「脱原発」は世界の流れに逆行する

4月30日(火)6時0分 JBpress

フランス中部のサン・ローラン・ヌーアンにある、サンローラン・デ・ゾー原子力発電所(2015年4月20日撮影、資料写真)。(c)AFP/GUILLAUME SOUVANT〔AFPBB News〕

 2018年9月12日の日本経済新聞電子版は「世界の原発発電、30年に10%以上減少 IAEA報告」という見出しの記事を報じた。

 この見出しだけを見ると、IAEA(国際原子力機関)でさえ「脱原発」を予測しており、まさに脱原発は世界の流れなのだ、と多くの読者は思い込んでしまうだろう。


メディアリテラシーとはメデイアを安易に信用しないこと

 だが、記事本文を読むと、前段で「17年に392ギガワットだった発電容量は、最も低く見積もった場合で30年に352ギガワットまで減少すると予測」と書いているものの、後段では「最も大きく見積もった場合、原子力発電の発電容量は30年に511ギガワットに拡大するとみている」と書いている。

 要するに、IAEAの予測は、「30年までに、最低だと10%以上減少、最高だと30%以上増加」なのである。

 記事本文の全体ではバランスは取れているようだが、見出しには読者を脱原発へと誘導する恣意性を感じる。多くのマスコミ報道にはそうした傾向がある。

 バイアスのかかったマスコミ報道に踊らされないためには、個人が「メディアリテラシー」を高める必要がある。筆者は今年3月、東京・八重洲ブックセンターで開かれた西澤真理子氏の出版講演会を聴きに行ってきた。リスクコミュニケ—ションの専門コンサルタントである西澤氏は、福島第一原発(1F)事故後の2011年9月から福島県の浜通りに入り、現地で放射能に関する様々な誤解の除去に努めた人物だ。

「メディアリテラシーとはメデイアを安易に信用しないことである」

 西澤氏は講演会で歯切れよくこう語った。「メデイアリテラシー」とは、一般的には「メディアが報じる情報を主体的に読み解き、理解する能力」とされるが、さらに踏み込んで「メディアを安易に信用するな」というのである。

 というのも、「日本人はメディアに接すると、なんと7割の人が信じてしまう。ドイツは4割、米国は2割しか信じない」(西澤氏)という日本人固有の性向があるからだろう。偏向報道であっても、メディアでいったん報じられれば、それをそのまま信用しやすい性向が私たち日本人にはある。

 確かに、フィンランドの原子力施設をほんのちょっと見学してきただけで、「まだ原発を進めていかなきゃいかんという勢力がいて、これに任せてはならない」と叫び始めた小泉純一郎元首相の思い付きの言説が報じられると、その後の世論調査で約6割が原発反対(=潜在的な原発ゼロ支持)といったレポートが出てくるのが日本だ。これもその性向のせいなのかもしれない。

 原子力との付き合い方を考える上でも、まずは事実を正確に把握することは何よりも大切だ。以下では、小泉元首相も誤解ないし曲解している「脱原発は世界の流れ」であるはずの海外諸国の現況を紹介しておきたい。これらは、国内メディアで報じられることがほとんどない。


脱原発は世界の流れではない

 現在も原発を利用しており、将来的にも利用しようとしている国は、米国・フランス・中国・ロシア・インド・カナダ・英国など19カ国ある。

 現在は原発を利用していないが、将来は利用しようという国は、イスラエル・インドネシア・エジプト・サウジアラビア・タイ・トルコ・ポーランド・ヨルダン・UAEなど14カ国に上る。

 そして、現在は原発を利用しようとしているが、将来は利用を止めようとしている国は、韓国(2080年閉鎖見込み)、ドイツ(2022年閉鎖予定)、ベルギー(2025年閉鎖予定)、台湾(2025年閉鎖予定)、スイス(閉鎖時期未定)の4カ国・1地域。韓国の駐日大使館員は、米朝首脳会談の行方を勝手に楽観視しているのか、ロシアの天然ガスを北朝鮮経由パイプラインの敷設を通じて韓国に導入する予定だと公言している。

 さらに現在も将来も原発を利用しない国はイタリア(1990年閉鎖済み)、オーストリア、オーストラリアの3カ国。

 この他に、スタンスを明らかにしていない国が多数ある。

 下記に掲載した資料を見れば、原発ゼロの国や、原発ゼロを目指している国がいかに少ないか、よく分かるだろう。脱原発は「世界の流れ」にはなっていないのだ。


原発輸出に熱心なロシア

 少し長くなるが、主な諸外国の実情に触れておきたい。これは筆者が駐日の各国外交官・大使館員から聴取した話などをまとめたものだ。

<米国>
 米国のエネルギー自給率は約9割(2017年)。コスト合理性あるシェールガスや石炭を保有する一方で、原子力や再エネも進めている。トランプ大統領自身の原子力に対する関心の度合いは不明だが、側近である安全保障の専門家たち原子力推進の牽引役を担っているのは間違いない。

 近年、新型原子炉である小型モジュール原子炉(SMR)に注力し始めている。現行の大型原子炉は、1基当たりのコストが高く、建設期間が6〜7年と長いので資金調達面でリスクがあるからだ。

