日本電産が時価総額70兆円のテスラを超える日

4月26日(月)6時0分 JBpress


交通革命が世界を変える

 石炭経済における蒸気機関車、石油経済における自動車。

 エネルギー革命が交通革命を起こしたときに、生活が、都市が、経済が変わり、文明が変わった。

 同じことが起こる。再生可能エネルギー、私の言葉で言えば、(すべて太陽起源の電力になるから)「太陽電力」で動く電気自動車(EV)が、次の交通革命を引き起こす。

 その時、いまや時価総額が70兆円に達するテスラは、時価総額が8兆円の日本電産に、EVの主役の座を奪われるだろう。

 そして、EVの主力が、自動運転電気自動車(AEV autonomous electronic vehicle)、私の言葉で言えば「自電車」が交通の主力になるときに、新しい「交通革命」が起きる。

 道路を変え、建物を変え、町や村を変え、通信や情報、金融、医療や買い物、教育、つまり、生活全体を変えていく。

 AEV、あるいは「自電車」が交通革命を起こし、交通革命が「都市革命」を起こし、全体の「経済革命」を起こす。


主役交代が起きる

 完成車メーカーからキーコンポーネント企業へ、自動車社会の主役の移動が、これから起きる。

 変化できない企業は淘汰される。2つの先例がある。

 かつて、コンピューターの主役は、コンピューターメーカーだった。

 1968年の映画「2001年宇宙の旅」の「HAL」、1文字ずつずらすと(H⇒I、A⇒B、L⇒M)「IBM」が、メインフレーム中心のコンピューターの永遠の独占企業と見られていた時代が長かった。

 そして、1980年代に、本格的なパソコンの時代が始まった。

 IBM、NEC、富士通、東芝、コンパック・・・。多くの企業が参入して成功を収めた。相変わらず、主役は「PCメーカー」だった。

 しかし、1990年代のマイクロソフトの「Windows」、インテルのマイクロプロセッサー、2つ合わせて、ウィンテル(WINTEL)の時代が登場して、コンピューターの主役は、「コンピューターメーカー」から、ソフトウエアとハードウエアの「コンポーネント企業」に移った。

 マイクロソフトは今もGAMFAの一角を占めて一貫した高収益を誇り、インテルの経営は低迷して台湾のTSMCやエヌビディアに半導体の主役の地位を奪われているが、半導体の付加価値自体は、むしろさらに巨大化している。


レンズという参入障壁がなくなったカメラ

 かつて、高級一眼レフが若者の憧れだった時代があった。

 精密な「レンズ」の製造がカメラへの参入障壁であり、ドイツのツァイス、ライカ、日本のニコン、キヤノンのカメラとレンズが、「写す」市場の最上位を占めた。

 しかし、「写す」という行為の主力が、デジカメへ、そしてスマホへと変わり、一眼レフカメラの最大の参入障壁であった「レンズ」は、もはや「写す」ことの参入障壁ではなくなった。

 そして、「写す」ことが、「送る」「保存する」「共有する」「メッセージをつける」「アルバムにする」ための、ネットワークへの接続と一体化した。

 そして、IT化とネットワークのconnectivity が、「写す」産業の新たな参入障壁となった。


エンジンという自動車の参入障壁の消失

 一度だけ、当時の経団連の奥田会碩長にお目にかかったことがある。トヨタの会長でもあった奥田さんは、「高速道路債権債務保有機構の政府保証債を、連結してみれば同じ政府債務である、建設国債に振り替えれば、高速道路は無料にしなくてはいけなくなる」という私の持論を聞いてくれた。18年前のことだ。

 そして、自動車社会の未来の話になった。

 奥田さんは「山﨑さん、電気自動車の時代になったら、電気屋さんの方が上手に作れるようになるよ」とおっしゃった。

 その時には分からなかったが、今は、「電気自動車では、エンジンがなくなり、モーターが主力部品になる。エンジン技術で参入障壁を築いてきた自動車の完成車メーカーの優位性はなくなる。参入は簡単になる」という意味だったと解釈している。

 ただし、ご本人に確認したわけではない。


電気自動車の価格破壊

 EVでは、エンジンにまつわる複雑なシステムが不要になり、モーター主体のシンプルな構造になるから、部品の点数や組み立て・加工の複雑性は劇的に減る。

「電気製品」になるから、ガソリンエンジンやさらに複雑なハイブリッドの車に比べてEVの参入障壁は劇的に低下する。

 EVの価格破壊は、すでに世界最大の自動車市場である中国で始まっている。現在、50万円で販売されている格安EV価格は、量産効果と競争により一層低下していくだろう。


再生可能エネルギー電力も価格破壊

 太陽光発電は、大きな太陽光パネルへの半導体技術の応用であり、恒常的な価格低下かいまも続く。

 ムーアの法則が生きている。

 世界的に、太陽光発電を中心に再生可能エネルギー電力価格の低下は続くだろうし、「脱炭素化」の世界的な流れは、再生可能エネルギー化⇒電力価格低下⇒EVのエネルギーコスト低下を招くだろう。

