「品質」「コスト」「納期」ソニー創業者・井深大が唯一こだわった条件は?短期間で成果を出すプロジェクトの進め方

2025年4月15日(火)4時0分 JBpress

 ソニー創業者・井深大(いぶか まさる)と、アップルを立ち上げたスティーブ・ジョブズ。互いの企業を世界レベルへと押し上げた2人のリーダーは、イノベーションの未来を的確に予測するたぐいまれな思考力を備えていた。本稿では『スティーブ・ジョブズと井深大 二人の“イノベーション”が世界を変えた』(豊島文雄著/ごま書房新社)から、内容の一部を抜粋・再編集。井深、ジョブズの遺訓から、これからの日本で求められるリーダー像に迫る。

 ソニーの新製品開発において、井深が重視していたプロジェクトリーダーの決め方と、最短スケジュールで成果を出すプロジェクトの進め方とは?


プロジェクトの成否は誰をリーダーに選ぶかで決まる

 井深は、NASAや新幹線プロジェクトの成功要因を調べるのに際し、直接訪問して持ち前の好奇心で御用聞きスタイルで相手側に当たった。そして、成功要因はメンバーの技量よりも、ほぼ100点満点の人を探し出して責任者につけたことが、最大のポイントだということが分かった。

 リーダーがメンバー全体の平均点レベルの人であれば、うまくいかない。メンバーが30点の人ばかりであっても、リーダーに100点満点の人を置けばプロジェクトは成功するということだ。

 ソニーの中央研究所の新任所長を外部から招聘したときに、研究開発担当役員の岩間氏より「研究所で新たにプロジェクトをスタートさせる時、リーダーを誰にするかは、必ず相談しろ。研究開発エンジニア能力については、人事よりも自分の方がはるかに詳しく知っているから」とアドバイスされたという。

 トップは自分の会社にいるリーダークラスの研究者の人となりについては、人事よりも詳しく知っているので、プロジェクトチームの成功確率が高くなるのだ。長たるものは、誰を責任者にするかは、人事部任せでなく、自身の仕事として果たすべきだということを井深は教えていたのだ。

 リーダーというものは、育てるというよりも発掘しなければ得られないと井深は言う。大勢の人の力をひとつの方向にまとめられるリーダーはたやすくは育てられない。

 井深は長年人を見てきたので、ネアカで人をひきつける力を持ち、夢と志をいだき、常に好奇心を持ち、先を見通す技術の目利きの出来る、真のリーダーは必ずどこかにいるという。

 プロジェクトリーダーが務まるキーマンを見つけてきて、その人にプロジェクトを成功させるんだという気持ちになってもらえさえしたら、そのプロジェクトは半ば成功したようなものだという。

 技術の目利きができない未熟な人をトップにすると、自分が理解できないという理由だけで、可能性を追求するプロジェクトを否定し、他社もやっていると聞いて安心する。この判断が続く結果、その会社ではジリ貧に陥るといわれている。21世紀に入って顕著となっているソニーのエレクトロニクス部門の低迷は、このことに起因しているのかもしれない。


QCD制約はDの1点に絞る

 優等生的なリーダーがしばしば失敗するのは、QCD制約の3すくみの現象を、現実的に割り切って1点に絞らないで、教科書的な完璧さを要求するからだ。

「品質Qualityを完璧に、予算やコストCostは従来の半分、納期Deliveryまたはスケジュールも従来の半分のスピードでやれ」と理想的ターゲットを掲げても、命令されたプロジェクトチームのメンバーは、「あれも、これも、それも縛られた状態では、出来っこない」と内心では思いながら、しらけて面従腹背するばかりとなり、成果は得られない。

 品質を完璧にするには、試作サイクルを複数こなさなければならず完成には時間がかかる。コストを半分にするには品質をある程度犠牲にしなければ出来ないと思うのが一般的。完成に向けた納期を短縮するには、コスト削減を検討する時間が取れないから、安くならない。こうした3すくみの状態になれば何も出来なくなる。

 ところが、「品質だけ1点に絞り予算や納期は問わない」となれば、出来そうだとその気になるものだ。

 通常、開発テーマはスケジュールとマンパワーと予算の3つで縛られる。予算が無くなれば今期はこれでおしまい、また来期の予算が出てから頑張りましょうということになっていつまでも完成できないということになりがちだ。

 プロジェクトのマンパワーが少なければ短い期間での成果は出せなくなる。

 井深が主導するプロジェクトでは、最短スケジュールの納期Dの1点だけに制約は絞られる。マンパワーや予算は上限なしのフリーで、トップが責任をもって必要とするマンパワーや予算を調達してくれた。だから、最短スケジュールでプロジェクト全体のイベントを構築できるのだ。

 プロジェクトメンバーを送り出している専門部署でも、よりリスクを減らす、別のやり方を研究してプロジェクトに提案する支援を積極的にやった。

 後年、1968年4月にソニーが発売時期は未定としてトリニトロン新製品の技術開発に成功したとのプレス発表をした時、井深社長が、その場で突然、半年後の10月に月産1万台で発売すると宣言をしたことがあった。これを初めて聞いた技術陣は驚いたが、彼らは徹夜をして宣言通りに間に合わせることができた。

 1997年末に平面ブラウン管テレビのベガを出すときにも、プロジェクトがキックオフする契機となった本社の会議室でのオフサイトミーティングの日付から、僅か5ヶ月で、ブラウン管の設計からテレビ本体の設計、さらには量産開始をして1号機を出荷したのだ。

 これらの驚異的スケジュールが可能になったのは、年末に発売するというトップダウンの制約条件(Xデー)を最優先し、予算やマンパワーは上限無しとして、トップが支援したから不可能を可能にしたのだった。

 アップルを創業したスティーブ・ジョブズも、同様なやり方で、短期間に新製品を世に送り出したが、アップル社内では不可能と思われることを歪曲して実現させてしまう結果となることを「ジョブズの現実歪曲フィールド」と名付けていた。

 人手が足りないときは、母港の専門部署の応援や、多くの部品メーカーの開発部隊を巻き込むことで解決していった。リーダーが責任を持って、超過する予算や必要な研究人員を調達し、パラレルに開発を進めるという仕組みが、新規LSIの一発完動や、新製品組立てラインでの垂直立ち上げを可能にしたのだ。

 こうした科学的なリスクヘッジの裏付けがあったから、短期間で世界の人々のライフスタイルを変える画期的新製品がソニーから次々と生まれたのだ。

*井深は、プロジェクトメンバーを送り出している各専門部署(研究所、開発部、品質管理部、資材部、営業部門など)を「母港」と呼んでいた。プロジェクトが成功して終了すると、メンバーは解散し、それぞれの「母港」である元の部署に戻っていった(『2025年のパラダイムシフト 井深大の箴言』豊島文雄著、ごま書房新社、214頁、219頁参照)。

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筆者:豊島 文雄

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