「オッサンばかり」のメガネスーパーをV字回復させた経営戦略とは

4月24日(火)7時0分 文春オンライン

 普段何気なく掛けているメガネ。身近なツールである一方で、街で見かけるショップやメガネの専業メーカーがどのようなスタンスで、どのようなビジネスを展開しているかまでは案外知らない人も多いだろう。そこで、今回は“メガネをビジネスする”をテーマに業界の最前線で活躍する経営者に連続インタビューを敢行した。


 第2回は、株式会社メガネスーパー代表取締役社長の星﨑尚彦氏。メガネスーパーは1980年代以降に低価格戦略で急成長を果たすも、新興勢力との価格競争によりシェアを失い債務超過に。どん底だった同社を立て直すべく、メガネ業界外から招聘された。星﨑氏は三井物産を経て、直近では衣料品販売製造「クレッジ」の再建に辣腕を振るっていた。期待に応えて見事「老舗」のV字回復を実現した星﨑氏の経営哲学とは。



株式会社メガネスーパー・星﨑尚彦社長


これまでメガネとは縁のない生活を送っていました


——メガネ業界はこの10年で大きく変化しました。星﨑さんは、ちょうどその最中にメガネ業界へ来られたことになります。


星﨑 はい。私がメガネスーパーの社長に就任したのは、今から5年前の2013年7月です。それまでメガネ業界のことはまったく知らなかったですし、個人的にもメガネとは縁のない生活を送っていました。


——そんな星﨑さんが、なぜメガネスーパーの再建を任されたのですか。


星﨑 就任当時のメガネスーパーは大赤字で、本当に明日をも知れぬ状況だったんです。すでに投資ファンド主導による経営再建中だったのですが、私がその同じファンドとともに行なっていたアパレル企業の再生が終わったところで、お声がけをいただいたんです。



オッサンばかりの会社は完全に迷走していた


——かつてメガネスーパーは急成長を遂げ、「メガネチェーン御三家」と言われていたこともありました。それがどうして不調に陥ったのでしょうか。


星﨑 もともとメガネスーパーは、価格破壊を引っ提げて業界へ参入しました。以前は個人経営のメガネ屋で10万円近くしていたメガネが4〜5万で買えると話題になり、全国に540店舗を構えるまで成長したのです。ところが、JINSやZoff、眼鏡市場などの新興勢力がレンズ代0円を打ち出したことで、当社を含めたこれまでの全国チェーンのオールドプレーヤーは一気に苦境に陥ったわけです。


——価格での競争が難しくなったわけですね。


星﨑 ご存知の通り、JINS、Zoff、OWNDAYSなどのSPA小売り業は、価格のインパクトに加えファッション的な要素も強かったので、我々みたいなオッサンばかりの会社はどうしていいかわからず完全に迷走していました。戦い方がわからないなかで、ならばこちらもさらに価格を下げようと、レンズ代を0円にしてしまった。コスト構造を変えていないのに、売値だけを下げてしまったわけです。


 価格を下げれば利益はその日から下がりますが、客数がその日から増えるわけではありません。非常に危険な戦略であるのに、「レンズを0円にすれば戦える」という現場の声を中途半端に吸い上げてしまい、利益を吐き出してしまったんです。



“レンズ0円”から脱却し技術力での勝負を決意


——そうしたなか、星﨑さんが来られたと。


星﨑 そうです。このままでは戦えないという状況で、社員と合宿もしながら何度も何度も議論を重ねました。そこで導き出された結論は、「我々はアイケアで差別化を図っていこう。強みである技術力で勝負しよう」ということだったのです。


 というのも、以前メガネスーパーはメガネの専門知識を学べる専門学校を運営しておりました。現在も「アイケアスクール」という名前で復活させていますが、そのため技術力の高い社員が多いんですね。そこを活かし、お客様お一人おひとりに最も適した「アイケア」「アイウェア」をご提供しようと。それが「アイケアカンパニー宣言」です。レンズを有料に戻し、その分検査の内容やアフターケアもより充実したものにして、業界最強の保証システムも導入しました。



——これまで低価格を売りにしていたなかで、お客様の理解は得られたのでしょうか。


星﨑 そもそも“アイケア”という観点でお客様へアプローチしてこなかったことが、メガネ屋の怠慢だと思っています。


 もともと私は目が良いと言われていたんですよ。数年前に少し見えづらさを感じて眼科へ行っても「あなたの目は悪くないから大丈夫」、「メガネをかけると目を甘やかすことになる」と言われ、メガネなしで乗り切ろうとしていたんです。ところが46歳でメガネスーパーに出会いスタッフに検査してもらったところ、「星﨑社長は大変な老眼です。すぐにメガネをかけないと老眼はさらに進行します」と言われて。メガネを作ったら、散々悩んでいた肩こりや頭痛まで解消されたんです。「なんでこんな大事なことを世の中のメガネ屋は伝えていないんだ!」と。私は怒っているんです。


お洒落なバーでメニューが見えない(笑)


