製造業に従事する人たちの雇用機会の増加、ひいては賃上げにつながります。
カリフォルニア州などに多い、IT関連などに勤める比較的所得の高い層の人たちは、トランプ氏の主な支持者ではありません。製造業を米国に回帰させることが、トランプ氏の岩盤支持層の支援となるのです。
そういった意味で、関税政策はトランプ大統領が目指す貿易収支の改善と製造業の回帰、雇用改善を強力に後押しすると考えられます。
■為替市場も大揺れ
微妙な動きをしているのはドル・円相場です。乱高下しています。このところ、141円台から147円台を記録しましたが、この原稿を書いている時点では、143円前後で推移しています。
これは、当初は関税強化による米国の景気後退の確率が高まったということで、米国の中央銀行であるFRBが現状4.25〜4.50%の政策金利を下げる時期を早める、あるいは利下げ回数を増やすだろうとの予測から、日米金利差が縮まり円高・ドル安に向かいました。
しかし、中央銀行のパウエル議長は、関税上げによる米国のインフレにも目配せする必要があるとの認識も示しています。また、一連の関税政策は米国に景気後退をもたらすことも懸念されています。つまり、景気後退とインフレ対応という難しい立場に立たされており、下手をすれば、インフレ下の景気後退という「スタグフレーション」にも陥りかねないということです。
トランプ大統領はFRBに利下げを催促していますが、中央銀行としては、そう簡単には判断ができない状況で、そのことがドル・円相場に如実に表れています。
一方、今回の株価の大幅下落などを受け、日銀は利上げの時期をこれまで以上に慎重に見極める必要に立たされました。株価が落ち着けば利上げでしょうが、難しい判断を迫られそうです。
赤沢大臣と米側との交渉では、為替レートの話は出なかったとされていますが、米国は円高・ドル安を望んでいることは自明です。ドル安により輸出が増え貿易収支の改善が見込めるとともに、製造業が回帰した場合にも、余剰生産分の輸出に有利だからです。
■好調な米国経済にも不安が
また、トランプ大統領は負けを認めない本人の性格のせいで、一連の政策が米国経済へのマイナスの影響が続いても、しばらくはやめることはしないと考えられます。その裏には米国経済が日本や欧州などと違って11四半期連続でプラスという背景もあると私は考えています。つまり、米国経済は現状はある程度「強い」ということもトランプ氏を強気にさせる要因なのです。そして、トランプ氏は来年秋の中間選挙までの時間軸を考えていると思われ、それまでに「強いアメリカ」を確実なものにしたいはずです。
しかし、米国経済にも少し陰りが見えています。
図表2は、米国の「消費者信頼感指数」と「ISM景気指数」です。消費者信頼感指数は、1985年を100として、消費者の経済に対する信頼度を指数化したものです。米国では、GDPの70%程度を個人消費が支えており、そのベースとなる指標です。これまで比較的安定的でしたが、3月にはその数字が急落しました。
もうひとつの米ISM景気指数は企業側の景況感を示すもので、「50」が良いか悪いかの境目ですが、1、2月には50を超えていたのが、3月にはわずかですが50を切り、今後の動きに注目です。
前述したように、トランプ大統領の時間軸としては、来年秋の中間選挙までには、今回の関税強化を基にした「ディール」の成果を出したいと考えていると思いますが、それまでには1年半ほどの時間的余裕しかないので、目に見える成果を急ぐと考えられます。
■リスクマネーの動きに異変?
カナダやEU、中国などは、対抗措置として追加関税を米国製品に課すことを表明しています。米国流の交渉の「高い球」には「高い球」を返すというやり方です。一方、日本政府は徹底抗戦の構えはなく、地道に説明するというスタンスです。交渉を担当する赤沢大臣は最終的には為替レートを円高に誘導する、安全保障での負担増などで譲るということかもしれませんが、90日間という猶予期間の中で、今後の展開に大きな不安を残します。
リスクマネーの逃避などで資金の動きが不安定になっている中で、つい先日、私が代表を務める会社が入る千代田区内のビル1階にあるマンション仲介会社が表示しているあるマンション価格を見て、驚いてしまいました。「7億円」という東京のマンションバブルを象徴するような異常に高いマンションの広告が長い間出ていたのですが、それが一気に「6億3000万円」にまで大幅に引き下げられていたのです。
もちろん、この1件だけを見てすべてのことを判断するのはとても危険ですが、ひょっとしたら東京のマンションバブルは崩壊し始めたのかもしれません。
写真=iStock.com/Eloi_Omella
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eloi_Omella
これまで強気だった投資マネーの動きがトランプ関税により変わりはじめた可能性もあります。それはトランプ関税により大打撃を受ける中国人などの海外投資家かもしれませんし、国内投資家かもしれません。詳細は不明ですが、「資金は逃げる時は早い」ことはこれまでの歴史が証明しています。
いずれにしても、今後のトランプ政権の動き、それに対応する日本政府の動きや株式や為替、土地などの市場の動きを注意深く見ておく必要があることは言うまでもありません。
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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)