ChatGPTよりずっとすごい…孫正義氏が「10年以内に生活がガラッと変わる」と言い切った"次にくるAI"の正体
2025年4月27日(日)7時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/peepo
※本稿は、竹内薫『スーパーAIが人間を超える日 汎用人工知能AGI時代の生き方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■人間の感情を理解するスーパーAI
近年、AI(人工知能)はこれまでにはない急激なスピードで進化し、私たちの暮らしやビジネスにおいて身近なものになりました。
さらなる進化が期待されるAIの中でも、いま特に注目を集めているのが「AGI(汎用人工知能)」です。
AGIとは「Artificial General Intelligence」の略称で、人間のような高度で幅広い知能を持つ、極めて汎用性の高いAIです。
AGIが従来のAIと大きく異なるのは、まるで人間のように思考し、なおかつ人間の感情を理解する能力を持っていること。本来人間が持つ「喜怒哀楽」といった特有の感情を学習しながら自ら進化できる。まさに、万能型の「スーパーAI」とでもいうべき存在がAGIなのです。
写真=iStock.com/peepo
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例えば、仕事をしているあなたの顔色や声のトーンから疲労度を察知してコーヒーを淹れてくれたり、肩が凝ったなという表情や動作を察知してマッサージをしてくれたりするヒューマノイド型AIを想像したら、何だかワクワクしてきませんか。
あるいは、今日は子どもの誕生日だから残業せずに早く家に帰りたいといったときに、
「今日はお子さんの誕生日ですね。あとの仕事はお任せください」とその日のうちに片づけなければならないタスクをAIが引き受けてくれたら、「なんて気配りができるAIだ!」と、最高のビジネスパートナーとして迎え入れるのではないでしょうか。
AGIはある特定のタスクをこなす従来の特化型AIとは異なり、ありとあらゆる知的活動をこなすことができるため、その応用範囲は計り知れないといわれています。このような能力をビジネスや日々の生活に応用すれば、AGIは私たちが生きるこの世界に大きな革命をもたらす可能性があるのです。
■AGIで私たちの未来はどう変わるのか?
「コーヒーを淹れてくれるだけのAIなら、あまり役に立たないのでは?」
そんな声も聞こえてきそうですね。では、AGIがいったいどのようにビジネスで役立つのかについて、もう少し深く切り込んでみましょう。
人間のような高度で幅広い知能を持ちながら感情を理解する能力を持っているAIと聞いて、まず思いつくのがコミュニケーションの領域です。AGIが実現すると、より人間に近いコミュニケーションが可能となります。
写真=iStock.com/Julia Garan
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AIによるコミュニケーションと聞いて、皆さんが真っ先に頭に浮かべるのは、「ChatGPT」ではないでしょうか。
もはや説明は不要かもしれませんが、ChatGPTはアメリカのオープンAI(OpenAI)が開発・提供している対話型のAIサービスです。2025年2月時点で全世界のユーザー数はおよそ4億人を超えたと推計されています。
皆さんのなかにも、「ChatGPTを使ったことがある」という方も多いと思いますが、ChatGPTはあくまでも人間からの質問に対して答えを導き出しているAIに過ぎません。いわゆる「生成AI」というものです。
一方で、AGIは人間と変わらない対話が可能になると期待されています。
わかりやすい例でいえば、カスタマーサポートやコールセンターです。従来のAIでは、顧客のクレームなどに対して極めてマニュアル的な対応しかできず、ときに火に油を注いでしまうケースも少なくありませんでした。
ところが、AGIは顧客のクレームに対して顧客の感情を読み取るので、最適なソリューションを提供することが可能になります。顧客の気持ちを瞬時に酌み取ることができる、いわば「忖度できる」AIがAGIなのです。
