僕が考える、「ニューリテール」戦略の全貌

5月14日(月)8時0分 Forbes JAPAN

スマートフォンが普及し、「消費の形」が多様化している──。ECサイト、Web広告、SNS、実店舗。商品に出会う接点が昔に比べて格段に増えたいま、私たちの購買に対する行動プロセスは、オンラインとオフラインが入り混じり、より一層複雑になった。

2016年末、アリババの社長ジャック・マーが打ち出した「ニューリテール」という新しい概念。オンラインとオフラインをうまく融合させて戦略を立てていく「新しい小売業」の形だ。

今回、Forbes JAPANでは、ニューリテールを中心としたこれからの小売業の形について、「earth music&ecology(アース ミュージック&エコロジー)」「hotel koe tokyo(ホテル コエ トーキョー)」をはじめ、アパレルや飲食など15ブランドを国内外で展開する、ストライプインターナショナルの石川康晴に聞いた。

小売企業が使ってはいけない3つのワード

僕は、ある3つのキーワードを使っている小売企業には将来がないと思っているんです。

──3つのキーワード、ですか?

はい。「EC化率(※)」「店舗会員」「EC会員」です。この3つを使わないようにすることが、これからの小売業界やニューリテールの話をするときに非常に重要だと思っています。※EC化率:商取引の内、電子商取引(Eコマース)が占める割合のこと

小売業界の人たちは、すぐに「EC化率」という言葉を使うんですよ。いろんな会社の決算資料などを見ていても、ほとんどがEC化率をKPIに挙げ、「EC化率が上がると会社の利益が回復する」と思っている。でも、その考えは間違いです。

ニューリテールとは、リテール(小売)とテクノロジーを組み合わせて総論的に売り上げをあげていく戦略のこと。オンラインやオフライン関係なく一人の顧客体験で考え、あらゆる接点の中からユーザーが選べるようにすることが大切です。

だからECの割合がどれくらいかは関係ありません。店舗とECを分けて考えること自体が間違っていますし、「店舗会員」「EC会員」と言葉で区別したり、「EC化率」をKPIに置いたりしている時点で、全然ニューリテールを理解できていませんよね。

これからの店舗は「売る場所」じゃなくて「データを取る場所」

──まだまだ日本ではニューリテールの言葉や概念が浸透していないように思います。石川社長が、ニューリテールを考える上で必要だと思われることを教えてください。

ニューリテールでは、「店舗の役割を増やしていくこと」が非常に重要ですね。

──詳しく教えていただけますか。

まずはじめに、これからの店舗は「売る」場所ではなく「データを取る」場所になっていく、という視点を持つべきだと思います。

たとえば、女性ってよく足に怪我をしていますよね。靴のサイズが合わなくて、でも我慢して履きつづけて、結果的に靴擦れしてしまっている……といった人をよく見かけます。

現在だと、23.5cmサイズの靴をアマゾンで買ったら、同じ23.5cmサイズの靴のレコメンドされる。けれど、サイズ表記が同じだったとしても、すべてのブランドが同じサイズ感で作られているわけではありません。だから結果的にサイズが合わなくて靴擦れしてしまう、という事態が起きています。

この問題を解決するためには、その人の足の長さや幅や甲の高さなどのサイズを測って、その人に「本当に合う」商品をレコメンドすることが必要なんです。

── その「サイズを測る場所」が、店舗になると。

はい。適切なサイズを測る方法として、スタートトゥデイが発表した「ZOZOスーツ」は素晴らしいと思いますが、そこまでハイテクなものじゃなくてもいいと思っています。たとえば店舗に3Dプリンターを置いて、そこで測る。いまの3Dプリンターはかなりアップデートされているので、そんなに難しいことではないと思います。

そうすると、店舗の概念が「データを取る場所」になるんです。店舗に来てもらって、適切なサイズを測り、データを溜めていく。そうすると、ECサイトでもCVR(コンバージョンレート)が上がるレコメンドができるようになります。

エンゲージメントを高め、年間購入回数を増やしていく

次に、当たり前のことを言いますが、店舗は「エンターテインメント」でなければいけません。

──エンターテインメント、ですか。

たとえば、アリババが買収したスーパーの中には巨大な生け簀(いけす)があります。しかも、そこで購入した魚介類はその場で調理してくれる。パックに詰められた魚よりも、生け簀で泳いでいる新鮮な魚が売られている方が、「魚を買いたい」と思っている消費者のエンゲージメントはあがりますよね。

同じように、会社の理念やアーカイブ、フィロソフィーを店舗で伝えていくことも、消費者のエンゲージメントをあげるという点において非常に効果があると思います。

僕らが目指しているニューリテールは、店舗に「データ収集」や「エンターテインメント性」「フィロソフィーや理念を伝える」といった視点を入れながら、お客様のエンゲージメントを上げて熱狂的なファンになってもらい、年間購入数を増やしていくこと。

いままで年間4回しか購入しなかったライトユーザーに、どうやったら年間10回購入してもらえるようになるかを考えることが重要です。

年間10回購入する場所は、店舗でもECでもどっちでもいいんですよ。こだわりがないから、「EC会員」「店舗会員」という言葉を使う必要がない。まとめると、ニューリテールでは「店舗の役割」と「年間購入数」をどう増やしていくかが重要、ということですね。

AIが浸透したあとに必要になるのは「想像力」

これからの5年間は、AIに徹底的に投資した会社と、ITリテラシーがなくて投資できなかった会社の差が出てくると思います。使えない会社は淘汰されていく。

──淘汰されたあとは、どうなっていくのでしょうか。

そのあとは、おそらくコモディティ化に向かっていきますよね。全アパレルがAIを使いだすと、全員が同じものを作り出すようになってしまいます。

たとえば、「ワイドパンツを買ったあとは、スキニーパンツを買う人が多い」というデータが出たとしましょう。すると、スキニーパンツを生産する会社が必然的に多くなります。でもそうなると、ユーザーは違う方向に行き出して、過去データが通用しなくなってしまうことも考えられるんですよ。

一度は「AIが判断したことを作る」という点で、AIを持っている会社と持っていない会社の差別化が出てくると思います。ですが、AIが浸透したあとは、「想像力」がマネジメントに必要になる。人間がユーザーの好みを想像力を持ってどうやってカスタマイズし、導くのか──それが次のステップの課題になってくると思いますね。

Forbes JAPAN

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