相場展望5月12日号 米国株: ベッセント効果で、トランプ関税が起こした「米国売り」から脱出⇒株高へ 中国株: 中国4月輸出は、米国向け大幅減も、迂回輸出でASEAN向けが急増・EU向け増と「したたか」さを示す 日本株: 株式相場は「やや楽観に傾きすぎ」

2025年5月12日(月)12時17分 財経新聞

■I.米国株式市場
●1.NYダウの推移
 1)5/8、NYダウ+254ドル高、41,368ドル
 2)5/9、NYダウ▲119ドル安、41,249ドル

【前回は】相場展望5月8日号 米国株: 財務長官「来年の今頃に経済成長率+3%に回復」は本当? 所得税減税の財源として「関税」に期待しているが、かなわぬ夢 日本株: 株高要因の多くはすでに織り込まれている

●2.米国株:ベッセント効果で、トランプ関税が引き起こした「米国売り」から脱出⇒株高へ
 1)米国株が5/8、続伸した要因
  ・米国政権が英国との貿易協定の合意を発表。
  ・トランプ大統領が対中国関税の更なる引上げを否定、むしろ80%関税へと引下げを表明した。5/10〜11のスイスのジュネーブでの閣僚級の協議で貿易交渉の進捗に期待が高まった。

 2)ベッセント効果で、トランプ関税が引き起こした「米国売り」から脱出し株高へ
  ・トランプ高関税発動により、(1)米国債売り(2)米国ドル売り(3)米国株売りという「トリプル安」=「米国売り」を引き起こした。
  ・この混乱を収拾し、回復させたのがベッセント米国財務長官である。その手腕は、トランプ大統領を説得して「追加関税の上乗せ部分について90日間の一時停止」を打ち出したことにみられる。これにより、トリプル安に歯止めをかけ、回復へのきっかけを作った。その後、英国と貿易協議をまとめた。中国へも関税145%からの引下げ提案を交渉材料にして、頑なだった中国を交渉のテーブルに付かせることに成功した。そして、5/10〜11にスイスで閣僚級協議をすることにした。交渉結果は5/12朝発表予定である。

 3)トランプ関税は対象を拡大させており依然として不透明感が漂う
  ・外国で制作される映画に対して100%関税を課す意向を示した。
  ・医薬品に対する関税措置を2週間以内に公表する方針を示す。
  ・木材も関税対象に含めることを検討。
  ・航空機・同部品・ジェットエンジンなどにも関税適用を検討。

 4)今週の主要な動向と指標の発表
  ・5/10〜11 米国・中国の関税協議
         ・見通しは、合意には至らず、次の協議への期待が持てるか否か。
  ・5/13   米国4月消費者物価指数(CPI)
         ・インフレ動向を占う指数として重要。
  ・5/15   米国小売売上高
         ・個人消費支出のトレンドの見極め。
         ・小売売上高が低調ならば、景気後退とインフレでスタグフレーの懸念が増すと思われる。

●3.FRB、関税の影響が明確になるまでは利下げのコミットはすべきでない=セントルイス連銀総裁(ロイター)
●4.ベッセント米国財務長官、債務上限を巡る特別措置は8月にも枯渇も(ブルームバーグ)
●5.NY連銀総裁、米国貿易政策で景気リスク高まる、不確実性は当面継続(ロイター)
●6.トランプ氏、富裕層への増税を要請、共和党の立法戦略を複雑化させる可能性(Quick)
 1)トランプ政権は、税収確保のため複数の措置を検討している。

●7.「トランプ野望再燃」、米国はグリーンランドへのスパイ行為、デンマークは「ふざけるな」と米国駐在大使を召還(ロイター)
●8.バーFRB理事、トランプ関税で(1)インフレ(2)景気減速(3)失業増大の可能性高く、FRBは難しい決断を迫られる(ロイター)
●9.EU、「交渉決裂なら発動:航空機など15兆円分の米国に報復関税」を検討(朝日新聞)
●10.トランプ政権は5/8、英国からの輸入車関税を10万台までは10%に引下げへ(毎日新聞)
 1)トランプ政権は4月、米国外で生産された全ての自動車に対し25%の追加関税を発動した。これにより英国を含む各国から米国への自動車関税は27.5%となっていた。
 2)英国は米国産農産物の輸入拡大などの対応策をとる。

