ビッグモーターの次は「最大手の上場企業」…不正が相次ぐ中古車業界で行われていた「錬金術」の中身【2025年3月BEST5】

2025年4月19日(土)17時15分 プレジデント社

全国展開する中古車販売会社のネクステージ(プレスリリースより)


2025年3月に、プレジデントオンラインで反響の大きかった人気記事ベスト5をお送りします。社会部門の第3位は——。


▼第1位 成年会見を見て「愛子天皇しかない」と確信した…皇室研究家「愛子さまにあって、悠仁さまにない決定的な資質」
▼第2位 大谷翔平は"あの通訳"の一発解雇で「花開いた」…ドジャース監督が水原一平に「一つだけ」感謝していること
▼第3位 ビッグモーターの次は「最大手の上場企業」…不正が相次ぐ中古車業界で行われていた「錬金術」の中身
▼第4位 尋常ではない"橋本環奈離れ"が起きていた…NHK「おむすび」が史上最低の朝ドラになってしまった本当の理由
▼第5位 やっぱり「愛子天皇」しかない…皇室研究家「天皇家にあって、秋篠宮家にない"天皇の資質"」の決定的な差


旧ビッグモーターで発覚した保険金の不正請求をきっかけに、中古車販売業界で不祥事が次々と明らかになった。金融庁は実態を明らかにするため複数の企業に立ち入り調査をしたが、そのうちの1社で別の社内不正が浮上していることが分かった。ビッグモーター問題を取材してきた自動車生活ジャーナリストの加藤久美子さんがリポートする——。
全国展開する中古車販売会社のネクステージ(プレスリリースより

■名古屋の上場企業で「大きな不正」


2月27日、情報提供者のA氏から一通のメッセージが届いた。


「名古屋の上場している大手中古車販売会社で、内部で大きな不正があり、管理職が数名解雇処分になるみたいです」


このメッセージのあと「明日2月28日お昼にオンラインで会長からお達しがある。すでに、不正に関わった複数名の社員は自宅待機になっている」という内容が続いた。


・本社は名古屋で上場
・会長から通達


これらの情報から、はじめは保険金の不適切請求が発覚し、今年1月24日に金融庁から保険業法に基づく業務改善命令が発出されたグッドスピード(名古屋市)かと思ったが、「会長」が直々に通達を行うところで、これはネクステージだと確信した。


■ビッグモーターに代わり業界最大手に


ネクステージは1998年に中古車販売として創業し、東証プライム市場と名証プレミアに上場している。公式サイトによると全国に350店舗を展開。中古車だけではなく各店舗で人気の新車も販売しており、複数の正規輸入車ディーラーの経営も手掛けている。


ここ10年で10倍以上の急成長を遂げ、直近の2024年11月期の売上高は5527億円と過去最高を記録した。「ガリバー」を運営するIDOMや、ビッグモーターの最盛期の売上高5200億円(2022年9月期)を大きく超えて、日本最大の中古車販売業者に位置付けられている。


ビッグモーター問題への対応としては2023年8月、不正車検や保険金水増し請求について社内調査した結果、「不正な案件については確認されませんでした」と発表した。


しかし、2023年9月には、週刊誌の取材を受け、複数の社員が友人の名義などを使って車の保険契約を捏造していたことを公表し、ビッグモーター出身の当時の浜脇浩次社長が辞任した。それ以降、創業者で会長の広田靖治氏が社長を兼務している。


■客のクレカを不正利用し、従業員逮捕


2024年12月、業界内で横行していた自動車保険の不正請求の実態を明らかにするため、金融庁がネクステージにも立ち入り検査を始めたが、この企業を巡ってはこれまでに複数の不祥事が発覚している。


2018年には、売上金を着服したとして40代の男性従業員が解雇されている。この時の不正な契約は約30件で合計1億6000万円に上った。


会社に無断で買い取った車を業者に転売したケースもあったが、実はこれは中古車業界では定番の不正行為である。ごく最近も、メーカー100%出資の大規模ディーラー(東京都)で同様の事案が発覚し、国税庁の調査が入った。