■高度な意思決定も可能に
AGIのビジネス活用はまだまだあります。
そのひとつが意思決定です。AGIは、自主的で高度な意思決定も可能となります。例えば、あなたがビジネスにおける重要な意思決定に迫られたとしましょう。
あなたが何かしらの意思決定を行うとき、これまで蓄積してきた知識や過去の経験、あるいは直感を頼りにするでしょう。
でも、ひとりの人間が一生のうちに蓄積できる知識量や経験数には限界があり、直感を頼りにしても時に誤った意思決定をしてしまうこともあるはずです。
そんな時、AGIを活用することで、膨大な学習データから導き出した最適な意思決定のサポートをしてくれるのです。
写真=iStock.com/demaerre
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さらには、クリエイティブな領域にもAGIは強力なサポートを発揮してくれます。これまで、「クリエイティブな分野は人間ならではの仕事」と考えられていましたが、AGIの登場によって、斬新なアイデアを生み出すのが容易になることは間違いありません。
AGIは膨大な学習データを持っているだけではなく、人間の持つ欲望や満足感といった感情を考慮したアイデアを生み出すことができるため、人間には到底思いつかないようなアイデアを創造できるようになるのです。それによって文学から音楽、イラストや映像の生成といったクリエイティブな活動に大きな革新をもたらすでしょう。
詳しくは後述していきますが、ほかにもAGIがビジネスにどれほどの恩恵をもたらすのか、実にさまざまな仮説を立てることができます。AGIの登場により、新たなビジネスモデルやサービスが生まれ、新たな市場が形成されることは想像に難(かた)くありません。
もちろん、ビジネスの分野だけではなく、教育や医療、科学技術などあらゆる分野でAGIは大きな可能性を秘めているのです。
■AGIは、いつごろ実現するのか
では、万能型AIと呼ばれるこのAGIは、いつごろ実現するのでしょうか。実は、近年驚くべき発展を遂げているAI分野においても、AGIは未だ実現していないのが実情です。
現在、世界のありとあらゆる企業や研究機関がAGIの研究と開発に積極的に取り組んでいます。世界最先端のAGI研究開発に取り組んでいるのが「ChatGPT」を世に送り出したOpenAI、さらにはGoogleやMicrosoftなどが、AGIの実現に向けて日夜研究開発に勤しんでいるのです。
2025年の3月末時点でのAGIに向けた進展を眺めてみましょう。
24年9月にはOpenAIが、ChatGPTのモデルo1(オーワン)において、数学オリンピックの予選問題の正答率が8割に達したと発表しました。これは私にとってはかなりの衝撃でした。なぜなら、ChatGPTが初めて公表された際には、「100かける100かける100はいくつ?」という問いかけに対して、「100万」と答える一方で、「もう一度聞くよ? 100かける100かける100はいくつ?」と再考を促すと「10億」などと頓珍漢(とんちんかん)な答えが返ってきていたからです。
仕方ないので、かなり長い間、私はChatGPTが苦手な数学関連の話題を扱うときは、数学に特化したWolfram GPTを使っていました。それが、いまや、ChatGPT単体で、数学が得意になってしまったのです。
ええ? これって、生成AIがより万能になった……つまり、汎用AIに大きく一歩近づいた、ということなのでしょうか。
この本(『スーパーAIが人間を超える日』)を書き始めた時から1年も経っていないのに、こうやって、「はじめに」で最新の状況を追記しないといけないほど、AIの進化速度は驚異的です。
■AIが自分を開発した人間よりも上になった
ところが、この状況は、24年の12月にさらに変化しました。モデルo3(オースリー)が発表され、数学オリンピック予選の問題の正答率は9割をはるかに超え、さらには「ChatGPTを開発しているオープンAI社のプログラマーのうち、プログラミング技能においてo3に勝てるのは二人しかいない」という驚くべき状況になったのです。これはつまり、自分を開発してくれた人間たちよりも、生成AIの方がプログラミング技能において互角もしくは上になった、ということです!
