「おっぱい次官」の落とし前は財務省解体

4月24日(火)15時15分 プレジデント社

2018年4月20日、財務省の福田淳一事務次官のセクハラ疑惑に抗議するため、同省に向かう野党議員の一団(写真=時事通信フォト)

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後に「あれが財務省解体のきっかけだった」といわれるかもしれない。福田淳一・財務次官のセクハラ発言報道で、「週刊新潮」が底力を見せつけた。かつて財務省の前身である大蔵省も、週刊誌報道で解体に追い込まれた。当時、「ノーパンしゃぶしゃぶ接待」を追いかけていた元「週刊現代」編集長の元木昌彦氏が振り返る——。


2018年4月20日、財務省の福田淳一事務次官のセクハラ疑惑に抗議するため、同省に向かう野党議員の一団(写真=時事通信フォト)

■「ちょっと僕のクルマ、最近ガタがきててね」でいい


「首吊るような人は事務次官にはなれない」


これは大蔵省に不祥事が続発して、逮捕者や自殺者が大量に出た直後の1998年に出された、テリー伊藤による大蔵官僚匿名インタビュー『大蔵官僚の復讐』(飛鳥新社)に出てくる大蔵省キャリアの言葉である。


事務次官というのは中央省庁では「位人臣を極めたお方」という。次官になる、ならないは、「天皇になるのか、市井の人で終わるのかぐらいの差がある」(同じキャリア)ようだ。


当時の大手銀行にはMOF担と呼ばれる中堅幹部たちがいた。大蔵省との折衝や情報収集にあたるのだが、一番の役割は、彼らを接待して賄賂をばらまくことだった。


先の本で、キャリアがこう語っている。


「MOF担の仕事というのは、キャリアの趣味、生活パターンをつかむことが第一で、キャリアは『僕、オペラが好きでねえ』。これだけでいいわけですから。(中略)それは自動車でも同じで、『ちょっと僕のクルマ、最近ガタがきててね』だけでいいわけだから」


■5000円ほど払うとスカートの中が見える仕掛け


大蔵省の「護送船団方式」に乗っていれば、何の心配もいらなかった時代が続いた。だが、地価の異常な高騰や株価の上昇で膨らみ過ぎたバブル景気は、大蔵省の不動産融資の総量規制に端を発して、弾けてしまう。


国民の血税を住専の不良債権処理に投じるなど、批判が高まっていったが、それでも大蔵省の接待漬け、収賄体質は変わらなかった。


だが、国民の怒りは、銀行によるキャリアたちへの「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待が、週刊誌で暴かれたことで一気に火を噴いたのである。有名だったのは歌舞伎町にあった会員制しゃぶしゃぶ「楼蘭」という店だったと記憶している。


ここには多くの若い女性がミニスカートにノーパン姿でいて、5000円ほど払うと、天井からつるされたボトルから酒を注いでくれたりする時に、スカートの中が見えるという仕掛けだった。


性的サービスがあるわけではないが、気に入った女の子がいると、MOF担に頼めば、お膳立てをしてくれたとも聞いていた。ここは表向き飲食店なので、領収書が出ることも、MOF担が使いやすかった理由である。



■難しいことをわかりやすく、わかりやすいことを面白く


私も一二度顔を出したことがある。最初の頃は、店のほうでも官僚たちが来ていることが宣伝になると思ったのだろう、名刺の束を持ってきて、われわれに見せてくれた。


こうした店で毎晩のように接待されていると、テレビのワイドショーでも毎日取り上げるようになり、大蔵官僚は許せん、こんな役所はいらないという声が澎湃(ほうはい)と沸き上がり、ついには大蔵省は解体され、財務省と金融監督庁とに分けられてしまうことになるのだ。


大蔵省汚職事件も、ノーパンしゃぶしゃぶ接待が出てこなかったら、解体までいったかどうか。


週刊誌のモットーは、難しいことをわかりやすく、わかりやすいことを面白く、読者に提供することである。ノーパンしゃぶしゃぶ接待報道はその原点のようなものだが、今回の週刊新潮(4/19号)の福田淳一・財務次官(58)のセクハラ発言報道も、週刊誌の原点と底力を見せてくれた。


