48歳を過ぎたら「ありがとう」を口癖にしてください…脳科学的に正しい「人生後半の後悔」を減らす方法
2025年4月23日(水)6時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_
※本稿は、西剛志『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』(アスコム)の一部を再編集したものです。
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■脳は「感謝」を伝えるのが苦手
「あなたは私がお願いしたことを忘れることもあるけど、いつも私の意見に耳を傾けてくれて感謝している。少しでも改善しようとしてくれてありがとう」
伝える際に、相手に「感謝の気持ち」を一緒に届けると、伝わり方が大きく変わります。「感謝の気持ちを伝える」ことはコミュニケーションをうまく生かせる大きなポイントですが、意外におろそかにされている行為でもあります。
「なんで感謝を伝えないのですか?」と聞くと、多くの人が同じ回答をしました。
「なんか、感謝を伝えると、相手に負けた気がする」
「なんか悔しい」
この気持ち、わかります。そして、脳科学的にみても仕方がないのです。相手を認めることが、実は脳は不得意だからです。
■ネガティブな感情は共感力を低下させる
相手を認めるためには、共感力が大切です。しかし、私たちはネガティブな気持ちでいるとき、共感力が下がることが2018年のジュネーブ大学の研究でわかりました。
脳は自分の状態が悪いと、「まずは自分を守ろう」とするモードになります。自分がダメージを受けていると、脳は相手に共感している場合ではない状態になってしまうため、共感力が下がってしまうのです。
つまり、普段から人に対して不平不満や、イライラ、怒りを持っていると、共感力が持ちにくくなり、脳が相手を認めようとしなくなってしまいます。
恋人や夫婦の間でたくさんのイライラや不満が募っていると、相手を受け入れることがなかなか難しいのは、脳の特性です。共感力が下がれば、感謝を伝えることも難しくなります。
また、別の研究ではこんなこともわかっています。自分がネガティブな状態だと、相手が(ネガティブな表情ではなく)ただ無表情だっただけでも、「相手はネガティブな表情をしている」と認知してしまうそうです。
相手は普段通りのはずなのに、見ているだけで腹がたってくることがあるのはこういう脳の特性が影響していたのです。
共感力は48歳がピークです。これはハーバード大学の研究でわかっています。そこからだんだん共感力は下がっていきます。
■「視点」が少ない人ほど攻撃的になりやすい
もともと人は、公平性を欠く出来事があると、相手を攻撃したくなる気持ちが生まれやすいそうです。仕事で、自分はがんばっているのに、チームメンバーでがんばりが足りない人を見ると、その人のことを攻めたくなるのもその理由です。
夫婦の間で、家事の分担や子育ての比率に公平性を欠いていると判断すると、相手への攻撃性が増すのには理由があったのです。
敵対している人が不幸になると脳の報酬系が活性化して喜びを感じるのです。攻撃性が強い人は、こういう傾向が強い人です。
でも一方で攻撃性が強くならない人もいます。それは、出来事や人に対して「視点を多く持っている人」でした。
視点とはいってみれば、「注目するポイント」のこと。もし目の前で、タクシーを蹴っている人を見たらどうでしょうか。誰もが「怖い!」と思うような人かもしれませんが、もしその人が運転手に財布をとられて「ドアを開けろ!」と言っていることを知ったら、その人への認識は変わります。同じシーンでも視点が変わります。
この視点が多い人ほど、しかめっ面が減り、笑顔が増えるなどポジティブな感情を持つことが多く、相手からもストレスを受けづらくなることがわかっています。
■共感力を高めるための2つの方法
つまり視点を多く持っている人は共感力が高いということです。
共感力を持つためのポイントは、この2つです。
① 視点を増やす
② 自分の心拍数を正確に当てられるようにする
心拍数で共感力が測れるのはおもしろいですよね。自分の心拍数を脈に触れないでも正確に当てられる人は、共感力が高いという調査結果があります。
最近は血圧計やスマートウォッチでも心拍数を測れますので、もしお持ちの方はぜひ試してみてください。逆に自分が思っていた心拍数と実際の心拍数が異なる人は、共感力が低かったそうです。
つまり、自分の感覚を正確に把握できていない人は、相手の感覚も理解できないということです。自分の感覚に敏感になることが、共感力を高めるコツです。
疲れた、悲しい気持ち、焦っている気持ち、嫉妬している気持ち、不安、怖い、イライラ、楽しい、ワクワク、安心、圧迫感など、自分の現在の状態を認知するトレーニングをしていくと、自分の感覚に敏感になり、人の立場や気持ちも理解しやすくなるでしょう。
