「頭のいい子が育つ家庭」では当たり前…普通の親は「スマホをやめなさい」と叱る、では一流の親はどうするか?
2025年4月23日(水)17時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_
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■スマホ原因のトラブル相談が増えている
スマホを小学生にも持たせているご家庭が年々増えています(モバイル社会研究所「スマホを持ち始める年齢10.3歳」)。通学途中に公衆電話もほとんど見かけることがなくなっていること、企業側も「家族割」「親子割」などのキャンペーンを行っていること、教育現場でもiPadなど使われておりスマホを持たせることに抵抗感が無くなってきていることも所持率が高くなっている理由として考えられるでしょう。
ただ、2024年に行った文部科学省の全国学力テストでは、スマホなどでSNSや動画を視聴する時間が長い生徒ほど、平均正答率が低くなる傾向にあると朝日新聞が報じています。
私自身も「スマホを原因とした人間関係のトラブル」に関するお悩み相談を受ける機会が年々、増えてきました。日本の教育現場では、2020年代に入ってから、ようやく電子黒板やタブレットの導入などの「モノ」が少しずつ導入されていたものの、「デジタル教育後進国」であったことは否めません。そのため、子どもたちが「リテラシー」を学校で学ぶ機会がなかったことが、人間関係のトラブルを未然に防ぐスキルを身に付けられていない原因の一つだと考えています。
さて、ここまで危機感ばかりを書きましたがここからが本題です。教え子の生徒たちから「部活の予定などの連絡はLINEを使っている」「カメラは、備忘録代わりになくてはならない」などの話を聞くと、現実問題としてスマホは持つなという短絡的な結論にいくわけにはいきません。しかし、特に受験生にとっては、「使い方を誤れば志望校の合否に関わるもの」だと考えるべきです。この記事が、スマホとの付き合い方の見直しとブラッシュアップのヒントとなればと思います。
■勉強が二の次になっている
では、ここからは実際に受験勉強どころではなくなってしまった相談事例を4つご紹介します。まず全員に共通して言えることは「スマホを使っている時間がそもそも長すぎる」という点です。
【中学受験勉強中のAくんの母】
「朝学習をするように決めていたのですが、最近は起こしても二度寝してしまうような状況が続きました。決まった時間にはベッドに入っていたようで安心していましたが、実は布団の中でこっそり動画を見ていたようです」。
【中学受験勉強中のBさんの母】
「同じ塾の親友に飼い犬の写真を送ったら『この犬可愛くない』という返信が来て傷つき、勉強に手がつかなくなりました。楽しみだった修学旅行も楽しくなくなったと泣き始め、塾にも行きたくないと言い始めました」。
→実際は最後に「?」をつけたような上げ口調で読むのが正解で、相手は「犬が可愛いよね」と言いたかったという誤解だったようです。
【高校受験のために内申点を上げたい中学生のCくん】
「どうしてもスマホで動画を見てしまいます。わかっているんだけど、なかなかやめられなくて焦っています。受験も近づいてきているので、何か良い方法はないですか」。
【高校受験勉強中のDさん】
「私は図形の単元が苦手なので、YouTubeの解説動画を見ています。わかりやすくて、この方法ならやれるかも? と思ったのですが、模試の結果になかなか繋がりません」。
これらは本当によく相談を受ける事例ばかりです。まとめると、次のような共通点が見えてきます。
■学力が下がってしまう事例も見てきた
・寝室に持ち込むなど、親の目が届いていないところで子どもがスマホを使っている
・LINEやInstagram、TikTokといったアプリ上で、友人とのメッセージのやりとりがやめられない
・1日の中でスマホを使っている時間が把握できていない
・スマホを活用しようと思う姿勢は正しいが、動画を“流し見”しているだけでわかった気になっている
残念ながら、このような状態が続いている生徒の学力は、どんどん下がっていってしまいます。過度なスマホ依存で受験勉強どころではなくなってしまうからです。経験上、このような状態では学力向上が全くといっていいほど望めず、せっかくの受験が残念ながら「失敗」に終わってしまったケースも目にしてきました。
過去に、スマホのゲームに熱中していた、ある生徒がいました。この生徒は東京の男子最難関校を狙えるポテンシャルを持っていましたが、スマホのゲームに熱中して学習習慣がおろそかになり、次第に模試の偏差値や成績が下がっていったのです。
■親子で“棚卸し”をしてみる
ご両親も「スマホをやめなさい」と叱っていたようですが、その都度、親子喧嘩が絶えず、状況は悪化するばかりでした。そして、苦手な単元にも十分に向き合えず、克服できないまま本番を迎えることになりました。もちろん第一志望を受験するも結果は伴わず、生徒本人もご家族もなかなか納得のいく受験にはなりませんでした。
