大谷翔平は"あの通訳"の一発解雇で「花開いた」…ドジャース監督が水原一平に「一つだけ」感謝していること【2025年3月BEST5】

2025年4月19日(土)17時15分 プレジデント社

韓国での開幕戦直後から急きょ大谷選手の通訳を務めることになったウィル・アイアトンさん(=ロサンゼルス) - 写真=共同通信社


2025年3月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。社会部門の第2位は——。


▼第1位 成年会見を見て「愛子天皇しかない」と確信した…皇室研究家「愛子さまにあって、悠仁さまにない決定的な資質」
▼第2位 大谷翔平は"あの通訳"の一発解雇で「花開いた」…ドジャース監督が水原一平に「一つだけ」感謝していること
▼第3位 ビッグモーターの次は「最大手の上場企業」…不正が相次ぐ中古車業界で行われていた「錬金術」の中身
▼第4位 尋常ではない"橋本環奈離れ"が起きていた…NHK「おむすび」が史上最低の朝ドラになってしまった本当の理由
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元通訳・水原一平氏による26億円の“詐欺事件”は大谷翔平やドジャースにどのような影響を与えたのか。番記者のビル・プランケットさんは「一平はチームを混乱に陥れたが、ロバーツ監督は彼にただ一つ感謝していることがある」という——。

※本稿は、ビル・プランケット『SHO-TIME 3.0 大谷翔平 新天地でつかんだワールドシリーズ初制覇』(徳間書店)の一部を再編集したものです。


写真=共同通信社
韓国での開幕戦直後から急きょ大谷選手の通訳を務めることになったウィル・アイアトンさん(=ロサンゼルス) - 写真=共同通信社

■「大谷は試練に直面している」


新しいチームメイト一同からの信頼を集めたことにより、大谷はスキャンダルのせいでシーズンに向けた準備がおろそかになることはなかった。


「あの男は、クラブハウスで本当に見事なふるまいをしているよ」


ベテラン内野手のミゲル・ロハスが証言した。


「つねに本物のプロフェッショナルとして動いていて、冷静で、身の回りのことをいつもきちんとこなしているよ。ショウヘイが実際のところ、どう感じているかをオレから話すことはできないけど。1人のチームメイトとして、あいつがどれほどの試練に直面しているのかは知っている。本当に過酷だと思う。心から同情するしかないよ。できることは、ただそばで支えてあげることだけだよ」


この任務の大部分を負ったのが、間違いなく通訳のウィル・アイアトンである。もともとドジャースの職員だった同氏だが、水原一平の後任となった。


■後任の通訳、ウィルとは何者か


選手、コーチ、スタッフ全体から好かれているこの男は、ドジャースの通訳として2016年に前田健太投手の1年目と同時に入団した。


東京生まれで、アイアトンは15歳のときに家族とともにアメリカへ移住し、オクシデンタル大学とメンロー大学で野球をプレーし、2012年に後者の大学で卒業総代スピーチも行っている。


テキサス・レンジャーズとニューヨーク・ヤンキースでのインターンを経て、彼は前田の通訳としてドジャース入りし、早々に「ウィル・ザ・スリル」の異名をつけられた。打撃練習中やダグアウトでのダンスなどが、チームの雰囲気を盛り上げたと高く評価されたのだ。


前田は2019シーズン終了後にドジャースを離れてミネソタ・ツインズに移籍したが、アイアトンはそのままドジャースに残り、オクラホマシティの3Aで選手育成コーチとして活動するようになった。


■巨額詐欺事件で起こった「組織改編」


1シーズン後、彼はロサンゼルスに戻り、メジャーでパフォーマンス・オペレーション・マネージャーとして、洗練されたトレーニング指導やデータ解析などで辣腕を発揮するようになった。この役割がきっかけで、アイアトンの役割はさらに広まり、情報分析やゲームプランニングで使われるスカウティングビデオの作成などにも携わるようになった。


だが、水原の賭博スキャンダルと急遽の解雇により、アイアトンは大谷の専属通訳となり、ゲームプランニング業務と兼任することとなった。


そしてロバーツ監督は、この組織改編を「ポジティブ」と評した。当時は大谷がいかなるかたちでも、水原と接触することはできなかったからだ。


アメリカでの6年間の生活で、報道陣の前ではなかなか披露しようとしなかったが、大谷はある程度英語を話せるようになっていた。チームメイトやコーチ陣との意思疎通に関しては、四六時中、通訳に頼る必要はなくなっていた。


アイアトンには通訳業務以外の仕事がまだ残っていたので、大谷は否応なくドジャースのクラブハウスで独り立ちを余儀なくされ、水原に頼りきりだったアナハイム時代とは大きく異なる様相となった。


■ロバーツ監督が唯一「良かった」と思っていること


「実を言うとこの一件のおかげで、緩衝材がなくなったから、チーム内部の関係が深まったとも思っているんだよ」


通訳交代についてロバーツ監督が語った。


「ここ数日の様子を見ているのだけれど、私の見るところ、ショウヘイは今まで以上にチームメイトと直接交流するようになっている。今回の一件は悲しいものだけれども、この一点だけはよかったことだと思っているよ」


