もはや出張用途だけではない、旅行客に人気のビジネスホテル3チェーンを分析

2022年4月23日(土)6時0分 JBpress

(瀧澤信秋:ホテル評論家)

 ホテルの中で最も多いカテゴリーが“ビジネスホテル”だ。コロナで環境が激変したホテル業界であるが、コロナ禍直前のデータを参考にみると、ビジネスホテルは75万3961室(8416施設)とシティホテル19万1549室(1179施設)やリゾートホテル12万259室(1576施設)と比べても圧倒的な室数と施設数を誇る(日本全国ホテル展開状況2020年1月現在/HotelBank調べ)。

 コロナ禍をみてもビジネスホテルの新規開業は目立っているが、宿泊に特化することでスピーディーな開業、合理的な運営ができることもビジネスホテルの開業が際立ってきた理由である。この勢いは観光需要の回復とともに今後もますます続いていくだろう。


変わりゆく「ビジネスホテル」の形態

「ビジネスホテル」という表現を用いているが、実はこの表現に違和感を覚えるという事業者は多い。従来、ビジネスホテルは宿泊以外のサービスを排したホテルという意味合いを持ち、業界では“宿泊特化型ホテル”という呼称が定着してきた。

 また、ビジネスホテルには「機能性」「利便性」「簡易的」「リーズナブル」などといったイメージが強く、ビジネスホテルが登場した当初をみれば、駅前旅館の進化系としてまさに“ビジネス”ホテルというネーミングのとおり、出張族を主たるターゲットとしてきた。

 しかし、世界的な旅行ブームの広がりによって移動手段の多様化が注目され、特にLCC(格安航空会社)や高速バス網の充実など、リーズナブルな観光旅行というマーケットも広がりを見せてきた。そうしたリーズナブルな観光旅行の宿泊施設としてビジネスホテルも注目されてきた。そして、需要の高まりに呼応するようにビジネスホテルも付加価値を打ち出すケースが目立ってきたのである。

 無味乾燥としたビジネス利用のビジネスホテルから、滞在が楽しくなるような観光利用のビジネスホテルはその供給を増やし、サービス合戦が広がりをみせてきた。広々とした客室、高品質なベッド、充実した朝食、露天風呂やサウナまで設ける温泉大浴場などチェーンそれぞれの差別化にはじまり、独立系施設の奇抜でピンポイントなサービスなど滞在の充実度を高めてきた。

 こうした傾向の強まりは、宿泊に特化しているけれど「デザイン性の高いホテル」「コンセプト性の強い施設」というように、過去のビジネスホテルのイメージとは一線を画した宿泊特化型のホテルとして、いまや馴染み深くなっている。


付加価値を売りにする人気ビジネスホテル「3選」

 間近に迫ったゴールデンウイークや観光需要喚起キャンペーンなども含め、ホテルを利用する機会も増えそうなこれからのシーズン、ビジネスホテルの予約を検討している人も多いだろう。ここでは人気チェーンの特徴を見ていくことにする。

 これまで考察してきたとおり“ビジネスホテルとは何か”という定義付けの問題意識からいえば、ホテルチェーン全体や価格帯での人気ランキングは多く見られるものの、ビジネスホテルに限定したチェーンランキングは意外に少ない。

 活況を呈していたコロナ禍前には、楽天トラベルがビジネスホテルチェーンに限定したクチコミ評価のランキングを定期的に発表しており、提携施設数の多さやサンプル数などからも注目すべきランキングとして筆者も参考にしてきた。しかし、訪日外国人旅行者の需要が激増した2019年以降は、ホテルの供給過剰が大きく指摘されたり、コロナ禍が始まったりした影響もあってか、発表していない。

 ここではビジネスホテル人気比較という点からも、稼働や平均客室単価の高まりを見せていた2017年と2018年に着目し、あらためて両年の上位ホテルをさらってみることにする。

【2017年の人気ビジネスホテルチェーンランキング】
1位/リッチモンドホテルズ
2位/ベッセルホテルズ
3位/ドーミーイン
4位/ホテルメッツ(JR東日本ホテルズ)
同率4位/三井ガーデンホテルズ

