尋常ではない"橋本環奈離れ"が起きていた…NHK「おむすび」が史上最低の朝ドラになってしまった本当の理由【2025年3月BEST5】
2025年4月19日(土)18時15分 プレジデント社
画像=プレスリリースより
2025年3月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。社会部門の第1位は——。
▼第1位 成年会見を見て「愛子天皇しかない」と確信した…皇室研究家「愛子さまにあって、悠仁さまにない決定的な資質」
▼第2位 大谷翔平は"あの通訳"の一発解雇で「花開いた」…ドジャース監督が水原一平に「一つだけ」感謝していること
▼第3位 ビッグモーターの次は「最大手の上場企業」…不正が相次ぐ中古車業界で行われていた「錬金術」の中身
▼第4位 尋常ではない"橋本環奈離れ"が起きていた…NHK「おむすび」が史上最低の朝ドラになってしまった本当の理由
▼第5位 やっぱり「愛子天皇」しかない…皇室研究家「天皇家にあって、秋篠宮家にない"天皇の資質"」の決定的な差
放映も残すところ数週間となったNHK朝ドラ「おむすび」の平均視聴率が過去最低の「ウェルかめ」(2009年度後期)を下回る可能性が出てきた。次世代メディア研究所代表の鈴木祐司さんは「ヒロインを務めた橋本環奈さんは“1000年に1人”と評される逸材だったが、数字上、その株価は暴落してしまった」という——。
画像=プレスリリースより
橋本環奈がヒロインの朝ドラ「おむすび」の放送が残り1カ月を切った。
そのストーリーにはスタート直後からネガティブな反応が多かったが、その後も視聴者の脱落が続いた。そして最近の世帯視聴率は13%を下回り、これまでの最低だった2009年度後期の「ウェルかめ」(主演:倉科カナ)の13.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を下回る情勢だ。
“1000年に1人の逸材”と注目を集め、その後、トップ女優の階段を駆け上がったハシカンの株価暴落の要因を考えた。
■橋本環奈の株価暴落
株価暴落ぶりを露呈してしまったのは、朝ドラ直後の生放送番組「あさイチ」内の人気コーナー「プレミアムトーク」での登場シーンだった。芸能人らの番組での裏話や素顔を知ることができるこのコーナーにはこれまでの朝ドラの主人公もしばしば出演しており、ハシカンも2月21日の放送で出演した。
出典=TVS REGZA「視聴データ分析サービス」
その際の数字がひどかった。グラフで一目瞭然、そもそも朝ドラ部分の数字が低い。しかし問題は、冒頭で顔のドアップで登場した直後。直近3作の主人公たちと比べても、急落ぶりが顕著なのである。
例えば24年度上期の伊藤沙莉(「虎に翼」)は、冒頭1分で0.5%ほど下落した。23年度下期の趣里(「ブギウギ」)は0.4%台。そして23年度上期の神木隆之介(「らんまん」)も0.5%台だった。
朝のこの時間は、朝ドラを見てから、外出するか家事を始める視聴者が多い。そのため、「あさイチ」開始で数字が落ちるのはしかたないが、朝ドラの出演者がそのまま生放送に登場する「プレミアムトーク」があるとなると、予定を変更してテレビを見続ける人が多い。過去3作の主人公たちもそのパターンだった。
ところがハシカンは、1分で0.7%以上を失った。さらに5分で1%以上、10分で1.4%ほどと急落ぶりは尋常ではなかった。視聴率における0.1%はとてつもない大きな意味を持つ。コーナー内では、MCの博多華丸・大吉の2人を相手にドラマの舞台裏や俳優としての仕事ぶりなどのトークが展開したが、見続けたいと思った視聴者は多くはなかった。
■下落率の意味
その後のプレミアムトークの視聴率の動向を、(番組開始時からの)下落率でみると状況がより明確になる。
出典=TVS REGZA「視聴データ分析サービス」
伊藤沙莉と趣里は、冒頭4分間で粘りに粘った。用事のある人々が、後ろ髪を引かれる思いでその後テレビから離れている様子が想像される。
ところが橋本環奈の場合は、冒頭4分で2割の視聴者が逃げた。その後も離脱は同じペースで続き、結局15分で3割に逃げられている。
過去には素晴らしい記録も残っている。「カムカムエヴリバディ」の初代ヒロインを演じた上白石萌音の時は、視聴率の下落率が小さく、多くの視聴者をテレビにくぎ付けにした。
実は橋本環奈も、2022年1月7日に同コーナーに初登場した際は、上白石萌音に負けず劣らず好記録だった。当時、ふたりは大ヒットアニメの舞台化「千と千尋の神隠し」に共に挑戦している時でもあった。高校生が選ぶ「今いちばん好きな女優ランキング」でハシカンが1位だったことも大きい。
3年経過した今回は惨敗で、まさに隔世の感がある。
■序盤の躓き
要因はいろいろあるだろう。ネット記事の中には、「パワハラ疑惑報道(※)が致命傷」などの解説もある。ただし真偽のほどが定かでないので、ここではエビデンスに基づいて議論したい。