ドジャースの選手たちはグループチャットをつくり、内輪でお互いに意見交換するようになっている。大谷がチームに入団した当初、水原がこのグループチャットに加わり、大谷の代理で応答していた。だがスキャンダル発覚直後、当然ながら水原のアカウントは削除され、大谷本人がこのチャットに参加するようになった。


「ショウヘイは十分に英語を話せるし、いいヤツだというのがすぐわかるよ。一緒にいて楽しいヤツだね」


クレイトン・カーショーは大谷をそう評した。


「少なくとも外面を見ただけだと、今回の事態にあいつはうまく対処しているように見える。われわれには何の異変も見せないんだ。オレにも見えないしね」


数週間後、ロバーツ監督は、大谷が水原の不在のおかげで「花開いた」とまで語った。


「ショウヘイはあの一件以来、さらに自立するようになり、周りと打ち解けるようになった。何といっても、いちばん信頼していた人物が裏切ったわけだからね」


さらにロバーツ監督は、シーズン半ばにはこう語った。


「自分で話すようになって、彼の本来の性格が出てきているように感じるよ」


写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Jacob Wackerhausen

■「ショウヘイは全然メンタルがやられていない」


チームメイトのタイラー・グラスノーは、ポッドキャストのインタビューに応じ、


「オレらは全員、早い時期からイッペイが何か後ろめたいことがあるのだと気づいていたよ」


と語り、クラブハウスで軽い調子ながら大谷に、


「オレたちはお前の味方だから安心しろよ」


と伝えたという。同時に彼が口にしたのは、少なくとも表向きは大谷が「いっさい、このスキャンダルで苦しんでいる様子を見せない」ことだった。


「人は自分が何もやましいことをしていないと知っているときは、そのうち時間が解決してくれるものだと思う」


グラスノーは、ポッドキャスト番組「クリス・ローズのローテーション」で語った。


「けど、ショウヘイを見る限り、全然メンタルがやられているようには見えないんだ。何はともあれ、無実が証明されて野球に集中できる状態になってよかったと思う。まあ、今年いっぱいはこのことを聞かれ続けると思うけど、うまく対処していくのではないかな」


この言葉どおりだった。スキャンダルの渦中でシーズン開幕を迎えたが、滑り出しは上々だった。それは大谷には強力な支えがあるからだと、CEOのスタン・カステンが指摘した。


「すべてが驚異的だよ。だが、そもそもわれわれは驚いていいのか?」


■「われわれは全員プロフェッショナルだ」


カステンはこの年の後半になってから、こう語った。


「われわれはあの男が、巨大な重圧のなかで戦うのを目撃してきたわけだ。去年のWBCでの活躍を見たか? 君は見たか? あの男にとって、大きすぎる舞台というのはそもそも存在するのか? 私はないと思うね。だから、彼が対処してやってくれるのは驚くべきことではない。とくに本件に関しては、彼こそが世界で唯一、最初から最後まで真実を知っている人だからね。だから疑問の余地がない。何の心配もない。本人もこれ以上の処分が下ることはないとわかっていたはずだ。だから、私はこのように彼が結果を出し続けてくれても、驚きはない。何も驚くようなことではないんだ」


“大谷・水原狂騒曲”で、何か新しい動きがあるたびに過剰反応する報道陣一同だったが、このせいでドジャースのクラブハウスにいる、その他全員の選手たちに悪影響をもたらす危険性は大きかった。だが、ロバーツ監督はその危険性を早々に否定した。


「何事に対しても分業は重要だろう。つねにプロフェッショナルとしてふるまわなければならない。そして、われわれのクラブハウスにいる男たちは全員本物のプロだからな」


監督は、ドジャース一同が本国での公式戦に向けて準備万端だと強調した。


「感情的に多少振り回されていることは否定しないが、必要以上に大谷の現状に感情移入しすぎているわけでもない。われわれ自身にそれぞれやるべき仕事が目の前にあるということだよ。だから私としては、あまり深く心配していない。すでに話したとおり、集中力が削がれることはあるだろうし、球場外でいろいろと問題は起こる。だが、われわれの一団は、今やけっこう長い時間一緒にいるおかげで、団結力も強くなっている。そういう邪魔なものを頭の外に追い出すことができる。われわれが集中すべきは野球だけであり、今日この日に選手一同が考えているのは野球のことだけだ。そこは私から約束してもいいと思うよ」