ネクステージの名前が車好き以外にも一気に拡散されたのは、2023年11月にYouTuberのKENZO【新宿109】が公開した突撃動画(再生回数670万回超)である。


当時のネクステージ従業員Kがオイル交換と無料査定に訪れた客の車を預かった際、車内にあった財布からクレジットカードの情報を取得。そのカードを使ってメルカリで約12万円の買い物をしたというものだ。


被害者はカードの明細が届いて不審に思い、カード会社に問い合わせたところ当該従業員の名前や電話番号などを入手できた。すぐに警察に相談したが数カ月待っても警察が対応せず、KENZOに突撃を依頼したという経緯だ。


突撃の際には警察も呼んでおり、約8カ月後にやっとKは逮捕された。Kは過去にビッグモーターやグッドスピードでも勤務経験がある人物だった。


■突然、創業者が行ったオンライン通達


今年2月28日。ネクステージ社員によると、広田会長兼社長はA氏の予告通り、お昼頃からオンライン上で管理職以上の社員に向けて「横領についての話」を行い、「関与した者は名乗り出てほしい」と呼び掛けた。なお後述するが、この広田氏の発言に関して同社広報室の見解は異なっている。


写真=時事通信フォト
記者会見するネクステージの広田靖治会長兼社長=2024年1月9日、名古屋市中区 - 写真=時事通信フォト

実は、このオンライン通達の1週間前となる2月21日にはネクステージの第26回定時株主総会が行われたが、この直後から自宅待機になっている関与社員が複数名いるという。また、筆者のところには「主犯格の数名がすでに解雇された」という情報も入っている。


業界売上ナンバーワンの上場企業で一体何があったのか。A氏のほかネクステージの社員・元社員や社内事情に詳しい出入り業者らを取材した。


■会社の商品を勝手に転売して自分の懐へ


その結果、ネクステージでは社員による「横領行為」があったという複数の証言が得られた。


筆者のところには、関与したとみられる数名の社員の実名が届いている。社内の仕入れ担当者や買い取り責任者が中心で、彼らは複数の手口で不正を働いており、中には中古車業界では伝統的な手口もあった。


・新車の一部を転売

ネクステージは中古車だけでなく新車も扱っており、多様なメーカーと取引している。代理店とのやり取りの中で、勝手に新車の一部を転売していた。


転売の売上金は、元社員を含む関与社員が新車受け入れのために作った会社に入金。関係者は「元手はゼロであり、1社あたり年間数千万円の大儲けとなる」と説明した。


・無料プレゼント用の品や買い取った車のパーツを転売

顧客に無料でプレゼントする1個数万円のカー用品をネットオークションで転売していた者もいたという。また、顧客から買い取った車に付いている高額なパーツや高級ホイール、タイヤなどを買取後にこっそり外してヤフーオークションやメルカリで売却していた。金目のパーツを勝手に転売するという手口は、中古車業界ではよく聞く話だ。


・業者オークションでの不正

中古車店と業者オークションは密接な関係があるが、中にはオークションでの不正な価格操作が行われる実態もある。ネクステージの場合も同様で、業者からのキックバックや相場の操作などが行われていた。期間限定で月数百万円の不正な利益を得ていたという情報もある。


■ロレックスは「不正によって手に入れた」


今回取材した関係者が、こうした横領行為を見聞きしたのは7〜8年前のこと。一部の社員はもっと前から手を染めていた可能性もある。


中心人物とされるある幹部社員は、7年ほど前から年収に見合わないロレックスなどの高級腕時計を「不正によって手に入れた」など周囲の人々に自慢していた。


また、別の社員は新車の軽自動車を「原価ゼロ」で買ったことを自慢していたという。「犯罪」という意識がないままに横領を繰り返していた可能性が否定できない。


■仕入れ担当でなければ実行不可能な手口


ほかにも、大小さまざまな横領の手口があるそうだが、共通しているのは「仕入れを担当する幹部社員」が関わっていることだ。


一般客からの買い取りや業者オークションに関わる者、あるいは代理店からの新車を担当する者など、「仕入れ」を仕切る立場の関与がなければ不可能な話である。そして、横領で得た「売上」は元社員が中心となって作った複数の別会社の口座に入金されている。


