半島急変:中露の衛星使い北朝鮮が誘導ミサイル発射

5月13日(月)6時0分 JBpress

北朝鮮で今月4日、長距離多連装ロケット砲と戦術誘導兵器の「攻撃演習」を指導する金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長。国営朝鮮中央通信提供(2019年5月4日撮影、5日公開)。(c)AFP PHOTO/KCNA VIA KNS〔AFPBB News〕

 北朝鮮の金正恩労働党委員長の立場から現状を見たとしよう。

 米朝協議は進展しない、国連制裁解除の糸口もない、そしてロシアのウラジーミル・プーチン大統領との直接会談では、相応の待遇を受けず、要求したことも何も実行してもらえそうにない・・・。

 焦りと孤立を感じたのだろう。米国を再び交渉に引きずり出すことを狙って、北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射した。

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は5月4日、「北朝鮮は、大口径長射程ロケット砲および戦術誘導兵器を発射、金正恩委員長は火力打撃訓練を指導した」と発表し、写真を公開した。

 その内容と韓国国防省の情報を総合して分析すると、発射されたのは、

(1)ソウルを火の海にすることが可能な240ミリ多連装ロケット

(2)中国のAR-3型とほぼ同型(搭載車両が別の中国製のトラックが使用されている)の300ミリ多連装ロケット

(3)ロシア製の「イスカンデル(9K720)」短距離弾道ミサイルと全く同型のもの

 と評価できる。今回射撃が実施されたこれらの兵器は、極めて特殊なものであることから、まず、兵器の軍事的特色を理解してから、政治外交的な狙いを考察することが重要であろう。


ソウル市街地や軍事基地を破壊するための近代兵器

 240ミリ多連装ロケットの最大射程は、約45〜60キロであり、ソウルの市街地に打ち込むことができる。トラックには22発のロケットを装備しているので、連続して22発発射できる。

 このロケットは、1発の命中精度は悪いものの、22発が適当に広がって落下するので、広い範囲の人員を殺傷し、建物を燃やすことができる。

 北朝鮮はこの砲を30〜60門保有しているので、同時に700〜1300発をほぼ同時に発射できる。ソウル市街地に撃ち込み、市街地を火の海にするには最適の兵器である。

 300ミリ多連装ロケットは、中国製のAR-3多連装ロケットに類似しているが、搭載車両が中国の兵器とは異なっているものの、中国製の別のトラックを使用している。

 射程は、70〜220キロまでのものがあり、韓国中部の大田(テジョン)付近まで撃つことができる。

 米陸軍の第2師団が所在する議政府、米空軍戦闘航空団が所在する烏山(オサン)、在韓米軍司令部や在韓米陸軍司令部が所在する平沢(ピョンテク)に向けて射撃すること可能だ。

 GPS誘導(北斗衛星測位システム:GNSS)兵器であり、命中率が極めて高い。

 イスカンデル(SS-26 Stone)とみられるこのミサイルは、米国の研究機関などの情報によると、ロシア軍用と輸出用がある。

 輸出用は性能が落ちるとはいえ、射程は280キロ(最低射距離50キロ)であり、韓国の群山(クンサン)付近まで届き、在韓米軍最低射距離ではソウルにも届く。

 300ミリ多連装ロケットよりも遠距離で第8戦闘航空団がある群山(クンサン)まで到達できる。

 諸元では核兵器搭載可能だがペイロード(弾頭を運搬できる重量)480キロであり、北朝鮮の核兵器を搭載することは、現段階では不可能であろう。

 固体燃料を搭載していることから、発射までの時間は、ミサイルを設置した状態からは約4分、行進から発射までは、たったの約16分しかかからない。

 目標が発見されたならば、5〜20分の間に、このミサイルが飛んできて、命中すると考えるべきだ。

3つのミサイル・ロケット兵器による韓国制圧範囲


ロシアや中国の衛星測位システムを使用

 各国の軍事衛星では、偵高度1000キロ以内察衛星が敵国内の軍事情報を収集し、高度約3万6000キロの静止軌道にある早期警戒衛星が敵国のミサイル発射時の光を瞬時に探知する。

 高度約3万6000キロの静止軌道にある通信衛星は無人機が収集した情報、地上の電波受信局が受信した情報および各種衛星が受け取った情報などを中継して本国に送信している。

 高度約2万キロにある測位衛星システムの情報は、例えば、位置情報が各種ミサイルの誘導(GPS誘導)に利用されるなど、艦艇・航空機の航法や武器システムに使用される。

各種軍事衛星の配置

 中国やロシアは、地球の表面から高度約2万キロに測位衛星を打ち上げている。全世界で使用するために、基本的に中露とも24基から構成されている。

 中国は、2000年から北斗衛星を打ち上げ、2018年末には中国独自の北斗衛星測位システム(GNSS)の全世界での運用を開始した。ロシアは、2011年に全世界で運用を開始した。