 つまり、エネルギーコストの面からも、環境面からも、旧来のガソリンエンジン車の競争力は低下し、EVへの転換が進み、量産効果からEVの価格破壊が進むだろう。


「モーターは共通」になるEV

 これからEVと電力の低価格化が、新たなEV需要を呼び、EVメーカーの価格競争が熾烈になる。

 モーターには、エンジンのような参入障壁が築けない以上、EVメーカーの多くは、モーターなどの「コンポーネント」を仕入れる「組み立てメーカー」になるだろう。

 PCメーカーの多くが、WINTEL搭載の「組み立てメーカー」になったのに似てくる。

 そうなると、PCで起きたのと同様に、テスラのような「完成車メーカー」の価格競争力や付加価値は激減する。


「高級EV」テスラの限界

 EVの黎明期には、最富裕層やセレブのシンボルとしての、テスラの価値は高かった。しかし、中国を震源地とする世界的な「EV大衆化」と「低価格化」にテスラは脆弱だ。

 そして、これから低価格メーカーが仕掛けていくだろう「EV高機能化」「EV社会実装化」「EVの社会システムの部品化」の流れには、テスラはさらに脆弱である。

 テスラの価格帯は、日本では400万〜2000万円台である。完全な高級車路線である。

 ガソリンエンジンとラグジュアリーで差別化し、道路システムや建物システムや情報に「コネクトしていない」20世紀型の自動車産業システムを引きずっている。

 後で説明するが、今後の完全自動運転電気自動車(AEV)、私の言葉では「自電車」の時代には、シェアリングが主流になり、台数は劇的に減る。

 そして、付加価値は、EV車両から、EVを使った「道路と建物」「人の生活」「お金や決済」「情報」へと移るだろう。

 そうなると、EVはトータルシステムの一部に過ぎなくなり、人々の支払いは、サービスや情報、そして移動の確実性と安全性に移り、EV車両にかける費用は劇的に低下するだろう。


シェアリングで激減する売り上げ

 AEVの安全性が一定以上高まれば、AEVの主流は無人運転のシェアリングとなる。つまり、車両1台あたりの稼働率は、大きく向上する。

 現在の自動車シェアリングの中心であるタクシーの稼働率は、50〜70%と見られる。一方で、「マイカー」の稼働率は5%程度と推計される。

 マイカーからシェアリングに移行するということは、稼働率の劇的な向上、つまり社会的に必要なAEVの台数の劇的な減少を意味する。

 先ほど述べたように、AEV単体の価格破壊が進むだろうから、そこに販売台数の劇的な減少が加われば、もはや「自動車製造販売」という巨大な産業の消滅に近い収縮を意味する。

 その時には、高級完成車の販売を根幹とするテスラのビジネスモデルは限界を迎えるだろう。


EVコンポーネントの主役狙う日本電産

 日本電産の強みは、今後、自動車の主流となるEV(HCVも含めて)において、最大の付加価値を持つ「モーター」という「キーコンポーネント」と、その関連領域の、世界最強水準の企業であることだ。

 また、日本電産の強みは、モーターと周辺領域の内外の企業を統合して、単に買収するだけでなく、その価値と技術を向上して、高度な世界企業集団を作り上げたことにおいて、日本一の実績を持つことだ。

 今後、中国を中心として、世界中で、電気自動車(EV)への参入は加速していく。同時に、パソコン市場で起きたような、「完成メーカー」から「コンポーネントメーカー」への付加価値の移動が起きるだろう。

 これからのEVの世界で、かつてパソコンの世界でインテルが築いたのによく似た、「キーコンポーネント製造企業」の地位に日本企業の中で最短距離にあるのが、日本電産だろう。

 さらには次のAEVの社会実装が、車両だけからあらゆる道路、建物、施設にまで及び、しかも、高い安全基準の充足を求められる時に、拡張したキーコンポーネントメーカーとしての、日本電産のフィールドは、飛躍的に拡大が可能になるだろう.


AEVがもたらす新しい経済のエコシステム

 以下の図1は、2017年に作成し、最近では、大規模なコンファレンスで発表したものだ。

 AEV「自電車」がもたらすエネルギー革命、交通革命、情報革命、生活革命、居住革命、金融革命、そして全体として「太陽経済」という、石炭、石油、に続く「第3の産業革命」の見取り図である。


キーワードはconnectivity

 connectivityがこれからのAEV社会の最大の共通コンセプトになる。connectivityの勝者になる企業はどこだろうか?

