平成時代、国力のかわりに日本の誇りになったもの

4月26日(金)6時12分 JBpress

平成の30年間で、日本へのイメージはどのように変わったのか。

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(三矢 正浩:博報堂生活総合研究所・上席研究員)

 私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化をみつめ、さまざまな研究活動を行っています。

 前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。


平成を通じて大きく変わった日本へのイメージ

 4月に入り、新元号「令和」や新紙幣デザインなど、新しい時代への動きを感じさせる大きな発表が次々となされました。新元号の発表直後には、新聞の号外が飛ぶようになくなったり、新元号の入ったさまざまなグッズが発売され、話題になったりしていました。さらには、元号のルーツになっている古典『万葉集』や、新紙幣に使用される人物に関係する歴史書などの売れ行きも好調とのこと。にわかに生活者の間で、日本やその歴史について改めて注目しようという機運が高まっているようです。

 そこでふと気になったのが、そもそも生活者はいま、日本に対してどんなイメージを抱いているのだろうか、ということ。人それぞれにいろいろなイメージを持っているかと思いますが、何か大きな傾向のようなものはあるのでしょうか。

 博報堂生活総研の「生活定点」では、生活者のさまざまな意識や行動、価値観の変化について継続的に調査しています(首都圏・阪神圏の20〜69歳男女 約3000名に聴取、調査概要は記事末尾に記載)。

 その中には、「日本に対して誇りに思うこと」について聞いた設問があるのですが、これをみると実は、日本に対するイメージが平成初期から現在にかけて、だいぶ変化していることが分かります。いったいどんな変化が起きているのか。さっそくデータを確認してみましょう。

「日本に対して誇りに思うこと」では、「美しい自然」や「社会の安定」など、20項目について、日本の誇りだと思えるかを個別に聞いています。うち1990年代から継続聴取しているのは16項目。さらにそのうち、

・最初の聴取時点からスコアが減少・・・12項目
・最初の聴取時点からスコアが増加・・・4項目

となっています。以下具体的に、まずは減少しているイメージ項目からみていきます。


「国力」関連のイメージは大きく減少

 最初の聴取時点からの減少幅が10ポイント以上と、比較的大きく落ちている項目は、以下の5項目が該当しました。

●減少している項目(減少幅10ポイント以上)
 長い歴史と伝統   1992年64.8%⇒2018年52.5%(-12.3ポイント)
 高い科学技術の水準 1992年41.1%⇒2018年24.6%(-16.5ポイント)
 社会の安定     1992年39.7%⇒2018年22.5%(-17.2ポイント)
 高い教育水準    1992年46.2%⇒2018年21.1%(-25.1ポイント)
 経済的繁栄     1992年45.4%⇒2018年15.7%(-29.7ポイント)

 いかがでしょうか。にわかに関心が高まりつつある「長い歴史と伝統」については、1992年には64.8%ありましたが、2000年に入ってスコアが低下しはじめ、直近が過去最低に。とはいえスコアそのものでいえば5割を超えており、高い水準ではあります。

 もうひとつ特徴として目立つのは「高い科学技術の水準」「高い教育水準」「経済的繁栄」など、主に“国力”に関連するイメージが1992年の4割台から、直近では1〜2割台に落ち込んでいることです。

 事実ベースでは、日本が依然世界でも有数の経済大国であり、高い教育水準にあることは間違いないでしょう。ですが、2000年代以降、中国・韓国・インドをはじめアジア各国の猛烈な躍進を目の当たりにしたことなどを受けてか、現在では前述の項目を「誇りである」と考えている人はだいぶ少なくなってしまったようです。

 次に、最初の聴取時点からの減少幅が比較的小さかった項目をみていきます。

●スコアが減少している項目(減少幅5〜10ポイント)
 国民の勤勉さ・才能    1992年57.1%⇒2018年48.1%(-9.0ポイント)
 国民としてのまとまり   1992年18.6%⇒2018年11.6%(-7.0ポイント)
 格差がないこと      1992年16.3%⇒2018年 9.0%(-7.3ポイント)
 世界への貢献度が高いこと 1992年14.0%⇒2018年 8.5%(-5.5ポイント)

 こちらは「国民としてのまとまり」や「格差がないこと」など、絶対的なスコアがあまり大きくないものが並びました。唯一「国民の勤勉さ・才能」については1992年57.1%と高めのスコア。

