2兆円かかっても国産戦闘機の開発を継続すべき理由

4月23日(月)6時0分 JBpress

F-2戦闘機(出所:航空自衛隊)

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「F2後継機の国産断念へ 防衛省、国際共同開発を検討」(2018年3月5日、朝日新聞)
「空自のF2後継機、F35など既存機ベースに共同開発案=関係者」(3月8日、ロイター)
「F2後継機、国産化断念へ=巨額開発費が障害」(3月10日、時事通信)

 防衛省がF-2戦闘機の後継機開発を事実上断念したとの報道が相次いでいる。これに対し「予算面から妥当な判断」との指摘があるが、果たして本当にそうだろうか。本稿では、最低1兆円、下手をすれば2兆円を超えるともいわれる国産戦闘機開発には大きな意義があり、実は安くつく(少なくとも交渉上も初手から捨てるべきではない)ということを指摘したい。


防衛省は事実上の白旗宣言?

 2018年3月初頭、朝日新聞、読売新聞、時事通信、ロイター通信等が相次いで、防衛省がF-2支援戦闘機の後継機の国産化を断念したと発表した。小野寺防衛大臣は同時期の記者会見で国産化を断念したわけではないとしているが、事実上断念したと言ってよい。

 なぜならば、同時期に、後継機に関する「情報提供依頼書 (RFI)」を米英の防衛産業に対して発行しているからである。これは事実上の白旗宣言である。

 というのも、まずこれを出した時期が問題である。RFIは、先進技術実証機X-2、いわゆる「心神」の成果報告を防衛省内でまとめる前に提出された。これではX-2で培った技術を生かす気がないと言っているようなものであり、「国産はない」と示唆しているに等しい。

 第2に、RFIを出した行為自体が異常である。通常、次期戦闘機はRFIの次段階の「提案依頼書(RFP)」から始まる。実際、F-35の導入に際してはRFPから始まっている。平たく言えば、RFIとは基本的な情報の要求である。料理の注文に例えるならば「辛くてスタミナがつく料理は何か?」というものだ。一方、RFPとは具体的な性能要求であり、「1200円以内かつ800キロカロリーで、ほうれん草を使った、やや辛いインドカレー」というものである。要するにRFIを出すということは、すべて丸投げということなのだ。自分が何を食べたいかを米英の企業に決めてもらっているようなものである。つまり、将来の戦闘機の国産はほとんど諦めたと言ってよい。


国産化には莫大なコストがかかるが・・・

 F-2後継機の国産には、確かに莫大なコストがかかる。

 関係者の間では開発費だけで、ざっと最少で1兆円、下手をすれば2兆円を超えると言われている。最も可能性が高い「40機」の生産となれば製造費は140〜160億円となる。これに開発費を足せば1機あたり約400〜660億円となり、F-35が3〜5機購入できる額となる。どう考えても1機でF-35の3〜5倍の性能を発揮するのは無理だろう。

 では、F-2と同程度の機種を100機生産したらどうなるか。この場合の製造費は110〜130億円であり、開発費を加味すると1機当たり210〜330億円となる。やはりF-35を1.5〜2.5機は購入できる価格であり、苦しい計算である。

 これだけを聞けば、国産化断念は正しい判断であり、米英の戦闘機を共同開発、もとい共同小改造して購入すべきというのが妥当なように見える。

 だが、これは戦略・作戦環境や技術政策、何よりも交渉術を理解しない、安っぽいソロバン勘定と言わざるを得ない。ここで国産を諦めると我が国は100年の航空優勢を失いかねないのだ。

 その理由は第1に、F-35一本足打法はきわめて危険だからである。国産化を断念すればF-35の改造が最有力候補となる。しかし、もしもF-35に深刻な欠陥や事故が発生し、飛行停止処分となれば我が国の防空はどうするのか。実際、過去にもF-15およびF-2戦闘機が飛行停止となり、暫くの間、旧式のF-4EJ改戦闘機の3個飛行隊のみで防空を行うという発展途上国レベルの事態に陥っていたことがある。そうした際に何かあれば、どうするのか。

 また、F-35を構成する部品には、米国では専門家の間で懸念されているように中国による偽部品やマルウェアが仕込まれていることへの懸念もある。さらに、何よりも稼働率が懸念されている。さらに、何よりも稼働率が懸念されている。2月28日の国防総省のF-35計画室長のマット・ウィンター海軍中将の発言によれば、米軍と同盟国の保有する280機のF-35で飛行可能なのは51%でしかないという。また、3月7日の米空軍司令部戦略計画部長のジェリー・ハリス空軍中将による議会証言によれば、F-35専用の自動兵站システム「ALIS」はバグが多くて使い物にならず、空軍内の整備体制も未整備だとしている。