 イスカンデルミサイルは、精度(半数必中界、CEP)は、通常30〜70メートルであるが、ロシアのグロナス(GLONASS)衛星測位システム(米国のGPSと同じ機能)を使用すれば2〜7メートルとなる。

 2発発射すれば、直径4〜14メートルの円の中に1発は命中できる。

 朝鮮中央通信(5月5日)の金正恩の火力打撃訓練指導の写真には、海面に出ている岩に弾が命中して爆発している映像がある。

 金正恩委員長は、この映像を強調したかったのか、そのテレビ画面を指さしている。最初からこの岩を狙って命中させたと考えられることから、命中精度は極めて高い。

 ロシアのグロナスを使用していると見るべきだ。

 中国製のAR-3多連装ロケットに類似している300ミリ多連装砲もイスカンデルミサイルと同様に、中国の衛星測位システム(北斗)を使用して誘導(一般的にはGPS誘導を呼称される)している。

 この兵器は、命中率が高く半数必中界(CEP)は50メートルであり、直径100メートルの円の中に、2発撃ち込めば、1発は命中する精度である。

 もし、韓国所在の米軍施設の射撃を受ければ、地下の施設は大丈夫だが、地上にある施設は多く破壊されることになるだろう。

 240ミリ多連装ロケットは、ロケットを誘導できないために、もともと精度が悪く、目標に命中させる兵器ではなく、地域を制圧する兵器だと言われている。

 過去の事例では、北朝鮮が延坪島にロケット砲を撃ち込んだが、半数近く海に落下している。

 しかし、GPS誘導することにより、目標に概ね命中させることができることになる。

 今回の朝鮮中央テレビの映像では、島にロケットが撃ち込まれて、地表面が破裂している。これが、この300ミリ多連装ロケットの射撃の成果だったとみられる。


韓国の南北融和を優先した非現実的な評価

 外交の駆け引きのなか、韓国国防省は、北朝鮮に発射時の映像を見せつけられ、実際にミサイルが高度約20〜60キロ、240キロ飛翔したことを実際に確認していた。

 当然、米国情報機関の電波情報や偵察衛星情報、過去のパレードの写真などを含めて総合的に判断するのは当然のことだ。

 北朝鮮は今回発射したミサイルを「新型戦術誘導兵器」だと発表。そして、「軍事合意の趣旨に背く」「北に対し、軍事的な緊張を高める行為を中断するよう求める」と述べた。

 だが、韓国国会国防委員会委員長は次のように述べた。

 「短距離ミサイルでない可能性が高い」

 「戦略兵器ではなく戦術兵器を試験している段階ではないか」

 「挑発が狙いというより火力打撃(攻撃)訓練だった」

 「軍部など内部の不満を和らげ、結束を図る目的があったのではないか」

 北朝鮮との融和を優先するばかりに、韓国の軍事・政治施設の大部分を正確に叩き潰すことができるミサイルだという実際の脅威から目を逸らしていると言わざるを得ない。

 約5000万人の国民を騙し、その人命を軽視し、国防の責任を放棄している。当委員会の能天気な評価には、呆れるばかりだ。

 今回のミサイル等発射の外交上の狙いには、朝鮮半島情勢が過去のような危機な局面に戻り得ると「警告」するとともに、米国の譲歩を引き出すために圧力をかける意図がある。

 米国が、北朝鮮の要求を呑む交渉に応じない場合には、徐々にエスカレートしていくと見るのは当然のことだ。

 2月の米朝会談後、今年の4月17日に地対艦ミサイルを発射、今回の発射は2回目だ。

 この2つの発射は、基本的に半島有事で韓国向けに使用されるものだ。

 韓国向けのミサイル発射を何度か続け、それでも北朝鮮が要求する交渉に米国がのってこない場合には、日本向けのミサイル、グアムや沖縄向け、ハワイ向け、そして潜水艦発射弾道ミサイル、核実験、ICBMの発射といった具合に階段を駆け上がるだろう。

 この場合、米国は、北朝鮮の要求を受け入れないのであれば、国連制裁を強化しつつ、マレーシアのクアラルンプールで暗殺された金正男氏の息子ハンソル氏を利用して金正恩政権を崩壊させるか、あるいは、斬首作戦などの軍事作戦を奇襲的に実施することになるだろう。

筆者:西村 金一

JBpress

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