「午後ティー女子」も炎上、企業のネットPR戦略の落とし穴

5月2日(水)7時0分 NEWSポストセブン

当該ツイートを削除し、謝罪することになった(キリンビバレッジ公式Twitterより)

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 キリンビバレッジ「午後の紅茶」がプロモーションのために「#午後ティー女子」のハッシュタグをつけてツイートしたPRイラストが炎上。「モデル気取り自尊心高め女子」「ロリもどき自己愛沼女子」「仕切りたがり空回り女子」「ともだち依存系女子」などと「午後の紅茶」ユーザーの若い女性を若干ネガティブなニュアンスの「あるある」的に描写したことで、「女性蔑視ではないか」などという指摘が多数寄せられたのだ。


 その結果、同社はツイートを削除、謝罪することになったが、今回のケースのように大企業によるネットPR戦略が炎上してしまう背景には何があるのか。長きにわたってネット炎上と企業のネットPR施策をウォッチし続けている、博報堂出身のネットニュース編集者・中川淳一郎氏が解説する。


 * * *

 今回のイラストは、女性の観察眼に定評がある女性イラストレーターによるものです。「女子っぽい格好するのにも言い訳が必要」や、「目に入ったものすべてにとりあえず『かわいい』」「おなかへったらグミを食べる」「太っていないのに太ったと連発する」などと、恋愛サイトで公開する分には「あるある」的に認識される程度のものでしょう。


 しかしながら大メーカーが広告として、自社製品の想定ユーザーらしき女性をイラストとキャプションで表現したことについて、大きな批判が巻き起こりました。曰く「お客様をバカにしている」と。不買運動も発生したようです。


 日本では広告では冒険してはいけない空気が蔓延しています。広告業界の人と話をすると「数件でもクレームが来たら、その広告の差し替えやオンエア中止も検討することはあります」とのことなのです。広告も表現物の一つではありますが、本当は「販促物」なのですね。イメージを上げたり、販促効果をもたらすことを狙って作ったのに、それでイメージが下がったり不買運動を起こされては元も子もありません。


 まぁ、今回もクレームをつけた人に対し、「怒ってる人は心が狭すぎ」的な批判も出てきてはおりますが、キリンビバレッジとしては、「見誤った」「ネットの風を読み損ねた」というところが正直なところでしょう。


 こうした炎上案件が出ると広告代理店やPR会社の人からは「これは知名度を上げるための役割を果たしたから成功」とか「これは狙ってやっていた」といった意見も出ますが、これらは負け惜しみです。広告に関しては炎上してもロクなことはありません。


「一部のクレーマー気質の人が騒いでいるだけだ」みたいな擁護派が現れることもありますが、こんなことで擁護してくる人を味方だと思っても仕方がない。広告の宿命として、とにかく誰も不快にさせない方がいいのです。また、結果的に誰かが不快になるにしても、その人数が少なければ少ない方がいいし、ヤフーニュースのトップに今回の件とそれを謝罪するキリンビバレッジのニュースが出ない方がいいのです。


「結果的に知名度が上がったからキリンの勝ちwww」みたいに書く人はいますが、キリンという会社の体質を考えた場合、多分「勝ち」なんて思っていない。本気で「あっちゃー、やらかした……配慮が足りなかった」と思っているのではないでしょうか。私自身、かつて博報堂にいた時に同社を担当していた経験もありますし、その後も取材等で担当者に会うことはありますが、本当に誠実な社風です。今回の件で社内に喜んでいる方がいるとは到底思えません。


◆広告の成功指標が「好感度」から「いいね!」数に変化


 企業が一回炎上をやらかすと、その後はそれほど炎上することはありません。詳細は記しませんが、ここ数年でもルミネ、AGF、宮城県庁、資生堂、サントリーなどがジェンダー関連の広告で炎上しましたが、その後は炎上していません。それだけ炎上というものに企業は気を遣っているわけで安易に「炎上マーケティング」などと言うのは企業に対して失礼ですし、広告ビジネスを分かってないことを自らさらけ出しているだけです。


 とはいっても「午後の紅茶」ですよ。すでに確固たるブランドを築いているというのに、なんのためにこのような炎上リスクの高い案件を形にしたのでしょうか。そこには外野からは窺い知れることのない深いマーケティングデータに基づいた分析があるのでしょうが、正直、意味が分からない。


 一つ考えられるのは昨今の「ネットのPR施策はバズらなくてはダメ! SNSで拡散してナンボ!」という風潮の蔓延にあることでしょう。かつての広告の成功指標といえば、「CM総研」が発表する「CM好感度ランキング」で上位に入ることでした。しかし、今はRT(リツイート)の数やシェア数、「いいね!」の数に指標が移っています。となれば、これらの数値を獲得すべく宣伝部の担当者と外注先のクリエーターは目標設定をします。内輪の打ち合わせで盛り上がっているうちはそれでいいのですが、何しろこれらのPR施策を目にするのは口うるさい&何かといちゃもんをつけたいネットユーザーの皆様方。


 この方々の逆鱗に触れたらもう終了です。だからこそ、炎上の恐れがあるような企画を「おもしろそうだね!」「バズりそうだね!」みたいな「+(プラス)」の発想で通してはならない。むしろ「炎上しないかな?」という「−(マイナス)」のポイントを見つける作業をした方がいいんですよ。これがネットPRでもっとも重要なポイントです。


「それだったら面白い企画なんてできないじゃん!」と反論したい方もいるかもしれませんが「RTをたくさん獲得するのと、無駄な炎上で“炎上史”に残ったうえにこれをやった担当者が深く傷つくことのどちらを取りますか?」と私は言いたい。ネットの反応をあまりナメないでほしいのです。私のようにネットの炎上を見続け、レポートするのが仕事な人間も、今回のキリンビバレッジの件はデータベースとして保存し、今後もケーススタディとして何度も活用することになります。


 その一方で、企業にとって重要なのは、この企画を推進した現場の担当者を会社として守ることでしょう。今回、4月26日に公開したこのツイートは5月1日まで燃え続けたのに削除までに4日かかりました。もしかしたら、ウェブコンテンツの公開と削除に関する最終決裁をする上司が大型連休のために連絡を取ることができなかったのかもしれません。炎上状態にあったことは、担当も当然知っていたはずです。


 それなのに4日もかかったのは、上司の決裁が下りていなかった、という可能性も(勝手な憶測ながら)あるわけで、ネットで炎上した場合は担当者レベルですぐに削除を可能にすべきです。あとは会社内で炎上した社員を責めることなく、皆で守る体制を作ってあげなよ、と私は切に願っております。炎上は良くないですが、その後炎上しないためにその人を責めないであげてくださいよ。

NEWSポストセブン

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