 AEVがもたらす新しい「コネクトされた」経済エコシステムの全体像をここで説明するのは、このコラムの範囲を超えてしまう。

 興味のある方は、2020年11月に出版した「21世紀型大恐慌」(PHP出版/書籍の帯に、「田園からの産業革命」)の、「自電車が革命を起こす低炭素な未来」の章を読んでいただきたい。

 ほとんどの人間生活の要素が、AEVによりコネクトされ、ネットワーク化された時に、これまでの人類の問題であった「都会の過密」と「田舎の不便」は、同時に解消される。

 田舎でも、クリーンで安全で超低コストで、お年寄りも子供も病人も、1人で外出できて、病院にも学校にもショッピングにも行ける電車と自動車の「いいとこどり」のモビリティが実現できる。

 そして、劇的に自動車の台数が減り、駐車場や道路に使われていた都市空間が開放され、交通の流れの最適化がリアルタイムで実現した都市では、「交通渋滞」や「駐車場待ち」は歴史の遺物になる。


戦争よりも人を殺してきた旧来の自動車

 いまだに20世紀型の自動車社会は、2016年にはWHO(世界保健機関)の統計では年間135万人の死者を人類にもたらしている。病気以外では、「交通事故」は、人類の最大級の死因である。

 一体、自動車誕生以来、何人の人が「自動車事故」の犠牲になっただろうか。20世紀の戦争犠牲者よりも多いのではないか。

 旧来の自動車が抱えてきたこの人類に対する巨大な問題を、正面から取り上げた経済学者を、私は宇沢弘文先生以外には知らない。

 宇沢先生の1974年の著作「自動車の社会的費用」(岩波新書)を自動車に関係する日本人すべてが再読すべきだろう。


旧来型の自動車は禁止される

 これまでは、自動車事故は、運転者や歩行者の責任とされてきた。

 自動車メーカーや道路管理者や政府の責任ではなかった。だから、世界中で、ごく普通の人が、自動車事故によって、殺人者と被害者になり、それぞれの家庭に悲劇をもたらしてきた。

 その一方で、日本が誇る新幹線は、1964年の開業以来、列車事故による乗客の死亡は無い。乗客は、運転のリスクを負うことなく、安全に高速に移動できる。

 新幹線では、利用者は、殺人者にも被害者になることなく、寝こけていても高速で目的地に届けてもらえる。

 AEVが「自動車による殺人」に終止符を打つだろう。

 十分に安全性を高めたAEVと、その円滑な運航を可能にする道路と建物が実現した時には、旧来の「コネクトされていない」自動車の運転は犯罪とみなされる。

 運転者はもとより、そのような自動車を生産する企業、そのような自動車の通行を許している道路管理者や政府は、刑事と民事の大きな罰則の対象となる。

「殺人可能な自動車」は、自己責任でスピードを楽しみたい、隔離された「サーキット」以外には、通行を禁じられるだろう。

 つまり、日本でも繰り返されている酔っ払い運転、ブレーキの踏み間違い、わき見運転で、お年寄りやお母さん、子供たちが轢き殺される惨劇は、ついに終わりを告げるだろう。


交通事故のない街

 図2は、そんな「交通事故のない町」を高速道路の出口に「道の町」として作ることのコンセプト図だ。

 アートの才能のない私では、この程度のものしか作れないが、世界最高水準の「建築家大国」日本の、我こそはと思う方が、美しく環境に調和し豊かで安全な「人間中心の街」をデザインしていただきたいものだ。


高速道路は新幹線になれる

 そして、高速道路は新幹線のような高速大量、無事故安全の公共交通機関になれる。「非接触充電」で走りながら給電し、連結したバスが長距離を高速で走れるようになる。そのコンセプトを以下の図3に提示した。


誰がconnectivityを担うのか?

 AEVは、再生可能エネルギー、移動手段、情報、金融、サービスを結びつけた「新しい町」を生み出す。

 この新しいconnectivityを最も「人間本位で」提供するものが、21世紀経済の中心を担うだろう。

 どのような計画となり、誰が担うのだろうか?

