今回の万博の成否はこれで決まる…来場者数や経済効果より決定的「日本が大阪万博で絶対に失敗できないこと」

2025年4月22日(火)16時15分 プレジデント社

開幕前のメディアデーで来場者を出迎える、2025年大阪・関西万博の公式マスコット「ミャクミャク」(2025年4月9日) - 写真=EPA/時事通信フォト

■3人に1人が「行きたい」


大阪・関西万博が開幕した。前評判は芳しくなかったが、初日の4月13日から1週間の総入場者数が60万人を超えるなど、賑わいを見せている。


写真=EPA/時事通信フォト
開幕前のメディアデーで来場者を出迎える、2025年大阪・関西万博の公式マスコット「ミャクミャク」(2025年4月9日) - 写真=EPA/時事通信フォト

朝日新聞社が4月19、20日に実施した全国世論調査では関西万博に行きたいと思うかという問いに「行きたい」と答えた人が32%だった。朝日は記事で、「そうは思わない」と答えた人が倍以上の65%だった、とちょっと意地悪な取り上げ方をしていたが、大阪でのイベントに3人に1人が行きたいと答えたというのは、なかなかの関心の高さと言っていいだろう。特に、18歳から29歳の若年層で行きたいと答えた人が45%に達していた。さらに、実際に会場に足を運んだ人たちの声は上々で、大型連休や夏休みに向けて人気がさらに高まりそうな気配だ。


158の国と地域が参加する今回の万博。開幕前は、パビリオンなどの工事の遅れが深刻化していて、建設が開幕に間に合わないのではないかと言った声も聞かれた。「無理をして万博などやる必要があるのか」といった厳しい指摘も根強くあった。結局、開幕後の現在も未完成のパビリオンは4館だけとなり、何とか滑り出しに大半のパビリオンが揃うこととなった。


■否定的な声が多くあった背景には政治的要素もある


また、物価上昇もあって膨らんだ建設費にも批判が集まった。当初は1250億円を見込んでいた建設費は、人件費や建設資材の価格高騰の結果、1年半前の段階での見積もりで、最大2350億円という金額に膨らんでいた。赤字になった場合に、誰がそれを負担するのか、といった批判も相次いだ。


10月13日までの会期中に2800万人の来場者を想定している。そのうち350万人は訪日外国人が来場すると見ており、関連する消費は1兆円規模になるとも試算されている。政府は万博による経済波及効果を2兆9000億円と見込んでいる。この目標が達成できるのか、本当にそんなに人が集まるのか、といった懸念も強かった。


今回の万博に対して否定的な声が多くあった背景には、政治的な要素もある。大阪府市で多数を占める大阪維新の会が万博の誘致段階から主導してきたことで、反維新勢力の格好の攻撃材料になった。また、賛否が分かれているカジノを中心とする統合型リゾート(IR)が、今回の万博跡地に建設されるとの見方が強く、カジノ反対派も万博批判に合流していた。報道も問題点を指摘するネガティブなものに偏りがちだった。


■万博の目的は「一時の経済対策」なのか


万博が成功だったかどうかは、もっぱら万博運営の資金収支や経済効果など、損得勘定で語られることが多い。もちろん、万博が景気を押し上げるとすれば、好ましいことに違いない。今のように日本ブームで外国人観光客が大きく増えている中で、訪日外国人にお金を落としてもらえれば、日本経済にはプラスだ。だが、万博を開いた目的は一時の経済対策なのだろうか。


今回の万博誘致に大きな影響を与えた作家の故・堺屋太一氏は、万博をきっかけに日本の「国のかたち」を大きく転換していくことを訴え、万博開催を強く主張した。堺屋氏は1970年の大阪万博の開催の中心人物のひとりだったが、彼はノスタルジーで万博を再び大阪で開こうと考えたわけではなかった。婦人画報の記事で堺屋氏は、1970年の万博の「規格大量生産型の近代社会」というコンセプトが、その後、日本が自動車やカラーテレビを世界に輸出することで大発展するきっかけになったと総括している。それに代わる新しい日本を作るきっかけに、2回目の万博が必要だと考えたのだ。