もちろんスマホがすべての原因と言い切ることはできませんが、彼を見ていると、「スマホとの距離感」が受験においていかに重要なのかを痛感させられた出来事でした。私自身はどんな結果でも納得できるよう頑張ってほしいと思っている立場ですが、スマホはそれを大きく阻害する危険性があると感じます。
そのため、スマホに関する相談を親や子ども本人から受けたとき、私はまず、現状の使い方についてお子さんと一緒に棚卸しをするようおすすめしています。もし下記の内容に複数当てはまるようなら「スマホ依存」である可能性があると考えています。
・スマホが手元にないと落ち着かない
・メールやSNSに履歴がないか気になって頻繁にチェックしてしまう
・スマホのやり取りで家族や友達とトラブルになったことがある
・YouTube、TikTokなどの動画視聴をしていたら、いつの間にか長時間が経ってしまっていた
・家族に内緒で、お小遣い以上に課金していたことがある
・寝る前にスマホを扱うことがあり、寝不足気味である
いかがだったでしょうか。ドキッとした親御さんも多かったのではないでしょうか。
筆者作成
■“スマホを使わない時間”を設けてみる
その上で、受験勉強に集中してもらうために、以下の5つのポイントを実践するよう伝えています。もちろん、最初から無理に全部やる必要はありません。まずは1つだけでも、十分です。
① 家に帰ったら親に預ける(または、リビングに置くことにする)
② 1週間に○回しか充電しないと決めて、使う頻度を減らす
③ 時間管理のアプリを使って、使用状況を見える化する
④ ゲームのアプリは1つしかダウンロードしないなどルールを決める
⑤ 家族でスマホを使わないデジタルデトックスの時間を設ける
特に⑤のように、家族全員でスマホの見直しをする機会をつくることは重要です。上記5つのポイントは、いずれも子どもにスマホそのものへの注意を向けない空間を作ることが目的です。そのため親自身の協力が必須です。これらを実践したことで子どもが勉強に集中するようになり、その後の受験本番で成功したという嬉しい報告を複数お受けしていますので、悩んでいる親御さんはぜひご自身のスマホの使い方も見直してみてください。
よく聞く例ですが、頭ごなしに「スマホをいつまで見てんの?」「言うこと聞かないんだったら契約をやめるからね!」と伝えても、子どもにとっては納得感がありませんし、反発につながるだけです。まずは棚卸しをしてどれだけスマホを使っているのかを共有し、「一緒に良い使い方を考えてみよう」「もしうまくいかなかったら、途中で方法を考えてみよう」などと相談する姿勢を心がけると良いでしょう。もしお子さんがスマホでトラブルが起きても、親に相談してくれるような関係も構築できると思います。
写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227
■“能動的な姿勢”が大事
また、これまでの子どもたちの傾向を見ていると、進学や進級のタイミングで、子どもたちが新たにスマホを手にするようになるようです。ルールの作成や見直しをする時期としては、まさに今が最適かと思います。
さて、ここからはスマホの効果的な活用法について、私が見聞きした成功事例をご紹介します。共通点はいずれも「スマホに支配されていない」という能動的な姿勢でした。
【高校1年生のEさん】
Eさんは、バレーボール部で忙しい毎日を過ごしているために、なかなか勉強時間が取れないと悩んでいました。話を聞いてみると、スマホを有効活用して効率よく学習を進めていたようです。
Eさんは、数学が苦手科目だったため、スタディサプリやYouTubeの解説動画を理解できるまで繰り返し見ていたそうです。親からは「わからなかったら先生に質問してきなさい」とよく言われていたそうですが、根は引っ込み思案の性格だそうで、なかなか質問できていない状況でした。このようなお子さんは案外多いです。「何が分からないかさえ分からないんだから、質問なんてできるわけないじゃん!」ともよく愚痴っていました。
■YouTubeの“使い方”が違った
私が注目したポイントは、Eさんはわからなければ途中で止めたり、繰り返し見たりしていたという能動的な姿勢だったことです。流し見しているだけでは、ただの受け身になってしまいます。そうではなく、自分の知りたい、知識を深めたい場所を何度も見返すことで理解を深めていたという姿勢が良かったのだと思います。また、質問が苦手な子だったからこそ、スマホ相手であれば気負いせず、どんどん動画を探して、理解を深めていったという点も大変良かったのではないかと思います。
その後、Eさんは他の教科でもこの方法を実践したことで成績が向上し、大学受験では第一志望の学校へ合格することができたそうです。
写真=iStock.com/5./15 WEST
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【私立中学に通うFくん】
Fくんは私立中学に通うために、毎日、片道1時間、電車通学をしていました。往復では2時間です。1週間にすると10時間、1カ月だと40時間にもなります。中学3年になったFくんは、往復の時間を活用して「英検2級を取得する」という具体的な目標を決めました。英語力の向上も目的ですが、英検資格はその後の高校・大学受験において有利になることもあるからです。Fくんは長い通学時間に、無料の学習アプリで英検の勉強を進めることにしたそうです。
