AI登場で大転換期を迎えた「検索」の仕組み SEOよりも重要性を増す「AEO」と先進企業の戦略とは?

2025年5月1日(木)4時0分 JBpress

 この1、2年で世間の認知が急速に高まり、ビジネスでの活用も進みつつある生成AI。数年前から議論になっていた「AIは人間の仕事を奪うのか」という懸念がついに現実になり始めたともいえる。本稿では、『生成AI・30の論点 2025-2026』(城田真琴著/日経BP 日本経済新聞出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。前述の懸念への回答と合わせて、生成AI活用によって変貌しつつあるビジネスの在り方から、環境問題への影響まで、多角的な視点で解説していく。

 生成AI活用により大きく変わりつつあるインターネット検索の“常識”。SEOに代わって重要性を増す「AEO(Answer Engine Optimization)」とは何か?


AI検索が促すSEOからAEOへの戦略転換

 インターネット検索において、長らく主流であった検索エンジン最適化(Search Engine Optimization=SEO)は、デジタルマーケティングの中心的な役割を果たしてきた。しかし、AI技術が進化し、グーグルやマイクロソフト、OpenAI、Perplexity AIといったAI検索エンジンの台頭により、検索のあり方が大きく変化している。この変化の中で、SEOだけではなく、ユーザーの具体的な質問に対して的確な回答を提供する「アンサーエンジン最適化(Answer Engine Optimization=AEO)」が新たな注目を集めている。

■ AI検索の台頭

 2022年にChatGPTが登場して以来、検索の仕組みは大きな転換点を迎えている。OpenAIの「SearchGPT」やPerplexity AI、さらにはマイクロソフトが従来のBingにAIを統合した「Bing Generative Search」など、AIを活用した新しい検索サービスが続々と登場している。

 これらのAI検索は、従来のキーワードベースの検索ではなく、自然言語での質問に対してAIが最適な回答を提供することを特徴としている。

 従来のSEOは、特定のキーワードを基に検索エンジンでの上位表示を目指していたが、AI検索では、単にキーワードを含むコンテンツが評価されるのではなく、ユーザーの意図に応じた的確な回答が求められる。このため、検索エンジンの最適化戦略として、AEOの重要性が増している。

 グーグルもAI技術を自社の検索エンジンに統合した「AI Overviews」を発表している。このサービスでは、従来の検索結果に加えて、AIが生成する要約形式の回答を提供し、ユーザーに迅速かつ適切な情報を提供している。このようなAI検索の進化に伴い、SEOに加えてAEOの導入が企業にとって不可欠なものとなりつつある。

■ なぜAEOが重要なのか?

 AI検索の登場によって、AEOが重要となる理由は、ユーザーの検索行動の変化にある。従来の検索エンジンでは、ユーザーはキーワードを入力し、その結果として表示されるリンクをクリックして情報を得ていた。しかし、AI検索では、ユーザーは「どのランニングシューズが一番良いか?」や「どの車が燃費に優れているか?」というように自然言語で質問を入力する。

 そして、AIがその質問に対して最適な回答を提供する。この回答の中に自社の製品やサービスが含まれていなければ、たとえその分野で大きな市場シェアを持っていても、消費者に認知される機会が大幅に減少するリスクが発生する。

 たとえば、ナイキのような大手ブランドがAI検索の検索結果に表示されない場合、その影響は非常に大きい。ナイキは年間40億ドルもの多額のマーケティング費を投じているにもかかわらず、AI検索においてその製品が紹介されなければ、認知度が低下し、消費者にとっての存在感が大幅に低下する可能性がある。

 このような状況を回避するためには、AEOを活用してAIが生成する回答に自社の情報が組み込まれるようにすることが必要になる。

■ AEO戦略

 AEOは、ユーザーの質問に対してAI検索が即座に答えを提供できるよう、ウェブサイトを最適化する手法である。AEOを効果的に実施するためには、いくつかの基本的な戦略を押さえる必要がある。

 まず、ユーザーがAI検索に投げかける質問に対して、明確かつ簡潔に答えを提供するコンテンツが求められる。ページの上部に質問への直接的な回答を配置し、ユーザーが迅速に情報を得られるようにする。

