「親子丼」を「おやこどん」と読む人は20代と30代に多い…年代・性別・地域でも差が出る「身近な食べ物」の呼び方

2025年4月19日(土)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

「親子丼」の読み方は「おやこどん」なのか「おやこどんぶり」なのか。NHK放送文化研究所の塩田雄大さんは「どちらで読んでもかまわないが、『おやこどん』と読む人の方が多いようだ。特に20代と30代ではその傾向が強い」という——。

※本稿は、塩田雄大『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語 NHK調査でわかった日本語のいま』(世界文化社)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/Promo_Link
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Promo_Link

■「親子どん」か、「親子どんぶり」か


Q 漢字で「親子丼」と書いてあったら、「おやこどん」と読んだらよいのでしょうか。あるいは「おやこどんぶり」と読んだほうがよいのでしょうか。


A どちらで読んでもかまいませんが、「おやこどん」と言う人が多いようです。

漢字を使う目安は「常用漢字表」というものをもとにするのですが、これは国が定めています。1981(昭和56)年に定められた常用漢字表には、「丼」という字は含まれていませんでした。どういうことかと言うと、この「丼」の字は学校教育で教える必要がなく、また新聞や放送でも基本的に使わないということになっていたのです。そのため、マスコミでは、「親子どん」または「親子どんぶり」という書き方をしていました。


その後2001(平成13)年に、新聞社・放送局が加盟する日本新聞協会で、常用漢字表に含まれていない「丼」などの漢字39字をマスコミとして独自に使用することに決めました(なお常用漢字表はその後2010(平成22)年に改定され、現在のバージョンでは「丼」も含んでいます)。そしてNHKでも、2002(平成14)年度の放送から、「親子丼」という書き方をすることができるようになったのです。


■「〜どん」と言う人は20代と30代に多い


2001年におこなわれたNHKの放送用語委員会で、「丼」の字を採用するにあたって「どんぶり」「どん」の2通りの読み方をすることが承認されます。このとき、次のような考え方が示されていました。


「丼」には「どんぶり」と「どん」の2つの読みが認められたが、「たまご丼」とあった場合は両方の可能性がある。用語班の考え方は、容器としての「丼」は「どんぶり」のみ、また料理名は原則として「〜どん」を第一とし、「親子丼」など、前に付くことばが省略形でない場合は「〜どん」「どんぶり」の両方を認めようというものである。(『放送研究と調査』2002年3月号、p.99)

具体的に考えてみると、「天丼」「うな丼」は「てんぷらどんぶり」「うなぎどんぶり」を略したもので、「天どんぶり」「うなどんぶり」とはなりません。また「牛丼」や「かつ丼」(「ネギトロ丼」「ロコモコ丼」……)も、「牛どんぶり」「かつどんぶり」と言う人は、あまりいないように思います。


一方、「親子丼」や「鉄火丼」などの場合には、「〜どん」「〜どんぶり」の両方が使われています。ただし、この2つも実際には「〜どん」と言う人のほうが多く、特に20代や30代ではその傾向が強いようです。


今回は丼の話だけに、分量が多すぎてしまったかもしれません。おそまつさまでした。


画像=『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語

■「ざるそば」と「もりそば」はどう違うのか


Q 「ざるそば」と「もりそば」とは、どう違うのでしょうか。


A この2つは「違う食べものだ」と考える人がかなりいるのですが、「『もりそば』という言い方にはなじみが薄い」という人も多いのが現状です。

古くは、麺に汁をつけて食べるスタイルのそばは「そばきり」と呼ばれていました。


江戸時代になると麺にあらかじめ汁をかけた状態で供する「ぶっかけそば」(現在の「かけそば」)がはやりはじめ、伝統的な「つけ麺」タイプのものはこれと区別するために「もりそば」と呼ばれるようになりました。これは、せいろや皿に盛られていました。


その後、江戸時代の中期に、ある店が御膳そば(そばの実の中心部分のみを使ったもので、白っぽい)を「ざる」に盛って売り出しました。ここに、「もりそば」と「ざるそば」の共存・すみ分け時代が始まりました。


明治時代には、器が「せいろ・皿」か「ざる」かということのほかに、「ざるそば」のほうにはみりんを加えたコクのある汁を添えることによって「もりそば」とは明確に区別することもあったそうです。


