北朝鮮の体制崩壊へ活動を活発化させた「自由朝鮮」

4月23日(火)6時0分 JBpress

韓国ソウルの駅で、金正男氏の息子ハンソル氏と名乗る男性の動画に関するニュースを見る男性(2017年3月8日撮影)。(c)AFP/JUNG Yeon-Je〔AFPBB News〕

 殺害された金正男(キム・ジョンナム)の息子「ハンソル」を、安全な国に亡命させた北朝鮮反政府組織「千里馬(チョルリマ)運動」が「自由朝鮮」と名を変えて、金正恩(キム・ジョンウン)政権に表立って刃向かう行動を開始した。

 「自由朝鮮」が在スペイン北朝鮮大使館を襲撃し、貴重資料が入ったパソコンを盗み出し、米国のFBI(米連邦捜査局)に提供したという。

 その後、諜報工作機関でもある米国のCIA(中央情報局)に渡るのは当然だ。

 また、金日成(キム・イルソン)主席や金正日(キム・ジョンイル)総書記の写真を床に叩きつけた映像を公開し、「北朝鮮臨時政府の発足」を発表した。

 今のところ、正恩政権を揺るがすほどの影響を与える勢力ではないが、警備が厳しい大使館を襲撃してパソコンを盗み出すことは、自由朝鮮のメンバーだけではできない。

 パソコンの中に「暗号解読キー」が入っていたとしても、CIAやNSA(米国家安全保障局)のような情報機関でなければ、暗号は解けるものではない。つまり、米国の諜報工作機関が支援していると見ていい。

 この反政府組織が北朝鮮の工作員に見つけ出されれば、簡単に殺害されてしまうだろう。

 一方、ハンソルは、北朝鮮をまともな国に改革できる人物であり、北朝鮮本国の人民や諸外国に逃れている人民にとっては、待ち望まれた人物である。

 これから生まれる数々の反政府勢力をまとめあげられる唯一の人物であろう。そして今、正恩政権崩壊後の正当な受け皿はできた。

 北朝鮮国内で、これまでもクーデターや暗殺未遂とみられる動きはあった。

 だが、「自由朝鮮」のように、ハンソルを助けて反政府勢力のシンボルを「錦の御旗」として担ぎ上げ、正恩政権を打倒する目的で作られた組織が、公然と反旗を翻したことは、北朝鮮の歴史が始まって以来の危機へのターニングポイントだ。


1.クーデターや暗殺を恐れている金正恩委員長

 北朝鮮地上軍には、境界を区切って警備を任される地域担当の軍団がある。

 1992年頃、元山地域を担当する第6軍団内の将校あるいは旧ソ連に留学した北朝鮮軍将校達がクーデターの陰謀を持っていたが、事前に発覚して未遂に終わったという情報がある。

 クーデター発生の確証はないが、実際に第6軍団が解体されて、軍団の兵士たちが中朝国境の辺境の地に突然異動させられた。

 翌年の1993年には、地域担当軍団の改編が行われ、第6軍団は消滅した。現在も第6軍団という名称は存在しない。

 さらに、護衛総局(首都防衛軍団と首都防空軍団からなる)の隷下に金正日総書記を警護する護衛軍団(兵員約1万5000〜2万5000人)が新編された。

 私は、これら軍団の解体、兵員の配置転換、護衛軍団の新編が実施されたことなどから、政権が恐怖に感じるほどの規模でクーデター未遂事件があったと推定している。

 2004年には、中朝国境の町「新義州」の南「龍川」の鉄道駅で、不自然な列車爆発が起きた。

 石油とLPガスを積んだ貨物列車が衝突し、大規模な爆発が起きて、死傷者は3000人に達した。

 特に驚いたのは、爆発の約9時間前に、訪中していた金総書記が、同駅を特別列車で通過していたことだ。金総書記は、この知らせを聞いて肝を冷やしたに違いない。

 その前日に、特別列車が新義州を通過する時刻が公開されていた。爆破事件の後、当時の鉄道相は処刑された。

 その後、特別列車の移動時刻は公表されていない。

 また、正恩が国境を通過する際には、特別列車に似せたダミー列車が運行されている。

 つまり、特別列車の通過と爆発の場所・時刻が近いこと、今後二度と起こさせない厳しい処置が行われたことから、偶然の事故ではなく、不満分子が暗殺を狙って起こした可能性が高いと評価できる。

 北朝鮮メディアに2013年、「女性警察官が不意の状況で英雄的犠牲精神を発揮し、革命の首脳部(金正恩と考えられる)の安全を守ったとして、共和国英雄の称号が授与された」との記事が掲載された。