 GE日立が進める小型モジュール炉「BWRX」(30万kW)については、低コストを理由として英国が関心を寄せている。

 また、NRCは「NEXIP」(Nuclear Energy × Innovation Promotion)と称して、次世代の原子力技術開発の検討を進めている。ビル・ゲイツ氏が出資する原子力企業テラパワー社も前向きで、日本にも秋波を送っているようだ。

<ロシア>
 ロシアは、ロシア型加圧水型原子炉「VVER」(110万kW級)を携えた「原発輸出ビジネス」を展開している。その技術水準は相当高く、国際的な評価も高い。フィンランド・オルキルオト原発4号機に係る受注を受けたという情報もある。

 ロシアは、原発を導入した当初から、核燃料サイクルの完結と高速炉の開発を積極的に進めてきており、世界的にも突出して高い技術を有している。現在、BN-600(60万kW)とBN-800(88万kW)の2基の高速炉が稼働実績を重ねてきており、大型商用炉BN-1200(120万kW)の建設も計画されている。

<中国>
 中国では18年に、AP1000(三門1号)とEPR(台山1号)の最新2タイプの原発が竣工しており、国産第3世代炉である華龍1号が建設中である。中国は、今や原子力技術も先進的であり、日本としても学ぶべき国となっている。中国国務院は、原発に関して、2020年の運転中設備容量を5800万kW、建設中設備容量を3000万kW以上とする目標を掲げている。

 フランス・オラノ社が、フランス国内のラ・アーグ再処理工場とメロックスMOX燃料加工工場をモデルとして、年間処理能力800トンという再処理・リサイクル工場を中国に建設するプロジェクトを進めている。このように、中国は核燃料サイクルにも本腰を入れ始めている一方で、天然ガスを豪州やカタールから輸入し、今後は米国からも輸入していく予定であるなど、エネルギー多様化にも注力している。

<インド>
 インドでは22基の原発(大半が国産の22万kWの小型重水炉PHWR)が稼働しているが、電源比率は3%程度に過ぎない。そして、慢性的な電力不足を補うために、大規模な原発拡大を計画中で、2024年までに発電能力を3倍に増やすとしている。しかしその実現はかなり厳しいと言える。

 現時点では新たに7基が建設中。内訳は国産の重水炉4基(カルクラパー原発、ラジャスタン原発に各2基。1基当たり70万kW以上)、ロシア製の軽水炉VVERをクダンクラム原発に2基(1基は完成済み)、国産の高速増殖炉原型炉をカルパッカム原発に1基となっている。

 それでも計画の達成には程遠いのだが、原発による発電比率が低いのは、インドが原子力供給国グループ(NSG)に加盟できていないことが大きな原因になっている。NSGとは、核兵器開発への技術転用が可能な原子力関連資機材の流通規制を目的とする国際的枠組みで、現在48カ国が加盟しているが、インドは含まれていない。そのためインドは、長らく原発に関する資材や機材の輸入が出来ない状況にあったが、2008年になってNSGのガイドラインが修正され、インドに対する関連品目の供給がようやく認められるようになったという経緯がある。

 そのため原発拡大計画を目指すインドに対して、ロシア、フランス、米国は大型軽水炉の建設を目論んでいる。今年3月には、米国からインドに向けて原発6基を輸出することで合意したと、両国政府が発表している。


原子力技術が空洞化した英国

<英国>
 英国は、北海油田の枯渇を見据えて、エネルギーの安全確保・安定供給・コスト低減による経済成長・低炭素を目指している。以前、石炭の電源比率は20%を占めていたが、今は7%にまで低減、将来的に全廃する予定になっている。原発は、2030年までに既設プラントは全て閉鎖するが、その代替として新設プラントにより電源比率30%を確保していく方針だ。

 こうした努力もあって2050年までにCO2などの温室効果ガス(GHG)を80%削減するための法律が制定されているが、すでに37%削減を達成している。電力業界では温室効果ガスの62%削減を推進し、輸送部門でEV(電気自動車)化を進める方針だ。「クリーン成長戦略」を掲げて、低炭素産業での雇用を拡大し、再エネのコスト低減も進めている。エネルギー関係の投資の半分は、安定供給・低コスト・低炭素に資する原子力に振り向けるという。

 英国はかつて原子力技術先進国だったが、長きにわたって原発新設を行ってこなかった結果、国内の原子力技術が空洞化してしまった。新設するヒンクリーポイントC原発は、フランスEDF(電力公社)によって進められることになったが、工事は順調に進んでいるようだ。

 現在、原発は15基が稼働し、電源比率は2割強。原発新設だけでなく、廃炉や放射性廃棄物・バックエンド対策も年20億ポンドを投じて進めている。特に、セラフィールドではクリーンアップ(汚染除去)に取り組んでおり、地層処分も進めている。

 日立製作所が取り組んでいたホライズン社の原発計画は延期になったが、中国がアプローチを始めているとの情報がある。また、英国のロールスロイスが小型モジュール原子炉(SMR)に関心を寄せており、小型炉で英国の原発技術の再興を目指している。カナダもSMRには前向きである。