 興味深いのは1998年から2000年にかけて大きくスコアを落とし、そこからまた少しずつ上昇している点です。1998年前後の日本はバブル崩壊後、アジア通貨危機などの影響もあって急速に景気が冷え込み、厳しいリストラの断行もありました。これらが、自分たちの能力や仕事への向き合い方に対する自信に、一時的に強い揺さぶりをかけたであろうことがうかがえる動きです。


増加したイメージは“ソフト”な項目

 では、最初の聴取時点から増加している項目はどうでしょうか。

●スコアが増加している項目
 美しい自然    1992年56.8%⇒2018年59.8%(+ 3.0ポイント)
 国民の人情味   1992年39.7%⇒2018年45.7%(+ 6.0ポイント)
 質の高いサービス 1992年21.2%⇒2018年39.5%(+18.3ポイント)
 国民の義理がたさ 1992年30.9%⇒2018年35.6%(+ 4.7ポイント)

「美しい自然」は伸び幅3ポイントですが、どちらかと言えばこれは、かつてから高い水準をキープし続けているということでしょう。

「国民の人情味」と「国民の義理がたさ」は、グラフを見るとほぼ同じ動きをしており、2000年に入って落ち込んだあと、2010年から2014年にかけてやや大きめの増加を見せています。東日本大震災という未曾有の危機に直面し、社会に助け合い・支え合いの機運が高まったことで、美徳としての人情・義理がたさへの意識を高めたのでしょうか。

 もうひとつ「質の高いサービス」は、1992年の2割台から近年は4割前後まで上昇しました。2013年には「お・も・て・な・し」が流行語になり、まさに質の高いサービスなどを求めて外国からのインバウンドの動きも活発になっているなど、新しい自分たちの誇りとして認識しやすい状況になっていることが、関係しているように思えます。

 総じてみれば、平成初期に誇りに感じられていた経済的繁栄や科学力、教育水準など“ハード”な国力の要素は、平成末期にはだいぶ低下。その一方で、人情味や義理がたさ、サービスの質など、どちらかといえば人に紐づく“ソフト”な要素を誇る気持ちが徐々に高まっているようです。


10年先の日本の未来に期待するのは?

 もうひとつ、生活者はこの先、令和以降の日本にどんなことを期待しているのでしょうか。生活定点には「10年先の日本の未来に期待すること」という質問があります。聴取開始が2016年なので、今回は直近2018年のデータをみていきたいと思います。

●10年先の日本の未来に期待すること(2018年)
 1位「景気がよくなること」79.7%
 2位「社会保障制度が維持されること」73.3%
 3位「自然災害からの復興が進むこと」68.6%
 4位「人々の公共マナーが向上すること」60.6%
 5位「治安が良くなること」56.3%
 6位「防災対策が進むこと」54.4%
 7位「英語を話せる人が増えること」53.1%
 8位「国際関係が良くなること」51.0%
 9位「出生率が上がること」48.8%
10位「省エネルギー化や再生可能エネルギーの活用が進むこと」46.4% など

 1位は「景気がよくなること」、2位は「社会保障制度が維持されること」が7割台で並びました。いずれも暮らしの経済面に関連する期待です。以下は6割台が「自然災害からの復興が進むこと」「人々の公共マナーが向上すること」。5割台が「治安が良くなること」「防災対策が進むこと」「英語を話せる人が増えること」「国際関係が良くなること」と、どちらかというと公共的な面や災害に関連した項目が並んでいます。

 このあたりの意識、年代によってもかなり差があるのかなと思いきや、実はあまり大きく変わりません。

 60代では当事者意識が強いためか「社会保障制度が維持されること」が1位となっていますが、20〜50代ではすべて「景気がよくなること」。2位以降の項目も比較的似通っていて、そこまで大きく意識が変わらないことが、逆に意外で興味深く感じます。

 未来の日本に望むことはいろいろあれど、「何よりもまず経済と自分の生活を・・・」という生活者の意識は、年代を超えて根強いものがあるようです。

 さあ、来月からはいよいよ令和元年。そして秋には消費税がついに10%の大台に乗ることになります。令和時代の日本の未来、生活者の暮らしの行く末を占う上でも、最初から目が離せない年になりそうです。

【参考情報】
○「生活定点」調査概要
調査地域:首都40Km圏、阪神30Km圏
調査対象:20〜69歳の男女3080人(2018年・有効回収数)
調査手法:訪問留置法
調査時期:1992年から偶数年5月に実施(最新調査は2018年5月16日〜6月15日)
○「生活定点」ウェブサイト
https://seikatsusoken.jp/teiten/

筆者:三矢 正浩

JBpress

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