 これは、交通事故にみせかけた暗殺未遂事件であった可能性もある。

 また、中国メディアは2014年、「北朝鮮が平壌で金正恩暗殺の試みに備えた訓練を電撃的に実施した」と報じた。

 いずれにせよ、金正恩が暗殺されることを恐れていると言える。


2.ハンソル氏には正当性とカリスマ性がある

 金正日総書記は、正恩氏を後継者として指名した。正男氏は後継者から外れ、マカオや中国に滞在していた。金正恩総書記が正当な後継者であることは明白だ。

 だが、後継の正当性が一変したのは、北朝鮮が2017年にマレーシアで化学兵器を使って正男氏を殺害してからだ。

 これにより、目的のためには手段を選ばず極めて残酷な手段で、自分の権力の座を脅かす者、忠誠な態度を示さない者を容赦なく殺害する指導者だという印象を国際社会に与えてしまった。

 正男殺害の後、息子のハンソル氏は逃亡し、安全なところに身を隠すことができた。そして、ビデオレターに現れた。

 誠実で聡明な印象の、この人物が北朝鮮のトップにつけば、金一族の一員ではあるものの、民主的な思想を取り入れて改革開放を進め、北朝鮮人民は豊かな生活ができるようになる可能性は高い。

 ハンソル氏には、カリスマ性がある。核ミサイルを放棄しても、国際社会はハンソル統治の北朝鮮を破壊することはないだろう。


3.金正恩政権を打倒することは可能か

 護衛総局(兵員10万人に近い)に守られた金正恩総書記を暗殺することは、現在のところ不可能に近い。

 なぜなら、クーデターを実行できる軍人や軍部隊が存在しているかについては、2つの点で「いない」と判断できるからだ。

(1)主要ポストを独占させないシステム

 かつて、金日成時代には、呉振宇(オ・ジヌ)元帥が、金正日時代には、金永春(キム・ヨンチュン)元帥や趙明禄(チョ・ミョンロク)次帥が、長期間軍の主要ポストに就いていた。

 彼らは、軍の実力者として存在し、金主席や金総書記を支えていた。そうであっても、金正日氏は、国家安全保衛部長(秘密警察、現在は国家保衛相)のポストだけは、空席にしていて、実質は、金正日氏が兼務していた。

 軍人を信頼して頼りにしていたが、陰では秘密警察を使って監視もしていたのだ。

 金正恩氏が政権の座についてからは、軍・警察の組織のトップに権力を持たせない人事が行われている。

 トップとは、(1)人民武力相(国防大臣)(2)軍総参謀長(3)軍総政治局長(4)国家保衛相の4つである。

 現在、国防大臣は6人目、軍総参謀長は5人目、軍総政治局長は4人目、国家保衛部長は2人目であり、頻繁に交代させられている。

 つまり、金正恩総書記がクーデターを恐れて、1人の軍人にトップの座に長く就かせない、主要ポストを独占させない方策がとられている。

 裏返せば、軍人が権力を持ち、派閥を作って最高指導者から排除されることを恐れているからだと思う。

 つまり、軍のリーダー達は頻繁に交代させられて、クーデターを起こせるほど権力を有していない。

(2)監視システムによる不穏な動きの早期察知

 軍と党、特に軍の主要組織において、監視システムが機能している。

 例えば、軍部隊に対しては党の政治将校からなる軍総政治局が、軍総政治局に対しては党の組織指導部が、国家安全保衛省が全般を監視する。

 国家安全保衛省は党の組織指導部が監視する。党の組織指導部の副部長には、金正恩総書記の異母姉の金雪松(キム・ソルソン)が就いていた。

 現在のところ、この2つのシステムにより、軍や警察は、クーデターを実行できない。


4.将来、国内外の小さな反政府勢力の蠢動

 金一族による独裁体制は3代にわたり、体制を守るために改革開放もせず、人民を飢えさせてきた。

 押さえつけられ、弱り切った人民は、70年以上もこの独裁体制に刃向かうことができずにいる。

 この体制に楔を打ち込めるのは、金正恩政権を壊した後の受け皿となる「ハンソル」とこれを助けた「自由朝鮮」だろう。

 現在は、小さな錦の御旗の団体であるが、将来、同様の組織が世界各地と北朝鮮国内に蠢動するように生まれてくれば、正恩の独裁体制が揺らぎ始める可能性はある。

 もし、金正恩総書記が一発の銃弾を受ければ、反政府勢力が爆発的に勢いを増し、短期間のうちに正恩政権を倒すことになりかねない。

 第2のリビア、カダフィ大佐の最後のようになるのではないか。

 金正恩総書記は、核を捨てる意志がない。一方、米国は平壌空爆など軍事力を使用しての強硬手段で、正恩を殺害することはできない。

 交渉でも、米国は北朝鮮に核を完全に放棄させることはできないようだ。

 であれば、核がない朝鮮半島を作るには、北朝鮮の反政府勢力を支援し、民主化させる手段しかあるまい。

筆者:西村 金一

JBpress

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