"USB1本"を49万円で買った大学生の後悔

4月22日(月)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Imazee)

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「儲け話がある」としてUSBメモリで投資教材を売りつけるトラブルが、首都圏の大学で急増している。トラブルの相談を受けた教育アドバイザーの鳥居りんこ氏は「20歳以上はいわゆる『未成年者取消』ができない。わが子がトラブルに巻き込まれないように、保護者は注意が必要です」と訴える——。

■なんのヘンテツもないUSB49万円を購入するまでの一部始終


長い受験期間を終え、子どもが晴れて大学生になった親御さんの中には「ようやく子育ても終了」と安堵されている方もいることだろう。大学生の多くは在学中に成年になるため「子育て終了宣言」が出てもおかしくはない。


しかし、である。




※写真はイメージです(写真=iStock.com/Imazee)

この「若葉マーク成年」が怪しい業者の格好のターゲットになっている事実をご存じだろうか? 筆者は思春期の子どもを持つ親たちから悩みや相談を持ちかけられることが多いが、最近も都内在住の大学生の母親から相談を受けた。


「USBメモリを媒体とする投資関連学習教材」をめぐるトラブルである。20歳の男子大学生A君は都内の有名大学に通っている。そのA君をトラブルに巻き込んだのは、高校時代の同級生Bだった。


「久しぶり! 飯でもどう?」というBからの突然の誘いが事のはじまりである。知らない仲ではないのでA君は快諾。食事をしているうちに、Bはこんな話をしだしたそうだ。


「Aは今、バイト何やってるの? それ、時給、安すぎじゃね? 大きな声じゃ言えないけど、俺、今、すごく稼げるバイトしてるんだよね……。(略)でも、これって限られた人にしか教えられないけど、Aだからいいかな……」


そんな前置きを入れて、「今度、すごい人に会わせてあげるよ。絶対、会ったほうがいいから!」と言うなり、すかさず、その“すごい人”に電話をしてアポ取り。あれよあれよという間に3人で会う約束を取り付けられてしまったらしい。


■「日経225の先物取引で確実に儲かるシステム」入りUSBメモリ


後日、その見るからに儲かっているオーラを出している自称投資家Cが現れ、金回りの良さをアピール。そこから長時間にわたって洗脳トークを浴びせられたという。


Cは「日経225の先物取引で確実に儲かるシステム」を力説。そのシステムが入っているというUSBメモリを49万円で購入するよう勧誘。「そんな額、とても払えないですよ」とA君が断わると、こう言われたという。


「ローンで払えばいい、儲かるのですぐに返済できる」


さらに、


「このシステムを人に紹介するとバックマージンとして一人あたり5万円貰えるよ」

「今、決断できないやつは一生クズ」

「チャンスは来たときに、即、つかまないと!」


ほぼ軟禁状態でこれを長時間、聞かされ続けたそうだ。


「友達のBがやっている」つまり「Bが儲け話をタダで教えるのはBにとって損なのに、自分を特別に思ってくれているから誘ってくれている=断ってはBに悪い」という心理にさせて追い込んでいくやり口らしいが、Cの威圧感も手伝って、次第にA君は相手の思うつぼにはまっていった。



■「口座を開いたってことはやるしかないんだよ」


そして、ネット証券口座をその場で作らされ、Bに消費者金融に同行され、学生ローンの借り入れをさせられてしまい、借りたお金はその場でUSBメモリと交換することになった(※代金が49万円なのは多くの業者が学生ローンの限度額の上限を50万円に定めているからだと思われる)。


ちなみに自称投資家Cは言葉巧みに「免許証持ってる? ちょっと写真、撮るね」などと言いながら、A君のスマホでその(免許証の登録番号や顔写真、住所が記載された)画像を撮り、そのまま口座開設した。ネット証券の確認画面は「A君は年収600万円の携帯電話会社販売員」ということになっていたそうだ。


ここまでの作業が終了すると、Cはますます増長しはじめた。


A君はCから「もう口座を開いたってことはやるしかないんだよ」と言われ、証券口座を“嘘”の申告で開設してしまった罪悪感もあって、「やめたい」と言えずに契約書にサインさせられたという。


■「俺が音声を録音しているので強要はないことは明白だよ」


しかし、それだけで事は終わらない。




※写真はイメージです(写真=iStock.com/Highwaystarz-Photography)

帰宅後、A君がUSBメモリの中身を見て「理解できない」そして「解約したい」と訴えると、さらなる“罠”が待っていた。「勉強会」という名の“有料セミナー”へのしつこい勧誘が始まるのだ。この“やり取り”の間でクーリングオフ20日間は過ぎ去ってしまう。


