構造改革で赤字を縮小、次は「夢を見せてくれ」日産

5月12日(水)16時0分 JBpress

(桃田 健史:自動車ジャーナリスト)


「いまだに赤字」を強調するメディア

 2021年5月11日、日産自動車が2020年度決算を発表した。冒頭、内田誠社長兼CEOは「世界的な市場環境変化が大きい中、『NISSAN NEXT』は着実に結果を出している」と強調した。

 内田社長が言う「世界的な市場環境変化」とは、新型コロナ感染症拡大の影響およびESG(環境・社会・ガバナンス)投資を念頭に置いた電動化への急激なシフトなどを指す。

「NISSAN NEXT」は、旧来のゴーン体質から脱却を目指す4カ年の事業構造改革計画だ。2020年5月に発表され、今回の決算発表でちょうど1年が経過した。「着実な結果」とは、直接的には赤字幅の圧縮だ。2019年通期では売上高が9兆8789億円で6712億円の赤字だった。それが2020年通期では、売上高が2兆163億円減の7兆8626億円だったにもかかわらず、赤字は4487億円と2225億円改善している。

 決算報告では、赤字幅を削減できた背景を販売国や事業内容ごとに詳しく説明した。しかし、2022年3月期の最終益が赤字になる見通しを同時に発表したこともあり、各種報道では「連続赤字」が強調された。日産とアライアンスを組む三菱自動車工業が2期連続赤字となることも、あわせて大きく報じられた。

・「日産が3期連続最終赤字 22年3月期、開発投資重く」(日本経済新聞)
・「日産、3年連続で純損益赤字へ 22年3月期の見通し」(朝日新聞)
・「日産と三菱自動車 昨年度決算 ともに2期連続赤字 コロナ影響」(NHK) 


3本柱の施策で着実に財務改善

 筆者はこれまで、日産の動向を世界各国で定常的に取材し続けてきた。内田体制になって「NISSAN NEXT」が公表された後も、四半期ごとの決算報告をオンライン会見を通してリアルタイムで視聴し、日産の事業変革の進捗をウォッチしてきた。

 そうした中で感じるのは、NISSAN NEXTのベースにある“現実主義”の効果と物足りなさだ。

 NISSAN NEXTの骨子は「最適化」「選択と集中」そして「将来への投資」という3本柱である。

 まず「最適化」で行ったのは、固定費の削減だ。たとえば生産現場では、バルセロナ工場とインドネシア工場を閉鎖。また各地工場での1日の就労シフト体系を3直から2直へ変更した。これにより2018年度対比で7%減を達成。マーケティングや販売では、モーターショーの効率的な実施や各種協賛事業の見直しで27%減。一般管理費として、地域事業体制を世界で7領域から4領域へ変更した効果で11%減。そして車種展開では69車種から約55車種に縮小して5%減とし、合計で3500億円以上の固定費削減を実現した。

 この説明の中で、営業利益損益分岐点台数が示されたが、2018年度は約500万台だったが、NISSAN NEXTによって約440万台になったという。これを聞いて、日産に限らず自動車産業の構造的な収益性の悪さを改めて実感した。

「選択と集中」では、販売の質の改善として、アメリカを筆頭に大きな課題とされてきた販売奨励金の圧縮による台当たり販売価格の上昇を示した。

 そして「将来への投資」として、積極的な新車投入を図った。日産は車歴が10年以上の車種が多かったが、NISSAN NEXTでは「AtoZ」と称して2020年5月から18ケ月で合計12の新型車種を導入すると発表。このうち「キックスe-POWER」や「ノートe-POWER」など5車種をすでに販売し、EVの「アリア」や新型「フェアレディZ」など6車種を発表している。

 また、新技術としては、電動四輪技術の「e-4ORCE(イーフォース)」、カーナビと連動する運転支援システム「ナビリンク機能付きプロパイロット」、そしていわゆる自動駐車機能である「プロパイロット リモート パーキング」などを新車に随時搭載していく。

 これらは、既存の資産の効率的な運用という、あくまでも大規模な改善策である。NISSAN NEXTに派手な“飛び道具”はない。だがこうした改善によって日産の財務体質が健全化の方向に向かっていることは確かである。


日産の大きな課題「夢がない」

 NISSAN NEXTが着実に進む一方で、長年日産の取材してきた者としては、日産に対する物足りなさも感じる。

 端的に言えば「夢がない」のだ。

 フェアレディZなどの新型車やEVの技術開発だけでは、社会におけるクルマの位置づけ、価値観が大きく変わろうとしている今、ユーザーや販売店は日産の未来像を描けないように思う。

 今回の決算報告後の記者との質疑応答では、長期的な電動化対応について、2021年1月に発表したロードマップ「2050年カーボンニュートラルの目標を設定〜2030年早期より、主要市場で投入する新型車をすべて電動車へ」の内容を改めて示した。また、2018年5月から始めている「日本電動化アクション『ブルー・スイッチ』」(電気自動車を活用したまちづくり)や、フォーアールエナジー(神奈川県横浜市)と共同で取り組んでいる電動車向けバッテリーのリサイクル事業などについても説明した。

 ただし、これらはNISSAN NEXT発表以前からの取り組みである。NISSAN NEXTが赤字脱出のための応急措置であることは十分に理解した上で、NISSAN NEXTの折り返し地点の2年目となる2021年度決算のタイミングで、NEXTの「さらにその先」を見たいと思う。日産がこれから目指す大きな方向性をぜひ示してほしい。

筆者:桃田 健史

JBpress

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