【2018年の人気ビジネスホテルチェーンランキング】
1位/ベッセルホテルズ
2位/リッチモンドホテルズ
3位/ドーミーイン
4位/ダイワロイネットホテルズ

 上位3位までに注目してみると、「リッチモンドホテルズ」「ベッセルホテルズ」「ドーミーイン」と、やはり付加価値の提供を売りにするタイプのブランドが並ぶ。そこで、それぞれの最新軒数やコロナ禍を経てきた特徴などを見ていくことにする。

【リッチモンドホテルズ(46ホテル/提携・フレンドシップホテル除く)】


 シティホテル然とした客室など、他のビジネスホテルチェーンとは一線を画してきたブランド。その贅沢感からクオリティを意識するグルメにも注目したい。朝食ではもともと地域の特色あるメニューを提供してきたが、コロナ禍を経てさらにブラッシュアップされている。ディナータイムのメニューなども売りにするなど、シティホテルというジャンルすら彷彿とさせる店舗もある。

【ベッセルホテルズ(29ホテル/グループホテル除く)】
 ビジネスからリゾートなどサブブランドの展開に注目したい。レジェンドスタイルであるベッセルホテル、ベッセルインに加え「カンパーナ」「レフ」「レクー」といったコンセプト性の高いブランドが人気を博しており、コロナ禍を経てご当地メニュー・体験型の朝食や水風呂の温度に気遣うサウナなどピンポイントのサービスに注力。他ブランドとの差別化を図る。

【ドーミーイン(88ホテル/海外店舗を除く)】
 当初から天然温泉・大浴場・露天風呂・サウナなどを備え、大浴場に関しては他の追随を許さない人気となっている。無料夜食ラーメンの「夜鳴きそば」もすっかり定着。もともとご当地メニュー、実演メニューをふんだんに取り入れた朝食も評価が高かったが、コロナ禍を経てその内容の充実度合いはますます際立っている。風呂上がりのアイスや乳酸菌飲料といった幅広いサービスも充実しており、新規出店が続く新たな施設も大いに注目だ。

 なお、最新の2021年度について他の調査でフォローすると、顧客満足度に関する調査・コンサルティングの国際的専門機関、J.D.パワー ジャパンによるランキングでは、ミッドスケールホテル部門のランキングで、ベッセルホテルズが「料金」「F&B(料飲部門)」「ホテルサービス」の3ファクターで最高評価を得て第2位と健闘している。

 第1位はホテルJALシティで「客室」「チェックイン/チェックアウト」の2ファクターで最高評価。エコノミーホテル部門の第1位はスーパーホテルで、「チェックイン/チェックアウト」「料金」「ホテル施設」「ホテルサービス」の4ファクターで最高評価を得ている。


観光利用でも需要が高まるビジネスホテル

 いまやビジネス利用から観光利用にまで広がりを見せてきたビジネスホテルだけに、出張旅に加えて観光旅行でも“ビジネスホテルに必ず泊まる”というファンも存在する。フルサービスのシティホテルなどと比較して、基本的にシンプルなスタイルのビジネスホテルではあるものの、利用者側にとって重きを置く部分は異なるだろう。

 今回紹介した他にも様々なタイプのビジネスホテルチェーンが存在する。

 たとえば、ランキングで紹介したリッチモンドホテル、ダイワロイネットホテルなどは客室面積の広さが特筆すべきものであるし、大浴場ならばドーミーインの他にもスーパーホテルやルートインでも人気となっている。また、東横インは変動させない料金やチェーン各店舗の均一感、無料朝食などが特徴的だ。

 数多あるビジネスホテルチェーンは、価格帯、料金変動のポリシーといったところから、注力するサービス、得意なジャンル、コンセプトなどそれぞれ異なる部分があり、利用者の選択肢も増えた。これまで出張でしか利用したことがないという人は、ぜひ旅先でもビジネスホテルの魅力や快適さを体験していただきたい。

筆者:瀧澤 信秋

JBpress

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