■「アイメッセージ」を組み合わせてさらに伝える
感謝は、コミュニケーション科学の分野では有名な「アイメッセージ」を組み合わせることでさらに効果を発揮します。
「アイメッセージ」のアイは英語の「I」。これは「私」を主語にした表現のことをいいます。「私は〜な気持ちを感じている」とか「私は〜だと思う」というような表現が「アイメッセージ」です。
一方で、「ユーメッセージ」というものもあります。これは英語の「You」に起因しています。「あなたは〜だ」「あなたに〜をしてほしい」といった表現が「ユーメッセージ」です。
出典=『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』(アスコム)
たとえば、「ありがとう!」というだけよりも、「ありがとう! こんなことをしてくれて、私は助かったよ!」というだけでも、かなり印象が違うことがお分かりになると思います。
■アイメッセージとユーメッセージの使い分けが重要
一方でユーメッセージは、相手を非難したり、命令したりするニュアンスが強くなるリスクがある表現です。たとえば、チームメンバーが仕事のミスをしたとき。アイメッセージであれば、自分側の視点での話になります。
「ミスをしたときは自分で抱えずに、すぐに報告をしてくれたほうが、私は助かります」
一方で、ユーメッセージは、相手側に向けた話になります。あなたがミスをしてしまったのはなんで?」「なぜあなたはミスをしたときの報告が遅いのですか?」といった具合に、相手を非難しているように聞こえてしまいます。
夫婦間での会話の場合、「なんであなたは、いつも洗濯物をたたむの手伝ってくれないの」とユーメッセージを言うよりも、「洗濯物をたたんでくれなくて、私はいつも悲しい思いをしてる」とアイメッセージを伝える。
ユーメッセージでは非難されていると感じることが、アイメッセージにすると、相手の印象が変わります。
「自分も申し訳なかったな」「やってあげようかな」となる可能性があります。
なぜこのくらいのことで差が出るのか? それは、ユーメッセージは「意見」、アイメッセージは「事実」だからです。事実は相手に伝わりやすいのですが、意見は相手の反感を買ったり、その意見に従いたくないという感情が生まれがちです。
何かメッセージを伝えるときに、アイメッセージで伝える。この方法を私はおすすめします。
写真=iStock.com/Milan Markovic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milan Markovic
■「自分の感情」を共有すれば、上手に伝わる
ここでひとつ疑問を持つ人もいるかもしれません。
それは「感情は意見なのか、事実なのか」ということです。
感情は、その人が感じたこと、思ったことなので、意見だろうかと思うかもしれません。でも、感情を脳は事実と見なします。
感情「こう感じた」
意見「こうしてほしい」
表現としてはちょっとした違いですよね。
西剛志『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』(アスコム)
意見のほうも、さらに分解すれば「こう感じた。だからこうしてほしい」ということです。でも、脳はまったく違う受け止め方をしています。感情と意見の最大の差は、意見には「攻撃性」があるということです。話している本人がそう思っていなくても、受け手側が「攻撃をされている」と感じる可能性があるのです。
一方で、感情は伝える側が「実際にそう思っている」という事実なので、受け手は攻撃性を感じません。伝えるほうにはまったく相手を攻めている意識がないのに、意見を伝えたときに、相手から「なんでそんなに攻めるのか」という反応をされた人もいるのではないでしょうか。
会社でマネジメントの仕事をしている人から、「自分は部下に普通に話しているだけなのに、部下からは攻撃的な上司とみられているみたいです」という悩みを聞いたことがあります。うまく伝えるためには、意見と事実、アイメッセージとユーメッセージをうまく使い分けてください。
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西 剛志(にし・たけゆき)
脳科学者
1975年生まれ。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。テレビやメディアなどにも多数出演。著書に『脳科学者が考案 見るだけで自然と脳が鍛えられる35のすごい写真』『増量版 80歳でも脳が老化しない人がやっていること』『世界一やさしい自分を変える方法』(以上、アスコム)などがある。著書は海外を含めて累計42万部を突破。
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(脳科学者 西 剛志)