結局、A君は先物取引では儲けは出なかった。だが、Cからは「それは自分の勉強不足だよ」と一蹴され、Bは音信不通になり、しかも友人を勧誘できなかったので、入るはずの5万円も入らず、残ったのは消費者金融の借金。悪いことに、負けを回収しようと先物取引にドンドンとつぎ込んだ結果、さらなる借金を背負う火だるま状態に追い込まれていった。


A君は、BやCに強要されたと警察に届け出ればいいのではないかと思うが、Cに次のように畳みかけられて、結局、「泣き寝入り」せざるをえない状態となる。


「俺(C)が音声を録音しているので強要はないことは明白(A君の意思で契約)だよ」

「そもそも(A君は)契約書を持っていない(大事なものだから預かるとCに言われた)」

「A君自身が結果として詐称して口座を開設しちゃったしね」


A君は大学にも行けずにひたすらバイトで稼ぎ、借金を返済しようと必死に頑張ったものの、体を壊し、ここでようやく親が事態を把握することになった。



■なぜ「20歳の一人暮らし」が狙われるのか?


これと同種のものにDVD教材を約50万円で学生に売りつける「DVD教材販売トラブル」もある。こうしたトラブルを把握した法政大学や芝浦工大など首都圏の大学は、ウェブサイトなどを通じて注意喚起しているが、トラブル根絶には至っていないのが現状だ。


東京都の消費生活総合センターによれば、USBメモリを媒体とする投資関連学習教材の販売に関する相談件数は、2017年度は112件だったが、2018年度(概算)は216件。2014年に東京都はUSBメモリ教材の販売業者4社に業務停止(3カ月)命令の行政処分をした。その後、いったんは被害・相談件数は減る傾向にあったが、2019年度から再び急増しているという。


業者は大学生を狙い撃ちにしているが、その理由は次の8点に集約される。



1 学生であっても20歳以上は未成年者取消ができない

2 成年に達すれば、親の承諾なしにローンやクレジットカードを作ることができる

3 一人暮らしを始めることで親の監視の目が緩くなる

4 特に一人暮らしの場合、証券会社からの郵便物(書留なので実家住まいは親にバレる)を受け取れるのは本人だけなので騙すのに好都合

5 友人を傷つけたくないという仲間関係の維持に気を取られ過ぎる傾向があって、断ることができない

6 「(友人であっても)毅然と断る」ことも時には必要という教育を受けてこなかった

7 社会経験のなさと知識不足

8 経済的に苦しい学生が増える中、少しでもラクをして「勝ち組」になりたい願望がある

■20代前半の学生はお金に対する不安が強く、稼ぎたい気持ちが強い


消費生活総合センターの担当者はこのように注意を促す。


「学校やバイト先などの友人から誘われることで“おいしい話”を信じてしまうケースが多いようです。また、20代前半の若い世代はお金に対する不安が強く、なんとか稼ぎたいという意識が強い。それもトラブルに遭う大きな要因です」


USBメモリ以外にも、仮想通貨をめぐる実体不明な投資話や、学生起業をすすめる名目での高額セミナーやオンラインサロン、商材の販売などのトラブルも増えている。簡単に短時間で大金を稼げる話には、当然ウラがあるので、親もわが子が誘惑されないように注意喚起が必要だ。




出典=埼玉県HPの公表データを基に筆者作成

■被害に遭ったA君はいま、大学を休学し自宅療養中だ


前出のA君は親に消費者金融の返済をしてもらい、証券口座は解約。現在は大学を休学し、自宅療養中である。この被害状況を証言してくれたA君の母は筆者にこう語った。


「ウチの子と同じような被害に遭わないために、お子さんを持つ読者の皆さんに伝えてほしいです。『ウチの子に限って』は通用しないということを。親は子どもに『こういう詐欺がはやっている』『お金を払う価値、もしくは実体があるか、よくよく確認すべし』『本当の儲け話は他人には教えないもの』『世の中に楽して儲かる話は存在しない』『友達でもお金儲けをしようって話をしてきたら、迷わず距離を置け』ということを伝えるだけでも被害はかなり減ると思うのです……」


折しも、成年年齢が2022年4月から現行の20歳から18歳に引き下げられる。


人を信じるという、本来あるべきやさしい気持ちにつけ込む“詐欺”が横行していることは哀しい事実だが、親としては折に触れ、わが子に“世の中の罠”を伝えることが必要だ。



【相談窓口】

■国民生活センター消費者ホットライン(局番なしの188)または03-3446-1623(平日のみ)

受付時間 平日:10時〜12時 13時〜16時 土日祝:10時〜16時(各地の窓口受付時間による)



■警察相談専門窓口(#9110)

受付時間 平日:午前8時30分〜17時15分(各警察本部で異なる)

110番とは違い「事件性があるかどうかも分からない」という段階での相談が可能。



参考=国民生活センター「若者の消費者トラブルの現状

(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー 鳥居 りんこ 写真=iStock.com)

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