——メガネを必要としている人が、その必要性に気が付くことができていないかもしれないわけですね。


星﨑 ええ。人間なかなか調子が良いときには配慮しないんですが、老眼が始まるぐらいの年齢になると、目の調節力も落ちてきて暗いところで極度に字が見えなくなる。そうなるとお洒落なバーに女性を連れていっても、メニューが見えないんですよ(笑)。それって切実じゃないですか。それは一つの例ですが、初期の段階から老眼鏡をかけることが必要であるというメッセージなど、アイケアの重要性を伝えていくのがメガネスーパーの役割だと思って、社員にゲキを飛ばしています。



——アイケアカンパニー宣言をされたあと、社員の反応はいかがでしたか。急な変化に戸惑う方もいたのではないでしょうか。


星﨑 たしかに、改革を行なうとき一番の障壁となるのは社内なんです。当社は2009年からレンズ付きの価格にしていますから、それ以降に入社した社員は「レンズ0円ですよ」というセールストークしかできないわけです。価格で競争するなら、販売員はいらない。人間対人間のやり取りだからこそ、無限の可能性がある。差別化を徹底することで、必ず再生の道はあるということを言い続けました。


社員が「この戦い方で大丈夫だ!」と実感


——それだけ差別化できるという確信があったと。


星﨑 実際に結果が出るまでは、正直私もドキドキしていました。ですが意外とすぐに手ごたえがあり、私が来るまでに2万円を切っていた客単価が、今では3万7000円を超えるようになりました。これまで2万円でも「JINSやZoffに比べて高い」と言われていたのに、今では3万7000円で感謝されるようになったんですよ。


 社員が「この戦い方で大丈夫だ!」と実感してからは、ぐっと調子が上がってきましたね。23億円の赤字だったものが、アイケアカンパニー宣言をした翌年に15億円となり、8億円も改善しているんです。その翌年にまた数億円改善したときに、「もう大丈夫だな」と思いました。2016年には赤字を脱し、今はその自信をより深めています。



1日33円、メガネに払えますか?


——最近では、これまでのイメージを覆す高級感のある店舗もオープンしています。


星﨑 客単価が上がれば、その価格に対して納得ができる接客や検査、雰囲気も大切になってきます。これまで百貨店で購入されていたお客様が増えていることもあり、雑然とした店内の雰囲気を一新するため、重要拠点の1つである高田馬場本店をリニューアルしました。



——通常の店舗とはどのような違いが?


星﨑 まずお店を広々とした落ち着いた空間にして、高級感を持たせています。また目のリラクゼーションサービスを行なっており、検査前にリラクゼーションで疲れ目状態をリセットさせることで、検査精度の向上にもつなげています。その他、「夜間視力検査機器」を設置し、従来の店舗では25項目だった検査を40項目にするなど、検査内容も充実させました。


 これが大成功で、売上が前年比140%になっているのに加え、客単価も4〜5万円まで上がったんです。今後はこの付加価値型次世代店舗をさらに増やす予定です。


——消費者側の意識も変わってきているのでしょうか。


星﨑 お客様のなかには、「一度安いメガネに浮気したけど、また戻って来たわ」とおっしゃってくださる方もいます。


 3万6000円のメガネと聞くと高いと思われるかもしれませんが、3年で買い替えるとすると、1カ月1000円。1日33円なんですよ。情報の8割が目から入るといわれているなかで、「1日33円も目に敬意が払えないんですか?」という話で。我々は少しでも多くの人の目を守るために、現在目の検査や構造をさらに研究するための部門を作っています。「メガネスーパー=目のことを真剣に考えてくれるコンシェルジュ集団」にしようと、取り組んでいるところなんです。



就任5年でメガネが100本に


——ちなみに星﨑さんはメガネを何本ぐらいお持ちなんですか。


星﨑 100本ぐらい持ってますね。


——メガネスーパーに来られてから5年で100本ですか!


星﨑 そうです。私はメガネのことを知らなかったので、遠近、中近、近々、それから単焦点とあらゆる種類のメガネを作って、複数持ち歩いています。私はメガネの扱いがヒドく、まるでメガネのル・マン耐久レースといったような使い方をしているのですが(笑)、壊れることでいち早くフレームの弱点に気が付くこともある。それに様々なフレームやレンズを使うことで問題提起もできるので、これからも何百本と増えると思います。



——実体験による意見が、もっともリアルですからね。


星﨑 使ってみて思うのが、メガネって遠近両用1本だけで済ませようとする方が不自然だということです。屋外で遠くを見るときと室内で仕事をするときでは必要な度数も違うし、極端に言えば朝と夜でも視力は違う。ファッションの観点から言っても、洋服は細かくTPOで使い分けるじゃないですか。それぐらいメガネはたくさんあったほうが良いと思っていて、社内外に一生懸命提唱しているところです。半年ぐらい声かけしているんですが、ようやく花開いてきた感じがあって今絶好調なんですよ。


 メガネやコンタクトは地味なアイテムだと思っていたんですが、深く知るほど楽しくて、今もワクワクしているんです。


写真=平松市聖/文藝春秋


(「 メガネスーパー社長が語る『見せかけの正論』を社内から一掃できた理由 」に続く)



(伊藤 美玲)

文春オンライン

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