 将来的にF-4もF-2もF-15も自衛隊から退役し、彼にF-35シリーズのみが空自の戦闘機を占めた場合、稼働率が致命的に低かったらどうするのか。


永遠に失われるジェット航空機の開発製造能力

 第2の理由は、ここで国産化を諦めると、我が国が完全にジェット航空機の設計・製造能力を失ってしまうからである。今はまだMRJのおかげで航空エンジニアが維持できている。だが十数年後には設計・製造の両面の技術基盤が崩壊し、20年後には完全に消滅するだろう。

 特に航空機開発で最も重要であり、他国は絶対に教えてくれない「技術的失敗と教訓」に関する暗黙知の消失は深刻なものとなる。特に、総額400億円弱をかけたX-2プロジェクトで培った貴重な「失敗」の経験を、なんの役にも立てずにドブに捨てることになる。

 今後の東南アジア諸国との技術的連携を考えれば、これらは決して手放すべきではない貴重な財産であろう。例えば、欧米各国に優秀なエンジニアを輩出しているベトナムやインドのような国々と、我が国が主導権を握った形で共同開発を試みてもよい。


間違いなく来る無人機の時代

 第3の理由は、これが最も重要な点だが、戦闘機の技術開発は、将来、全自衛隊に裨益(ひえき)するものであり、今後100年の航空優勢に影響するからである。

 戦闘機を将来国産開発した場合、ステルス技術、高運動飛行制御技術、高出力小型センシング技術、軽量機体構造技術、ネットワーク戦闘技術システム、統合ソフトウエア、人工知能などを、我が国が主導して開発することになる。これらはいわば「軍種間転用」が可能な技術だ。例えば、ステルス技術は、ドローン、艦艇、装甲車に転用可能だし、レーダー技術、人工知能、ネットワークシステムは全ての装備に応用できる。要するに、将来戦闘機を自国開発することで、陸海空自衛隊が保有する多くの装備やシステムに関連する技術をまとめて効果的・効率的に開発することが可能となるのだ。

 特にドローンへの裨益は非常に重要である。イスラエルの軍事学者、マーティン・ファン・クレフェルトが指摘するように、主力戦闘機はもはや進化の袋小路に入った恐竜なのかもしれない。だがその次には、間違いなくドローンなどの無人機の時代が来る。少なくともドローンや無人機においては、ステルス技術、高運動飛行制御技術、高出力小型センシング技術、軽量機体構造技術、ネットワーク戦闘技術システム、統合ソフトウエアが重要なカギとなるのは間違いない。

 現在、ドローンや無人機の開発においては中国の発展が目覚ましく、米国でさえ追い抜かれている分野がある。その意味で、この分野では「米国から買えばいい」という姿勢では危うい。少しでも今のうちに将来の戦闘機関連の技術を育成しなければ、ドローンおよび無人機開発で取り返しのつかない遅れを招き、100年間の航空優勢を失いかねない。


全体を見通した現実的な政策を

 将来、戦闘機を「純」国産にすれば、確かに1〜2兆円の莫大な投資がかかる。それで高性能な戦闘機が作れる保証はどこにもない。だが、それによって、自衛隊の装備全般に裨益する技術開発となり、100年間の航空優勢を確保でき、強力な外交カードとなるのだ。

 また、開発費にしても、米英よりは相対的に主導権を握れるインドやタイやベトナム、もしくは資金的に豊富なUAEのような国家のいずれかと共同開発することでいくらか減らせるだろうし、量産効果も高まる。そもそも、米側はF-22とF-35のハイブリッドを提案しているとのロイター通信の報道があるが、この記事の久保信博記者が指摘するように、F-22もF-35も莫大な開発費が問題視された機体であり、危惧がのこる。

 性能論や開発費だけから戦闘機の国産化を否定するのは、極めて近視眼的なソロバン勘定であり、個別の兵器の性能や価格しか見ない狭隘な視点と言わざるを得ない。「平成のゼロ戦」的なロマン主義は論外としても、自衛隊の研究開発費が削減されている現状、そしてドローンおよび無人機の発展も考慮に入れれば、100%自国開発は非現実的としても、いきなりRFIを出して初手から全面降伏をするべきではないだろう。

 純国産が至難だとしても、F-2共同開発においては、当初、純国産を目指したからこそ60%の開発ができたのである。初手から諦めていては日本が技術とカネを提供するだけになることは、アラブの商人の論法を思えば自明であろう。共同開発によって、日本企業の参画・重要技術の獲得・ソースコードの提供が確実になるまでは妥協すべきではないのだ。

筆者:部谷 直亮

JBpress

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