■親が“後押ししてあげる”ことも効果的
そのとき本人に話を聞いて感じたのは、やはり彼も能動的だったということです。まず、アプリを勉強に活用してやるぞ、という姿勢が何よりも評価できます。Eくんは自分に最も合っているアプリを見つけるために、複数のアプリを試行錯誤しながら探したそうです。また、「何分やったか? どれぐらい進んだか」という学習の進捗状況が明確に表示されるので、やる気につながった、クイズ機能もあって飽きがこないとも話していました。
Eくんはその後、英検2級を取得しました。スマホを有効に活用するには、自分に向いているコンテンツを探し出し、それを自分の学力向上に役立たせようと模索する姿勢が何よりも求められるのだと気付かされた事例でした。また、次は準1級にチャレンジ中とのこと。将来の大学受験でも相当なアドバンテージとなることでしょう。
この2人に共通しているのは「親がスマホを使った学習に賛成している」点でした。教科書やテキストを読んだり、問題集を解いたりするのが本当の勉強だという思い込みは捨てる必要があります。かつて「スマホで楽しそうに勉強しているのですが、本当に学力がついているのか不安です」と相談を受けたことがありますが、楽しそうかつ継続的に勉強し、成績が上がっているのなら言うことなしです。
むしろ「今はこんなアプリがあるのね。お母さんの時にもあったら良かったのに」「やっぱり、理科は動画で見ると分かりやすいなあ」などと共感し、後押ししてあげるような一言をかけてあげると、勉強の励みにも繋がることでしょう。
■隙間時間をうまく使うためのツールにする
私は常々、生徒たちに「受験を制する生徒の共通点は、持って生まれた能力ではない。隙間の時間の使いかたが上手なのだ」と伝えています。社会人の方でも、仕事や生活が多忙な人ほど、読書をしたり資格を取るなどの自己投資をしています。成功を収めている人ほど隙間時間の使い方が上手であると言えるでしょう。
スマホを使えば、ちょっとした時間の積み重ねで、1日に合計30分程度の勉強時間を確保することはそんなに難しいことではありません。チリも積もれば山となるで、1年間で単純計算すると180時間前後の学習時間が確保できます。数年単位で計算すればもっと大きな差になります。
学生時代に隙間の時間の使い方を確立できれば、生涯学び続けるスキルが身に付き、かけがえのない大きな財産を得られると言っても過言ではありません。
これからもスマホは、より便利に進化していくものと思われます。学習アプリなどもどんどん増えてくるでしょう。ChatGPTといった生成AIが学習ツールになることも当たり前になっていくと思います。
写真=iStock.com/seven
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/seven
■スマホを制すれば受験を制す
次々に新しく生まれてくるツールについては、単純に善悪で判断するのではなく、中身のデメリットを最小化し、そのメリットを最大限にいかすように考えていくのが重要です。子どもたちは、大人と比べれば精神的にはどうしても未熟です。これは致し方ありません。本人たちでスマホの使い方のコントロールするのは難しいと思います。
ですから、最初は親や周りの大人がしっかりフォローしていく、もしくは一緒に使い方を含めて見直していく、さらにプラスになる使い方を積極的に探してみることがとても重要なのだと思います。ぜひこの記事をきっかけに、お子さんやご家庭でのスマホの使い方を見直してみてください。「スマホを制するものは受験を制す」を合言葉に、まずは行動あるのみです‼
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渋田 隆之(しぶた・たかゆき)
国語専門塾・中学受験PREX代表
教育コンサルタント・学習アドバイザー。神奈川大手学習塾で中学受験部門を立ち上げ、責任者として20年携わる。毎年、塾に通う生徒全員と直接面談を実施。保護者向けにも、ガイダンス、進路面談、カウンセリングを担当し、これまで関わった人数は2万人以上にのぼる。日々の思いを綴るブログ「中学受験熱血応援談」は年間100万件以上のアクセスを獲得している。2022年7月に中学受験PREXを立ち上げ、現在も継続して中学受験の最前線に立ち続ける。国内最大の受験人数を誇る首都圏模試センターの中学受験サポーターも歴任し、中学校と受験生の橋渡しとなる情報提供を日々行っている。一番大切にしていることは、ご縁があり指導することになった子どもたちとご家族のために、誠心誠意、ベストを尽くすこと。著書に『中学受験 合格できる子の習慣 できない子の習慣』(KADOKAWA)、『2万人の受験生親子を合格に導いたプロ講師の 後悔しない中学受験100』(かんき出版)、『親の声掛けひとつで合否が決まる! 中学受験で合格に導く魔法のことば77』(KADOKAWA)がある。
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(国語専門塾・中学受験PREX代表 渋田 隆之)