悩むFRB、高関税の影響読めず利下げ判断困難…対応遅れればスタグフレーションの恐れ

2025年5月9日(金)7時17分 読売新聞

FOMCの終了後に記者会見するFRBのパウエル議長(7日、ワシントンで)=田中宏幸撮影

 【ワシントン=田中宏幸】トランプ米政権の高関税政策の不確実性の高さが、米連邦準備制度理事会(FRB)を悩ませている。高関税政策が物価上昇や経済成長の鈍化、失業率の上昇につながる可能性があり、利下げの判断は一段と難しくなっている。

スタグフレーション

 パウエル議長は連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、高関税政策による経済の不確実性の高まりを何度も強調した。景気後退前の「予防的な利下げ」の実施については「先手を打てる状況ではない」と否定的な考えを示し、あくまで経済指標に基づいた慎重な判断を行う考えを強調した。

 FRBなどの中央銀行は、経済情勢に応じて政策金利を調整しており、インフレ(物価上昇)の兆しがあれば利上げをして投資や消費の過熱を冷まし、景気への刺激が必要になれば利下げをして個人や企業がお金を借りやすくする。

 ただ、トランプ政権の高関税政策は、インフレと景気の減速が同時に進行する「スタグフレーション」を引き起こす可能性があり、FRBの政策運営をより複雑なものにしている。米国企業が輸入品にかかる関税分を販売価格に上乗せすれば、インフレが制御不能に陥る可能性もある。市場では「FRBは安易に利下げに踏み切れない難しい立場に置かれている」と指摘する声は多い。

低中所得層に影響

 足元の経済指標はFRBにとって望ましい状況にある。3月の米消費者物価上昇率は前年同月比2・4%と2か月連続で伸び率が鈍化。4月の雇用統計も、景気動向を反映する非農業部門の就業者数が前月比17・7万人増となり、失業率は4・2%と低水準を維持した。現時点で、利上げや利下げを急ぐような材料はない。

 ただ、数値化が難しい「ソフトデータ」と呼ばれる消費者や企業の景況感は、急速に悪化している。

 米ミシガン大が発表した4月の消費者信頼感指数の確定値は52・2と4か月連続で低下し、消費者が考える1年後のインフレ率は、6・5%と1981年以来の高水準となった。全米供給管理協会(ISM)が発表した4月の米製造業景況感指数も好不況の分かれ目となる50を2か月連続で下回っている。

 米外食大手マクドナルドは2025年1〜3月期の米国の既存店売上高がコロナ禍以来となる大幅な落ち込みになったと発表。クリス・ケンプチンスキー最高経営責任者(CEO)は「関税による経済に対する不安が、低中所得層の顧客に重くのしかかっている」と述べた。

「急速に弱体化も」

 FRBが前回3月の会合後に公表したFOMC参加者の経済見通しでは、25年中の利下げ回数の想定は2回だった。

 利下げの時期についてパウエル氏は、「忍耐強く待つことが適切だ。何が正しいのかが明確になった時に、行動を起こすことができる」と説明する。ただ、高関税政策の影響が顕在化した際、利上げや利下げの対応が遅れれば、スタグフレーションに陥る可能性も否定できない。

 アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所(AEI)のデズモンド・ラックマン氏は「これまでの経済指標は、相互関税が導入される以前のものが中心だ。トランプ政権の混乱が消費者の支出を控えさせる要因になっており、次回6月の会合までに経済が急速に弱体化する可能性もある」と分析している。

英中銀が利下げ

 【ロンドン=中西梓】英イングランド銀行(中央銀行)は8日、政策金利を0・25%引き下げ、年4・25%にすると発表した。利下げは2月以来、2会合ぶり。

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