■「何が起きても野球に集中するだけ」


大谷の視点から見ると、損失は個人的な側面が大きかった。


田中真美子さんと結婚するまで、水原は今までの人生でほかの誰よりも特別に近しい存在だった。大谷は人生のなかでも最大のこの大変動を極力小さなものにしようと努め、


「この間ずっと支え続けてくれているチームの選手たちとスタッフに感謝している」


と、ただただ繰り返すばかりだった。


彼の野球に集中する能力について、大谷本人はこう明かした。


「球場外でどんなことが起こったとしても、僕の野球の試合に対する集中力は変わりませんよ。僕の仕事は毎日試合で力の限りを発揮することですから」


大谷が新しい現実とドジャースにおける新しい環境に馴染んでいく一方で、一平は連邦裁判制度の中に身を投じていた。


4月12日に、水原は連邦捜査に対して全面自白した。


同日の夜、ドジャースタジアムにて、大谷は初回に本塁打、5回と7回に二塁打と5打数3安打を記録したが、試合は延長の末、サンディエゴ・パドレスに敗れた。


5月8日、水原は司法取引に合意し、大谷翔平の銀行口座から違法に1700万ドルを送金した件に関して、有罪判決を受け入れた。


同日午後、大谷はドジャースタジアムでのマイアミ・マーリンズ戦で3−1と試合には勝ったが、自身の打撃成績は4打数0安打だった。


■長時間睡眠にも影響はあったが…


5月14日、水原は法廷に出廷し、銀行詐欺と虚偽の納税申告の罪状認否に臨んだ。


同日夜のオラクル・パークで大谷は、本塁打1本と二塁打1本を含む5打数3安打を叩き出した。ドジャースが初めて、ジャイアンツを10−2と圧倒した試合だった。


この日、大谷は水原の裏切りにより、自身の世界がいかに凍りつき、伝説ともいえる長時間睡眠が妨げられたことを認めた。


「当初は、僕も眠れませんでした。いうまでもなくああいう事件が起こったからです」


サンフランシスコでの5月シリーズ最中に、彼は苦悩を明かした。


「ですが今は、いつものルーティーンをきっちりとこなせていますし、十分に眠れています。そのおかげでいい結果もついてきているのかなと思います。事件の捜査も進み、もう僕が関わる部分はなくなりました。それ以来ずっと寝ることに集中できるようになりましたし、実際ぐっすりと眠れるようになりましたよ」


■大谷は「立場が弱かった人」


6月4日、水原はサンタアナにある法廷に出廷し、公式に銀行詐欺と税金詐欺に関して罪を認める有罪答弁を行った。この容疑には最大禁錮33年が課される可能性があるのだが、水原は有罪を認めているため、これよりは刑期が短縮されることを期待できる。水原は法廷で裁判官から問われた際にこう答えている。


「私は被害者A(大谷)のために働き、彼の銀行口座にアクセスすることができました。賭博で莫大な借金を抱えることになり、ここから(借金から抜け出す)唯一の方法として、彼のお金に手をつけることしか思いつかず、そこで彼の口座からギャンブルの借金を送金したのです」


合衆国カリフォルニア州中央地区検事のマーティン・エストラーダは、聴聞のあとに報道陣の取材に応じ、大谷を「立場が弱かった人」と描写した。


「大谷氏はこの国に移民としてやってきて、この国の仕組みなどに不案内が故に、多少はこの国の金融システム等にくわしい人物の餌食になりやすい状態にあった」


とエストラーダは総括した。この有罪答弁を経て、メジャーリーグ機構は本件に関して大谷の関与はなかったと結論づけ、調査の打ち切りを発表した。


「公になった徹底した連邦捜査の結果から鑑みて、MLBは収集した情報と係争の余地がない犯罪証拠に基づき、大谷翔平を詐欺の被害者と認定し、本件は解決したものとする」


メジャーリーグ機構が同日に出した声明にはそう書かれていた。


■事件は大谷のパフィーマンスに影響を与えなかった


代理人が出した声明において、大谷は水原が「全面的に有罪を認めたことにより……私と家族に対して一件落着がもたらされた」とまとめていた。



ビル・プランケット『SHO-TIME 3.0 大谷翔平 新天地でつかんだワールドシリーズ初制覇』(徳間書店)

「本件は非常に特殊な案件であり、この困難な時期に支えてくれたチーム一同、家族、代理人、事務所、弁護団、そしてアドバイザーと、今回の一件で一貫して支え続けてくれたドジャース球団関係者全員に感謝申し上げます」


と大谷の声明はつづられていた。


「そろそろこの話は終わりにして、次に進んで、あとはただ試合に集中して勝つことだけを考えていきたいと思います」


あの晩、大谷は4打数1安打で、ドジャースはピッツバーグ・パイレーツに対し、0−1の完封負けを喫した。ロバーツ監督は、こう答えた。


「ショウヘイはうまく対処していると思うね。試合のパフォーマンスに影響をおよぼしているとは思えないね。本当に影響はなさそうだな」


彼は正しかった。


(初公開日:2025年3月16日)


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ビル・プランケット
記者
1961年12月30日、ミシガン州デトロイト生まれ。40年以上、日刊紙で執筆を続け、この25年はオレンジ・カウンティ・レジスターと関連紙で記事を掲載している。2003年シーズンよりMLBの取材に入り、最初の数年間はロサンゼルス・エンゼルスを担当していたが、その後の大部分はロサンゼルス・ドジャースを担当している。殿堂入り投票権をもち、スポーツネットLA、MLBネットワーク、そのほか全米ラジオ番組等にも出演多数。
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(記者 ビル・プランケット)

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