後に、あれがきっかけで財務省解体までいったのだと、いわれることになるかもしれない。


■「うそつきは財務省の始まり」だとして「性事問題」化


新聞の社説や国会でも「浮気しよう」「おっぱい触っていい?」「手しばっていい?」という言葉が飛び交い、「うそつきは財務省の始まり」だとして「性事問題」化した。


森友学園問題で、経緯をまとめた公文書を改ざんした責任を問われた佐川宣寿前国税庁長官が、国会での証人喚問で、「売却手続きに安倍首相や昭恵夫人の影響があったとは、一切、考えていない」といい切った。


だが、改ざんした中には昭恵夫人の名前があり、当時、彼女は、できる予定の小学校の名誉校長になっていたことは、当時の担当者ははっきり認識していたのである。


また、改ざんを命じられた一人であった財務省近畿財務局の上席国有財産管理官が、「勝手にやったのではなく財務省からの指示があった」「このままでは自分一人の責任にされてしまう」というメモを残して自殺しているのだ。


魚は頭から腐る。トップの嘘を隠すために、下の者が嘘を重ね、末端の人間を死に追いやってしまう構図は、異常というしかない。


だが、モリ・カケ問題から何としてでも逃げ切ろうとする安倍首相のもくろみを、このセクハラ発言はぶち壊してしまった。


■「セクハラ被害に遭った記者は名乗り出てほしい」


報道以後の動きを見ていこう。福田事務次官はセクハラ発言を、真っ向から否定した。


すると、新潮は待ってましたとばかりに、福田と女性記者とのやりとりの音源を、女性記者の発言部分だけを消して公表したのだ。


これで彼の進退は窮まったと思った。だが、財務省は16日、福田から聞き取りをしたとして、「女性が接客をする店では、女性と言葉遊びを楽しむようなことはあるが、女性記者とそんなやりとりをしたことはない」と、あたかも、情報源がでっち上げたのではないかといいたげな「聴取結果」を発表し、福田本人は新潮社に対して訴訟を準備していると、逆に恫喝してきたのである。


さらに、財務省は同省の記者クラブに加盟している各社に対して、「セクハラ被害に遭った記者は名乗り出てほしい」と呼びかけた。新潮(4/26号)で政治部デスクがいっているように、


「財務省は、手をあげることなんてないだろうと高を括っているのです」


麻生財務相も、発言が事実ならアウトだがといいながら、優秀な福田次官を更迭する考えはないといい切った。


だが同じ16日の産経新聞朝刊は「福田財務次官 更迭へ」と一面で報じていた。



■安倍首相は即刻、福田次官を更迭したかったが……


週刊文春(4/26号)がこの間の事情をこう解説している。当初、福田次官を買っていた安倍首相も、新潮の記事を読んで、「“安倍晋三は面白いけど、税はどうしようもない。キスしたい”って、支離滅裂だ。ほんとにくだらない会話をして、許せないね。もう麻生さんに任せるよ」と突き放したという。


安倍は即刻、福田を更迭して、この問題を決着させたかった。官邸が産経にそのことをリークしたのであろう。


だが、麻生財務相と財務省は、森友学園の文書改ざん問題についての調査が出れば誰かに責任を取らせる必要がある、それには任期が迫っている福田を辞めさせるのが得策だといい募り、官邸も渋々承知したというのである。


文春は、今号の取材時点で、新潮の情報源は、財務省担当記者の話として、「福田氏がお気に入りだったのが、フジテレビとテレビ朝日の女性記者。(中略)ただ、音源の出元については『酔っぱらって覚えていないんだよ』とボヤきつつ、『フジは違う』と言ってました」とし、「最終的に福田氏は、上司の麻生氏や官邸の杉田氏に、テレ朝の女性記者の名前を挙げた」(文春)と、特定している。


■財務次官の引責辞任は「ノーパンしゃぶしゃぶ」以来


福田や財務省はこう考えたのではないか。全否定していても、新潮は取材源の秘匿があるから、どこの社か明かすことはできない。


これは推測だが、福田次官はテレビ朝日の人間から、 「うちの女性記者が『福田のセクハラを扱いたい。録音はしてある』と訴えたが、財務省とけんかをするわけにはいかないとの判断から、社としてはできないと断った」と聞いていたのではないか。


名乗り出ない以上、しらを切りとおし、セクハラ発言などしていないと百万回いい続ければ、うそも真実になると。


だが、4月18日、突如、福田次官は「辞任する」といい出すのである。


何があったのだろう。くだんの女性が、このままでは自分がやったことが隠蔽されてしまうと、名乗り出るといい出したのか、社内から、報道機関として泣き寝入りするのは許されないと、激しい突き上げがあったのではないか。


