「海兵隊のグアム移転は再検討を」総司令官が提議

5月10日(金)6時10分 JBpress

強襲揚陸艦「ワスプ」に乗り込む在沖海兵隊 (出所:米海軍、U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 1st Class Daniel Barker)

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(北村 淳:軍事アナリスト)

 アメリカ海兵隊総司令官ロバート・B・ネラー大将は、先週の憲法記念日(5月3日)、アメリカ連邦議会上院の公聴会で「沖縄に駐留している海兵隊の一部をグアムに移転する現行計画は、再検討する価値がある」と証言した。


ネラー海兵大将の危惧

 ネラー大将は、「再検討の必要あり」と言っても、沖縄からまとまった数(現在のところ4000〜5000名程度と言われている)の海兵隊員をグアムに移転させるというアイデアそのものに異論を唱えたわけではない。

 グアムに移転した海兵隊部隊がグアムから作戦出動する際は、兵員だけでなく各種車両などとともに出動することになる。そのときの移動手段となる水陸両用作戦用艦艇を確保する目処が立っていない、という軍事的危惧から、移転計画の再検討を提議したのだ。

 ネラー総司令官は「あくまでも個人的かつ専門家としての意見である」と断った上で発言したのだが、近々退役することになっているため、かねてより計画実施が難航している「グアム移転」に関して、米海兵隊の総責任者として述べておくべき内容を上院公聴会という公の場で語ったものと考えられる。


日本という「打ち出の小槌」

 沖縄の海兵隊普天間基地移設問題とリンクさせる形で日米両政府が合意(2006年5月)した「沖縄の海兵隊の一部をグアムに移転させる」というアイデアは、様々な問題点を抱えているため常に難航している。

 最大の問題点の1つは、沖縄から移転する海兵隊部隊の施設と海兵隊員やその家族のための住居や生活インフラを整備するだけで莫大な予算が必要になることである。オバマ政権下では国防予算が大幅に減額された上、移転先のグアムは恒常的に予算不足に悩んでいる状態のため、とてもアメリカ自身が潤沢な移転費用を捻出することはできない。

 ただし、アメリカ側にとっては幸いなことに、グアム移転というアイデアは普天間航空施設移転と絡めて生み出されたため、日本が莫大な資金を提供することになっているし、すでに多額の予算を支出している。したがって、いざとなれば「沖縄での負担軽減」を“人質”にして“打ち出の小槌”から金を引き出すという奥の手があるのだ。


最大の障害は労働力不足

 しかしながら予算の問題はなんとかクリアできるとしても、新基地建設ならびにインフラ建設のための労働力不足が目下最大の障害となっている。

 沖縄から4100名、そしてアメリカ本土から600名の海兵隊員がグアムの新海兵隊基地「キャンプ・ブラズ」に移転してくると、基地施設や住居などの他にも上水道、下水道、電気施設、ゴミ処理施設などの生活インフラの整備も推進しなければならない。

 ところがグアムには、このような施設やインフラの建設のための労働力が欠乏している。グアムの賃金はアメリカの平均値の7割以下と言われており、アメリカ本土はもちろん最も近接したアメリカの州であるハワイからもそのような労働力が供給されることはない。

 そのため、グアムでの建設作業は比較的近接しているフィリピンからの労働力に頼るしか方法はなかった。そこで、アメリカ政府はグアムの労働力確保のためにビザ発給数を増やす特例措置をとった。ところが、フィリピンからの労働者たちがグアムで暮らしていくには低賃金すぎるという問題点や、フィリピン労働者の不法滞在の問題などが生じてしまったため、ビザ発給特例措置は停止されてしまった。その結果、フィリピンからの労働力が枯渇してしまい、キャンプ・ブラズやインフラ施設を建設するための労働力が決定的に不足しているのが現状だ。


座礁している「合同訓練場」構想

「沖縄に駐留する海兵隊の一部をグアムに移転させる」というアイデアは、そもそも海兵隊自身が軍事的必要性に迫られて考え出したわけではなく、日米両政府が政治的理由によって生み出したものだ。したがって、移転計画策定段階の初期から、グアムに陣取る海兵隊部隊の使い方や軍事的価値ついての危惧が存在していた。

 もちろんシビリアンコントロールの原則により自国の政府が「グアム移転」を決定した以上、海兵隊はその方針に従わなければならない。そのため、グアムへの移転計画を策定する太平洋海兵隊司令部の担当者たちは、グアムに海兵隊の拠点を設けることによって生み出せる軍事的価値について知恵を絞っていた。

 たとえば、グアムに隣接するテニアン島などに軍事訓練場を設置し、それを利用して米軍、自衛隊、オーストラリア軍、フィリピン軍、韓国軍などの多国籍軍水陸両用戦訓練を実施すれば、それらの同盟国にとっても、アメリカ本土に出かけていって合同訓練を実施するよりも資金面でも時間的にも便利となる、といったようなアイデアなどがあった。

 しかしながら、グアム島やテニアン島をはじめとする環境保護の問題や、住民の反対運動などの影響で、グアムを中心とする総合軍事演習の構想は進展を阻まれている。


輸送手段の確保が急務

 海兵隊の大規模な訓練場の確保とともに、計画当初より海兵隊当局者たちが危惧していたのが、このほどネラー総司令官が上院公聴会で語ったグアムと沖縄などを結ぶ輸送手段の確保の問題である。

 アメリカ海兵隊は、陸上で作戦を実施する部隊と、その部隊を各種航空機によって支援する部隊が、戦闘車両、ヘリコプター、戦闘機、オスプレイなどとともに強襲揚陸艦や輸送揚陸艦に積載されて作戦目的地沖合に急行し、そこから地上に上陸して作戦を実施する、という行動パターンを基本としている。

 しかしながら、グアムに展開する海兵隊部隊を積載する海軍揚陸艦は佐世保やサンディエゴを本拠地にしており、とてもグアムの部隊は緊急出動に対応できる状況にはない。かといって、佐世保の米海軍第7艦隊海軍水陸両用戦隊の強襲揚陸艦や輸送揚陸艦を増強したり、あるいはグアムの海軍基地に強襲揚陸艦や輸送揚陸艦を新規配備するために、それらの強襲揚陸艦や輸送揚陸艦を急遽建造するには莫大な予算が必要となる。

 とはいっても、なんらかの海上輸送手段を確保しなければ、グアムに移転した海兵隊部隊は“木偶の坊(でくのぼう)”のような存在となってしまう。したがって、なんとしてでも海上輸送手段を確保しなければならないのだ。

 場合によっては、“打ち出の小槌”に強襲揚陸艦や輸送揚陸艦そして高速輸送艦などを建造させて「共同運用」という美名のもとに活用する、という奥の手を繰り出すことになるかもしれない。

筆者:北村 淳

JBpress

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