●11.トランプ氏、FRB議長を「愚か者」と批判、金利据え置き後(ロイター)
■II.中国株式市場
●1.上海総合指数の推移
 1)5/8、上海総合+9高、3,352
 2)5/9、上海総合▲10安、3,342

●2.中国:中国4月輸出は、米国向け大幅減も、ASEANとEU向け大幅増と「したたか」さを示す
 1)中国の4月輸出額は、迂回輸出効果もあり中国全体で+8.1%増の3,156億ドル。4月貿易収支は+961億ドルの黒字だった。

●3.中国4月対米国輸出額▲21.0%減、トランプ関税の影響、迂回輸出などASEAN諸国向け急増
 1)米国向け輸出額は前年同月比▲21.0%減の330億ドル(約4.8兆円)。(読売新聞)
  米国からの輸入額は▲13.6%減の125億ドルで、貿易黒字は+205億ドル。

 2)東南アジア諸国連合(ASEAN)向け輸出は+21.0%増の603億ドルと急増した。欧州連合(EU)向けも+8.2%増の417億ドルに伸びた。

 3)ASEAN、EU向け輸出が増えたことで、全体の輸出額が+8.1%増の3,156億ドル。輸入は▲0.2%減の2,195億ドルとなり、貿易収支は+961億ドルの黒字だった。

●4.中国からカリフォルニア州の主要港に向かう貨物船がゼロに、コロナ以来の事態(CNN)
●5.中国4月の消費者物価指数は前年同月比▲0.1%安と3カ月連続マイナス、デフレ懸念(NHK)
 1)牛肉や生鮮野菜の価格が下落したほか、消費者の節約志向が強まる中、自動車も値下がりした。また、住宅の販売不振で家具や家電製品の価格も下落しており、デフレへの懸念が続いている。
 2)企業が製品を出荷する際の値動きを示す4月の生産者物価指数は前年同月比▲2.7%の下落となった。
 3)中国では、米国との間で追加関税の応酬となるなど、貿易摩擦が激しさを増す中、景気の先行きへの不透明感は一段と強まっている。

●6.トランプ大統領、中国への関税は現行145%⇒80%が妥当との認識示す(テレビ朝日)
■III.日本株式市場
●1.日経平均の推移
 1)5/8、日経平均+148円高、36,928円
 2)5/9、日経平均+574円高、37,503円

●2.日本株:株式相場は「やや楽観に傾きすぎ」
 1)世界の景気敏感株といわれる日本株に、海外短期投機筋による株価先物買いが主導して日経平均は上昇。

 2)円相場が円安進展で、自動車株などに買いが入った。

 3)米国・英国の関税合意が示した「低関税の台数枠設定」が日本にも可能性を示唆
  ・英国は年10万台の低関税での対米国輸出、農産物などの輸入増で妥結した。
  ・英国自動車関税の交渉推移:発動前2.5%⇒トランプ関税27.5%⇒協議後10%

 4)日本株は上昇しているが、トランプ関税の協議に進展なく、むしろ懸念が増加
  ・日本との高関税協議の進展はなく、むしろ航空分野で関税対象が増加と懸念材料が増える。

 5)株式相場は「やや楽観に傾きすぎ」
  ・日経平均は、NYダウに比べ「やや割高感」の位置にある。
    ・5/9、NYダウは▲119ドル安に対し、日経平均は+574円高と強気が目立つ。

  ・日経平均の上昇は米国株高に連れているだけで、何ら制約条件の緩和は見えず。
    ・米国はベッセント財務長官の主導の下で、緩和が相次いでいる。
    ・対して、日本では石破政権のもと何ら打開策が講じられていない。コメの高騰対策一つをとっても、農水省は嫌々な対応でしかなく、コメ価格は17週連続上昇が続き、3月からの備蓄米放出効果は見えず。
    ・農林族の石破首相は、コメ価格低下策を農林水産省に指示するのではなく、自民党の政調会長に指示するとは本末転倒であろう。
    ・石破首相の発言は「やらない言い訳」「できない理由」と「へ理屈」ばかりで、自己正当化発言ばかりが目立つ。前向きな発言をしたと思ったら、幹事長の反対で、自説を曲げる。岸田・前首相と同様に世襲議員の「ひ弱さ」が目立つ。このような首相の下で、有効なトランプ関税の対抗策が出てくるのか不安。

  ・日本に対するトランプ関税は、米国の一方的な要求のみで平行線が続く。

  ・トランプ氏の関税交渉に当たっての前提条件。
    (1)相互関税の「基本税率10%」は維持。
    (2)相互関税の「上乗せ関税」は条件によって例外措置は可能。