また現代では、「のりがかかっているのが『ざるそば』、かかっていないのが『もりそば』」だと言われることもあります。


■性別・年代・地域で異なる認識


一方、アンケートの結果では、「『ざるそば』はよく見かける(『もりそば』はほとんど見かけない)」と、「両方とも見かけるが、それぞれ指すものが違う」という人が、それぞれ同じくらいいることがわかりました。前者の「ざるそば専用派」は【女性・若年層】に多く、後者の「使い分け派」は【男性・非若年層】に多い結果になっています。


また、【関西・中国・四国・九州沖縄】といった西日本では「ざるそば専用派」が過半数、反対に【北海道・関東・甲信越】では「使い分け派」が過半数と、地域差も現れています。


全体的に見ると、「もりそば」が廃れつつある様子がうかがえます。


「もりそば」の話を記してきましたが、話を盛りすぎてしまったところはなかったかと気にしています。


画像=『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語

■水ようかんを「水菓子」と呼んでいいのか


Q 水ようかんなどのことを「水菓子」と言うのはおかしいと指摘されたのですが。


A 伝統的には、確かにそのとおりです。「水菓子」ということばは、本来は果実類のことを指すからです。

「水菓子」ということばの成り立ちについて考えてみましょう。


まず、関連するものとして「くだもの」「菓子」ということばを取り上げてみます。


古くは、「くだもの」と「菓子」は、ともに「正式な食事以外の軽い食べもの」全般を指すことができることばでした。つまり、果実類・菓子類・間食や、はては酒のつまみなどのことをひっくるめて「くだもの・菓子」と呼ぶことができたようです。


この2つのことばの違いは、「和語(やまとことば)」か「漢語(漢字書き・音読みのことば)」か、という程度のもので、あまり意味の違いはなかったものと思われます。


なお、「くだもの」は「く(木)+だ(の)+もの」で、もともとは木になる実、つまりフルーツのことを指していました。それがその後、「木のもの」という語源の意識が薄くなって、「正式な食事以外の軽い食べもの」全般を指すように意味が広がったものと考えられています。


また「菓子」は、現代では「果実」の「果」の字に草冠が付いた漢字を当てますが、これはもともとは草冠のない形、つまり「果実」の「果」の字に「子」で「果子」というように書いていたといいます。ということは、「菓子」もやはり、もともとは「果実」を指していたものと考えられます。


これが江戸時代ごろになると、「菓子」ということばが「人が手を加えて甘く作った食べもの」のことだけを限定的に指すように変化しはじめます。


一方、果実類を指す場合には、上方では「くだもの」、江戸では「水菓子」ということばが使われるようになったようです。


現在では果実類を指す場合に、全国的にも「くだもの」と言うことが多く、「水菓子」とはあまり言わないのが実情です。


■「水ようかん」や「くずもち」を水菓子と呼ぶ業界もある


なお本来の意味とは別に、一部の業界では、水ようかんやくずもちなどの総称として「水菓子」ということばを使う場合があります。ただし、これはあくまで専門分野での使い方だと心得ておいたほうがよいでしょう。「『水菓子』というのは本来くだもののことだが、専門業界では水ようかんなどのことを指すのだ」と考えておくのがよいかもしれません。



塩田雄大『ゆれる日本語、それでもゆるがない日本語 NHK調査でわかった日本語のいま』(世界文化社)

また「スイーツ(スウィーツ)」ということばは、お菓子(甘いもののみ)・デザート・ケーキ・和菓子などをひっくるめて指すことばです。


現在「お菓子」と言うとポテトチップスなどのスナックも入ってしまうし、また「デザート」と言うと食後に限定されてしまう、などということがあって、近年になって新たに使われるようになったのでしょう。


小学生のころ、遠足のときに「おやつのお菓子は三百円まで」と言われて「バナナはおやつに入りますか」という質問があったりしました。バナナは現代では「果物」ですが、もし大昔だったら、「果子(菓子)」ととらえられていたかもしれませんね。


----------
塩田 雄大(しおだ・たけひろ)
NHK放送文化研究所主任研究員
学習院大学文学部国文学科卒業。筑波大学大学院修士課程地域研究研究科(日本語専攻)修了後、日本放送協会(NHK)に入局。『NHK日本語発音アクセント新辞典』などに従事。2011年、博士(学習院大学・日本語日本文学)。著書に『変わる日本語、それでも変わらない日本語』など。2015年からNHKラジオ第一放送『ラジオ深夜便』「真夜中の言語学 気になる日本語」担当。
----------


(NHK放送文化研究所主任研究員 塩田 雄大)

プレジデント社

「親子丼」をもっと詳しく

「親子丼」のニュース

「親子丼」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