たとえば将棋や囲碁において、かつて起きたことを振り返ってみれば、最初は「プロに初めてAIが勝ちました」という状況から始まり、あっという間に、「もう人間のプロはAIに勝てなくなりました」となったのです。プログラミング技能においても、おそらく、将棋や囲碁と同じパターンで、近い将来、「人間のプログラマーは完全にAIに勝てなくなりました」という結果になるのでしょう。
写真=iStock.com/greenbutterfly
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よくテクノロジーの世界で「日進月歩」という言葉が使われますが、AIの進化は、ますます加速しているような気がします。AIはどんどん常識を塗り替えていきます。
しかし残念ながら、人間の側は、そんなにすぐにはこれまでの生活習慣を変えることができません。AIが数カ月で大幅に進歩したからと言って、人間が仕事のやり方をガラリと変えて、AIをうまく取り入れるのは難しいのです。となると、「バージョンアップが来た!」という瞬間から動き始めても、とうてい間に合いません。
日頃から、AI関連の最新ニュースに注目し、少しでも進化の予兆を掴むようにして、いざ大きな革新が来たときには、職場の配置転換を行ったり、AIで一気に業務効率を上げたりしていかないと、取り残されてしまいます。
AI先進国というと、すぐにアメリカの名が頭に浮かびますが、24年度のノーベル物理学賞がカナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントンさんらに与えられたことからもわかるように、アメリカの隣国カナダも捨てたもんじゃありません。北米は世界のAI開発の中心です。
■「AGIの世界が10年以内にやってくる」
でも、ここにきて、北米から遠く離れた中国発のディープシーク(DeepSeek)が彗星
のごとく現れ、開発期間が短期で開発費用も安価だったのに非常に高性能であることがわかり、世界中に衝撃が走っています。
すると、「DeepSeekは、ChatGPTを先生役として開発された疑いがある(いわゆる「蒸留」と呼ばれ、使用規約に違反)」「国家情報法により、DeepSeekに登録した個人情報は中国政府が収集する可能性がある」「DeepSeekは、特定の政治的な事件について答えない問題がある」などという指摘がアメリカを中心に噴出し、なにやら、北米V.S.中国のAI戦争の様相を呈してきました。
竹内薫『スーパーAIが人間を超える日 汎用人工知能AGI時代の生き方』(プレジデント社)
当然ですが、今後、中国企業はAGI開発に注力するでしょうから、どの国や企業が、AGIの主戦場で勝利を収めるのか、先が読めない状況になっているのです。
AGI実現の可能性については、専門家によっても意見が分かれています。
ソフトバンクの孫正義さんは、2023年10月4日に開催された「SoftBank World2023」の特別講演で、AGIについて以下のような見解を述べ、大きな反響を呼びました。
冒頭、「AGIが何か知っていますか」と会場に問いかけたところ、ほとんど手が上がらない状況を見た孫さんは「まず、ヤバイということを知ってください」と警鐘を鳴らし、続けてこう力説したのです。
「AGIは、人類叡智総和の10倍です。(中略)AIがほぼすべての分野で人間の叡智を追い抜いてしまう、これがAGIのコンセプトです。このAGIの世界が今後10年以内にやってきます。そして、AGIの世界では全ての産業が変わります。教育も変わる、人生観も変わる、生きざまも変わる、社会のあり方、人間関係も変わるんです」
いかがでしょうか。AI技術における日本のキーパーソンともいえる孫さんがこうおっしゃるということは、AGIの実現も夢物語から現実へと着々と進んでいると考えて間違いないでしょう。
ただ、その一方で、AGIの実現は単にAIの恩恵を受けるだけでなく、深刻な社会的、経済的、倫理的な問題などを引き起こすリスクについても考えてみなければなりません。私たちがAGIの実現に向けてやるべきこととは何か、そのことを今から考えておく必要があります。
今後AGIが実現すれば、私たちの働き方や生き方さえも大きく変化するでしょう。その変化にしっかり対応していくためにも、AGIについて少しでも学んでおくことが肝要です。AGIについて理解を深めておき、実現したときにはすぐさま活用できるように準備しておく。今まさにそのような時期に差し掛かっているといっても過言ではありません。
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竹内 薫(たけうち・かおる)
サイエンスライター
1960年、東京都生まれ。東京大学教養学部教養学科(科学史・科学哲学専攻)、東京大学理学部物理学科卒業。マギル大学大学院博士課程修了(高エネルギー物理学理論専攻)。理学博士。大学院を修了後、サイエンスライターとして活動。物理学の解説書や科学評論を中心に100冊あまりの著作物を発刊。物理、数学、脳、宇宙など、幅広いジャンルで発信を続け、執筆だけでなく、テレビやラジオ、講演など精力的に活動している。
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(サイエンスライター 竹内 薫)