財務次官が引責辞任するのは「ノーパンしゃぶしゃぶ接待汚職事件」以来、20年ぶりである。


■「報道機関として不適切な行為」か


19日未明にテレビ朝日が緊急会見を開き、週刊新潮へ音源を持ち込んだのは自社の女性記者であると発表したのである。


テレ朝によると、この女性記者は以前、福田次官からセクハラ被害を受けていると上司に相談していたが、本人が特定されることで2次被害のおそれがあることなどを理由に、「報道は難しい」といわれてしまった。


そのため女性記者は「セクハラ被害が黙認され続けてしまうのではないか」という思いから新潮編集部に連絡して取材を受け、録音した一部も提供した。


テレビ朝日の報道局長は、取材活動で得た情報を第三者に渡したことについて、「報道機関として不適切な行為であり、当社として遺憾に思っている」といったが、これに対してSNSなどで激しい批判がなされている。


自社の社員が取材先からセクハラを受けているのに、何もやらなかった彼女の上司たちこそ、報道機関にいる人間として「不適切」だといわざるを得ない。



■テレビ朝日の“ドン”は安倍首相とたびたび会食


新潮が、今週号の「『なぜ自社で報道できないのか』の疑問に答える」の中で、「セクハラに反発したりすれば、その女性記者が所属する社は財務省から嫌がらせをされて“特オチ”が待っている。そうなると同僚にも迷惑がかかります」(財務省を担当するデスク)と書いているように、特オチすれば地方の支局へ飛ばされることもあるからだが、一番の理由は、社が権力に盾突きたくないからである。


テレビ朝日の“ドン”といわれる早河洋会長と安倍首相が会食していることは、よく知られている。そこに、今回会見を開いた篠塚浩取締役報道局長や伊井忠義政治部長が同席しているのも目撃されているのである。


篠塚報道局長は共謀罪報道で現場に「政府の言い分も報道しろ」と圧力をかけまくっていたとも報じられている。


安倍はトランプとゴルフをしに訪米していたが、安倍の意を受けて、官邸筋から福田を辞任させろという強い圧力があり、麻生も福田擁護を断念したといわれる。


安倍は、帰国してからもセクハラ問題で野党から攻められるのを嫌ったのであろう。その情報は、テレビ朝日側もつかんだに違いない。そこで大急ぎで会見を開いた。


福田が新潮報道を全否定していた時点で、テレビ朝日側がこのことを公表していれば、ジャーナリズムを一応掲げる社としての体面は保てたはずだが、遅すぎたといわねばなるまい。


■なぜ文春ではなく新潮へこのネタを持ち込んだのか


ところで、なぜ彼女は文春ではなく新潮へこのネタを持ち込んだのだろう。


新潮に知り合いがいたとすればわかるが、そうでないとすれば、女性読者が半数を占めるという文春のほうが、セクハラには敏感だと思うのだが。


私なりに考えてみると新潮を選んだ理由は3つあると思う。


ひとつは、テレビ朝日は朝日新聞系列であるから、長年、朝日批判を売り物にしている文春は嫌だったのではないか。


また新潮は、しばらく前に元TBSワシントン支局長にレイプされたと顔と実名を出して訴えている伊藤詩織のことを大きく取り上げている。


いま一つは、この頃は安倍首相批判もやっている文春だが、先の元TBSワシントン支局長を最初に起用したのも文春だし、編集長も常々、安倍首相とは親しいと公言していたはずだから、情報が流れることを危惧したのではないか。


■メディアの自浄作用が問われている


福田次官更迭で、麻生財務相の辞任も避けられなくなった。


トランプとの首脳会談で、何一つ土産を持って帰ることができなかった安倍首相を待つのは、さらなる支持率の低下と、党内からだんだん大きくなる反安倍の声である。


安倍政権の崩壊は、これまで安倍にすり寄っていたメディアの人間たちの罪状も浮き彫りにするはずだ。


安倍政権の「膿(うみ)」は、わずかなメディアを除いては、大きく広がり、異臭を放っている。安倍政権を倒すということは、膿を体全体に浴びてきた人間たちも排除するということである。


メディアがどこまで自浄作用があるのかが問われているのだ。



(ジャーナリスト 元木 昌彦 写真=時事通信フォト)

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