<フランス>
 フランスは資源小国であり、エネルギー輸入量を減らすために原発を積極的に利用している。原発比率は7割に上っており、周辺諸国に原発電気の輸出も行っている。それでも、エネルギー自給率は50〜55%程度というのが現状だ。

 原発は安価かつ安定な電源で、安全保障水準の向上や低炭素化にも資する。EU(欧州連合)内ではもちろんのこと、世界的にも電力コスト負担は最も低い国の一つである。特に、再エネを推進する隣国ドイツと比べても、それは一目瞭然だ。

 フランスでは、使用済み核燃料は、放射性廃棄物ではなく、「再利用率95%のリサイクル資源」と考えられている。日本と同様に、使用済み核燃料をMOX燃料に転換して利用する方向で進んでいる。

 フランス国内の原発は、19カ所・58基が稼働している。最新のものは第四世代の欧州加圧水型炉(EPR)で、フラマンビル3号(156万kW)として建設中だ。

 原発の運営主体には、EDF(電力公社)、日本からの投資も受けているオラノ社やフラマトム社、CEA(原子力庁)、ASN(原子力安全機関)、IRSN(放射線防護原子力安全研究所)、ANDRA(放射性廃棄物管理機関)などがある。福島第一原発事故後の対応として、32の追加安全基準を導入し、避難基準も新設した。

 直近の電源構成は、原子力7割、水力1割、再エネ1割、化石燃料1割となっており、今後さらに低炭素化を進めようとしている。原発に関しては投資額の大きさがネックになっているが、再エネはコストが低下しつつある。石炭・石油は今後数十年でゼロ化する予定だ。

 2025年までに原発比率50%・再エネ比率30〜40%とする方針を2015年に宣言したが、2018年11月になって原発比率50%とする目標年を2025年から2035年に後ろ倒しした。原発比率が低下するのは古い原発を閉鎖するからで、新設も行うので全体の設備容量は変わらない見通し。

 フランス国内世論は、原発を受け入れることを極めて重要視している。原発の地元住民への情報公開を目的としたCLI(地方情報委員会)というものがある。様々な社会の構成員で組織され、対話や討論を促す。フランス国民は原発推進を評価しており、その便益・利益も広く理解を得られている。


2022年までの「脱原発」を決めたドイツだが・・・

<ドイツ>
 ドイツでは、再生可能エネルギーの導入を進めてきた。だが、不安定な再エネ(風力・太陽光)を補完する電源として火力発電の稼働が必要であるため、温室効果ガス排出量がなかなか減少しない。またドイツ北部に大量に導入された風力発電施設から、電力大消費地であるドイツ南部を結ぶ送電線の整備が、住民の反対があって捗っていないという問題に直面も直面している。

 2020年までに温室効果ガスを40%削減し、CO2フリー電源を50%にする計画だが、2050年までに温室効果ガスを80%削減するのは困難な見通しだ。また現在の電源構成で再エネ14%、原子力12%となっているところを、2022年までに「脱原発」を実現する予定。

ドイツ南部オブリハイムで、廃炉作業が進められる原子力発電所(2014年7月1日撮影)。(c)AFP/DANIEL ROLAND〔AFPBB News〕

 ただ、この突然の政治的決定により、電子力発電を行ってきたエネルギー会社は莫大な経済的損失を被ることになる。その損失に対する補償の規定を整備しようとしてはいるが、実際にそれが実現するか予断を許さない状況になっている。脱原発に大きく舵を切り注目を集めたドイツだが、実現の見通しはかなり険しくなっていると言えるだろう。

<東欧4カ国(チェコ・スロバキア・ポーランド・ハンガリー)>
 この4カ国は、どの原子炉が最適か、どのような資金調達方法が適切かについて、IEAに検討を依頼するなど、原発導入に向けて取り組んでいる。

 こうした動きの背景には、この4カ国がロシアの天然ガス依存に危機感を強めている一方、CO2排出量増大に繋がる石炭火力を削減するようEUから圧力を受けているという事情がある。ポーランドは、高温ガス炉についても関心を寄せている。


世界の大半は「脱原発」ではなく「原発推進」

<サウジアラビア>
 サウジアラビアでは、8基の原発新設が予定されている。米国・中国・ロシア・フランス・韓国の5カ国が受注を目指している。米国はウェスチングハウス社の受注を目指しているが、「カショギ事件」の影響がどう出るか。ロシアの原発輸出も相当進展している模様。

<アセアン>
 フィリピンでは、ロシアの原発新設が進んでいる。インドネシア・タイ・カンボジアでは、中国が原発ビジネスを進めている。

——ここまで見てきたように、世界の大半の国々は「脱原発」どころか、「原発推進」だ。上記の国々の中で唯一、脱原発に取り組んでいるドイツもかなり混乱している。

 そうした中で日本の姿は、福島第一原発の事故以来、原発についてまるで「思考停止状態」に陥っているかのように見える。

 世界の潮流に逆行しながら、未来のエネルギー戦略を正しく描けるのだろうか。次回は日本の現状と、今後取るべき方策について詳しく述べてみたい。

筆者:石川 和男

JBpress

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