写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■故・堺屋太一氏の残した言葉


その記事でこう語っている。堺屋氏は万博終了後に会場の夢洲に統合型リゾートを誘致し、万博のレガシーとすることも掲げていた。


「情報発信機能を創ることです。マスコミはカジノ中毒ばかり心配していますが、IRではショービジネスの拠点となる劇場や国際会議場・展示施設、ホテルや商業施設などが80%以上と決まっています。国内外からの観光客を呼び込め、高い経済効果と文化創造効果が見込まれるとともに、高度のプロデュースと演出力を育てられます。もともと文化創造が得意な大阪こそIRを積極的に主導すべきです」


別の記事では、規格大量生産の日本を主導した「官僚体制」を壊して「本当の主権在民を実現する『楽しい日本』」を構築すべきだと訴えている。それを象徴的に示す場として万博を掲げていたのだ。政策面で堺屋氏の影響を大きく受けてきた大阪維新が、堺屋氏の考えに沿って今回の万博誘致を主導してきたことは言うまでもない。「官」が支配する東京から離れた大阪で、新しい日本に向けた動きが始まる。それはモノづくり中心の国ではなく、エンターテインメントや文化を発信し、世界中の人々を引き寄せることだというわけだ。


そんな堺屋氏の万博への思いを、2023年11月の本連載コラムにも書いているので、ぜひお読みいただきたいが、堺屋氏の考えでは、今回の万博は大阪で開かれることが絶対的に必要だったということになる。


■若い世代が「世界の中での日本の未来」を考える重要さ


新しい日本を担うのは、若い人たちである。万博に20歳代の人たちが行きたいと言い、関心を持つ一方で、かつての大阪万博に狂喜した70歳代が醒めているのは、ある意味、当然なのかもしれない。


万博会場を訪れた若者は、巨大な木造リングに上って、日本の木造建築という世界に誇る文化を踏み締め、眼下に広がる多様な世界の国々へと歩を進めることになる。世界の国々が主張するそれぞれの国のバリューや将来ビジョンを、短時間でいくつも目にすることができる。その中で、日本の政府や企業がパビリオンで提示する技術や価値は、世界において優位性があるのかどうかを考えるきっかけになる。若い世代が、世界の中での日本の未来を考えることは極めて重要だ。


本来、若い人たちは、自ら世界へ出て、多様な国々を歩くことで、日本の価値を見出し、進むべき道を考える。若者が海外に出ていくことを避け、内向きになったと言われて久しい。また、ここ数年の猛烈な円安によって、海外留学や海外旅行は高嶺の花になりつつある。そんな折に開かれた大阪・関西万博は、若者に大きな刺激を与えるのは間違いない。彼らの中から、新しい日本を構想していく人材が出てくるだろう。


写真=iStock.com/inewsistock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/inewsistock

■本当の失敗は「日本の未来が感じられない」こと


また、日本にやってくる外国人観光客が万博会場を訪れ、「日本」に触れた時、日本の未来に明るさを感じるか、あるいは、日本はもはや終わった国だと感じるか。この評価が、世界の日本に対する評価につながっていくとすると、万博は極めて重要だ。


2021年に開かれた東京オリンピックと、2024年のパリオリンピックの開会式のパフォーマンスの両方を見て、日本とフランスの文化力の差やエンターテインメントに関する構想力の差を感じた人も多かったに違いない。今回の万博では、158の国と地域が、それぞれに趣向を凝らした展示を行っている。隣国、中国の技術力の進展を知り、欧州の国々の文化の厚みを感じる。それが日本の若者に大きな刺激を与えることになるだろう。


今回の万博の成否は、単に、目標の来場人数に達したか、事業として赤字か黒字かという次元ではなく、日本の人びとに日本が進むべき未来像を示せたか、海外からやってくる外国人に日本のこれからの魅力を見せつけることができたかどうかがポイントになるに違いない。待ち時間ゼロのはずが2時間並んだ、といった運営上のトラブルは会期中に頻発するに違いないが、それが万博の失敗ではない。閉幕後に失敗だったという烙印を押されるとすれば、来場者が躍動せず、日本の未来を感じられなかった、という評価になった時だろう。


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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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