また、もう一つの共通点は、横領に手を染めた社員たちは「ハナテン」出身者が中心ということ。ハナテンは1963年に「放出(ハナテン)中古車センター」として開業した関西中古車界、オークション界の雄である。


2000年代初頭からビッグモーターとの業務提携を行っており、2013年には26の直営買取店をすべてBIGMOTORに店名変更。2016年にはビッグモーターの完全子会社となった。現在は伊藤忠傘下のWECARSにより事業が継承されている。


写真=iStock.com/hxdbzxy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hxdbzxy

■社内で把握しているのは別の「不適切な事案」


今回、これらの横領行為についてネクステージに3月6日付で質問状を送ったところ、翌7日に広報室から電話での口頭で編集部に対して回答があった。


2月28日の広田氏によるオンライン通達は、「不適切な事案」に関して「情報提供」を求める内容だったとし、関与した若干名の社員が自宅待機の処分を受けたという。


しかし、取材で判明した横領行為については「現時点では一切把握しておらず、事実と異なる」という回答だった。


今後の情報公開に関する質問には「現状、ステークホルダーの方々に対して何かするという状況ではない」としたうえで、同社が把握している「不適切な事案」については「全容を調査中で、調査を進めていく中で結果や規模感を総合的に加味し、検討していく」と話した。


この回答で気になるのは、今回紹介した横領行為とは異なる「不適切な事案」が発覚し、社内調査をしているということだ。


■中古車業界は「浄化」できるのか


2023年、業界トップのビッグモーターによる保険金不正請求問題から、芋づる式に不祥事が発覚した中古車業界。まじめに健全な経営をしてきたにもかかわらず、「中古車販売会社は悪いことをして儲けている」というイメージが定着した、と憤る業界関係者は多い。


「新人の時からそれが不正なことだと知らされずに、売上を増やす方法を教えられてきた大手中古車販売会社の社員は少なくない。抱き合わせ販売や長期ローンの強要、買取後の減額交渉など、長い間、当たり前のように行ってきたことが実は保険業法違反や独占禁止法で禁止される『不公正な取引方法』に該当することを知らずにやってきた。完全な浄化は難しいと思う。せめて正直な中古車業者がバカを見ない業界になってほしい」(都内の個人経営中古車店)


ビッグモーターやネクステージに限らず、この業界を取材すると驚くような不正が次々と出てくる。メーカー系の新車ディーラーでも、いまだに下取り車の転売などの確実な不正情報が入ってきている。


業界内から不正の連鎖を断ち切り、浄化へと向かう動きが出てくることを期待している。


(初公開日:2025年3月11日)


----------
加藤 久美子(かとう・くみこ)
自動車生活ジャーナリスト
山口県下関市生まれ。大学時代は神奈川トヨタのディーラーで納車引き取りのバイトに明け暮れ、卒業後は日刊自動車新聞社に入社。95年よりフリー。2000年に自らの妊娠をきっかけに「妊婦のシートベルト着用を推進する会」を立ち上げ、この活動がきっかけで2008年11月「交通の方法に関する教則」(国家公安委員会告示)においてシートベルト教則が改訂された。育児雑誌や自動車メディア、TVのニュース番組などでチャイルドシートに関わる正しい情報を発信し続けている。「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難・詐欺・横領・交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。
----------


(自動車生活ジャーナリスト 加藤 久美子)

プレジデント社

「不正」をもっと詳しく

「不正」のニュース

「不正」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