※2024年10月31日に発売された『週刊文春』の11月7日号に、収録現場でマネジャーに対して「使えねぇ」などと暴言を吐くなどのパワハラ疑惑が掲載、これまでに多くのマネジャーが退職したと報じられた。
出典=TVS REGZA「視聴データ分析サービス」
「おむすび」の視聴率は、文春のパワハラ報道が出る前に急落している。そして報道後は、しばらくはやや挽回した。つまり視聴者はスキャンダル報道より、純粋にドラマの面白さで“見る・見ない”を決めているようだ。
筆者はその第1週が終わった時点でプレジデントオンラインにて〈朝ドラ史上まれにみる「第1週で脱落」現象…橋本環奈の「おむすび」が「これから面白くなる気がしない」辛辣理由〉という記事を配信した。初回こそ視聴率は高かったが、第1週後半で早くも失速してしまったからだ。日本初の女性弁護士・判事として昭和を生きた女性の物語「虎に翼」の後が、平成ギャルの“自分探し”物語となったため、中高年の多くが興味を失ったのである。
「虎に翼」は、これまでにない朝ドラとして新たな視聴者を獲得した。ところが普通の人の普通のお話から入った「おむすび」は、新規顧客を早々に失っただけでなく、朝ドラの鉄板ファンにも逃げられた。これが序盤4週で週平均視聴率を3%超失った要因だった。
■「朝ドラ受け」の変化
中盤以降もズルズル視聴率が下落する傾向に対して、「あさイチ」も対応を変えていた。朝ドラ受けを大幅に減らし始めたのである。
コラムニストの堀井憲一郎氏によれば、「虎に翼」では100話までに67回朝ドラ受けが行われた。ところが「おむすび」では、その数が約3分の1減らされていたというのである。
それでも依然として回数は多い。前番組を話題にするのは、生放送を印象づけられる良策だ。視聴率の下落を1〜2分でも抑えられるのなら、積極的に採用しない手はない。
ところがドラマの評判がイマイチとなれば、策を講じるしかない。ヒロインの橋本環奈が登場しても下落率が大きかったのだが、制作側は当然のこと状況が分かっていて対応を決めていたのだろう。
■伏線回収の落とし穴
では「おむすび」は何がダメだったのか。すでに平成ギャルの“自分探し”が、今の中高年には関心外だったことは述べた。ストーリーの中には序盤から違和感のある展開がいくつもあり、突っ込みどころ満載だった。
そのモヤモヤは第21週「米田家の呪い」(2月24〜28日放送分)で判明した。
結(橋本環奈)の父・聖人(北村有起哉)と祖父・栄吉(松平健)との軋轢の謎が判明し、ふたりがはじめて分かり合う。しかも“ほら話”ばかりと思われた栄吉の過去が、葬儀の際に全て本当だったことが明らかになる。ある意味、感動的な1週間だった。
この展開を「根本ノンジ脚本の真骨頂」とする意見がある。確かに第1回から「米田家の呪い」という言葉がドラマ内で繰り返し登場した。「困っとう人ば助けるのに、理由やらいらんやろ」という栄吉の言葉が、視聴者に大きな感動と共に届けるために序盤の展開があったというのである。
しかし少し待ってほしい。「5カ月後の感動」のために、序盤4週間も続く違和感を我慢させられる視聴者のストレスは大きくなるばかり。平成ギャルの“自分探し”に留まらず、聖人と栄吉の不仲ぶりや栄吉の突拍子もない言動が延々と展開され、「この物語は我々をどこに連れていくのか」不安になった視聴者は少なくない。それが序盤で視聴者の2割が流出し、ドラマのヒロインが「プレミアムトーク」に登場しても挽回できなかった最大の要因なのではないだろうか。今や、次回の朝ドラである今田美桜主演の「あんぱん」を早く見たいとの声もよく聞かれる。
教訓はシンプルだ。テレビドラマの視聴者は、自分の関心事をしっかり柱に置いてほしいと思っている。そして忙しい現代の視聴者は、半年間をずっと見続ける前提でテレビの前にいるわけではない。1日15分、あるいは月〜金の5回を費やした分の満足感が不可欠だ。
「最後まで見れば感動的でしょ?」。送り手側にそんな論理があったとすれば、それは甘い。種明かしをして伏線の回収時の感動を大きくしようとするあまり、苦行を視聴者に強いてはいけない。感動の予感を序盤から匂わせたり、小出しにしたりしてうまく伝えてこそ、名作となれる時代なのである。
(初公開日:2025年3月5日)
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鈴木 祐司(すずき・ゆうじ)
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト
愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。
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(次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司)