 また、スキーママークアップ(検索エンジンがページ上の情報を理解するのに役立つコード)を活用して検索エンジンに構造化データを提供することで、回答ボックスやリッチスニペット(スキーママークアップによって検索結果に表示されるサイトの要約情報)に表示される可能性が高まる。

 さらに、自然言語処理(NLP)を活用し、ユーザーの検索意図を理解したコンテンツ作りも重要である。ユーザーが具体的な質問を投げかける際、それに対する的確な回答を準備することで、検索結果において優位に立つことができる。

■ AEOの導入を積極的に推進するPolitico

 Politicoは、政治に特化した米国のニュースメディアである。同社は従来のSEOに加えて、ウェブサイトのデザインやコンテンツ構造をAI検索に最適化するなど、先進的な取り組みを行っている。

 たとえば、AIクローラーがコンテンツを容易に理解できるように、セクションやサブセクションを明確化し、サイト全体を整理している。これにより、AI検索はPoliticoの各記事やセクションの内容を適切に分類・整理できるようになり、検索結果においてもより関連性の高い情報をユーザーに提供できるようになっている。

 さらに、AIがページを読み取る際に障害となる要素を排除するため、デザインの変更も実施している。従来、ニュースメディアのウェブページには広告やポップアップ、複数のリンクが混在しており、これらがユーザー体験の妨げになるとともに、AIがページの主要コンテンツを認識する際のノイズにもなっていた。

 Politicoはこうした要素を削減し、よりシンプルでわかりやすいデザインを採用したことで、AIと人間の双方にとって読みやすいページを実現している。同時に、このアプローチはAI検索が生成する要約形式の回答にも、適切なコンテンツが含まれる可能性を高めている。

 このデザインの変更により、AIが記事を理解しやすくなり、特定のトピックに関する質問に対してPoliticoの記事が最適な回答として提示される可能性が高まった。また、ユーザーにとっても広告やポップアップの少ない快適な閲覧環境が提供されるため、ユーザーの滞在時間やエンゲージメント率も向上しているという。

■ AEO戦略を具現化するソリューション

 AI検索の必要性が認識されるにつれ、AEO戦略の支援ソリューションを提供するスタートアップも登場している。その一つ、米国ニューヨークのスタートアップProfoundは、ブランドがAI検索でどのように表示されるかをモニタリングし、最適化するためのフィードバックを提供している。

 たとえば、ユーザーが「ベストなSUVは何か?」と尋ねた場合、AI検索はその質問に対する最適な答えを提供し、その中でブランドや製品が紹介される。この時、ブランドがどのように表示されるかを管理できるようになっている。

 同社が提供するプラットフォームは、日々の膨大な検索クエリを解析し、どのような質問が行われているか、またブランドがどのように表示されているか、検索結果がどのように変化しているかをリアルタイムで追跡できるため、企業は常に最新の情報に基づいた戦略を立てることができる。

 さらに同社は、企業がAI検索結果においてより良い評価を得るための改善策も提供している。たとえば、特定のコンテンツがどのようにAIに学習され、どのように結果として反映されているかを分析し、最適化のための提案を行う。このようなデータ駆動型のアプローチの導入によって、企業はAI検索においてもSEO同様の競争力の維持が期待できる。

■ AEOとSEOの共存

 SEOとAEOは競合するものではなく、むしろ相互補完的な関係にある。SEOが依然としてウェブトラフィックを増加させる主要な手段である一方で、AEOはAIによる検索結果に特化した最適化手法であり、両者を組み合わせることで企業はより広範な集客を実現できる。

 具体的には、SEOでトラフィックを増やしつつ、AEOを活用してAI検索に対応したコンテンツを提供することで、より効果的に検索結果での露出を高めることが可能となる。

 今後、AIが生成する回答型の検索結果が主流になった場合、企業は単なるキーワードの最適化にとどまらず、ユーザーが具体的な質問に対してどのような回答を求めているかを理解し、それに応じたコンテンツ作成を行う必要がある。

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筆者:城田 真琴

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