 まだ、分からない。でも、日本にそのヒントはある。


東京はすでに世界一のconnectivity都市

 100年前に、電気、移動、生活、観光、勉学を提供して、connectivityを大都市部で提供することに成功した、唯一の国家が日本だった。

 今でも、東京首都圏、関西、中京、日本の三大都市圏は、世界一のconnectivity都市圏である。

 2018年、私は、返還20年を記念して香港で開催された「Greater Bay Area 会議」に招待され、日本代表として東京ベイエリアの基調講演を行った。

 2010年に私が、竹村真一さんとの共著で出版した「環東京湾構想」が評価されてのことだった。


後藤新平の偉業

 その場で少し驚いたのが、後の2つの世界的なベイエリア、すなわち、米国のグレートベイエリア(サンフランシスコ、シリコンバレー、バークレーなどのカリフォルニア北部湾岸部)と、中国のグレートベイエリア(香港、マカオ、広東省)の代表がともに、東京ベイエリアを、「世界一の質と規模のベイエリア」として、絶賛したことだった。

 私が説明したのは、東京首都圏の優れた質と規模を支える中心が2つあることだった。

 都市計画と鉄道網である。

 1923年の関東大震災直後に、世界の大都市で初めて生態学的なデザインを行い、皇居を中心とした同心円状の環状道路と生態学的な見地からの網の目のネットワーク化した鉄道網に、緑豊かな公園を配置し、防災設計を施した区画整理を断行したのが、20世紀の世界最高の都市計画家である後藤新平を中心とした「首都圏大改造計画」である。

 医者であり、35歳で内務省衛生局長になり、日清戦争の帰還兵の検疫業務を、巧みな行政手腕で成功させた後藤新平は、コロナ禍の現代日本で、一部で注目されているが、その事績は、多方面にわたり、万能というほかない。


「大風呂敷」は周到に準備された

 東京市長を関東大震災の直前まで勤めた後藤新平は、徳川家康の偉大だが300年前の都市計画に基づく「江戸」を、「近代都市東京」に改造するための、学官民の勉強会を組織した。

 また、ニューヨーク市から高明な歴史学者で科学的調査と市民社会の発意に基づく行政学(今で言うエビデンスに基づく参加型行政)の先駆者であるビーアドを招いた。ビーアドは、後藤のことを「天才」として深く尊敬したと伝えられる。

 市長を引退した直後に発生した、関東大震災の危機に際して、帝都復興院総裁の職についた後藤新平が、極めて短時間に「大風呂敷」と言われた東京大改造計画を打ち出せたのも、それまでの東京市長時代の蓄積があったからだった。

 環状道路、昭和通り、靖国通り、明治通り、行幸通り、防災道路、堤防、隅田公園、浜町公園、などを含めた今の東京の骨格を作ったのは後藤新平である。

 通称「マッカーサー道路」などは真っ赤な嘘であり、後藤新平の計画の実行に過ぎないことを実証したのは、都市計画史の泰斗、越澤明先生だ。


100年前にconnectivityを実現した小林一三

 当時の日本には、もう一人の世界的な天才がいた。小林一三である。

 NHKドラマにもなったように、小林一三が三井銀行員から鉄道経営者になった時の「箕面有馬電気鉄道」は、後発の小さな会社だった。

 そこから、阪急電鉄に改名し、鉄道ターミナルに阪急百貨店を直結し、千里山などの住宅地を開発し、住宅地にスーパーマーケットやタクシー会社を開業し、関西学院や関西大学などの教育機関を沿線に誘致し、宝塚歌劇団、東宝、阪急ブレーブス、などのエンタメ、スポーツ事業も起こした。

 鉄道事業と不動産、小売、文化やエンタメなどの「生活産業」とのシナジー効果を実現するだけでなく、自らも宝塚の台本を書き、ライバル松永安左ヱ門とは、茶人として交流した。

 さらには、小林一三は、現東京電力の社長を務めてエネルギーと鉄道をコネクトし、毎日曜日には、東急電鉄の取締役として、小林一三が鉄道省から招聘した五島慶太とともに、日本独自の鉄道の「シナジー経営」を東急に移植した。

 今日、世界ダントツの日本の私鉄のネットワーク密度と利便性、最低料金、そして、何よりも、交通と「生活」「経済」をコネクトしている世界でも日本だけの特性は、旧国鉄が新生JRとして、「エキナカ」や不動産事業に進出して、都市部の日本国民の日常生活を支えていることにも生かされている。

 世界一の日本の鉄道事業は、その淵源の多くを小林一三に負っている。


来るべき大震災を大変革のチャンスとせよ

 あと2年、2023年で関東大震災から100年目を迎える。我々東京の住民は、明日をも知れぬ身である。

 東京だけではない。

 日本列島は、地球上の地殻の四大プレートが激突する上に位置し、地震発生の密度が地球上の平均の100倍に達する。日本各所に定期的に大震災が来るはずである。嘆いても仕方がない。

 後藤新平、小林一三、100年前に活躍した2人の大先達に学び、防災と減災、そして、新たな100年のためのconnectivity都市を作ることが、我々の使命ではないだろうか。

筆者:山﨑 養世

JBpress

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