  ・米国との関税交渉はスタートは日本が一番だったが、先行き見えず。
    ・基本税率10%+上乗せ14%=24%のままで推移、妥結の糸口が見えず。
    ・鉄鋼・アルミニウム関税の25%は協議対象外と米政権から伝えられる。
    ・自動車関税の25%も交渉対象外と通告される。
    ・英国が協議合意の1番となった。
      ・英国王はトランプ氏がスコットランド出身に注目し、当地にある離宮のバルモラル城に招待するなど、英国全体を挙げて関税交渉を支援。
      ・英国の対米国貿易収支は▲1.7兆円の赤字。日本は+10兆円の黒字である点が、ベースとして英国との相違がある。
      ・英国・米国との協議では自動車は低関税枠として年10万台。自動車関税は、基本税率のみの10%関税で妥結した。なお、前年の対米国輸出台数は9.6万台数である。日本の米国向け輸出台数は137万台と、英国の比ではないぐらい大きい。
      ・鉄鋼・アルミニウムは追加関税ゼロで合意。
      ・牛肉の関税は両国ともにゼロにする。
      ・英国はボーイングから100機購入と引き換えに、ロールスロイス製エンジンを無関税で米国へ輸出できる。

  ・まだまだ日本への関税賦課項目が追加される可能性がある。
    ・航空機・同部品・ジェットエンジンについても高関税賦課の調査開始。
      ・影響を受ける日本企業は、三菱重工、川崎重工、IHI、東レ、帝人など多数にのぼる。
      ・日本が強みとする分野で、ボーイング中型機の787型機では機体の35%程度が日本企業が分担している。

  ・中国はトランプ関税回避策として、東南アジア諸国への「迂回輸出」を通じて米国への輸出を図っている。しかし、日本の対応策はまったく見えず。石破政権は、一本槍の交渉でしかない。輸出減に対応する中国のような「したたかさ」も必要だ。

  ・以上のように、日本株式相場は先行き不透明な雲に覆われていることを認識すべきであろう。日本企業は、2025年度の業績見通しを前年度比マイナスと減額している企業が増加している。日経平均の株高は「やや楽観すぎる」といえそうだ。

●3.「国の借金」1323.7兆円余、過去最大を更新し、財政状況は一段と厳しく(NHK)
 1)昨年3月末と比べた1年間の増加額は26.55兆円となり、財政状況は一段と厳しく。

 2)昨年度は貿易費や社会保障費が増え、110兆円を超える当初予算が組まれたことに加え、電気・ガス料金の補助再開や住民税非課税世帯への給付金など物価対策を織り込んだ13兆円を超える補正予算を編成した結果、国債の発行が積み上がった。

 3)今年度の当初予算は115兆円を超えて過去最大となり、新たな国債を28兆円余り発行する計画となっており、引き続き規律ある財政運営が求められる。

●4.米政権は航空機・同部品・ジェットエンジンへの追加関税を検討(時事通信)
 1)航空部品は、日本企業への依存度が大きく、日本企業は打撃となる。

●5.パナソニック、国内外で1万人削減、構造改革の一環で(NHK)
●6.武田薬、今期+38%増益予想、医薬品関税の影響は織り込まず(ロイター)
●7.三菱自、日産の米国工場への共同出資を検討、今期▲3割の営業減益(ロイター)
●8.ニデック、牧野フライスに対するTOBを撤回、対抗策で断念(ブルームバーグ)
●9.IHI、関税で今年度営業利益▲200億円押し下げられる見通し(NHK)
●10.JFE、今年度最終利益は前年度比▲18%減の750億円、自動車向け減と海外市況悪化(NHK)
●11.トヨタ、2026年3月期売上高48.5兆円、最終純利益は前期比▲34.9%減の3.1兆円(テレ朝)
 1)米国関税は4〜5月に1,800億円のみ織り込む、円高・資材高騰を織り込む。

●12.任天堂、2026年3月期営業利益は前期比+13.3%増の3,200億円の見通し(ロイター)
 1)米国関税は通期に渡って維持されることを前提。

●13.SUMCO、1〜6月期営業利益は前年比▲71%減(ロイター)
■IV.注目銘柄(投資は自己責任でお願いします)
 ・5706 三井金属    業績好調
 ・5713 住友金属鉱山  業績絶好調
 ・6367 ダイキン    業績堅調

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